十五話:増援

 マテリアルタワー四階層。


最上階にあたるそこは、天井は無く薄暗さと狭さからは解放された円形の階層になっていた。 俺たちは三階層の上り階段を上がった先にあるスペースで小休憩をしていた。




「よし。 あとはボスを倒すだけだな」




「うん。 時間もそれ程かかってないし、順調だね♪」




 ひたすら戦闘。


雑魚を倒しエリートを倒すと上の階へと進める。


 俺は雑魚を集め、エリート戦ではバックスタブを繰り出しヒットアンドウェイ。


正直アサシンとしては微妙な戦いかただろう。 ダメージパーセコンドDPSはかなり低いし。




「ノリオ……頑張った」




 シトリに餌をやるレフィーさん。


最初は鉄仮面にびくついていたシトリも、完全に餌付けされている。


器用に体を傾けひび割れた殻から食べている。




「ありがとうございます!」




 俺は鉄仮面の本体。


妖精姿のレフィーさんをフラッシュバックさせ釣りによる疲れを癒した。


ネガりがちな気持ちが一気に吹き飛び、なんかもう漲ってきた。




 もう一度一緒にお風呂……入りたいなぁ。




「よっしゃ。 なんかドロップもうまいし、帰ったら宴会だな!」




「ほんとねぇ? 強化石も拾ったし、レアドロップも……」




 ハピさんが何か言いたげ。


【ふるふる】と【幸運】の効果。 【幸運】は本来自身で倒した敵だけらしいのだけど、恐らくPTで共有していると思う。


 【幸運】はコルル専用のスキル。 ラストアタックをコルルに譲る手間が必要な上、それほど凄い効果があるわけでもなく、マイナーなスキルなんだとか。




「ふふ、ほんとラッキーだね! これはボスドロップも期待大だよ〜〜!!」




 休憩は終わり。


アルマを先頭に四階層の攻略に歩き出す。






「右か左か」




 円形の階層は中央にぐるりと壁があり、左右に道は別れている。


先頭の信さんは立ち止まり、どちらに向かうかたずねる。




「うーん。 どっちでもボスには辿り着くと思うけど」




「シトリ……決めて?」




 手に持つシトリに無茶を言うレフィーさん。


シトリ喋れないから。 ふるえるだけですから。




「右だって」




「え!?」




 喋れるの!?




「右側……目を開けたから」




「ああ……」




 喋った訳ではないんだ。


良かった、俺だけ無視されてたらへこむよ?




 俺たちは右へ。


遺跡を連想させる石畳の外縁部を周るように進んでいく。


 すぐに姿を見せるモンスター。 それを見てぽつりとつぶやく信さん。




「スタチュー系だな」




 現れたのは石像。


ただし、上半身だけの姿で僅かに宙に浮かび、ところどころメタリックな感じ。


 遺跡を守るゴーレムのようなものだろうか。




「ありゃ……」




「こりゃ、時間食うぞ?」




 どうやら厄介な敵のようだ。


そしてそれはすぐに理解した。




「硬い!」




 戦闘開始。


 信さんがタゲを取る背後で、右手に持つ短剣――レイダーダークを『ガーディスタチュー』に突き立てるが、金属音と共に攻撃命中のエフェクトが僅かに光る。


手に伝わる衝撃が相手の防御力の高さを表しているようだ。




「はああ!!」




「ん!」




 動き自体はさほど速くない。


アルマとレフィーさんの連打、おまけで俺も後ろから短剣を振るっていく。




「アングリフビート!」




 ハピさんのアップテンポなビートが戦場に流れる。


淡い赤のエフェクトがPTメンバーの体を包み込む。


バードの得意とする範囲支援スキル。 効果時間は短い、けれど上昇率はトップクラス。




「燕返し――斬岩剣!!」




 侍の十八番、カウンター攻撃が炸裂する。


ガーディスタチューの攻撃をいなし、一刀両断とばかりに空色の斬撃をお見舞いした。




「ぐっ!?」




 しかし、それでもガーディスタチューは倒れない。


攻撃後の隙を突かれ信さんを強打が襲う。 振り回された腕はかなり威力があるようだ。


 俺が喰らえばひとたまりもないだろう。




「ヒールライト」




「ああもう! ほんとタフすぎーー!!」


 


 タフネス。


防御力とHPの多さに、行く手を阻まれる。




「――っ! 巡回来ます!」




 やや前傾姿勢でホバー移動をするガーディスタチュー。


俺たちが戦闘する場所へと、二体ほど後方から接近しているのが見えた。




「うげぇ……」




「こいつ……嫌い……」 




 レフィーさんのハンマーが静かだ。


いや、硬い物を叩く音はよく響くが、いつもの戦場を蹂躙する雷鳴が轟かない。


純白の雷光も発生していない。




「雷無効?」




「だな。 それに物理も極端に高いから、相性悪いぜ……!」




 ハピさんも攻撃に参加するが、やっぱり火力は足りない。


アルマのスキルは魔法攻撃なのだけど、連発できるタイプのスキルではないらしくダメージ源としては大鎌による斬撃、物理攻撃となる。 俺はもちろん物理だ。




「二体追加は無理だ! レフィーとシュララもタゲ取ってくれ!!」




「ん」




「おっけ! シュララ、お願い!」




 増援。


ガーディスタチュー二体が追加され三体を同時に相手どらなければならない。


 レフィーさんは冷静に。


 タゲ取りを命令されたシュララは鬼の顔をほころばせ、増援のガーディスタチューに突撃をかました。 




「ちょ、逆からも二体来るよ!」




「げっ、マジかっ」




 マズイ。


五体同時に相手をするとなると、相当にマズイ!


 PTに焦りが生まれた、その瞬間。




「来たれ燃やし尽くす者、精霊の息吹よ吹き荒れたまえ。 紅蓮の旋風――フィアヤーストーム!!」




 朗々とした長文詠唱。 


吹き荒れる炎の渦。 頬を撫でる熱風。 広範囲火炎スキル。


 巻き込まれるガーディスタチューたち。




「っ!?」




 危ない!?


俺は巻き込まれると思い即座に飛びのける。




「ふふん♪ 危なかったねぇ、君たち! この私、鳳凰院一華様に感謝したまえよぉ!!」




 なんか変なの来た。


長い杖を振るう女性。


 放たれる高温の魔法がガーディスタチューたちを次々と燃やしていく。




「ふはははは! 燃え尽きろぉおおお!!」




 ハイテンション。


フリフリのスカートは揺れ、ピンク色のツインテールは荒ぶる。




 どうにもピンチを救ってくれた彼女は、魔法少女にしか見えなかった。




「コスプレ……?」




 つい零した一言。 魔法少女は俺を睨みつける。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る