二十五話:相談
暁の月・ギルドアイランド。
森エリアにあるバーベキュー場のような所。
木製の椅子に腰を掛け、テーブルに置かれたコーヒーを手に取る。
「クラスチェンジ?」
「はい」
ギルドアイランドへと戻ると、「遅かったね〜〜?」と出迎えてくれたアルマ。 話があると言えば、お散歩しようかと、ここまで歩いてやって来た。 ちなみにレフィーさんは狩り中のようだ。
「なんだぁ。 真剣な表情で話がある、なんて言うから何かと思っちゃったよ〜〜? ……って、クラスチェンジぃいいいい!?」
長いポニーテールを揺らし、アルマは驚き奇声を上げる。
「うん。 偶然だけど、クエスト見つけた。 でもどうしていいかわからないんだよね」
必要な素材の見当もつかない。 攻略サイトで調べたほうがいいか。 しかし、攻略サイトもアプデ後の情報はあまり充実していない。
まだアプデから一週間程度なので仕方ないのかな。
「……ほんとに?」
近づいたアルマ。 座る俺と目線を合わせる。 その瞳には少し疑いの色が見える。
「ほんとだけど?」
チャイナドレスのスリッドから覗くおみ足が最高。
チラチラと見えるふともも。 くぅ、なんという視線誘導力。
「どこで受けたの? ちょっと詳しく!」
「え、ええと……」
ずいっ、と近づくアルマ。
椅子に腰をかける俺の膝に両手を置いて、上目遣いで見上げてくる。
この恰好はまずいな。 綺麗なお姉さんにこんな迫られ方をされては心臓が爆発しそうである。
「ねっ! お願い……教えてっ?」
「っっ!」
耳元で囁かないで!
離れさせようとする手が、柔らかで控え目な膨らみに触れてしまう。
ヤバイ。 セクハラ警告が、ログ晒しがっ!?
「お、教えますから!!」
元々相談するつもりなんだけども。
顔を真っ赤にする俺の答えに、アルマは少し離れた。
胸を触ってしまったことを怒られるかと思ったが、満足気な笑みを浮かべニマニマとしている。
これは、からかわれているのかな……。
何がクラスチェンジクエストの引き金だったのか分からないので、俺は朝からの行動を順を追って全て話すことにした。
覚醒クエストをこなすついでに近くのクエストも片っ端からやり、ゴブリン集落のクエストで怪しいボスとNPCたちと共闘で撃破したことも、それにアマシロ様についても。
「……なるほど。 でもそんなクエストなんてあったかな?」
「何か条件が……」と唸るアルマ。
俺はメッセージにクラスチェンジに必要な素材を書きアルマに送る。
「ん、これが必要素材ね……?」
「うん。 どこで手に入るか分かる?」
アルマはアゴに手をやり少し考えた。
「遺物が何かわからないけど、他は一応心当たりはあるかな?」
「おお!」
そして、コレ、と言って見せてくれたのは紫色の宝玉。
ジャイドの落とした黒い宝玉と同じ感じだけど、禍々しいオーラのようなものは感じ無い。
「闇の宝玉。 この間の狭間でマテリアルタワーのボスが落としたんだけどね。 ノリオ君も拾わなかった?」
「……拾った」
そういえば拾ってたな。
なんに使うか分からないし、重量ゼロだったのでアイテムボックスの肥やしになっている。
「しかし、それを十個って大変じゃ?」
「普通のダンジョンボスからも低確率で落ちるみたい。 狭間の大ボスに参加してた人は全員拾ったみたいだから、確定ドロップみたいだけど」
それならどうにかなるか。
いやでも、十個は大変だろう。 大ボス系のリポップは長いのが相場だし。
「光の宝玉の方が集めるのは大変かも」
「そうなんだ?」
「うん。 今のところドロップ情報が地下迷宮の宝箱からのみだからね!」
地下迷宮か。
今度のギルハンは地下迷宮に行くっていってたしちょうどいいな。
「ファラオは地下迷宮、古龍はフィールドボスだね。 ……月の涙は精霊の泉の反復クエストの報酬であったかな」
「ふむふむ」
「遺物はちょっと調べておくね!」
アルマは立ち上がると腕を組み、楽しそうに悪巧みの漏れる笑みを浮かべた。
「ふふ、まだ誰も気づいてない情報だね……もしくは隠しているか。 さて、どうするかな、ノリオ君?」
「どうするって?」
「この情報を公開するか、それとも隠しておくかだよ〜〜?」
隠しておく……ね。
ネットゲームでは、特にMMOタイプのネットゲームでは情報が大切だ。
なので重要な情報は共有すべきという考え方が一般的だったりする。
ネタバレが嫌だと、掲示板を一切見ないでプレイする人もいるけど、少数派。
コルルオンラインはギルド同士の大規模戦がメイン。
なので自分のギルドだけで秘匿する場合もある。 貴重なドロップアイテムや狩場は独占したいと思うのは無理もないしね。
ただクラスチェンジみたいな全てのプレイヤーに影響のある情報を隠しておくと、妬みとか逆恨みで嫌がらせされるかもしれない。
「公開していいですよ」
「ふふ、ノリオ君ならそう言ってくれると思ったよ? でもね〜〜、ちょっと待ったほうがいいかも!」
「ん?」
アルマは本当に楽しそうな笑みを浮かべ、組んでいた腕を崩し闇の宝玉を手にもった。
「情報が広まれば、すっっごく混んじゃうからね〜〜。 まずは発見者であるノリオ君がクラスチェンジしてからでもいいと思うの」
そして闇の宝玉を俺に手渡す。
「それから……盛大にお披露目しちゃお?」
「……」
クスクスと、アルマは笑う。
脳裏に思い描く光景に胸を躍らせ、頬を朱に染めて妖艶に笑う。
彼女の思い描く舞台の中で、俺はきっと道化師のように滑稽に踊っているのだろう。
「ねっ、ノリオ君?」
アルマが笑う度に揺れる蒼色のポニーテール。
木の間からこぼれ落ちる光を散らし、楽しそうに踊っていた。
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