Root 03 開かずの扉の件。


 ――まずはここ。今、僕と怜央君がいる場所がそうなの。



 記念すべき一件目は、灯台下暗しとなりそうなアトリエ。この建物の二階にある教室並みの広さ……その奥にあるドアの向こうは、謎のお部屋として有名だったそうなの。


 何も知らずに、ここで絵を描いていた。


 ……何があるというの? と身震いするも、怜央れお君はもう腰が抜けているに近く、


「ま、過去のことみたいだし、今まで何も起きなかったことだし、ほら、お外だってこんなに明るいし、ただの噂話だから。ドアも僕が開けてることだし、問題なしだから」

 と、僕は目一杯に明るく、ワンオクターブ高めで言った。


 かつては開かずのドアだった。それは僕の師匠というべき先生の、青春が封印されていた場所だから……『この開かずのドアを開けてしまったある少女は、この場で天使のように白く石化されて、作品になったと語られている』……少しばかり、いやいや大分なのだろうか真実を歪められている。所詮は噂話だから。それでもそこは、異世界とも思えそうな不思議な空間。まるで森の中を思わせる。時折聞こえる……カリカリという音。それに笑い声も。何より白い影が見えたという噂もあった。


 でも、それも合わせて、もう過去のこと……


「それが、そうでもないみたいなんだ。僕らが帰った後も、何やら動いてるらしい。もしかしたら今も、見られてるような気がしてならないんだ。葉月はづきがこうして絵を描いてる間も、何か視線を感じて、僕ら以外の息遣いも感じて……ピアノの音が聞こえるらしい」

 と、怜央君は、僕の両手を掴んで訴えるような目で言うの。


 その手は震えつつ……本当に彼は、この手のお話が苦手と見事なるアピール。そうであるなら、いざという時に強い女の子の僕の出番。彼を守りつつ、不思議に挑戦。


 とある予感は的中ともいえる。


 乙女の勘は鋭く、この夏休みは怪談とも思えそうなミステリーに挑戦することになりそうだ。実は……怜央君には内緒だけど、僕は肝試しや怪談にワクワクしている。



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