火途、刀途、血途
第16話:地獄のハイウェイ
全地形対応車型
リベリオン軍の偵察隊が使用する目的で開発された搭乗する
ただし。通常量産されているそれと比べて、だいぶ改造されているように見える。そもそも元のCHARONは隠密性を重視し、普通の乗用車と変わらないサイズだったハズだ。こんな。戦車かトレーラーかと見まごうようなバカみたいな大きさではない。
動力だって。コッコのLeoと同じく霊子モーターが採用されていたハズだ。内燃機関を唸らせ、マフラーをタケヤリのように突き立てた攻撃的なデザインだったわけはない。
憲兵隊が
『あらためましてこんばんは! サンズリバークラン、パーソナリティのトーズだ!』
やかましくユーロビートが流れるカーステレオに、じりじりした声が混じる。
おそらく霊子的なハッキング。特殊な霊波を流して、霊子機器を乗っ取っているのだ。
「え、何……!?」
そして後部座席のマータが、小さく悲鳴を上げる。
いつのまにか。本当に何の前触れも予備動作も無く。
しかし。口の構造は小さく退化している。『トンボ』より少数の『カゲロウ』と呼ばれている
『この口ではダイナミックに喋れないんでね! 喉に霊波トランスミッターを仕込んでいる! このクルマ、いいステレオを積んでるようだな!』
「こ、この……! 出ていけ!」
マータが腰のナイフを抜き放ち、トーズの頭に向けて、逆手で振り下ろす。
だが刃が突き刺さったのは、やわらかいシートでしかない。
『
相変わらずステレオから流れ続ける声。
当のトーズはというと、既に社外に移動していた。ドアの窓に張り付き、中の様子をその複眼で覗いている。
飛行偵察兵型
トーズはこれを利用して浮遊しており、カヲルのスポーツカーに張り付いている。
『この
ちゃきちゃきちゃき。と。トーズは両手にナイフを取り出した。
グリップが二つに分かれたフォールディングナイフ。要するにバタフライナイフだ。これを親指人差し指に引っかけて、くるくると回して
「コッコさん! お胸を借ります!」
「え、何!?」
対応するまでも無く、カヲルが左手で拳銃を抜き放つ。
そして助手席に座っていたコッコの胸にグリップの底を押し付け、銃身を固定。そのまま発砲する。
銃声。銃声。銃声。
ドアのガラスが蜘蛛の巣状に割れて、銃弾を吐き出す。
だがやはり、窓の外のトーズには当たらない。彼は直前で身を捻らせて、スポーツカーの屋根側に逃れて銃弾を躱した。
『いいねいいね! 女の子三人でも勇気百倍って感じだ! 今夜はその調子で盛り上がっていこうぜ!』
相も変わらず流れ続けているユーロビート。
そのリズムに合わせ、天井から無数のナイフが突き刺さる。
エーテリウムによって生成された、様々に色を変え、輝きを放つ刃だ。サイリウムか何かのように、暗い夜には目立つことだろう。
当然。光るナイフ自体には何の
「クルマ自体はレプリカですが……おちょくられるのは腹が立ちますね……」
「でも楽しそう……」
苦々しげに銃を持ったまま運転を続けるカヲルと、ほんの少しだけテンションが上がってきたコッコ。
マータは周囲に『耳』を向け警戒している。
しかしどうも、あのトーズの気配を上手く感じ取ることができない。上にいるようにも後ろにいるようにも感じるし、あるいは下にすら思える。ハイウェイで自身も移動しているからか、
『さあ! ゲストさんにはウチのスタッフも紹介してあげよう! 構成作家のケツズだ!』
かと思えば、トーズは
身体にぴったりとしたレザースーツを身に纏っているが、膝を抱えてうずくまっている。耳を垂れさせ、尻尾も丸めて、外界から自身を遮断しているようにも見える。
『ふええ……許してください……許してください……あなた達をやっつけないと、お金が貰えないんです……』
ただ目だけは、リキヤやカヲルのクルマを見下ろしていた。
『お金がないと、ご飯も買えないしお布団で寝られないんです……けど、戦うのも怖いから……できれば投降して欲しいです……アクセスキーを渡してください……許してください……』
『ハッハ! 俺達の
丸まっているケツズの肩をばしばしと叩き、トーズはリキヤに水を向ける。
それに対しリキヤは、コンパクトカーの屋根から突き出た首を、横に振った。
「アクセスキーは渡せないよ。オイラは個人主義で自由主義だからね。キミたちのような反社会的な傭兵には渡せない」
『許してください……ダメですか? ダメなら……戦ってもらいます……』
ケツズは膝を抱えていた両腕をほどく。
そして両手を90度の角度で重なるようにして、片方の指を折り曲げ、てのひらをつつみこむ。
つまり、影絵遊びで『犬』を作った。親指が耳になり、伸ばした小指が下顎になる。
そしてケツズの作った影絵がアスファルトの路面に映し出されると、それらはひとりでに動き始めた。数を増やし大きさを増して、あっという間にリキヤのコンパクトカーもカヲルのスポーツカーも包囲してしまう。
『ワンちゃん。噛んでください』
そして影が一斉に地面から飛び出し、厚みを持って実体化。クルマのボディのあちこちに噛みついてきた。
影の黒い牙が、各所にめり込む。へこませて、穴を開ける。
頭を出していたリキヤも、慌てて首を引っ込める。しかしわずかに間に合わず、耳を少し齧られてしまった。危うくハンドルをとられそうになるが、気合で持ちこたえる。
「かりそめの生命を、一時的に実体化する
ほんの数秒で、実体化した影の犬たちは霧散して消えてしまった。
だがもちろん脅威は去っていない。ケツズの
「だから街中でやり合うのはごめんなんだ。こんな
「ハイウェイでも相当だと思うけど!」
「オイラが逃げられればそれでいい! コッコちゃん! 頼むよ!」
恥も外聞もなくうそぶくリキヤ。自分のことしか考えていない。
しかしこの状況なら、自分のことだけでも考えてくれるだけありがたいだろう。考えるべきことはシンプルな方が良い。
『そう! 逃げたいならウチのディレクターのマシンを抜いていかなきゃいけないな! それができればの話だけど!』
カヲルのスポーツカーとリキヤのコンパクトカーの前を走り続ける巨大な
ハイウェイの車線を塞いでいるこいつを追い抜いていかない限り、状況から逃れることができない。
そして
それは放物線を描いて、リキヤの頭を飛び越えた。背後の路面で弾けて、一気に燃え広がる。
つまり。これで逃げ道は断たれた。急停車して逆走で逃げるという奇策も、こうして炎で道を塞がれてはどうしようもない。
「また会ってしまったなあ。
「カズさん! ボク達は美人ってだけじゃなく、結構強いけど! それでも退いてくれないかな?」
「素晴らしい! 美人な上に強いのか! 戦ったとしても、死んでいったりしないのかい? ワシを置いていったりしないのかい? 嬉しいねえ! 嬉しいねえ!」
すばん! ずばん! と。
『さあ! オープニングトークはこれまでだ! ゲストとの、楽しい楽しいゲームをはじめていくぜ!』
カーステレオから流れるBGMが、ハードロックに切り替わる。
そして夜のハイウェイを舞台に、
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