[4]
〈半年前〉
ビショップとデ・ゼーヴは谷間の平坦な場所に並んで寝そべっていた。2人の姿は雑草にほとんど隠れている。
右眼で4倍から9倍の
「風は11時の方向から5メートル。ドロップは15センチ」
「了解」
レティクルが標的の中心を捉えた。音が消える。トリガーを切った。
右の頬に撃針の突っ走る振動を感じる。次の瞬間、リンベルクTGR-42が吠える。銃弾の強烈なキックが肩を襲い、銃口が跳ね上がった。反動を利用して右手を飛ばし、槓桿を引いて薬室の空薬莢を弾き飛ばす。槓桿を前に押し出し、次弾を装填して薬室を閉じる。再びスコープを覗いた時には丸い視野の隅に立ち昇る土埃が見えた。
「手前」デ・ゼーヴは言った。「右に逸れてる。3クリック上、4クリック左」
ビショップはスコープの基部にある調整用スクリューのカバーを外した。小型のドライバーでデ・ゼーヴの指示通りにスクリューを動かした。指先でクリックを数える。上に1、2、3。左に1、2、3、4。スクリューを回し終えた後、カバーを閉じた。
肩の力を抜いて大きく息を吐いた。ライフルの
「今朝は白髪の爺さんと何を話してたんだ?」
デ・ゼーヴがのんびりとした口調で訊いた。ビショップはスコープから眼を外し、標的を見つめている。脳裏ではスコープに見えた土埃がプレイバックしていた。
「デートの約束」
デ・ゼーヴが低い声で嗤った。
「へえ、あんなのがアンタの趣味だったとはね」
ペリエが身の回りの物を片付けに来たのは、早朝だった。その時に「お礼に」と言って菓子折りをビショップに届けに来た。ライフルの照準合わせに向かう前で準備に忙しい時だったが、ビショップはペリエと短い話をした。
ネイサンは3年前にポリサリオのカナンで取材していた時、政府軍の残党に捕まって3か月ほど山岳地帯の密林で過ごしたという。帝国軍の掃討作戦に巻き込まれていたところ、政府軍の救援に駆け付けた連邦軍の特殊部隊に身柄を解放された。その際の戦闘で頭に手榴弾の破片で大怪我を負い、その後遺症で脳にいくらか損傷が残っているのだという。ペリエはそんなことを淡々と語った。
1週間後、ペリエはネイサンを連れてこの星を去った。ネイサンを故郷の精神病院に入院させるためだった。しばらく経った後、1通の分厚い封筒がビショップ宛てに届いた。封筒の中には手書きの手紙と写真が1枚入っていた。ビショップは手紙を開いた。
《親愛なる中尉殿。昨夜はなんとなく頭が晴れてくると、私は病院のベッドに寝ているではありませんか。驚いて周りの人々に事情を尋ね、ようやく事の次第が理解できました。明日は飛行機に乗るというので、今夜はどうしてもこれを書いておかねばなりません。
親愛なる中尉殿。こういう話をするのも最後ですが、私も人間ですから、絶えず告白を必要としています。今日は貴方に告白させて下さい。理由は2つあります。1つは私が貴方に嘘をついたから。1つは貴方の知っている女性の話だからです・・・》
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