推しアニメに入ったので、主人公を攻略する。

ぐらにゅー島

第1話 転生した。

『俺の名前は甲斐明虎かい あきとら冴えない、普通の男子高校生だ。』


「きゃー!かっこいいよーっ!!明虎くーん!」


私、越後涼香えちご りょうかは、ガチオタである。

今日もきょうとて、アニメの推しを推しまくっている。


オタクになった原因は、完全に兄の影響だった。


ある日、アニオタの兄がラノベを読んでいたのだ。

そのラノベの題名は「俺がラブコメ主人公な訳がない」通称「ラブない」と言う、いかにもなラブコメ作品だった。


…ラブないだと、絶対ラブコメしてない感が出てるけど。


冴えない男の子が、可愛いヒロインに何故か好かれて、なぜかラブハプニングを全部回避していくよくあるやつだった。


アニメ化まで漕ぎ着けたけど、作画崩壊とか売上が伸びないとかで散々だった。

評判もまちまちで、原作の方も最近打ち切りになってしまった…。


しかも、最終話で主人公が結ばれたのは…。

おっと、これはネタバレになっちゃうからダメだね。


そんな冴えない作品ですが、私は好きになってしまったのだ。

…そう、ヒロインじゃなくて主人公を!!


黒髪の少し髪が長くて目にかかってる感じ。

度の高い、黒縁眼鏡。

友達はほぼゼロと言っていい、孤独さ。

休み時間は、ラノベを堂々と読みながら一人で昼食を取る。


…かっこよすぎでは⁉︎


あまりに私のタイプど真ん中すぎて衝撃である。


もう、好きになってからはだめである。

数少ないキャラのグッツを中古で買い漁ったし、原作もサイドストーリーまで集めた。


え、アニメのBlu-ray?

もちろん、使用用、保存用、布教用、崇め奉る用を揃えたけど?


毎朝崇めてたら、お兄ちゃんが私をさん付けで呼ぶ様になったけども。


「あーもう、二次元に行きたい。お兄ちゃん、どうすれば甲斐君に会える?」

私は、ソファーで寝っ転がってラノベを読む兄に話しかける。


「え、俺だって二次元に行けるなら、アイたんに会いたいんだが。」

はあ、とため息をつきながらお兄ちゃんはそう言った。


ちなみにアイたんとは、ラブないに出てくるヒロインの一人である。

最初に主人公と出会うため、メインヒロインなのでは?と、一巻からファンを沸かせたものだ。


「豆腐の角にでも頭ぶつければいいんじゃね?」

お兄ちゃんは、眠たそうにそう言うと読んでいた本を私に渡して寝てしまった。


…折角ぶつけるならラブないの角がいいんだけど。


何の気なしに、お兄ちゃんから受け取ったラブないを頭にぶつけてみる。


「痛っ⁉︎」


思ったより痛くて、思わず声を出してしまう。



「えっと…。大丈夫ですか…?」

「えっと…まあ大丈夫かなぁ。…って、え?」


目の前に甲斐君がいた。


「…え?」

「…え?」

思わず甲斐君と目を見つめあってしまう。


気がつくと、住宅街の一角で、私は座り込んでいた。

空は青く晴れていて、気持ちのいいそよ風が吹いている。


黒髪黒メガネで、このバックの青い空に合わない隠キャ感…。


「甲斐君…?本物…?」


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