十七話:メッセージ

 触手。


複数のウネウネした触手は魔法少女の体を舐めるように這いずる。


単体でみると気持ち悪いだけのソレは、女性とミックスされることでエロスを孕む。




 これからどうなってしまうのだろう?


俺が希望と期待に満ちた視線を向けていると、やっぱり魔法少女は睨んできた。




「ちょっと! なにタダで見てるのよぉーー!! ダメよ? 絶対スクショはダメよぉおお!?」




 フリなのか? 意外と余裕がありそう。




「ほんとにノリオ君はムッツリだね?」




「ノリオ……ムッツリ……」




 俺の好感度が!


呆れたようなアルマとレフィーさんの呟きがグサリと突き刺さる。




「いま、助けます!」




 急げ。 


チラ見えのパンツに視線を奪われながら、俺はボスへと特攻する。




「――っ!」




 振るわれる触手。


無数の内の一本が鞭のようにしなり、地面に『パァン!』と打ち付けられた。


近寄らせまいと振るわれる触手鞭を回避する。




「ぐっ。 これは近づけない!」




 レベルアップにより強化された敏捷。


おかげで回避がしやすい。 羽の生えたように軽い体でリズミカルに鞭を躱すも、近づくことは難しい。




「やっ、だめっ。 そこは……! らめぇぇ……」




「……」




 幻夢ではなく淫夢なのでは?


俺を迎撃する触手とは別のエロ触手が魔法少女をまさぐる。




『押しとおる!』




 信さんのタウントスキルに触手が反応し、隙が生まれる。




「はあああ!」




 俺は突撃し、黒の短剣を振るう。


斬閃はエロ触手を斬り裂き、魔法少女を救出した。




「うぅ……私、汚されちゃった……」




 めんどくさい。


下手くそな演技でへたり込む彼女を放置し、ボスへと向き直る。


 お楽しみを邪魔されたボス――『幻夢のナイトメア・アサッム』はその無数の眼を俺に向けてきた。 その全てから怒気を感じる。




(ヤバイ!?)




 そう思った時には、すでに手遅れ。


怪しく光る眼から発せられる無数の紫色のビーム。 




 回避――いや、できない……!




 後ろでへたり込む魔法少女。


避ければ彼女にビームの束が直撃する。


それに気づいてしまった俺は、腕を前で交差し防御態勢をとった。




「――ッッ!!」




 HPバーの全損。


吹き飛ばされ、真っ赤になった視界は一気に薄暗くなる。


喋ることもできない死亡状態。 近場での復活か待機を選択するウィンドーが表示される。




 これらはコルルオンラインでの、二度目の死亡を意味していた。




 一度目もそうだったけど、オーバーキル過ぎて痛みなど感じる間もなく死んでしまったようだ。 痛覚設定で軽減はさているのだろう。


 死んだのに痛みが無いというのはなんだか変な気分。 慣れたくない、慣れてしまえばこの世界がただのゲームになってしまう。 これは俺の気持ちの問題。 本気で楽しむための誓約。 慣れた時が終わる時だろう。






「リザレクション」




 くぐもった声。


復活を許諾すると、光に包まれ俺はその場に蘇る。




「テレポで躱せたのに……」




「そっか……」




 しかも、無駄死にか。 




「でも、……ありがと」




 けれど魔法少女の表情は――どこか嬉しそうに見えた。






◇◆◇






 『幻夢のナイトメア・アサッム』は厄介だった。


無数の触手を鞭のように使い、瞳から発せられる強力なビーム攻撃。


それよりも面倒なのが、『黒い悪夢』だ。




「消えた!」




「また一華の後ろだぞ!!」




 絡み取ろうと伸ばされる触手をテレポートで躱す鳳凰院一華。




「はっ!」




「んっ!!」




 何度と繰り返された行動に、アルマとレフィーさんが対応する。




「いい加減、ウザいのよぉーー!!」




 二人がアッサムを抑え込む所に、鳳凰院一華の最強の攻撃が放たれる。




「メテオ!!」




 燃え盛る隕石は直撃し、吹き飛ばされるアッサム。


だらりと厄介だった触手が地面にうなだれ、死んだタコのようにその場で寝そべった。




「やったか!?」




「もうそろそろ悪夢は勘弁だよぉ〜〜」




 アッサムの使う『黒い悪夢』。


幻影と戦っていたように掻き消え、任意の場所へと転移する。


減っていたHPバーまで戻るし、転移の対象は鳳凰院一華が多い。


 二、三度触手に絡めとられた彼女も、テレポでの回避を成功させている。


触手を回避したほうが次の『黒い悪夢』までの時間が長かったように感じた。




「……どうやら倒したみたいだな?」




 光の粒子となって消えて行くアッサム。


PTメンバーから溜息が漏れた。




「お?」




 転移陣。


足元に浮かぶ魔法陣はコールで呼ばれたときに見るものだ。


 俺たちは光に包まれ、どこかに転移した。






「あー……。 結構時間食っちゃったなぁ。 リューちん激おこかも〜〜」




 転移先はすぐそこ。


 俺たちは消えゆくマテリアルタワーを眺める。


ボスの居なくなった漆黒の塔は、崩れ天へと昇っていった。




「むぅー。 そもそもうちのメンバーはどうしたぁーー!」




 鳳凰院一華は地団駄を踏み、未だに来ない自身のPTメンバーを探しているようだ。 テレポで飛ばして来たって言ってたっけ。




「メッセいっぱい!? ……戻らないと〜〜」




 メッセージを確認した彼女は「私のせいじゃないのに〜〜」と、愚痴を漏らし気だるそうにローブを羽織った。




「ああ、ごめん。 余ってたらマナクリスタル貸してくれない? 向こうピンチみたいでさ」




「いいよー」




「ん」




 マナクリスタルを受け取ると、鳳凰院一華は快活な笑みを浮かべた。




「ありがと! 絶対返すからね!」




ピロロン。




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




鳳凰院一華さんからフレンド申請が届きました。




受諾しますか? YES/NO




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




 不意のフレンド申請に魔法少女を見るが、中央の方を向いている。


特に断る理由もないので、俺はYESをタップした。




「フフン♪ じゃ、またね――ノリオ!」




 鼻歌交じりにテレポート。


モンスターを無視し、多少の地形などものともせず突き進む彼女。




「なんか、凄い人でしたね?」




「いろんな意味でな?」




 颯爽と現れた助っ人メイジは颯爽と去っていく。


俺は信さんと共に笑い合う。 




「ノリオ君はモテるねぇ〜♪」




「信くん……困った女の子のスカートの中を覗いて喜ぶなんて……調教が必要ね……」




「ハピが……怖い……」




 俺たちは狩りを再開する。


十九時から始まった『狭間の刻』は二十三時まで、つまり六時間の時間制限がある。


もちろん、その前に狩りをやめて帰ってもいいのだが。




「もったいない……」




 鉄仮面の一言。


なんでも経験値が普通のダンジョンより多く設定されているそうだ。




「明日、仕事なんだが……」




「信くん。 ログアウトしたら少し、……お話があるからね?」




「……」




 社会人は大変だね!


大学は夏休み。 バイトも休みだし問題ない。






ピロロン。




「およ?」




 しばらく狩りを続けていると、全員にメッセージが。


俺たちは狩りを一旦小休止。




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




ダンジョン『狭間の刻』が攻略されました。


それに伴い、シークレットクエスト『異界の門』が発生します。




今後『狭間の刻』は通常フィールドとして存在し、ボスである『闇の化身・カオスベム』はフィールドボスとして再登場します。




シークレットクエスト『異界の門』を是非挑戦してみてください。




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




「おお〜〜! 討伐成功したんだ!」




 メッセージは『狭間の刻』攻略を知らせるものであった。




ピロロン。




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




 やっほー! 鳳凰院一華様だよ♪


 


 借りたマナクリスタルのおかげで無事討伐できたよ!


 感謝感謝!


 あとでちゃんと返しに行くから! 今日はちょっと無理そうだけど……




 じゃ、またねーー♪




+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




 二通目のメッセージ。 意外とマメだな。


その後もしょっちゅう送られてくるメッセージに、少しめんどくさいと思う俺だった……。




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