Root 12 そのアクリル絵。


 ――それは、このアトリエに眠っているもの。その人の歴史が綴られている。



 西原にしはら令子れいこの歴史。この人の人生に触れる……


 人生とは生き様。そしてこれからも繋がる命、歴史は続いてゆく。


「さあ、行こう」と差し伸べる手。謎を紐解く意思。僕の冒険に加担してくれるという意思表示、それを意味している? この人は、言葉ではあまり多くは語らない。手に触れて理解するタイプだから。そのために僕は、この場に於いて様々な経験を得たといえる。


 マニュアルでは到底得ることのできない……

 体験型の学び。触れたものこそがすべて……


 この人は、やはり僕の師匠。


 この学園の教員。そして美術部の顧問。令子先生と人は呼ぶ……


 僕の絵を描く時のスタイルも、この人から。とても変わった人だけど、きっと生きることの尊さを五感で、或いは第六感も惜しみなく……すべてをもって描いている。


 その行く先は、


 ――まだ見ぬ場所。三度目の夏をこの場で過ごしているのにも拘らず、まだまだ知らないことが多すぎるの。芸術棟のからくりも、この夏に初めて知ったこと……


「何処行くの?」と、僕は問う。


「ま、行ってからのお楽しみかな」と、返ってくる答えはいつもそうだから。


 それが令子先生という人なの。


 説明はあまりない。『喋るの下手だから』と、この人は言うけど、それだけではなくそこが魅力といえる人。説明だけで片付けるのではなく、触れさせることを第一に思う。


 靡く白いワンピース。

 いつも満面な笑顔のその裏には、壮絶な歴史も潜んでいる。


 僕の理解を越えている最先端技術の、この人の心臓。「とても強靭なものだよ。これから描きたいもの、まだまだいっぱいあるから」と、答えたの。素敵な笑顔で……



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