Root 06 白と黒の向こう。


 ――白い風景の中でポツンと黒いピアノは、この調べにマッチしていた。



 白い壁の向こうは、無限に広がるバイオリンの音色。アマリリスからまた……アップテンポな曲。よく聞くと、とあるアニメ曲。絶妙なアレンジが施され、聞き入ってしまう。


 そこにはもう、恐れはないの……足も留めず僕は歩いた。


 何故だろう? 脚が勝手に動くわけではないけれど、導かれるような感覚? それ以上に勘。怜央れお君は「葉月はづき、どうした?」と、僕の手を掴んで引き留めた。


 僕は何故か、笑えた。


「会いに行くよ、あの子が僕らを待ってるようだから」


「あの子って?」「フフフ、幽霊の正体。これからからくりを解くから」と、自信満々に言ったのだけど、何故そう思ったのか、そう言ったのか、僕にもわからない。あるとしたら、僕の脳の奥深くにある潜在的な部分が囁いたから。すると怜央君の表情に笑み……


「任せる。葉月についていくよ」


「ありがと。僕は、僕を信じる」


 入口は、この大広間ではない。もっと原点となる場所。灯台下暗しとなっているあの場所からだ。確証はなくとも記憶の糸、そこから繋がる勘で動く僕の脳。僕の脳は、僕の五感に……或いは第六感をも動かして、三階から下りる。その行く先は、二階の踊り場。


 そこから選択肢だ。三階と似た作りの大広間と小部屋……君ならどっち行く?


 大広間には、かつての開かずのドア。それこそが今のアトリエの入口。なら開くの。閉ざされた扉をまた……僕はそう信じるから、この七不思議に挑戦した。僕の選択肢は迷わずそこだ。大広間から続くアトリエ。それこそが入口だったのだ。アトリエには……やっぱり、密かに備わっている階段があった。実に隠れた場所、倉庫と化した物置? から階段に上ることができる。そして僕は元気いっぱいに「こんにちは!」と、挨拶するの。


 ニュッと、床下から顔を出して。止まるバイオリンの音色。白いワンピースの長い髪の少女。幽霊の正体となるけど、脚はちゃんとあるハッキリと。幽霊ではない幽霊なの。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る