第12話、寝台の上、ふたつの影が重なるとき
ぜってー怒られるよな、これ。現在は授業に使っていないとはいえ旧校舎、破壊しちまったし。でもいまはそれどころじゃない。
「
枕元に左手をついて、右手でそっと
「だいじょぶだって。魔力切れおこしただけだから。寝てりゃ治るわよ」
声にいつもの張りがない。
「あんたの負担を考えずに魔術発動させてほんとにすまなかった。魔力
「そんな悲しそうな顔しないで、
明るく言って、からからと笑う。
「いやでもそもそも、土蜘蛛復活させちまったの俺だし……」
まだグダグダと落ち込む俺に、
「じゃあ
「え?」
「ここでずっとあたしの手を握ってて」
「そんなことでいいのか?」
俺はすぐに
ああ、そういうことか。気の強い
「そうだ、気休め程度にしかならねえが、俺の魔力をあんたに送るよ」
まぶたを閉じて、腹の底から両手に
「あったかい」
気持ちよさそうな
「綺麗ね」
と
「そんな
などとのたまって俺を無言にさせた。
いや、体動かすの嫌いで引きこもり万歳な俺がいけねぇんだが! あやかしの身体能力を手に入れたおかげできたえなくても強いし、さわやかな汗とかくそくらえだし! でも女子に華奢とか言われるのは
「どしたの?
ずぅぅぅんとなって下を向いている俺に気付いたらしい。
「いいんだ。俺、はかなげな美少年だから」
「――は?」
そのとき、からっと戸が開いて
「さすが龍神さま、
「ああ、
「それなら口移しの方が早いですわ」
「口移し?」
ぼけっとして聞き返す俺とは反対に、
「そ、それって口づけ!?」
「
「だって、そんな、あたしっ、経験ないもん!」
取り乱す
しかし
「龍神さまと唇がふれあったとて、それは男女のけがれた色恋沙汰とはまったく異なるものです。そんなご想像をなさるなんて、龍神さまに対する
まじか。そういう解釈になるのか。宗教ってすげー。
思いもかけぬ叱責を受けて、
「わたくしなら龍神さまのいけにえになることも
「いやいや」
慌ててぱたぱたと手を振る俺。「いけにえとか絶対所望しないから俺」
「さようでござりますか。ではこの身を捧げますゆえ、お好きになさってくださいませ」
いきなり
「おお……」
などと思わず小さな声をもらす俺。神様
「だめっ」
あ、バレてた。
「分かりました、
とほほ笑んだ。何が分かったのか知らねえが、手早く袴を着つける。ちぇっ。
「わたくしならこれくらいできちゃいますよってお見せしただけ。ご遠慮なさらずお体のためにも、
そそくさと部屋から出ていこうとする。わけが分からず
「
「
うるんだ目でみつめ、やわらかい指先でそっと俺の唇に
思わずごくりと喉をならす俺。いけねえいけねえ、いま反省したばっかじゃんか。
「体に
俺は自分の煩悩を寝かしつけるように、
だが
「ねえ、欲しいのよ」
着物の袖がするりと落ち、細い腕があらわになる。俺はふいに、その小さな手に指をからめた。清らかな少女の肌を鋭い鉤爪が
俺は、はっとした。この口には牙があり、舌の先は二つに分かれてる。こんなあやかしの唇が彼女の初めての接吻を奪うこたぁねえだろ。恋した相手と――せめて普通の人間と口づけさせてやらねえとな。
「
だが
「早く回復したいの! 体調を戻す方法があるのに、長く寝込む必要はないでしょ?」
そう言われてみればそうか。接吻なんて思ってたのは、煩悩のかたまりの俺だけだったのかな? あれ? まいっか。とにかく魔力を口移しすることで
彼女を助けることを心に決めて、俺はうなずいた。
「じゃあ失礼するよ、
いつくしむように顔を近づけたとき一瞬、
「
ひそやかにくちずさんで俺の耳たぶをはさんだ彼女の指を、やさしく手のひらで包みこむ。照れ隠しでこんなことを言う彼女をいとおしく思う。近くで見ると改めて、
「目を閉じて」
耳打ちするようにささやくと、
青白い俺の唇が、彼女の愛らしい口もとにゆっくりと近付く。
ふたりの肌が重なった瞬間、そのやわらかさに俺の体は熱くなった。
奥底から湧き上がる目には見えぬ力が、ふくれあがって彼女に流れこんでゆく。
「んっ……」
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