第3話 三話:バレてた

 急接近してきたソイツに、俺は木の棒を突き出す。




「――くっ!」




「キュイ!」




 木の棒と硬い角がぶつかり合う。


衝撃は手首に伝わり、木の棒はブレた。


 


 角の生えた丸っぽいウサギ。


体毛は茶色で、体躯は通常よりも大きい。


 ダンジョン――カークタス一階層に足を踏み入れた俺は、手荒い歓迎を施されていた。


ダンジョン内部は明るく、広さも十分にある通路が続いている。


 現れるのはツノウサギ。 愛くるしい見た目とは違い好戦的なモンスターだ。




「多すぎっ!?」




「「「キュイ!!」」」




 現れた増援。


 三匹のツノウサギを前に俺は一時撤退する。


シトリを抱きかかえ、スタミナゲージが減少するのをしり目に全力疾走。


 追いつかれれば俺の尻は奴らの太くて硬い角に、ダイレクトアタックを喰らうだろう。




「どあああああーー!!」




 入口に向かって大転倒。


あと少しで兵士の居た入口だというのに。


 俺は自分の尻に来るであろう痛みに、歯を食いしばる。






「……あれ?」




 ツノウサギたちはもういなかった。


奴らの追跡範囲から逃れていたのだろう。




「脅かしやがって……」




 ふるえるシトリを隣に置き、俺はダンジョン入口近くで溜息を一つ吐いた。




「ふぅ……。 きついなぁ……」




 久しぶりの戦闘だ。


チュートリアルのスケルトンはいきなりだったので、緊張する暇もなかったが。


 久々の実践はやはり緊張する。


 


 爛々と輝くモンスターの赤い瞳。 その瞳は俺の命を狙っている。 


一挙手一投足、隙を狙い、必殺の一撃を繰り出そうとしているのだ。




 ちょっと大げさかもしれないが、ロールプレイは大事だ。




「しかし、どうしたものか?」




 一匹ならまだしも三匹は大変。


せめて一撃で倒せる攻撃力があれば……。


 木の棒じゃ五回ほど叩かないと倒せない。




「……」




 一度村に戻って神殿や冒険者ギルドで何かアイテムや情報を仕入れようかと思ったが、先ほどのギルド勧誘合戦を思い出すと鳥肌が立った。


あのマッチョの武闘家の視線が特にダメだ。 リアルでもたまにされる、あっち系特有の目だ。


 


「あっち系になぜか狙われるんだよなぁ……」




 嫌な思い出。


 アバターはほとんど現実と変えていない。


髪型と色を少しいじってるくらいか。


バイトが黒髪限定なので、こっちでは明るめにゴールドアッシュ。 リアルじゃなかなか出せない色がいいね。




「……地道に行きますかね」




 恐らく鳴き声でリンクしている。


その場で戦わず入口近くまでおびき寄せて、一匹づつ処理をしていこう。


 


「シトリも≪鼓舞≫頼むな?」




「!」




 タマゴな相棒はふるえながら飛び跳ねる。


ヒビ瞼から覗く黄金色の瞳は嬉しそうだ。




 


 俺はまたダンジョンを進んでいく。 


一匹釣っては入口近くまで戻り死闘を繰り広げる。 何度も繰り返す途中、再出現リポップしたツノウサギに絡まれてしまった。




「っ!」




 リポップしたツノウサギは俺を無視して、一直線にシトリを狙う。


無防備にも俺のすぐ横を通り過ぎてだ。




「させるか! ――バックスタブッ!!」




 やや斜め後ろから、うっすらと紫紺の光を放つ木の棒は全力疾走するツノウサギを捉える。


吹き飛ばすように。 ツノウサギは疾走していた勢いと≪バックスタブ≫により横の壁に叩きつけられた。




「キュゥ……」




 一撃。 


壁に激突した地形ダメージもあるが、≪バックスタブ≫の威力は強力だ。


一体一の戦いでは、特に素早い動きをするタイプの敵にはなかなか繰り出すことができないけれど。


 背後からの一撃。 暗殺者アサシンの真骨頂だ。




「鼓舞で威力も上がってるのかも」




 シトリが優先して狙われる理由かな。


俺は戦っている相手にしかヘイトはたまらないが、シトリの鼓舞は全体のヘイトを溜めているのだろう。


回復スキルや補助スキルではよくある仕様だ。




「ふむ」




 使えるかも。


そう思った俺は契約者失格だろうか?




「!!」




「おお?」




 激しくふるえるシトリ。


のりのりのダンスのように、真っ白なフォルムを揺らして意気込みを語っているようだ。


 意思疎通はバッチリ。 失格かどうかは分からないが、どうやらシトリとの相性は良いらしい。




「よし、じゃあ行くか!」




「!」




 ツノウサギレベリングの開始だ。


どんどん狩って、レベルを上げよう!






◆◇◆






 転がったツノウサギは粒子となり消えていく。




「キュゥ……」




ポーン。




「お、上がったか」




 何度目かの通知音。


レベルアップを知らせるものだ。




――――――――――――――


名前:ノリオ


クラス:アサシン


種族:ヒューマン


レベル:6


ギルド:




HP:80→130


MP:100




力:12→22


体力:8→13


敏捷:15→25


器用:14→19


知力:9


精神:10


SP:30→0




スキル:【短剣.Lv1】【投擲.Lv1】【バックスタブ.Lv1→6】


スキルポイント:5→0




物理攻撃力:21→31


魔法攻撃力:10


クリティカル:2.5倍(クラスボーナス+0.5)


攻撃速度:20




物理防御:0%


対火炎属性:0%


対風雷属性:0%


対水氷属性:0%


対土岩属性:0%


ダメージ軽減:0%


―――――――――――――― 




 


「そろそろツノウサギも卒業かな~」




 五から六に上がるのにだいぶ時間が掛かった。


一レベルごとにSPステータスポイントが五。 スキルポイントは一貰える。


 【バックスタブ】に全部突っ込んである。




「二階層に行ってみようか?」




「!」




 シトリも賛成のようだ。




 カークタスのダンジョン一階層はそれほど大きくなく、二階層へとつながる階段はすでに見つけていた。


俺はマップに刻まれた道を進んでいく。




「しかし、上手くいってよかった」




 シトリ囮大作戦。


俺を無視しシトリを狙う敵に【バックスタブ】を喰らわせる。


 まぁ、作戦と呼べるようなものではないのだけど。 




 素早く動く敵、しかも自分に向かってこない敵の背面を狙うので意外と大変だった。


三匹以上だと二匹が同時にシトリに向かう場面もあり、ヒヤッとした。


【バックスタブ】は優秀だ。 即時発動、高火力でクールタイムも五秒ほど。


 一匹をすぐ倒し、二匹目を叩く。 


一対二の状況になってしまうが、レベルの上昇と相手のパターンにも慣れたのでなんとか凌げた。






「さて、二階層はなにが出てくるかな?」




 二階層へ。


一階層よりも狭い通路を進んだ先は広間になっていた。


 広い天井からは暖色系の光が発せられ、床は白茶色のレトロな雰囲気を醸し出している。


古い塔の内部。 待ち構えていたのは、人型のモンスターだ。




「ゴーレム……?」




 背が高いにも関わらず、床につきそうなほど長い腕をしたゴーレム。


上部に表示されるマーカーは赤。 敵性を表し、名前は『古びたウッドゴーレム』と表示されていた。


 よくみれば茶色い体躯は朽ちた木のようなデザインをしている。




「……」




 ゴーレムと言えば耐久力と馬鹿力。


果たして木の棒と初期防具で戦える相手なのか?




「!」




「やってみるか」




 幸いモンスター同士は広場で離れている。


ウサギの叫びのようにリンクするアクションがあると危険だが。


 それほど俊敏そうには見えない。 リンクしたら一階層まで逃げればいい。




「VOOOOO……」




 ゴーレムの叫びは、声にならいような空洞を通る風の音ようで不気味。


振り下ろされる樹腕。 打ち付けられる床から、その攻撃が強力であることを示す音が響く。




「遅いな……!」




 動きが遅い。


チュートリアルで戦ったスケルトンと比べても、全体の動きが緩慢だ。


 ツノウサギに慣れていた俺にはスローモーションで見える!




「VOOOOO……」




 打ち付けた樹腕とは逆の腕が俺を掴もうと伸びてくる。


その腕の外側を回り込み、俺はウッドゴーレムの背後へと回り込む。




「バックスタブ!」




 必殺の一撃を繰り出す。


スキルレベルの上昇で地形ダメージなしでもツノウサギは倒せるのだが。




「VVOOーー!!]




「っ! ……一撃は無理か」




 風が頬を撫でる。


裏拳のごとく横薙ぎに振るわれた樹腕を回避する。




 倒しきれなかった。 やはり耐久力が高いのか。


 再度、ウッドゴーレムとの距離が空き、樹腕は振りかぶられる。


上げた腕はおろすだけ、俺は打ち付けられる腕の外側を回り込み背後へ。




「バックスタブ!!」




 二度目の必殺技。


紫の光を放つ木の棒がウッドゴーレムの頸椎を穿つ。




「VOVO! VOOO……」




 崩れ落ちるように光の粒子と消える。




「うん。 ツノウサギより戦いやすいな」




 周りを見てもウッドゴーレムたちが集まってくる気配はない。


一対一で戦えるのは凄い楽だ。


 


「♪」 




 シトリを見ると機嫌よくふるえている。


短い付き合いだがすでになんとなく分かるようになってきた。




「よし! しばらくゴーレム狩りだな!!」




「!!」




 広場のウッドゴーレムを全滅させてやるぜ。






◇◆◇






「VOOOO……」




 ウッドゴーレムの振り回す樹腕を躱し、俺は木の棒を突き続ける。


次のレベルアップを知らせる音はまだか? 単純な作業となりつつあるゴーレム狩りの唯一の楽しみ。




ピロロン。




「やっとかぁ!」




そのシンプルな音に俺はすぐにステータスを唱えた。




――――――――――――――


名前:ノリオ


クラス:アサシン


種族:ヒューマン


レベル:10


ギルド:




HP:130


MP:100




力:22


体力:13


敏捷:25


器用:19


知力:9


精神:10


SP:20




スキル:【短剣.Lv1】【投擲.Lv1】【バックスタブ.Lv6】


スキルポイント:4




物理攻撃力:31


魔法攻撃力:10


クリティカル:2.5倍(クラスボーナス+0.5)


攻撃速度:20




物理防御:0%


対火炎属性:0%


対風雷属性:0%


対水氷属性:0%


対土岩属性:0%


ダメージ軽減:0%


―――――――――――――― 






 レベル十。


そろそろ階層を変えるころ合いだろう。


 ウッドゴーレムは飽きたし……。


狩り的には旨いけど、単調で飽きる。




「三階層に行こうか」




「!」




 ふるふるシトリを手の上で躍らせ、俺は三階層へと向かう。


一階層から二階層に上がった時と同じような階段。 そこを登った先はそれまでと異なっていた。




「おお~」




 暖かな日の光、太陽だ。


三階層は高い壁に囲まれているものの、天井は無かった。


 通路もなく、あるのは中央に大きな樹木がポツンと。


壁際には木や藪、まるで中央でボスでも沸くかのような配置だ。




「そういえば三階層までだっけ? ボスでも出るのか?」




「出ないよ~~」




「っ!?」




 独り言に返事が返ってきた。


シトリか!? と一瞬思ったが声は遠くから聞こえてきていた。




「やっほー。 こっちこっち!」




 死神。 


声のする方を見ると、中央の樹木の横に大鎌を持った人物がいた。


手を振るかのように、大鎌をふりふりしている。




「ああ、ごめん」




 俺の驚いた顔で気づいたのか、大鎌をしまう人物。




「ここは副塔だからボスは沸かないよぉ~。 それより君、そんな装備でここまで来たの? ガッツあるねぇ~」




 近づいた人物。 女性だ。


蒼色の髪をポニーテールにした、綺麗な女の人。 大人の女性って感じ。




「よっぽど、コルルが優秀なのかな?」




「……っ」




 美人に見つめられる。


自分じゃなく手に持つシトリをだ。 興味津々、そう語るその瞳は少し苦手かも。




「ごめん、ごめん。 ちょっと気になっただけ~~」




 小さく舌を出しごまかす。


黒い上下の服。 上はノースリーブで下はピッチリズボン。 防具は無くシンプルだけど、かなり質がよさそうで刺繍や装飾も施されている。


 どちらかと言えば、中華っぽいというか武侠っぽい服装だ。


俺の初期装備とは比べるべくもない。




「初期装備縛りなの? 村で装備貰ったでしょ??」




 やっぱり貰えるのか。 そんな拷問みたいな縛りプレイは嫌だ。


俺は勧誘が嫌ですぐ飛び出してきたことを伝える。




「あぁ~~。 今は特に多いねぇ。 一周年記念で新規獲得イベントやってるからね!」




 君もそうでしょ! 大きな瞳はそんな感じで俺を見つめる。 残念、月額制のみで絞ったら二つしかMMOがなかっただけだよ。




「初期村の教会で特典アイテム貰えるから一度行っておいたほうがいいよ!」




「そうなんだ。 ありがと」




「ん。 どういたしましてっ!」




 悪い人ではなさそうかな?


美人だし。 胸は控えめだけど。




「お姉さんは何してたんです?」




 初心者ではなさそう。


一人で初心者用のダンジョンにいる意味ってなんだろ?




「私? 私は……ほら、アレ!」




 そう言って指さしたのは、壁際に生えている青い花だ。




「これね、連金のアイテムなの。 錬金術ね!」




「へぇ……」




 そう言って近づき手をかざすと、青い花はしばらくしてヒュンと消えた。


おそらく採取をしたのだろう。 それより、膝を曲げずお尻を突き出す格好をしているからめっちゃエロいんだけど。


 上着のヒラヒラの部分はめくれ、ピッチリズボンでヒップラインがまるわかりだよ!




「ふふ、穴場なのよぉ~~」




 俺が凝視しているのに気づかず、お姉さんは採取を続けている。




「!!」




 見ちゃダメっ。 そう激しくふるえるシトリを抑え込みながら。 俺はお姉さんが採取を終えるまでウオッチングを続けた。


狩りで疲れた心を癒してくれる。 素晴らしい光景である!




「これだけあれば十分かな」




 ごちそうさまです。




「あ、あんまりお尻ジロジロ見ないほうがいいよ? 警告でるから、バレちゃうよぉ~~♪」




「えっ!?」




 ニヤニヤ笑うお姉さん。


バレてたのかよっ。 超恥ずかしいんですけど!?




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