一九話:桃

 時刻は二五時。


きっちりと『狭間の刻』終了時刻まで狩りを続けた俺たち。




「おつ……」




「お疲れ様です……」




 俺たちとは言っても、俺とレフィーさんだけだが……。




 アルマたちは先にギルドアイランドへ。


狭間の刻はボスが討伐されたことにより、ダンジョンではなくなってしまった。 モンスターは通常通り沸くのだけど、ギルドポイントが貰えない。




『ナンテコッタ!』




 そう言って、去っていたアルマ。


今頃つぎの狩場について話し合っているのだろうか?


 分からない。 だって俺は狩り続けていたのだから。




「ふへへ。 妖精が見えるぜ……」




「どこ……?」




 レフィーさんには見えないのだろうか?


俺たちの周りをふよふよ回っている妖精が……。


これは、あれか。 限界を迎えた時に見える、お迎え妖精だな。


ログアウトしてさっさと寝ろと、耳元で囁く妖精。




「そろそろ――」




「また……温泉行く……?」




「――行きます!!」




 疲れが吹き飛んだ!


温泉に入る前から、疲れが吹き飛んだよ!!




「温泉でドロ分配しようか……」




「はい!」




 ドロ分配。


ドロップ分配の略で、狩りなどで手に入れたアイテムを使うものと使わないものに分けて分配する。 アイテムを売ってそのお金を分配する場合も。 通常の狩りならそんなにしないけど、ボスとかでレアが出る場合はやることもあったり。 




 しかし、そんなことはどうでもいい。 


 温泉!


レフィーさんと混浴タイムだぜ、この野郎♪




「帰還スクロールある?」




「はいー。 チュートリアルで貰ったのが一つ」




「そう……それを使うとギルドアイランドに戻れる。 それか……登録してあるとこ」




 ふむ。 どこも登録してないけど?


たぶん、初期村に戻るんだろうな。 




「コールで呼ぶ……待ってて」




 あっという間に姿を消すレフィーさん。


その場にシトリと二人残される。 辺りには強力なモンスターが跋扈しているのだが。




「死んだらどこに戻るんだ……?」




 ボス戦で死んだときは近場の安全なところって出てたな。


安全地帯とか町かなぁ。




「お」




 心配は杞憂。


さほど待たずレフィーさんからコールが届く。




「ムフフ……!」




「!」


 


 鼻の下伸ばしてんじゃねぇ! とシトリが手の上で跳ねるが、しょうがないのだよ。 俺は極力悟られないようクールな表情を作った。


 内心はすでに心ここにあらずだが。




 


◇◆◇






「ステータス」




――――――――――――――


名前:ノリオ


クラス:アサシン


種族:ヒューマン


レベル:85→100


ギルド:暁の月




HP:1130


MP:600




力:122


体力:113


敏捷:125


器用:64


知力:9


精神:60


SP:0→75




スキル:【短剣.Lv20】【投擲.Lv20】【バックスタブ.Lv20】


スキルポイント:22→37




物理攻撃力:251


魔法攻撃力:10


クリティカル:2.5倍(クラスボーナス+0.5)


攻撃速度:55




物理防御:35%


対火炎属性:0%


対風雷属性:0%


対水氷属性:0%


対土岩属性:0%


ダメージ軽減:0%




装備




武器:【レイダーダーク】


胴:【ローグの黒衣】


腰:【アイテムポーチ】


腕:【レイダーグローブ】


脚:【スファギのブーツ+1】


アクセサリー:【強襲の指輪+2】


―――――――――――――― 




  


「おお、もう百かぁ。 速いな〜〜」




 温泉で一人ステータス確認。


こんなにレベルって上がるの速いのか。




「もう……百なの?」




「!」




 鉄仮面を脱いだレフィーさん。


今回は青色のしましまの水着ではない。 スク水だ。




「ふぁっ!?」




 なんでスク水!?




「……どうしたの?」




「い、いえ! なんでもないですぅ……」




 落ち着け。


一度湯船に沈み落ち着くのだ。


俺は頭まで一気に湯船の中に潜った。






 スク水。


しかも旧スクール水着と呼ばれる今ではいかがわしい店でしか見れない代物。


きちんと胸元には『れふぃ〜』と名札まであるのだ。




「……」




 俺は中央の岩陰まで移動しゆっくりと顔半分を出した。


レフィーさんはシトリと遊んでいる。


紺色の水着を押し上げる双丘。 鉄仮面を外し、プラチナブロンドの長髪と青い瞳に透き通るような白い肌。 妖精レフィーさんスク水モードである。




「ぶふぅ!?」




 浮いている。


 湯船の端に置いたシトリと見つめ合い、手だけだしてバタ足をするような格好のレフィーさん。 つまり浮いているのだ、魅惑の桃がっ!


スク水は小さいのか、少しだけ肉がはみ出る。 濡れた水着はピッチリと桃にくっつき、その形をよけいに際立たせていた。




「あ! いたいたー。 また、二人で温泉?」




 アルマがやって来た。


黒いチャイナ服のような水着を着ている。


スラっと長い脚を惜しみなくだしており、非常に良い。




「シトリも……」




「いや、そうだけどもね?」




 美女二人と温泉とか。


コルルオンラインは最高か?




(最高です……!)




 狩りしかしてないけど。


ストーリークエストとか一切してないのだけど。






「ふぉ?」




 桃が二つに?




「シトリのおかげでドロップいっぱいだったよ〜♪」




「シトリ凄い……」




 シトリに話しかける二人。


やっぱり桃が二つ浮いている。




(桃尻温泉!)




 スクリーンショットの題名が決まったね!






◇◆◇






 湯船の壁に背を預け、三人でまったり雑談。




「え? もう百なの??」




「うん」




「速いね?」




 あれ? レベル百まで経験値アップイベントがあるからそのせいかなと思ってたんだけど。 違うのか?




「九十越えると必要経験が増えるから、最低でも三日はかかると思ってたんだけど……」




「そうなの?」




 パワレベでガンガン狩ったからかな。


昼から十二時間くらい狩ったもの。




「いつもより……経験値多かった……。 ……シトリのおかげ」




「えっ」




「そうなるのかなぁ〜〜」




 シトリさん有能すぎ!?


湯船で浮かぶシトリは得意げにふるえている。




「レベ百になると覚醒クエストが受けられるから、それはやっておいたほうがいかな」




「覚醒クエストですか?」




「うん。 スキルポイントとステータスポイント貰えるだけなんだけどね〜」




 ほう。 それは必須だな。


そう言えば。 俺は思い出したようにアルマに尋ねる。


ポニーテールだった髪を上で纏めているアルマは、かなり色気がアップして見えた。




「あの、新しいスキルが欲しいんですけど、どうすれば?」




「スキルブックで覚えるよ〜。 アサシンのだったら、露店で安く売ってるかな〜?」




 露店か。 たしか、どこかの町が露店の町になってるんだったか。




「ノリオ……見に行く?」




 青い大きな瞳が俺を見つめ、一緒に行こうと誘ってくる。


妖精のような美少女の誘いを断れる訳ないではないか。 たとえスク水を着ていようとも。




「行きましょう!」




 今日はオール決定だな。


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