二浪上がりの作曲馬鹿が青春なんて

Vaintown

俺、どこで間違えたかな…

初登校となる入学式初日。

大体のやつは皆、服装や髪色とかに気を使い、話題合わせのためになりそうな話を何かに取りつかれたように自分磨きをしているころだろう。

ただそこには元々、高校で陰キャだった勘違い野郎も混ざり、新たな黒歴史を生み出してくれることだろう。

俺はそれを心底楽しみに大学への期待を募らせていた。

そう、俺はクズだ。胸を張って言える。

そして、こんな自分が結構好きだ。

そんな中、俺は…

「このギターとかめっちゃ女の子にもてそうだな!グフフフㇷォォォフォ」

そう俺もその勘違い陰キャ野郎の一人だったのだ。

持ってるだけ、クソほど弾けない、なんかすごい痛い

この三拍子を発揮できる魔法の楽器。それがギターだ。異論は認めない。(ギターやってる人、ごめんなさい)

多分、大学出て社会人とかになったときにこの頃の自分を思い出して軽く死ねる自身がある。

それに、心なしか楽器や店員のゴミを見るような目が凄く刺さる。なぜだか気持ちいい。

っとこのように浪人した子はちょっとメンタルがバグってる子が多い。(俺調べ)

まあ、こんな汚物は置いといて

俺の趣味を話そうか。


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俺は13歳の頃、ネットに自分で作った曲を上げ、人気を博した

有名ロックバンド〝ミゼリア〟に影響を受け

安いギターと性能があんまりよくないノートパソコンを親に買ってもらいDTMを始めた。

要するに、PCで作曲をしていたのである。

そして、その曲を彼のようにネット上に日々、アップしている。

俺には夢がある。


「これ以上ない心にぶっ刺さる最高の曲を作る。ミゼリアみたいにね」ってね。


1. それは今思えば自分がやってきたことを〝正当化する嘘〟だったのかもしれないが…


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そんなわけで俺は音楽と深い縁がある。

だが俺が、馬鹿すぎるがゆえに若い時の大事な2年間を失ってしまったわけだ。

当然、そんな作曲家気取りの痛い陰キャの俺にまとも(?)な人付合いができるわけもなく

「二十歳か…」

圧倒的な出遅れ感と親への申し訳なさの気持ちをよそに俺は楽器屋を出て大通りを歩く。

どちらかと言えば心地悪いスタートを切った。

そんなこんなでバイト先に着いた。

バックヤードに入るとすぐに…

「サツキィ!おっそいよ!!」」

彼女は同僚の糸原みずき。

スタイルと言い容姿と言い中々整った非の打ち所がないと言った感じの女の子だ。それに、何てったってあの早〇田大学に現役合格するくらいなのだ。年齢も俺と同じく二十歳。

「すまねえな、ちょっとこの世の心理について考えてたら遅れたわ」

「ははー、相変わらずキモイなぁー(真顔)あと私の顔は胸にはついてないんだけど? ……うん違うな、太もも見るな?なに通報されたいの?」

そこに…

「遅刻した挙句、戯言を吐いてセクハラまでするとはいい度胸だ。原田くん?」

「て、店長⁈ すみません、ちょっと父のあれがいろいろと重傷でして付き添いで病院に…」

「ほう? 虚言も追加っと…それならお前は頭のほうのお病院いかないとなぁ? とりあえずお前、減給な?」

「いやあああああああああああああああああああああああ!」

そんな馬鹿みたいにな2人のやり取りをみずきは飽きれ果てながら見ていたのであった。


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 シフトに入るとそこは注文が飛び交い、慌ただしく働くバイト仲間のいつもの姿

ここはチェーン店のイタリアンーレストランだ。

クソガキがジュースサーバーでダークマター生成してる横で

俺はまるで別人のように…

「いらっしゃいませー! 何名様ですか?(好青年だよ)」

「クリームパスタお一つとチーズリゾットをお二つですね(一人での昼食にしては食べ過ぎでは)」

「誠に申し訳ございませんが、当店では博〇ラーメンは取扱っておりません。

…え、じゃあ、ハンバーガー…ですか?少々、お待ちください。すぐに上に確認してきますね(よそ行けよ)」

そう、偽善者とはまさに俺のこと。

外面を取り繕うことなんか朝飯前だ。

それに、俺はこのバイトが好きだ。

ここは人間観察にはもってこいだからだ。

ああいう頭のおかしい人を見て〝こうならないように頑張ろう〟と反面教師にできる。

まあ、俺の場合だともう手遅れとも言えるんだが…

自称変態自意識過剰陰キャだし。

「サツキー3番テーブルの食器片してきてー」

「りょーかい!他にも手が必要なら言えよ?」

「ありがとさん!」

「あいよ」

こうした何気ない会話や時間がたまらなくいい。

それに、今の所はバイトで稼いだ費用は全額、音楽機材に突っ込めるし


「これはこれで悪くはない…か」


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 今日は午後から入学式があるので早めに上がらせて貰い、自転車で大学に向かう。

入り口には華やかな桜の木々を抜けと入学式定番の看板が立てかけられた門をくぐり

新入生がぞろぞろと体育館に入るのを追うように自分も列へ並んだ。

席に着くと横にいるいかにもって感じの子に話しかけられた。

「あ、あのぉ」

「ん?」

「佐山蒼汰って言います 僕、理工学部なんだ」

「おお、奇遇だな! 俺もだ」

「うん! あ、えっと原田君だっけ…?」

「サツキでいーよ あと俺もソータって呼んでいい?」

「もちろん! じゃあサツキ君これからよろしく!」

「おう!」

容姿は整い、いかにも美少年!って感じの顔立ちに魅了される。

なぜだろう…こいつとは上手くやれる気しかしない。

「ちなみになんか趣味とかある?」

「えっと、ギター?」

「へえ、凄いね! 弾けるんだ?」

「ピアノの方が得意だけどな」

「えぇ⁉ ピアノも?」

どうやら、こいつは人当たりがよく、顔を立てるのが上手いタイプらしい

こうゆう子は人気者になりそうだなぁ…

そんなこと思いながらも、話ははずみ、あっという間に時間が過ぎていく。

こうして、無事に入学式は終わった。



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この後は、特に用事もなかったので自宅への帰途に着いた。

まあ、初めての学校なんて大体、こんなもんだ。

少しでもまともに話せそうなやつがまず一人。

ここから関係値を深めていくのがまた難しいんだけどそれもまた楽しい。

それに、学校にいく理由にもなるだろうし…

「ま、気楽にいきますか~」

家に帰る途中、コンビニによってアイスや酒、菓子を買う。

これは俺のと家族にやるお土産だ。

ここ最近、高校時代の友達の家で色々とお世話になってたもんで、中々家に顔を出せてなかった。

だから、これはささやかな差し入れだ。

…こんな安いもんで満足するかって言ったら拳を頭にねじ込んでやる。

それにしても、我ながらいい兄を持ったな…俺は、誰に向けてでもない自画自賛を心の中でつぶやく。

ふと突然、頭に曲で使えそうなメロディーが浮かぶ。

こうゆうのって実は、結構厄介だ。

なぜなら、すぐ忘れてしまうからだ。

そうならない為にも、すぐに帰って曲を作らなくては!

そう思い、俺は自転車を早く漕ぐ。

そういえば、俺が音楽家を志したのはいつの日だっただろう?

俺は、春風になびかれながら

ふと、昔のことを思い出していた…


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俺には深いトラウマがある。

俺は、人が怖い。

人を信じることができない極度の人間不信だ。

なぜなら、過去に音楽家になることを志した当初に、壮絶ないじめを受けたからだ。

それは中学3年の時の話、学校でもネットでも毎日、罵詈雑言、嫌がらせ、悪意の嵐…

「クソ曲作んな」

「ひっこめビギナーw」

「すごくいい!…絵がねwお前はゴミ」

「お前こんな曲作って生きてて恥ずかしくないの?」

「○○Pー新曲まだぁ?(教室)」

「ネットに住所と本名晒しまーすw」

俺の作った曲の歌詞を教室で合唱する

歌詞の一部で遊びだす&黒板にそれを書く

こんな下らない陰湿な嫌がらせが8か月も続いた。

しまいには、いじめがヒートアップして騒ぎが騒ぎを呼ぶ形で一度は砕け散った。

当然、これは俺一人にとどまらず、活動の際にお世話になったイラストレーターさんや動画師さんなど周りの関係者をも巻き込み、多大なる迷惑が及んだ。

何て言ったってネット上だ。俺の同級生だけのコミュニティーだけで済む話ではない。

まだ、未熟だった当時の俺がおかしくなるのは当然だった。

何より、当時の俺には心を落ち着ける場所がなかったんだ。

家にいても書き込まれる暴言、晒される個人情報、学校にいても受ける陰湿な嫌がらせ

教室で俺を指さしてかん高く笑う人の声、それを知ってても誰も助けない大人、それどころか大人まで…

何よりも一番嫌だったのは…

俺が必死に作った曲や歌詞をバカにされるのが、俺自身が否定されたように思えて


〝とてつもなく苦しかった〟


創作物は制作者の心や思いのそのまま乗せる投影物。

いわば俺自身だ。

相談出来る人に話してもそれは単なる自己責任だ、甘えだと言われた。

ゆういつ、彼女を除いて。


何かが弾けて、全てが砕け散った。

そして、誰も信じられなくなった。

関わる人を選ぶようになってしまった。

昔のように無邪気に笑えなくなってしまった。


今となっては全員が全員あの化け物のような人間でない事を知り

少しづつリハビリをすることで大分、陽気に振る舞えるようになった。

これが、今の性格を作る由縁になった。

俺がふざけるのは心に深く触ってほしくないからだ。

浅く繋がれば、きっと触れてこない。

クズになったのもきっとその一環だ。

人から遠ざけられるためにわざとクズのように振る舞うのに慣れてしまった。

本当の自分はこんなんじゃない。

無理して笑うのは本当の笑い方を忘れたからだ。

もう、心から笑えてる気がしない。

もうこれ以上、傷つきたくない。


「まだ、痛いよ…ねぇ」


偽る事で本当の俺が傷まないように今日もまた偽る。

そう、俺は偽善者なのだ。

きっと、これからも一生…このまま。

誰か、この傷を塞いでくれ。


〝じゃあどうしてそんなになってまで作曲家で居続けたんだ〟


きっとそう思う人も居るだろう。

それは…



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 家に着くと妹が出迎えてくれた。

「おかえりーお兄ちゃん」

「おうよ!元気にニートしてたか?」

「失礼だなーちゃんと家事とかしてたし!(めっちゃ寝てた)」

「お、そっかーえらいぞーみーちゃん …ちゃんといびきかいて息してたんだね」

「みーちゃん言うな‼この永久保存版童貞が!」

「えぇ⁉言い過ぎ、お兄ちゃん泣いちゃう」

「ふん!心の声も隠せないクズ兄の晩御飯は抜きです」

「後生です!ミライさん!マジ勘弁!」

そんな言葉の殴り合いのような喧嘩をよそに

「あーサツ兄帰ってたの」

「おうケンタ。ただいま」

「んー」

これが、寝ぐせで髪の毛がすごい事になってる高校1年の妹ミライとアイスを片手に携帯ゲーム機で遊ぶ中学2年の弟ケンタだ。

取り換えの効かない、本当に大事な家族だ。

「お前らは気楽そうでいいな」

「「おかげさまで」」

「ハモらせんな 馬鹿ども」

「お兄ちゃんがそれ言っちゃう?」

「そうそう あ、サツ兄アイスとってきて」

「ちっ、ほっとけ。あと自分で取れぃ」

「痛い」

原田家ではこれが日常だ。両親は共働きで二人とも出張づくめでほとんど家に帰ってこない。

俺含めて全員クリエイターだ。

ミライはイラストレーター兼アニメーターで結構、稼いでる。

ケンタは化け物みたいな手さばきでベースやドラムを弾き、曲も作る。

母に関してはコントラバスとピアノの奏者である。多分曲も作れる。

父は映像関連に特化している。AEをあんな使い方するキチガイはうちの父だけだろう。

まあ、そんな変わった家族なわけだ。

いつものように夕食を囲み、風呂に入って、自室へ向かう

自室でやることは一つ、そう作曲だ。

俺の得意な楽器は主にピアノとギター、ギターを歪ませ、ベース、ドラムを打ち込み、ピアノを鳴らす。

これがいつものルーティンだ。

だが…


「ちーがーうーよーもぉ!」


そう上手くは行かなくていつも没にするのがオチだ。

曲作りは誰にでもできるが良いものは誰でもは作れない。

作曲家になって早8年、しみじみそう実感する。

そして、データを消してふて寝するところまでがルーティンだ。


「ふぅ…」


…この吐息に悪意はないよ?


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 翌日の朝、今日は学部ごとのオリエンテーションだ。

俺は大学に入ったらやろうと決めていることがいくつかある。

まず、普通に友達を作る。

そして、作曲サークルに入ることだ。

なぜ、作曲サークルと限定しているのかというのは〝音楽をしに来ているか否か〟だからだ。

これは俺の高校時代の話だが

大体、軽音楽部とかに入るやつは活動の場をあくまで出会い目的の場としか考えておらず

「楽器弾ける俺かっこいい!」みたいな見てて痛いやつが多かった。

基本、下半身だけで動いてる感じだ。

俺はそうゆうのが欲しいんじゃなくて本気で音楽がしたかったのだ。

そして、そうした志ある人間と仲良くなれたらいいと思っていた。

ただ出会いが欲しいだけなら是非、よそでやって頂きたい。

それに、何よりも自分の音楽の方向性を周りに合わせるためだけに曲げなければならないのが苦痛だった。

これが一番の本音だ。

今なら「音楽性の不一致で…」と言って消滅するロックバンドの人たち気持ちが痛いほど分かる。

なんて言ったって…


「バンド名どうする?」

「パンプキンパンケーキ‼」

「…」


…とか言い出す始末だ。

こんなのすぐにでも引っ叩きたくなる。

いや、むしろよく引っ叩かなかったと思う。

当初、俺は〝若さゆえなのか、それとも純粋にこいつらの頭がおかしいのか〟と本気で疑った。

どうも素だったらしいのだが…

こんな調子なら当然、音楽性も合わない。

そんなこんなで俺は5か月も持たずに軽音楽部をやめた。

だからこそ、作曲サークルは都合がいい。自分の音楽を邪魔されず高め合える。

作曲ならば、自分の好きなように無地のキャンパスに絵を書くのと同じだからだ。

「今度こそ上手くやってやる」

そう意気込みつつ俺は教室へと入っていった。

それにしてもやはり、流石の有名大学と言わざるおえない。

施設の一つ一つがどれも綺麗で環境がいい。研究設備もよく整っている。

文系の方は、可愛い女の子が多く雰囲気が良い。

さすが、有名総合大学だ。

まあ俺は理系だから理工キャンパスなのだが…ちっ。



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 こうしてオリエンテーションが始まった。

俺は、昨日出会ったソータと同じ席に座りより互いを知るために雑談にのめりこんでいた。

そこに…

「あ、あの…」

「…?」

「席がここしか空いてなくて…隣いいですか?」

「もちろん!どーぞ!」

「♪(コクリ)」

理系の女子にしては本当に可愛らしい子だ。

これなら高校時代の悪夢を忘れることができそうだ…何とは言わないけど(他意はない)

とにかくだ、俺はそんな過去を打ち砕きたかった。

俺は、今まで青春というものを諦めてきた。

そんな、小学生で止まった青春を少しぐらい取り戻したっていいじゃないか!

「君、名前は?」

「紅葉桜ーあなたは?」

「原田サツキ サッキーって呼んで」

「サツキ君…ね?」

「もう、それでいいや」

「ちなみに遅刻してきたようだけど家遠いの?」

「いや、むしろ5分で着くよー」

「じゃあ寝坊か(笑)」

「そう(笑)」

ひとまず悪い子じゃなさそうだ。

ソータも隣の席の人と話しているので、この時間はこの子とだべってやり過ごすとしますかと思っていると

「ギョエえええええええええええええええええええええええ」っと言う奇声が聞こえた。

どうやら各必修教科の教授紹介のようだが中々に危なs…個性的な教授だ。

「私の授業では基礎工学の要になる科目うううううううううううのをおおおおおおおおおおおおおおおおお」

いちいちうっさいわ、このはげ。

そういえば、さっきこの学校に所属する教授としては有名な人だとソータに聞いた。もしかして、悪い意味でじゃ…?

これからはこの教授を工学狂人と呼称することにした。この教授の授業を90分とか聞いてたら普通に頭がおかしくなりそうだ。

「全く、どうなることやら」

「あはは」



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 そんなこんなでオリエンテーションが終わり、さっそくサークル勧誘をしている先輩方を横目に作曲サークルの活動場所へ向かった。

俺がこの学校を選んだ理由の一つとして作曲サークルがあるからだ。あとは将来的に音響工学でもやりつつ、いつか作曲家で成功して飯食ってやるという俺の野望を叶えるにはもってこいの学校だからだ。

そして、俺は今作曲サークルの活動場所の前にいる。コンコンと扉を叩く。

「どーぞー」

「失礼します」

「おー新入生かい」

「このサークルに入りに来ました」

「おぉ、いいね! そうこなくっちゃ」

「えへへ」

ずっと心待ちにしてたのだ。

ここに入り、いい音楽ライフを過ごす期待感。

やっと入れたという感慨深さも相まってテンションが上がる。

ただ、活動部屋に部長である先輩一人しかいないのはなぜだろう?

早く来すぎたのかな…?

「ちなみに音楽経験は?」

「8年ぐらいです。ピアノとかギターとか弾きつつDTMしてます」

「おぉ、これまた優秀な」

「そんなことないですよ…いやほんとに」

「まぁ、これからよろしくね」

「はい!」

こうして入会届を受け取り、学年、学部学科、名前を淡々と書く。

ちなみに、部長の第一印象は〝だらしない〟だ。

ぬぼーと着崩したシャツにダサいズボンを穿いている。

そして、顔も態度もだらしない。

なんだか、家にいるときの俺の妹と弟たちと妙な既視感を感じるのはなぜだろう?

「はいOKぃー改めてよろしく!」

「よろしくお願いします!」

随分、ラフな先輩だと思いつつ、PCや機材等の使い方の説明を受け

経験者ということもあり、さっそく曲作りをやらせて貰えた。

「結構、上出来だね」

「それはよかったです。…納得は出来てないんですけどね」

「作家病も拗らせてるのね」

「はい(笑)」

「まあ、すぐには良いものは出来ないよ。じっくりでも作って行けばいいと思う」

「はぁ…そうですね」

「じゃ、そろそろ俺帰るね」

「お疲れ様です!」

「ん」

いい先輩だ。うん。ああ言ってくれるだけでも心強い。

でもいくらなんでも上がるの早くないか?

…まあ、名前も名乗らなかったし、多分そうゆう人なんだろうけど。

それにしても狭い部屋だ、なんて言ったってここ二畳半の物置みたいな所だ。

そこに長机2つ、アンプやオーディオⅠ/F、ミキサー等のラック機材は机の下に無理やり突っ込んであり

デスクトップPCとモニターが計6台ずつ。

当然、スピーカーなんて置けるはずもなく、必要最低限って感じだ。

そりゃそうだ。

そもそも作曲ソフトで音楽を作る奴なんてネット上には沢山いるものの、ここは一大学という狭い箱庭。

ましてや、たかが学生のやる趣味にしてはいささか金が掛かりすぎる。

最低限そろえるのにも最低5~10万は掛けなければならない。

何よりも機材は買いだすときりがない。

これは持論だが、曲作りに限らず創作全般において、今あるもので最大限の表現をすることが一番大切だ。

しかし、最初のうちはその本質に気付かず、機材を買い機材が増えることがまるで自分のステータスになるように錯覚し、泥沼へと落ちる。

そうならない為にもこれが妥当なのだ。

才能を生かす努力ができれば、機材が最小限でも売れる奴は売れる。

それが分かってないとこんな部屋は作れない。

「んで、あの部長あり…ね」

多分、ただもんじゃない。あれは、相当やりこんでる人だ。

でも、これならなおさら人来なくなるんじゃ…?

初心者がノコノコ入っていったらギターで殴り殺されるよ…ここ。

とその時、扉が開く音が聞こえた。

「部長~まだいる~?」

「…?」

「えーっと君は?」

「入部しに来た新入生です」

容姿ははっきり言ってスケベとしか言いようがない程

エロい腰つき、ムチムチとした太もも、大きな胸の女性が俺に話しかけてきている。

こんな人と一生、ご縁もないと思っていたのだが…

「おぉーよくぞこの辺境の地へ!」

「揃いも揃ってキャラが凄いですね、先輩方」

「そりゃあ音楽やってる子なんてまともじゃやってらんないって!」

「あはは」

うわぁーそれ、すげえ分かるんだけど…

もしかして、先輩エスパーか何か?

「それで部長は?」

「即帰宅しました」

「またか、あのがさつ男め…」

あ、やっぱりそうなんだ…

俺、見る目ある?(?)

「っていうか自己紹介まだだったねー私は天川千鶴、君は?」

「原田サツキです。あと部長の名前聞いていいですか? 聞きそびれたので…」

「知らん」

「は?」

「知らん」

「はぁ…?」

「部長は部長でいーの」

「さいですか」

「君、ノリよくて面白いね」

「今すぐ帰りたくなってきました」

「まーまーそう言わない」

バシ

「痛ってぇ」

「♪」

しかし、この先輩。天川先輩…ホント、クソおっぱいでけえな。

めっちゃ可愛いし、いい感じに擦れてるし、多分クズだろう。

しかも、結構面倒見よさそうだし、何でこんな人がこのサークルに…?

ってか、エロすぎんだろ!

そんな俺の脳内を見透かすように先輩は言う

「なんかやらしいこと考えてない?」

「ちょ、は、え?」

「そんなこと考えてそうな目してたから…視線、がっつり胸じゃん」

「まさか、そんなの、し、してるわけないじゃないですかぁー」

うん、してましたごめんなさい。

いや、そんなの男の子だったら誰でも見ちゃうでしょうが!

「少しは隠す努力したら?」

「いや、不可抗力でしょ!」

「自白したな?この変態‼」

「ひいいいい」

やべえ、まだセクハラで訴えられたくない。

いやまてどうせ捕まるならがっつりやってやるか?

いや何考えてんだ俺⁉

なんか、いろいろ混乱して頭おかしくなってきた…

「覚・悟・し・ろ?」

大体、目線だけでそうゆう目で見てるって分かるの凄くない?

どんなけ敏感なの?センシティブなの?ねえ?

「いや違う、決して襲ってやるなんて思ってない」

「どうしようもないね…君」

「それが売りなんです(てへ)」

「何か言った?」

「いえ、何でもないですよー(汗)」

怖い。やめて、死んじゃう。

初対面の女性にセクハラって俺も何考えてんだ?

これは嫌われたわ。いやむしろ、もっとやるか。

「ま、いいや それでこれは君が作ったの?」

「えぇ、まぁ」

「ちょっと席を拝借」

あざといなクソが。太ももまでエロいじゃんか。

俺、太ももフェチなんだけど。

「…なるほどね」

「どうですか?」

「うん。すごくいいよ、これ。感動した」

「見かけによらず繊細な心を持ってるんで」

「うん、自分で言うな?」

「ふへへ」

「でも、本当にいいよ。私はこれ好きだな」

「僕は先輩の体がいいです」

「君、たがが外れてきてない?」

「先輩のせいですよ?」

「いや知らんわ」

「そうゆう先輩こそどんな曲作るんです?」

「…聞きたい?」

「ぜひ」

「…なんかこれ聞いた後とかやだ」

「もしかして、吐息交じりのエロい声で歌入れて…いってえ!」

いやだってしょうがないじゃん!

第一印象から今んとこエロい人ってイメージから変わってないし‼

「クオリティーの問題だよ馬鹿が」

「冗談ですよ…へへ」

「うわ…気持ち悪、何その笑い方」

「容赦ないですね…先輩も」

「ふふん」

「先輩って多分、クズですよね」

「よく言われる」

「あと愉快犯ですね」

「それは君ね?」

「僕は愉快犯じゃなくて確信犯ですよ」

「なおさらたち悪いわボケェ!」

「www」

するとまた突然、扉が開いた。

「あ、あの…?」

「おお、どーした?」

「このサークルに入りに来ました」

「君、かわいーこの部室にむさっ苦しい男が3人になって私も肩身が狭くてさー…」

…いや、ん?3人?もう一人の先輩か?

ってか初対面の子に対して馴れ馴れしいなおい。

「は、はぁ」

「是非入って!歓迎する」

「は、はい!よろしくお願いします。それとそこの方は…?」

「セクハラP」

「やめてくださいよ先輩」

「???」

「俺も君と似たようなもんだよ。今日、このサークルに入った」

「あ、そうなんですね!私、作曲とか初めてで…改めてよろしくお願いしますね!」

「あいよーちなみに名前は?」

「あ、はい!道春かなたって言います」

「道春さんか俺は原田サツキ。よろしくね」

見た限り、清楚感があり、少し硬い感じがする。

顔立ちもはっきり言って綺麗だ…

それはそうと、今先輩が言ってたことで気になることがある。

「そういえば、先輩。むさい男3人って?」

「あーれんのこと?」

「そのもう一人ってれんっていうんですか?」

「そうそう、重度のクラブ依存症のやつでさ」

「うわ…パリピか…合わなそう」

「ゆーてもよ?ちなみにあいつDJだから」

「今ので確信に変わったんですが?」

「うるさいなー細かい男は嫌われるよ?」

「余計なお世話だ。この乳袋」

「何だとぉ⁉」

「あ、あの…?」

「お二人は初対面ですよね?」

「「うん」」

「にしては距離間近すぎません?」

「なんか波長が合うんだよね」

「そうそう、こうゆう殴り合い結構好きだし」

「へ、へぇ…(汗)」

「それに俺、浪人してるから同い年だし(どや)」

「あはは…それ誇っちゃダメですよね…」

「え? あんた2浪もしてんの?」

「ええ。馬鹿なんで」

「お前、神経どうなってんの?」

「引き抜かれてぶちぶちになってますよ?」

「「あ、(察し)」」

「少なくとも1000回以上は〇のうかと思いましたよ」

「強く生きてきたんだな…お前」

「かわいそうです」

「哀れむなクソがぁぁああ!」


こんなわけで俺の凍結されていた青春はここからやっと始まったわけだ。

この時点でまさかあんな事にはまだ知る由もないのだが




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 さて、家に帰ってきたわけだが何やら通知がうるさい。

あの乳袋先輩からだ。

「お兄ちゃん…宗教の勧誘とかでもされてるの? それとも借金の取り立てとか?」

「んなわけあるか」

「ミライには、体よく騙されるお兄ちゃんの姿しか浮かばないよ」

「お前、俺のことなんだと思ってるの?」

「一人、自家発電機」

「正解だ、ちくしょう」

お前は一体、何を見てきたらそんな切り返しができるんだよ…

お兄ちゃん、普通に悲しいぞ?

「うっわ泣いてる気持ち悪」

「今日初対面の先輩にも同じこと言われたわ。この鬼通知の相手ね」

「その人男?」

「女」

「可愛い?」

「めっちゃ」

「やっぱり色仕掛けからの宗教勧誘かビジネス勧誘かどっちかだよ…女の人って釣り竿で釣るの大好きだし」

「うん、凄い嫌なこと聞いたわ…お前一回死んでこい」

「あいあいさー」

何だこいつ。色々とバグってるよ…

そんなことを思っていると

「サツ兄ーギター貸して」

「いいけどお前弾けるの?」

「ベースもギターも大して変わらん」

「お前それネットで書き込むなよ? 間違いなく炎上する」

「そんなに暇じゃないよー 誰かさんと違って」

「おい、やめろ。俺のことディスんな」

「自意識過剰かこのマゾが」

「あながち間違えじゃない」

「そーですかい」

こいつはこの歳にして中々にクールだ。俺の扱いの雑さにかけては今の所ダントツだ。

「流石、わが弟ながら恐ろしい」

俺は自室へ向かうために階段を上る。

ここなら独り言も、聞かれないだろう。

きっと将来、ヤリ捨てするタイプのクズ男に成長するだろう。

なんか大事な感情がなさそうに見える。

いつか、後ろから刺されるんじゃ…

まあ、それはそれとして今日も今日とて自室で曲作りに励むわけだが…

「なぜおまえがここにいる? みずき」

「えーひどいな」

「せめて連絡一つよこせや」

バイトの同僚のみずき。

実は、こいつは俺の幼馴染で、俺の家のお隣さんだ。

よく昔から、河原で釣ったザリガニを家の前に放置するクソガキに対して

一緒にきっつい言葉の雨を降らせて、泣かしていたりもしたが…

心優しいところがあって傷ついたら大体、慰めてくれる。

あの時も…

こいつは意味もなく人を傷つけないやつなんだ。

俺が件のいじめで精神崩壊したときもこいつはただ俺を抱きしめて一緒に泣いてくれた。

こいつは、それができるやつなんだ。

「かわいい姉気味みたいなもんじゃん」

「それは否定しないけど…急に来られてもな」

「お姉ちゃん構ってくれないと泣いちゃうぞ?」

「夜のお相手ならいつでも」

「相変わらずだなぁ…捕まるよ? それ」

「口だけだし、顔面もフツーだからセーフ」

自分で言うあたり最低さが醸し出せてていい。

中々、高得点だぞ今の。

「社会的にアウトなんだよ」

「それ社会不適合にそれ説きます?」

「自覚があるだけましか」

「セクハラの何が悪い」

「もういいや、〇ね」

「ひどい」

っとまあこんな風に普段からツンデレなわけだがなぜだろう?

俺の周りにいる女性は皆、当たりが強い気がする。俺なんかした?

「俺なんかしたかなぁ…」

「自分の心に聞いてみ?」

「…俺なんかした?」

「よーしもういいぞ、黙れー」

「はは、可愛いやつだな」

「はいはい もういいって」

こいつ、ホント素直じゃないよなぁ…

もっと自分をさらけ出していいのに。

「ちっ、つれないなぁ」

「十分、構ってやったろ」

「それちょっと酷くない? みずきさん」

「お前はこれぐらいがちょうどいいよ」

「あ、そうゆうことならこれからシフト変わってあーげない」

「ちょ、わかった言い過ぎたから(カマチョすぎるだろ…)」

「分かればよろしい」

「…(これ私が悪いのか?)」

「じゃあ、作曲するから席どいて」

「はーい」

今日は予期せぬ来客のおかげで制作時間が遅れたなっと思っていた時

携帯から着信が来た。なぜだろう、凄く嫌な予感がする。

「はい、もしもし」

「あーサツ君? 私の友達の依頼受けてくんない?」

だから、出会ってまだ時間もたってない相手に普通、そうゆう話する?

フットワークも軽いし、神経図太すぎんだろうよ

俺が知ってる限り、距離感の詰め方エ〇ダーマンの子が既に2人もいるんだけど…

ちなみに、一人は俺

「というと」

「歌につける楽曲を作ってだって」

「どんな感じの曲ですか?」

「哀愁漂う感じ? だって 君の昼間の曲めちゃくちゃ重っ苦しかったからちょうどいって思って!」

「なんかムカつくんで依頼、断っていいですか? それじゃ」

「あーまって!」

ブツ

また電話がかかってくる。

いや、確かに重っ苦しいものしか作れないのは事実だが面と向かって言われるとなんかムカつく。

「おかけになった電話番号は現在使われておりません。ぴーっとなr…」

「いや出るんだ」

「ノリだけはいいですからね」

「んでやってくれる?」

どうせ、いやだと言っても〝はい〟か〝YES〟以外の解答ないでしょ?

拒否したらこんな感じで鬼電で詰められるエンドレスになるのは目に見えてるし…

「まあ、いいですよ」

「それじゃあ決まり! 明日、活動場所で依頼しに来た子も交えて話すから来てねー」

「はいはい。それじゃ」

「じゃねー」

ぷつん

はあ、厄介ごとが増えた。あの乳袋め。

いつか、その乳をサンドバッグに見立ててボクサー界に新たな歴史を刻んでやる(?)

「今のは?」

「サークルの先輩。少なくともお前より乳がでかい」

「無くて悪かったな」

そうだよな、悲しいよな…

でも、お前には太ももがあるから誇っていいぞ。

「それでまあ依頼をちょっと…ね?」

「大丈夫なのそれ?昔みたいにまた…」

いじめられてる当時、クラスメイトの一人がわざとSNSで俺に楽曲依頼をして

結局、金も払わず楽曲だけ持ち逃げされたことがあったから

こいつは、それを気にしてるのだろう。

変に気を使いやがって…

「そんなに気にしてたら何もできないって…それに」

「それに?」

「俺がまた壊れそうになったらお前がまた塞いでくれるだろ?いやらしい手つきで俺の腰を抱きしめてさ~」

「うるせぇ! 忘れろ馬鹿! あとやらしくないわ!」

いやいや、あれは完全にやってるよ

少なくとも俺の俺が素直にそういってたし…

「俺にとっちゃ、相当でかい支えだったんだぞ?」

「そーですか」

「うん。そうなんだよ」

そんなことを言い合いながら頬を赤らめるみずきをよそに

画面に映る、空白のトラックをただ遠い目で眺めていた。




----



 次の日、放課後部室にて

「え?」

「だから交えてやるって言ったじゃん」

「いやじゃなくて」

「なんよ?」

「こいつ知ってる」

「え、そうなの?」

「同じ学部学科の子」

そう、何と依頼者というのがオリエンテーションの時の桜さんだ。

今の所、この中のクソどもより一番マシだ。

ってか世間狭いな、おい

「流石、手を出すのが早いねー」

「うっさい、んで聞いてもいい?」

「あ、うんー」

「どうして楽曲を?」

「あ、えっとね?私、ネットで歌い手として活動しててそろそろ自分の曲が欲しいなーって」

「のほほーんとしてる割には意外だな」

「あははーよく言われるよー」

「…(いやその返しおかしくない?)(先輩)」

「それでどんな曲にしたい?」

「えっとねーピアノの綺麗な感じな曲がいいなーって」

「それでいいの?今時の流行じゃない気もするけど」

「いーのいーの!私のやりたいようにできればそれで」

「そっか、わかった」

なんていい子だろう。清楚でマイペースでしかも同じ学部で顔も可愛い。

惚れるわこんなん。

「じゃあさっそく作るからある程度、形になるまでそこでだべってな」

「そうさせてもらうねー」

「お前、ほんとのんびり屋だね」

「でしょー」

「うん」


10分後


「すごいねーサツキ君ー!」

「いや、ここでほめないで?」

「えーなんでー?」

「見りゃわかんだろあほか!」

ただ8小節コードつけただけで褒める輩に初めて出会った。

まだ進捗1割も行って無いというのに

「どーどー」

「やかましい!」


そして、1時間後


「まあ、大体形にはなったかな」

「サツキ君はいろんな楽器使えてすごいねー」

「音源だけどな」

「おん…げん?」

「あーすまん何でもないぞ、うん」

「早くこれに歌を付けてみたい!」

「まあ、待てまだ終わってない」

「えーなんでー?」

「MIXって作業があるんだ」

「みきさー? 野菜ジュースでも作るの?」

「お前、どうやってこの学校入ったの?」

「勘!!」

「おーすごいな泣(2浪した俺が馬鹿みたいじゃんか)」

「?」

「あーすまんねこいつ2回も躓いたっつーか…なんつーか」

「先輩、フォローになってない」

「なんか奢ってやろうか?」

「いいから黙って自分の曲作っててください」

「はやく、売れるといいな…」

「ゔはぁ(白目)」

なんていう無神経な発言だ。俺はもう何年間も活動してるのに一回もバズったことないんだぞ?

なんだ嫌味か?嫌味だよねこれ?一生、底辺からこんにちわしてろってか?このクソ乳め。

っとそこに

「天川先輩…容赦ないですね」

「道春ぅーおで、ぐすん」

「うわ、情けねないですね」

「俺、就職できんのがなぁ」

「多分できるんじゃないですか?…多分」

「なぜ2回言った?」

「き、気にしなくていいですよー(汗)」

「もう死ぬぅ俺死ぬぅ」

「もうそんなこと言わずに(ゴキブリ並みに生き汚そうだなこいつ)」

「…なんか、心の声が聞こえる気がする」

「ちっ、鋭いですね」

「仮にも音楽家やってねぇよ」

「まぁ、それはそうですけど」

「にしても今日でお前のことも分かってきた気がする」

「というと?」

「お前、相当性格悪いだろ?」

「やだなぁーそんなことあるわけ…ないじゃないですかぁー」

「今の間は何だ?あ?」

「うるさいです!もう元気じゃないですか!」

「うわ、いま絶対ゴキブリみたいって思った」

「今は思ってないですよ!」

「じゃあ、さっきは思ってたって認めるんだな?」

「うぐぅ」

「おいおい文学部がこの程度で乗せられちゃダメだぜぇ?」

「うっさいですよ。原田ゴキブリさん」

「うっわ、ついに隠さなくなったこいつ」

「あなたに隠しても無駄でしょう?」

「同じクズ同士仲よくしような!」

「一緒にしないでください」

「辛辣だぁ」

その光景を首をかしげて見ている桜が退屈そうにあくびをしている。

「すまん、そんなわけでもう少し時間かかるから今日はもう帰りな」

「分かったー」

「また明日、授業でな」

「うん!またねー」

「ん」

騒がしいったらありゃしない。

なんて言ったって乳袋先輩もこの腹黒女ももうすっかり溶け込んで

こういう感じで延々と茶々を入れてくる。まだ2日目だよ?ねえ?

こいつらの対人テクニック、一体どうなってんのほんとに…

「それでサツキここどうすればいいのか教えてくれる?」

「さっきから先輩に何教わってたの?」

「あなたののいじりかたですよ」

「おう、いい性格してんな?表出ろこのドs女」

「あらやだ、ドsじゃないですよ???」

「いってええええ ほ、骨巻き込んでるそれ」

「つねっただけで情けないですね」

「それはつねってるって言わない」

「突っついてる?」

「えぐってる」

「てへ☆」

「…(不覚にもこいつを可愛いって思った俺を殺したい)」

「んでどうすればいいんですかー?」

「…コピー&ペースト。この世の心理だ」

「先輩~使い物になりませんってこの人」

「いっひひひ」

「笑っとんちゃうぞこの乳袋」

「いや、君らの掛け合いが面白すぎてww」

「多分、はたから見れば俺と先輩の掛け合いもこれとほぼ変わんないですよ?」

「だよねー君、いじりやすいもん」

「人のことおもちゃみたいにしないで⁉せめてロー*ああああああああああああああああだけえええええええ⁉」

「先輩、この生ごみどうします?」

「遺棄しよう」

「やめてぇえええええええええ」


そんなこんなで一難乗り越えて今、自販機前で休憩中なわけだが、一つ気づいたことがある。

「先輩、ほとんど曲作ってないな」

そうあの人が今日やってたことは作曲ソフトを立ち上げては落として

それに飽きたら腹黒と何やら不穏な話をして…

多分、普段から迷走してるタイプのキョクツクラーなのだろう。

まだ曲も聞いてないから何とも言えんが…

まあ、依頼についてはなんだか普段、俺が作る曲と何ら変わりないからすぐ作れる。

またすぐに、没曲製造機に戻れそうで何よりだ。面倒だし。


それにしてもいい曲って何だろうってつくづく思う。

自分がいいと思えるものを作っても、聞き手はそう受け取ってくれない。

じゃあ自分がいいと思える曲を作る作曲家をいくら真似しても、それになりきれないことを悟る。

それなら人のために作ってみると

何かどっかで聞いたことあるような曲のオンパレードになってつまらない。

売れる曲はどこかで聞いたことのある定番ばかりだ。

何よりも、創作が楽しくない。

創作物を生み出すのに自分が楽しめなくなった時、そこでできたものは果たして良いものなのか?

否、断じて否。そんなものは何かしらの模造品になり果てるだけだ。

結局、自分がどうしたいのかって本音が重要なんだ。

それが人のためになるものだとしたらそれは結果論に過ぎない。

自分の創作がどうあってほしいかなんて人に聞いてたまるかって事なんだよ。

でも聞くやつが人間である以上、人間として人間らしい曲を作らなければ失礼だ。

要するに、いい曲の定義は自分が決めるのか他人が決めるのかで分からない。

自分がいいと思えるからいいというのなら、底辺作曲家が大半を占める世界なんて無い。

他人がいいというものに自身が興味が持てないならそれは単なるゴミだ。

結局、何が正しいかなんて分からないんだ。

中途半端な生き方ばかりしてきた俺には到底…

「何しけた顔してんだ?」

「…え、ああ」

「君、なんて言うの?」

なんだろうこの人…急に名前なんか聞いてきて

「原田です。原田サツキ」

「俺は工藤れんって言うんだ」

「………ん? すいません。もう一度言ってもらっていいですか?」

「え?工藤れんだけど」

昨日、あの乳袋が言ってたDJって…もしかして?

「作曲サークルのチャラ男…?」

「あの子…新人にまた変なこと吹き込んだな」

「じゃあ、先輩になるわけですか」

「れんでいいよ」

「じゃあれん先輩、どうして部室に来ないんですか?」

「あーそれね? 俺、DJしててそれの仕事が忙しくてね」

「今日はいいんですか?」

「予定すっぽかしてきた。今日で7回目」

「ダメじゃないですか」

「ははっそうだね」

「タフなんですね」

「まあな。んで君は新入生かい?」

「あ、はい。作曲サークル入ったばっかりのルーキーです」

「っていう割には随分、神妙な顔して考え事してたみたいだけど」

「まあ、こじらせてますかね?」

「俺にはそう見える」

「どんなところが?」

「目と顔つきで…かな?君、あんまり幸せそうに見えない。なんかあるでしょ?」

「さあ?」

今話してみてこの先輩は俺だ。そう思った。

人を見抜くことができる。怖いくらい正確に。

これができるには一度、人として〇ななきゃ分からない境地だ。

「それじゃあ部室よりません?」

「まあ、そうね。たまには顔出すか」

自販機に寄り掛かった腰を上げ、歩幅を合わせて歩く。

ふと彼の横顔を盗み見ると、

何か、底知れぬ深いものが垣間見える気がする、黒く濁った目をしていた。

今はそれが何なのかわからない。

何せ、初対面の人の顔を見ただけで、俺が何か抱えてると気づかれるくらいだ。

人を見極める目がある分、相当な思慮深さがあるのだろう。

これは間違えなく、警戒されてると言っていい。

何か、自分の人生に関わらせる人間であるかどうか見定められてるみたいだ。

恐らく、彼も俺と同じく


〝人が信じられなくなる何か大きなトラウマがあるのではないのだろうか?〟




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 部室に着くと部長も来ていた。

なぜか、このアマ乳先輩がアホみたいに目を開けてきょとんとしてたのでその視線の先に目をやると

れん先輩が来て早々に大あくびをしていた。

「ちょ、れん久しぶり過ぎてびっくりしたんだけど」

「いやぁー久しぶりあまちゃん」

「何、そんなにクラブのほう忙しかったの?」

「そりゃもう」

そこに部長が割り入るように言葉を掛ける

「れん!俺が貸してたエフェクター返せ!」

「あーわりい売ったわ」

「はぁ?てめぇいかれてんのか?」

「あいむそーりー」

「気持ちがこもってないぞ」

「次の黒金になんか機材買ってあげるから」


*黒金とは…『通称:ブラックフライデー』DTMer歓喜の一大イベント。海外製のプラグイン音源や作曲機材が安く買えるチャンス!


「それならいいけどさ…10は覚悟しとけ」

「せめて5万だろうが…あのエフェクター4万じゃん」

「心に傷を負ったので慰謝料込み」

「お前、負うほどのもんねえだろ」

「あ?言ったな?」

すごく仲がいいみたいだ。なんか見ててなんか和む。

「そういえば、さつ君なんでこいつと一緒に?」

「さっき自販機で急に声かけられたんですよですよ…あんたらにここから迫害されたあとにな!」

「「あれは、あんたが悪い」」

「うっす」

「それでどーよ?悪い奴じゃないだろ?」

「まあそうですね(闇深そうだけどね)」

「それにしてもホントこの部室に集まるやつって変人ばっかだよな」

「そうですね、アマ乳先輩」

「天川じゃ、一回金*捻り潰したろか?あん?」

「結構です」

その乳でやってくれるならお願いしようかな…

「え、私もですか?」

「そうよはるかなちゃん」

「何ですかそれ…気持ちわr…気分が大変優れなくなる不快なあだ名付けないでもらえるかしらサツ送り君」

「うっわ、辛辣…てか、わざわざ言い直す必要あった?…いやだって、道春ってなんか堅苦しいじゃん」

「名前に堅苦しいもクソもないですよ?」

「…はるかなちゃん」

「なあに?サツに送られる君」

「センスいいよねーそれ好き」

「もう少し危機感持ったらどうですか?110番に電話しますよ?」

「そーかっかしないでよ」

「ふん」

「ってか部長、今日何してたんですか?」

「いやね?無理してハンバーガー5個食べたら気持ち悪くなって…おぇ」

「本当に何してたんですか」

「いや、友達が要らないっていうからさ」

「あんな胸焼けする食べ物、1個でいいでしょ?」

「浅いな、君は」

「やかましいですよ」

「ふ…」

突如、爆音が聞こえる。

「ちょ、れん!スピーカーじゃなくてヘッドホンでやってよ」

「えーDJするのにヘッドホンは味気なくない?」

「それはそうかもしれないけど…ってかどっから持ってきた!そのスピーカ⁉」

「はい3、2、1、0!デゥーンデゥーン」

凄いこの人、本当にDJなんだ……って‼

いや、確かに才能は認めるけどこんな狭い部屋で何やってんの?

こんな所で沸かすな。ここがサウナになるわ。

ん、まて

俺にもあるぞ

「ちょっとー?サツくーん?どうしてそんなにアンプの音量上げてるのー?先輩泣いちゃうぞー?」

「ギューウィ~~ン」

秘儀、音圧・歪みMAXーギター

騒音なら俺の得意分野だ。

「あぁあああうるっせええええ!!」

「おい、サツ送り!調子乗んな!」

「デゥーンデゥーン」

「…変な人しかいない。この部室」

ってな訳でここに作曲サークル、もといDTMサークルはここから動き出すのであった。



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 帰宅、酒を飲む。うん。これで一曲書けるわ。軽くミリオンイケる。

「くっはぁ!うんまぃ」

「お兄ちゃん酒臭い」

「ん? 今日はまだ抜いてないぞ」

「誰もイカ臭いなんて言って無いから…はぁ」

こいつらにセクハラしたところで何もメリットないどころがデメリットなのだが…

まあ、酔ってるからつき合ってもらうことにするか

「サツ兄ー僕も少し飲みたい!」

「だーめお酒は二十歳からでぇーすw クソガキざまぁ~いっひひww」

「このクソ兄貴」

「子供はりんごじゅーちゅでものんでなちゃい」

「お兄ちゃんって酔うといつも以上に人をムカつかせるとこあるよね」

「それな」

「そうゆうゴミを見る目に当てられるのは慣れてる(ドヤァ)」

「誇んな、しばくぞ」

「無駄だよケンちゃん。酔ったこいつに何言っても無駄」

「あうあうww」

「はぁーぶち転がしてぇ…」

にーちゃんが酔うつぶれるのにだって意味があるんだぞ?

これは嫌なことをちょっとの間忘れられる、魔法のお薬なんだから。

…主に、昔のことだけどさ

それにしても、学校が始まったばかりというのにこれは濃すぎるだろう。

乳先輩にはるかな、がさつな部長に闇落ちDJ、天然ボケ天使、シャイ理系君そして俺。

まだ、始まって数日というのになんていうことだ。

これから毎日、この大災害に見舞われるって考えるとおぞけが走る。

「俺、これから先やっていけるかなぁ…」

「図太い神経して何言ってんのさ」

「サツ兄とうとう本格的に頭壊れた?」

「ほっとけ、クソガキども」

「ってか今日、お兄ちゃんバイトは?」

「みずきに投げた」

「どこまでクズなんだよ」

「その代わり、休日に付き合わされる」

「へぇ…手ぇ出すなよ?」

「心外だな。俺は同意のもとでしかしない…っていうかできない」

「まあ、チキンだもんね」

「社会的規範は守らないとね?あと曖昧に行動して相手を傷つけたくない」

「そうゆう所だけはちゃんとしてるのがタチが悪いよね」

「わかる」

「俺はただ火に油を注ぐのが好きなだけだ」

「はい。クズに戻った」

「どうも、セクハラ同意の下でするPです」

「それ、相手さん同意してないでしょ?絶対」

「サツ兄、同意って言葉の使い方調べ直したら?」

え、なんで分かったの?

いや、本当のことなんだけどさ

「ああ言えばこう言いやがってこの青尻共がぁ!」

「包〇がなんか言っとるわ」

「20年間童貞!」

「もうやだ、飲むぅうう(泣)」

誰?こいつらをこんな子供に育てたの⁉

「あー分かった分かった、よしよし」

「…w」

「…このサイコパスめ」

「♪」

一体、どんな教育受ければこんなひねくれた子に育つんだろう。

ずっと面倒見てたの俺なのに…え、原因それ?

ざっつらいと‼お風呂いってきマース!

…反省の色は何一つ見えない様子のさつきなのであった


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自室に戻る。まずは依頼を終わらせなきゃいけない。

なんせ、あの部屋の機材でやるのは無理だ。

そんな俺の部屋にはたくさんのMIDI機器、機材やら左手デバイスがあり、フィジカルコントローラーもある。



*フィジカルコントローラーとは…作曲する際に作業が楽になる作曲専用左手デバイス。便利な時短ツール。

*MIDIとは…【ミュージカル・インストゥルメンツ・デジタル・インターフェース】の略。電子楽器等の機器を接続する世界共通規格。


MIXは音楽理論のような〝理論〟がない。

左右前後の空間を考えて、どこに何の楽器があってほしいかを考えながら

LRパンや音量フェーダーを操作していく、まるで雲を掴むかのような作業だ。

🎚とか🎛、こんなの見たことないだろうか?

…よくわからん人は、これが沢山あってこれを操作する作業くらいに思っててくれればいい。


*LRパンとは…左右バランスを操作するパラメーターのこと。


要するに、場数とセンスだけが頼りになる作業なのだ。

なら、作業もより感覚的にするのは間違ってない。

そんな訳で中学から長い時間を掛けてコツコツと毎月のお小遣いを費やし、作り上げたのが俺の今の部屋だ。

…え? 貯金?

そんなの無いに決まっているだろ?

音楽制作してる人間は、お金が入ったら全額機材に振り込むのが常識だ。(諸説あり。絶対、真似しないでね)

でもやはり、学校のPCの中にあるものだけじゃ足りなかったのも事実。

さぁ、そんなわけでこれから作業をしようではないか諸君。

「誰に話しかけてんだよ」

「⁉……なんでみずきさんここに? 君、バイトしてたはずだよね?」

「お前がバイトサボったって店長に言っといた!」

「何してくれてんじゃああああああああああああああ!」

「自分の尻ぐらい自分で拭け! 馬鹿が(今日、時短営業の日ってのは黙っててあげよ)」

「拭き方わかんねえからこれで拭いてくれ」

「おま、ケツ出すなぁあ! おぇ…グロすぎる」

これぐらいで何を言うか

んなこと言ってたら、君は一生、新品のまま行き遅れるぞ?

…俺が言えたことじゃないがな、くそう。

「俺は一生、おんぶに抱っこさせてもらうから…みずきに」

「お前を養うとか無理だわ」

「将来はひも志望です(キリ)」

「いい笑顔だ、死ね」

「おっふ」

とにかくだ、作業をしないと終わるもんも終わらん‼

どけぇ‼ 邪魔じゃぁあああ‼


二時間後


「おーわったぁー!」

「おつかれー」

「おうよ」

「それにしてもみずきさん?」

「なあに?」

「いくら家が隣だからって不法侵入しすぎじゃありません?今月、何回目よ?」

「まだ10回」

「そうだな?今日、4月10日だしな?」

「急に何だい?」

「頭おかしいだろ! ほぼ毎日来てんじゃねーか!」

「えーだって、あっち居づらいんだもん」

「知るか!ここ男の部屋なんだけど⁉」

「あーうんーくさいねー」

もし、こいつが男だったら今すぐにでも金〇蹴り上げてやりたい…

「この期に及んでいい度胸してんな?あ?」

「いや、今更でしょ」

「だって付き合ってるわけでも無いんだよ?来るにしても限度って…」

「お姉ちゃんが付き合ってやろうか?」

「うっさい。年増」

「はぁあああ?」

「他の男にカマ掛けろよ …俺じゃなくてさ…」

「はぁーこれだから2浪は…」

「ちょっとー? それ関係ないでしょーねぇー?」

「誰が一番近くであんたのことみてきたと思ってんの」

「俺」

「そうだな、死ね」

いや、事実だが?

「いいから限度を考えろ」

「はーいはい、ここにいる時間を1時間少なくしてやる……一日だけ」

「おい、頬を赤らめんな。マジみたいになるだろうが」

「あんたこそ察しがいいのか鈍感なのかはっきりしてくんない?」

「知っててすっとぼけてるんですよ?」

「このクズが」

「うわー今日、妹ちゃんにも同じこと言われたー」

「こんなの言いたくなるわ!未来ちゃんかわいそうに…」

「うえええええん」

「お前じゃねえよ」

皆さん、どう思います?このツンデレ。

もうホントに襲っていいですか?ねぇ?

「視線がキモイ」

…多分、触れただけで生きて帰れなくなりそう。

社会的にも物理的にも。怖いからこの珍獣に近づかないようにしよ

なんか、腕とか足とかボキボキにされそうだし…

まあ、マジな話。

俺にはまだ人を守れるだけの力がない。経済的にも社会的にもね。

ましてや二浪もしてんだ…当然、このまま付き合うなんてのはただの無責任だ。

だから今は、誰とも付き合う気はない。

「もう疲れたから寝る」

「おやすみー」

「ん」


……下半身がいらいらする。

男に嘘でもその気にさせるなよ…バカ



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 翌日、放課後の部室にて

「もうできたのー?」

「何とかね」

「優秀な新人だなぁ」

「アマ乳先輩ははやく曲作ってください」

「だ・か・ら!天川だっつってんでしょうが!」

「そこうるさいですよ先輩」

「いいぞはるかなもっと言ってやれ」

「いや、あんたの味方とか死んでもごめんだからね?」

「またまたー」

「あ?」

「お?」

「いいからはやく依頼終わらせろよ」

「部長?」

「そうそう」

「れん先輩まで…ってかクラブは?」

「しばらくいいや。君、面白そうだし」

「僕はあなたに恐怖を感じてますけど(なんってったって心の闇が深いからな)」

「えー?どこがー?」

「…あはは(マジこわい)」

「それでこれに声を当てるのはどーするのー?」

「あぁ、マイクとかもろもろ持ってきたから今ここで撮るか」

「おまえ、ここで撮るって…ここスタジオじゃねえんだぞ?」

「遮音できて反射も防げる簡易ブースが作れるやつ、持ってきてます」

「わざわざ手が込んでるねぇ」

「部長もこれぐらい買っておいてくださいよ」

「いや、こいつらサークルの運営費払わねえしやだよ」

「おい、乳!DJ!そこに並べぇ!」

「いや私、ほぼ作ってないから機材使ってないし」

「俺もほぼ来てないから触ってない」

「やかましい!じゃあ、あんたら税金払わんのか!」

「「滞納して、国外逃亡するから払わん」」

「ここ被らせるとかありえます?普通。ゴミしかいないじゃん…」

「サツオ、これに関してだけは同情する」

「ありがとな…ってかサツ送りは?」

「呼ぶのがめんどい」

「確かに」

「ねーとりあえず歌っていい?」

「おう、たびたび悪いな」

「いーよー」

こいつ、やっぱり天使だろ。俺だったらとっくにぶちぎれてる。

「あ、あー音はいってる?」

「大丈夫よ」

「じゃーお願いします!」

「あいよ。3秒前、2、1…」


--


「はぁー歌ったぁー」

「お前、結構歌うまいな」

「ほんとね」

「うちのサークル入らない?」

「少なくともサツオより全然、いい声してる」

「ふぅぁああー(DJ)」

「DJあくびしてんじゃねえ」

「寝ていい?」

「…(ほんまこいつ)」

「えへへーありがとー」

「とりあえず、これも再MIXするからまたそれが終わったら渡すね」

「ありがとーかんしゃー」

「お前ホント素直で健気で…こんな妹欲しかったな…」

「わたしは?」

「黙れ。クズ乳。お前などいらん」

「ひどすぎる!」

「…」

「はるかな安心しろお前も乳と同類だ」

「んんー?」

「いってぇえええええええよ!」

「もう一度言ってみー?」

「何度でもいう!お前はあざとい感じのドSのクズってぇええええええ」

「このまま折ってやりたい」

「どうせ折れるなら中〇れがいいぃいいいい?」

「下ネタ吐けばいいと思ってんのかこの塵芥が…意味ちげえし」

「これしかやり方を知らないとも言う」

「かわいそうな人」

「よく言われてる(未来とかケンタとかみずきとかにね)」

「親御さん泣くぞ?」

「妹と弟にはもう泣かれてる」

「え?いたんだ…以外」

「何でさ」

「いや、こんな兄いる?(あと要る?)」

「なんだかんだ面倒は見てやってたぞ。まあ、俺の面倒はみずきが…」

「みずき?」

「俺の幼馴染兼、バイトの同僚の女」

「あんたの周りに意外と人いるんだね」

「ふふん」

「いや、別にどや顔するところじゃない」

「みずきには色々とお世話になってる」

「ふーん色々と…ね」

「なんだよ」

「いや、お幸せに」

「…お前、なんか勘違いしてない?」

そこに

「じゃーサツ君!またよろしくー」

「あいよー」

「とりあえず、明日には終わりそうだな」

「そうだねーごめんね?無理言って」

「ホントですよ先輩…体で払ってもらいますよ?」

「君、最低だね」

「激しく同意」

「同じ男ならあんたらもわかるでしょ」

「「いや、分からんわ!」」

「こいつもどうかしてるねぇー」

「ここやばいやつしかいない」

「DJ、お前だけは言うな」

「お前ちゃうやろ!先輩やぞ?」

「歳は?せーの」

「「20」」

「…なんかごめん」

「その哀れむ感じ止めません?〇されたいんですか?」

「なんかこの光景みたよね?」

「まさに私たちみたいなことしてますね」

「かわいそうに…」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?」

もういい。こいつらなんかほっといて俺は曲を作る。

俺は絶対に作曲家として成功してやるんだ。

…っというか俺の成功の定義ってなんだろう?

一曲でも当てること?でかい数字をたたき出すこと?いや違う。

自分のやりたい音楽で食っていけることだ。

きっと、簡単なことじゃない。今までだってダメだったんだから。

音楽だけに限らず、勉強も…俺は、うまく生きられてない。

それでも、それでも俺は…


「…諦めきれねえんだよ。この幻想を」

「…え?」


どんな地獄だっていい。痛いの辛いの苦しいの全部喰らってやる。

売れないで、底辺さまようのだってもう慣れた。

それでもいつか成功できるならって思えば

これにだってきっと意味はあるんだ。

俺のやってきたことは価値のある事っていつか思いたい。

俺の人生を決して無意味だとは言わせない。

…絶対に。




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俺はまだ、諦めたくないよ。

だって、馬鹿だから!どうしようもない半端者だから!

どんなに、馬鹿馬鹿しいって笑われたっていい。

それでも、自分の中にあるこの思いだけは裏切れないんだ!

「絶対に、絶対に!絶対にぃいいい!売れてやるぅうううううううううう!!クソがぁあああああああああああ!!」

「…なんかあったの?」

「………なんだよ…いたのか…俺さ…分からないんだ、この先どうすればいいか。本当にこのまま音楽続けてていいのかな?」

「あんたが昔から音楽家として売れることが夢だってことは知ってる。それが理由でいじめを受けて人間不信になったことも」

「そりゃ、お前にしか話してないからなぁ…ってかあんな重い話、他のやつに話せないよ」

「うん。それでね?私は、突き進めばいいと思う」

「それはどうして?」

「当たって砕ける。そうしないとあんたが後悔するでしょ?」

「…あぁ、あぁそうだな」

「おい?泣くなよ馬鹿。いつものお調子ぶりはどうしたよ」

「うるさい!これがほんとの俺だ」

「そんな姿を見せてくれる当たり私のこと信用してくれてるんだね」

「そりゃ、何年一緒にいると思ってんだ」

「確かに」

「昨日の話、覚えてるか?」

「付き合ううんぬんのこと?」

「そう」

「…いいの。分かってるから」

「俺は何もかも中途半端だ」

「知ってる」

「そこは否定してよ……それに目指してることも不安定だ」

「うん」

「だから、俺はまだお前を守ってやれない…でも」

「…でも?」

「俺はお前のこと嫌いじゃないぞ」

「……馬鹿」

「えぇ?」

「最後の最後で濁しやがって!」

「な、これで十分だろ⁉」

「なわけあるか!だから童貞なんだよ!この粗チン!」

「んだとお?」

「あっはははははは」

「笑うな!」

そんな二人の姿を、扉の隙間からその様子を見ていた人がいる。

「…お兄ちゃんなんで」

未来だ。

未来はずっと気にかかっていた。

お兄ちゃんが中学生の時、まだ明るくまっすぐ無邪気で謙虚だった頃。

すごく落ち込んで、頭をかきむしり、腕をきり、爪をかんで、肌をかきむしり、時には吐いて

どんどん顔がやつれていって。絶望したような顔をして

でも、それでもお兄ちゃんは私たちには何もないように振る舞っていた。

「…お兄ちゃんなんかあった?」

「…え?いやぁー何もないよ」

あの無理やり作った笑顔はまだ覚えている。

忘れられないほどいびつに歪んだ笑みに私は恐怖すら感じていた。

あれは私の記憶にこびりつくトラウマだった。

なんであの時、恐怖を感じたのかは当時の私には分からなかった。

そして、お兄ちゃんが高校生になって性格を一転させた。

まるで、別人のようだった。

それが今の性格だ。

なんで、そんなことになってしまったのか今までずっと疑問だった。

でも、今日分かった。

お兄ちゃんはいつだって音楽に真剣だったんだ。

でも、恐らく曲に対して多くの非難を受けたんだろう。

私だって創作活動してるからそれぐらいのことはわかる。

それでも、まだ諦められないんだ。

だから、ずっと苦しんでる。

私は、お兄ちゃんのこと何も分かってなかった。

それに対して私は…

ずっと、冷たく当たってしまっていた。

あの時、心の支えになってあげられなくてごめん。

本当に…ごめん。ごめんなさい。

その時

「…未来」

「お、お兄ちゃん?」

「…まさか、ずっとそこに?」

「…うん。ごめん。みずきさんとお兄ちゃんの話は全部聞いてた」

「「…」」

二人は絶句した。今まで誰にも露呈しなかった話だったからだ。

「私、お兄ちゃんに言いたいことがある」

「…なに?」

「ごめん。本当にごめん」

「え、何が?」

「中学の時、お兄ちゃんが吐いたり切ったりしてたの知ってた」

「!」

「でも、お兄ちゃん。私たちの前ではそんな素振り一切見せなかった」

「…」

「そして、変わっちゃった。それなのに…暴言ばっかり吐いて」

その時、サツキは未来の肩を叩く。

「そんなん、まるで別の話だ。気にしなくていい」

「…お兄ちゃん」

「俺が変わったのは確かだ。でもそこで今の性格の俺と暴言の殴り合いをするのは俺が好きでやってること。

それとは全く関係ない」

「でも‼」

「いいんだ。お前が気負うことはない」

「っ…」

こいつはずっと俺を心配してくれてたのか…

でも、事情も知らないからどうしていいかわからず

今日、ここまで来てしまった。なんか悪いことした気分だなぁ…

「お前はいつも通り俺に接してくれ。それが一番うれしい」

「…うん。分かった」

「それと」

「…」

「このことはケンタには言わないでくれ」

「…分かった」

その様子をみずきは神妙な顔でただ眺めていた。




----




 なんだろう…なんか増えてるんだけど。

「部長?この機材、誰の分?」

「あ?」

「え、何こわ」

「それは紅葉さんのだよ」

「あいつの?ってことは入るの?」

「うん。お前が面倒みてやって」

「…なんか上司に圧掛けられる部下の気分なんですけど」

「ってかまさにその通りじゃんこわ」

「俺も一応、新人なんですけど?」

「作曲歴が長いから」

「ちっ」

「おーいもう揃ってるの?」

「先輩、今日一曲作り終えるまで帰らないでくださいね」

「え、ここ会社かなんか?」

「あ、残業時間分のタイムカードは切らないでねー」

「しかもまさかのブラック」

「ほら、君の代わり何ていくらでもいるんだ…早くしろ」

「ひぃいい」

「いやほんとなにやってんですか」

「いいとこに来たな、はるかな。ちょうどこの作曲ニートを〆てたとこだ」

「それ私も加勢していいですか」

「あったりまえよ」

「いーやーだぁーあああああー作曲ヤクザに殺されるぅううう」

「せーんぱい♡」

「ちょっと待ってそれシャレにならないでしょ!」

「おい…はるかな?何する気だ?」

スパーン

「うっぐぅう」

「うわー鞭持ってくるとか…あいつも大概、頭おかしいな」

「部長、いいから見てないで止めろ」

「え、何この状況」

「れん先輩、これどうにかして」

「え、割って入りたくないんだけどあれ」

「「分かる」」

「ほら?作りますよねー?つくれますよねー?」

スパーン

「ぎゃああああああああああああ」

「お前が始めたことだろ?お前が収拾付けろ」

「嫌ですよあんな地獄…てか俺のせい?」

「お前のせいだ」

「元はと言えば先輩が曲作らないのが悪いと思うんですが?」

「いーやお前だ」

「そういう部長こそ!今まで言ってこないで甘やかしたんですから責任もって!ほら!」

「とりあえず部長押し出せばいいのね?」

「おう!」

「いーやーだー」

「観念していけよ愚図」

「れん⁉ぐ、愚図はちょっと言い過ぎじゃない?」

「そうですよクズ」

「おいお前、マジお前ぇってかお前にだけは言われたくないわ!」

「いや何の話です?僕、愚図って言ったんですよ?」

「いやクズってはっきり言ってたよ?」

「れん先輩は敵なんですか?」

「面白そうな方の味方」

「そうですかい」

そんな様子を桜はドア越しからただ生暖かな目で見守っているのであった。

「桜?来てたん?」

「あーうんー」

「じゃあ、さっそくで悪い!あれ止めて!」

「んーやかな」

「ですよねーもしかして今までの下り全部見てた?」

「うん!」

「そりゃ降参ですよ…はあーもぉーはーい、ストップ!」

「まだこれからですよ先輩」

「…(白目)」

「お前、あれ完全に伸びちゃってんじゃん」

「…え?あ、ホントだ」

「今日は俺がお前をサツに送りたい」

「ぐうの音も出ません」

「全く…真性のドsじゃねーか」

「はいはいもう認めるよ」

「じゃあ、その鞭没収ね」

「はい…」

残念そうにしないでくれるかな?

「…っててて」

「先輩?大丈夫ですか?」

「ホントひどい目に合ったよ…ちょっと気持ちよk」

「え?」

「な、何でもない!」

「何でもいいですけど、これに懲りたらもうちょっと曲作ってくださいよ?」

「分かったよぅ」

「分かればよろし」

「そういえばこの子入るんでしょ?作り方知ってるの?」

「わかんないー」

「俺が教えますよ」

「…私が教えるってのは?」

「あんたそれ理由に曲作らないつもりでしょ?」

「勘のいいガキは嫌いだ」

「はるかなやれ」

「…え、いいの⁉(ぱああああ)」

うわ…こいつ鞭返したら目に光が戻った。こっわ。

「先輩まだ欲しいんですか~?」

「ぎゃああああああああああああああ」

「おい、再開させんな」

「…ホントだよ」

「さてとそれじゃ曲の作り方教えるね?」

「あー…うん?」

「それじゃまず…」


--


「で書き出しってボタン押せば完成」

「おーできたー」

「お、おいサツキ?そろそろあれ止めよ?」

「そ、そうだよあれそろそろ死ぬって」

「じゃあ、次は楽器を何にするかだね」

「楽器かぁー」

「「話を聞けぇ!!」」

「いってぇえええ!何すんすか⁉」

「止めろよ!あれ!」

「そんなに止めたきゃ先輩方が行けばいいでしょう?この指示待ち厨が!」

「…はぁ、あのーおふたりさん?」

「んふふあはははあああああ」

「……」

「すまんサツキ俺、無理かも」

「じゃあ、次DJ」

「…そ、そろそろ終わりにしません?」

「…ち」

「え?」

「私の鞭に触るな」

「サツキさん俺、クラブ行ってくるわ!」

「はぁ~使えね~良いかお前らよく見てろ?」

「…何するつもり」

「なぁ…いい加減にしないと、ぶち〇すぞ?」

「すみませんでしたぁああ!(泣)」

「な?こうやるの」

「「…(この人、圧怖すぎる)」」

「あ、ああ…む、鞭…」

「これは、帰る時まで預かるぞ」

「うう」

何この子…感情のスイッチが鞭なのおかしくない?

「なんだか騒がしいサークルだねー」

「「「「今更かよ‼」」」」

「えーだっていままでの普通にお話してたんじゃないのー?」

「「「「どこが?」」」」

「いいか、桜。さっきのは殴り合いって言うんだ。今日、新しい言葉を知れてよかったな」

「あの凄惨な惨劇を〝お話〟…?」

「いやそれをやってた私が言うのもなんだけど言ってること色々おかしい」

「そーう?」

「お前ホントどうやって生きてきたの?」

「何とかー」

「…もう何も言わない」

「?」

これがサークル活動開始から一時間たった絵である。

何とも言えない環境だ。

桜も結構、俺らと一緒にいる時間で言えばそこそこなはずなのにあの天然っぷりには恐れ入る。

そして、いつの間にか作曲部屋から特殊プレイでの詰問部屋になってたとしても今日も地球は平和です。

俺、この先どうなっちゃうのかすごく心配だわ…


「はあ…」

「そーいえば曲ありがとう!」

「あいよ」




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 さて、今バイト先に来ています。店長は前回、みずきのせいでバレた無断欠勤のことで僕を問い詰めてきます。

「さあ、今日という今日は観念しろ」

「やだなー店長…僕はサボってなんかないですよ?」

「あ?」

「責任をみずきに押し付けたんですよ」

「黙れ」

「ははは(白目)」

「反省の色ぐらい見せたらどうだ?」

「へーいもーしわけありゃせんでしたー」

「…今すぐにでもお前を〆たい」

「もーう店長のエッチ♡」

「はぁ…もういいや(これは殺せるなぁ…)」

「じゃあ、そろそろシフト入りますよ?」

「あいよ(もう知らんわこいつ)」

よし、なんとか店長の心が先に折れてくれたみたいだ。

いつものように慣れた手つきで服を脱ぎ、制服に着替え

さっそく、仕事に取り掛かる。

ふと、横目に映るのは死にそうな顔してるみずきさん。

ここの所、人手が圧倒的に足りていないのだ。

ご時世的なものが大きいと言えば大きいのだが…

「みずき、変わるよ」

「あ、ありがと」

「少し休んで来い…ぶっ壊れちまうぞ?」

「うん。そーする」

ふらふらとおぼつかない足取りでバックルームに消えていく。

本当に大丈夫か?あいつ…


「いらっしゃいませー」

「あ、すぐお持ちいたしますね」

「カードですね。ご一括でよろしいでしょうか?」


そんなこんなで2時間が経ったとき、事件は起こる。

「いらっしゃいまs…」

「「「え?」」」

部長に天川先輩だ。なんでよりにもこの人たち来ちゃうかなぁ…

「え、お前ここでバイトしてたん?」

「そーですよ。冷やかしなら帰ってください」

「つれないなー同じサークル同士の仲間じゃーん」

「うっさい。その乳、調理すんぞ」

「うっわ客にセクハラしたーこの人」

「お願いだから帰って…ね?」

そこに

「さつきー…あれその人たちは?」

「知らない人だよ」

「あ、どうもーサツキ君と同じサークルメンバーの天川って言いまーす」

「あ、そうなんですね!いつもこの馬鹿がお世話になってます!糸原みずきって言います!」

「ふーんこの子が…ね」

「おい、馬鹿って…」

「そしてこっちは名前を隠したがるから部長さんって呼んであげて!」

「は、はぁ?」

「すまんな、みずき。うちのサークル、個性が色々と爆発してるのしかいなくてさ」

「なんかあんたが好きそう…楽しそうだね」

「正直すっげえ楽しいけど…今日のは地獄だった」

「え?なんかあったの?」

「実は…」


--


「うわぁ…そんなことが」

「ホントいたかったよ」

「部長も腰抜かしてただけですしね!」

「いや逆に、よくあの状況に割り込めたよお前」

「仮にもくぐり抜けてきた修羅場の数が違いますから」

「はぁ、そうかい」

「でもその件はさつきが悪いとこもあるでしょ?」

「いや待て、俺は何一つ悪くない」

「どーだか」

「えーそこは信じてよ…幼馴染のよしみでさ?」

「その幼馴染をひもにしようとしてた奴がよく言うわ」

「お前ホントどこでもクズだな」

「初志貫徹って言って」

「おうそうだな、粗大ごみ」

「俺は廃品回収に回されるの?いやん」

「話をこれ以上ややこしく広げんな馬鹿」

「はは、すまん」

「それで?ご注文は」

「ハンバーガー置いてる?」

「今すぐ回れ右して帰れ」

「ひどい!今日出番なかったんだからいいでしょ⁉」

「…」

みずきはこの光景にただドン引きするしかないのであった。

そして、何か嫌な予感を感じ取るのであった。


「…サツキは渡さないからね先輩」


女としてのシックスセンスで何かを機敏に感じ取ったようだった。


--


その後、バックルームにて

みずきに俺はここの所あった出来事を洗いざらい話す羽目になった。

いやね?何か知らないけどこの子、話全部聞かせない限り俺の部屋でシュールストレーミング開けるとか急にいいだすから…

これ、どういうことなんだろ。

「ふーんなるほど…ね」

「それにしてもお前なんでそんながっついて…」

「馬鹿は息だけして黙ってればいいの」

「君、今日なんかあたり強くない?もしかして生〇?」

「いつものことだよ?あと死ね」

「それよりもなんでなの?」

「…から」

「え?」

「何でもない!」

「何なんだよ…お前…」

いつにも増してめんどくさいんだけどこの子…

一体どうしちゃったって言うの?

さっきからずっとこんな調子だし、これがこのまま続くってのはいくら何でも困るもんがある。

「なんか悩みでもあんのか?聞くぞ?」

「あったとして」

「うん」

「あんたに話せるわけないでしょ?」

「うわ…俺、こんなに信用なかったんだ…もう死んでくるわ」

「卑屈すぎんだよ」

「痛い」

「察しのいいあんたなら分かるでしょ?」

「声に出して言ってみよう。いくら付き合い長かろうと俺はお前の隅々までは知らない」

「何だろう?お前が言うと危ないこと吐きかけてきてるようにしか聞こえない。身の危険を感じる」

「流石、いいねーぐふぅうう?」

「とにかくあんたには関係ない話」

「まあ、本当にキツイこととかだったら言えよ?力になる」

「…じゃあさ」

「ん?」


〝私もサークル入れてよ〟




----




 そんな訳でやってまいりました。修羅場のお時間です。本日のお相手は…

「君、こいつのバイト先の子だよね?」

「糸原みずきって言います」

「この子可愛いな部長」

「分からんでもない」

「うっわ気持ち悪…」

「はるかな、また変なスイッチ入りかねんからやめろ」

「変なスイッチ?」

「…お前、覚えてないの?」

「なんかすっごく火照ってた記憶はあるんだけど…私ホントに鞭なんか振ってた?」

「うん。何もなかった。それでいい」

「それでー?みずきちゃんが何でここに?」

「入りに来ました」

「「え?」」

「へえーよろしくー」

「すまん。桜、少し黙っててくれ」

「えへへーいーよー」

「まずこいつは俺の幼馴染で簡単に言えば腐れ縁だ」

「なんでそうゆうこというのさ…わたしの初めて奪っておいて…」

「うわぁ…重い。あとお前まだ新品だろうが」

「なんかこれ見てたら仲良くやれる気がしてきた」

「アマ乳うっさい」

「うっす。ってか天川」

「あんた何てあだ名付けてんの?」

「いやだって、アマだし乳だし天川だしアマ乳じゃん?」

「ちょっと待って…え、この子は?」

「はるかな」

「普通…この子は?」

「桜」

「…この人は?」

「…パリピ淋〇野郎」

「はいアウト」

「ちょっと待ってサツ君、僕のことそんな風に思ってたの?ってか初めて呼ばれたんだけどそれ」

「いやDJでクラブ好きでって言ったらもうヤ〇チンでしょ?」

「君、もしかして死にたい?」

「気持ちよくイかせてください」

「馬鹿なこと言ってんじゃないよ」

スパーン

「痛い!何すんだみずき!」

「おめえこそさっきから何してんだよ」

「生きてんだよ」

「いや埋めてやろうか?」

「いやうけるww」

「はぁー全く…昨日のやっぱあんたが元凶じゃないの?」

「断じてちがう」

「俺は今でもお前が悪いと思ってる」

「僕はあまちゃんだと思うけど」

「いや私でしょ」

「「「自覚はあるのね?」」」

「それで先輩は曲作ってきたんですか?30秒ぐらいなら誰でも作れるでしょ」

「うん10秒だけなら」

「もうそれでいいですよ。ただし今までのも聞かせてください」

「……は、恥ずかしいよう」

あ、これダメだ。色々、来るもんがあるわ。

主に下腹部に

「…さつき?(圧)」

「そ、それじゃあ聞いてみようか(汗)」

「お前の気持ちはよくわかる」

「うん。お前は悪くない」

「きっしょ」

「何の話してるのー?」

「桜ちゃんが一番の癒しだよホント…」

「じゃあ流すぞ?」


--


「なるほどね」

「うん」

「ほーう」

「…」

「クソだわ」

「もうこのサークルやめる」

「あー待った、今まで作った曲のほうはよかったじゃないですか?」

「…え、そう?」

「うん。つまりそのスランプには原因がある」

「本当に‼」

「ぐ、いってえ!叩かないでくださいよ」

「まあ才能が無いわけじゃないのはずっと一緒にいるから知ってる」

「あまちゃんは怠け者さんってわけよ」

「うん。DJ違うな?話聞け?」

「よくわからなかったけどすごくよかった!」

「さくらぁああああああ(泣)」

「でも先輩がこんな曲作れるとは意外でした」

「それね」

「私、素人だからよく分からないけどすごくいいって思ったよ?」

「僕はみずきさんの太ももがいいと思いますね。うん」

「聞いてない」

「それで原因って?」

「先輩は自分がどんなものが作りたいのかはっきり見えてます?」

「それは…」

先輩の曲を聴いて分かったことがある。

彼女は別に才能が無いわけじゃない。

だが自身が何が作りたいかもよくわからず悩み、制作自体から逃避行しているようにみえる。

「先輩の曲はどれもジャンルが定まってないですよね?」

「そうだね…なんとなく作ってるから」

「それを一回やめてみません?」

「具体的には?」

「先輩。ポップス系の曲葉好きですか?」

「うん。すごい好き」

「じゃあ、その楽曲にどんな特徴があるのかを知るためにまず沢山聞きましょう」

「え、聞くだけでいいの?」

「先輩は恐らく引き出しがないんですよ。ジャンルごとで使いまわすテクを知らなさすぎる。これ大体ワンパターンですし」

「う…確かに」

「でもとりあえず作ろうとしてなんか違うってなってまたその繰り返し」

「そう!そうなんだよ!」

「だからまずは自分の好きなジャンルの楽曲聞きまくって耳を調教してきてください!…みっちりいやらしく」

「言い方ぁ」

「台無しだよ…あんた」

「てかお前、そんなに真面目になれたんだな」

「いっつもゴミ発言しかしないのに…」

「お前らの貞操使い物にならなくしてやりたい」

「「ひぃいい」」

「ねーねーわたしわー?」

「お前さんもかな?曲聞こう」

「わかったー」

「はるかなもだぞ?」

「はいはい」

「かわいげねーな」

「あんたに可愛げ振りまいて何が得られんの?」

「うん…それはそうだけど」

「みずきはまず曲の作り方を教え…ってか前教えたよな?」

「え⁉えーと(汗)」

「忘れたとは言わせないぞ?」

「…(やばい聞いてなかったなんて言えない)」

「…聞いてなかったんだろ?」

「…はい」

「全く…帰りにカフェでコーヒー一杯おごれな?」

「えー」

「えーじゃない。ただで教えてるようなもんだから良いだろ?」

「このひとでなしー」

「それを言うなら俺は〝先だつ物は金〟って言葉を送ってやる」

「なんかむずかしそうだねー」

「そうだなーさくらー」

「流石、荒んだ人の言うことは違いますな」

「体はまだピンピンしてるんだけどな…こことか」

「折ってやりたい」

「「「〝ゔ〟」」」

「男三人にはダメージがあるみたいね」

「?」

「桜ちゃんこんなバッチいやり取り見ちゃダメ!」

「はぁーそんなたいそうなもん持ってないじゃんか」

「みずきさんそうゆうデリカシーの無い言葉がすごく刺さる。痛い」

「あんたが言うな」

「ってか何でみずきちゃんもサツキ君のブツのこと知ってんの?」

「そ、それは…」

「それは、俺が寝てる間にぃいいいいいい」

「黙れ」

「ふっふんーそうゆうことね」

「よゔぁいですよよゔぁいぃいったいってば!言って無いじゃん!」

「それほぼ言ってるから!もうお嫁にいけない…」

「俺が貰ってやるよ」

「え…?」

「それで俺は働かずして引きこもり生活…」

「この穀潰し志望のクズが」

「痛い」

「それにそれ貰うって言わない。寄生って言うんだ寄生虫め(少しでも期待した私が馬鹿だったわ)」

「じゃあ、パラサイトさせて(?)」

「英語にすればいいって事じゃないんだ分かるか?」

「分かんない」

「もうこいつめんどくさい」

「いひひひひ」

「もうこの際、アマ乳でもいいよ。ひもにさせてください」

「絶対いや」

「はは、ツンデレめ」

「ちょっとみずきこれなんとかしてよ」

「あい」

バン

「…」

「もうこいつしばらく眠らせておきましょ」

そんな様子を遠目に


〝怖いなぁ〟


そう思いながら傍観している外野なのであった。


「今日の活動はいろんな曲を皆で聞こう!」

「「「「はーい」」」」

「…(俺)」




----




 ここは家みたいだ…俺、何してたんだっけ?

そういえば、みずきに機材で後頭部ぶん殴られて……こいつ

「お前、酷くない?」

「いやあの状況ならああするでしょ普通」

「お前の手助けになるって言ったけどあれ俺を殺すことだったんだな?」

「んなわけ。現に生きてるじゃん」

「どやかましいわボケ。結果論だろうが」

「どーどーそんなに吠えない」

「大体どうやってここまで運んだんだよ」

「ん?皆で」

「え?」

「…どうも」

「邪魔してるよー」

「うおー」

「…説明、しよっか?」

「いやあんたの家、学校から5分じゃん?」

「うん」

「だから」

「そこは聞いてない」

「?」

「何でこいつら家に…それも俺の部屋に上げてんだよ」

「ダメだった?」

「あったりめーだろ!このおバカ!」

「はあ?運んでもらったんだから感謝ぐらいしたらどうなの?大体、ベットここしかないじゃん!」

「そもそも気絶させたのお前なんだよ‼」

「いやあれぐらいでホントに気絶すると思う?」

「このゴリラがぁ!」

「まあまあー」

「どっちもどっちって事で」

「そうそう気楽にいこうぜ?」

「おいそれに触んな!たけえから!」

「いくら?」

「…40ぐらい?」

「よし。持って帰るぞー部長ー!」

「おうよ!」

「だぁああああああああああああ」

「元気そうで何よりだ」

「あのまま1週間起きないでよかったのに」

「はるかなちゃん辛辣すぎ」

「いいか⁉これは俺のバイト代の約半年分だ!」

「より欲しくなってくる」

「わかる」

「お前ら血と涙と汗水垂らして買ったこのヘッドアンプが俺にとってどれだけ愛おしいものか分かるか?」

「はいじゃーそっち持ってー」

「ほいほいー」

「「せーの」」

「ああああああああああああああああああああああああああああああ」


--


現在、時刻は午後5時。

まず、やらなくちゃならないことがある。

洗濯物を取り込んで畳み、未来やケンタたちの飯を作って…


〝この塵どもを掃除することだ〟


「さーてお前らそろそろ帰る時間だぞー墓に」

「何この機材、おもろ」

「これまたいいねぇー」

「これサツキが作った曲だよねー?」

「お、いいね聞こう」

「聞きたい」

「…えっと、ごめんサツキ」

正直、ここに長居されるのは困る。リビングなら構わないが、俺の部屋となると高額な機材が多すぎてこいつらが何やらかすか…

俺は考える。こいつらの注意を引き一刻も早くこの部屋から追い出す方法……それは…音だ。

俺はすぐに状況を把握した。

メインデスクがが占拠されてる以上、別な方法でPCを操作するには…

「あれしかない」

俺の部屋は簡易的にスタジオ化している。

当然、普通の家にアンプに繋いだエレキギター程の音を遮音する機能はない。

もし、そんな状態で弾いてみろ…未来さんが包丁持って押しかけてくる。

なので、ボーカルや楽器の録音をする為の小型防音室を設置している、そしてPCはこの小型防音室の中でも操作できるようにしてある。

録音したらすぐにメインデスクで編集に戻るためだ。

さらには、お手元でPCの制御をメインからこの防音室内のサブに切り替える装置を友人に組んでもらった。

これを使えば簡単に制御を奪える。


…え? 何でこんなものがあるのかって?


そんなんうちのクソガキどもがいたずらするからに決まってんだろうが

今まで録音中に何度、無防備になったメインデスクを勝手にいじられ、制作中のデータを消されたことか…あのクソガキ共め。

これでは、今までの苦労が水の泡だ。

その対抗策として打ち出したのがこれだ。

俺はいつもクソガキ共とやり合う時のように防音室にみずきと桜を連れ込んで内側から鍵をかける。

これもうちのクソガキどものいたずら対策の一環だ。

ここには決して入らせない。

それにしても…よりにもよって、うちのクソのクソによるクソすぎる攻防戦の戦闘経験がここで生きようとは…

恐らく、こんな意味不明なことになってるのはうちの家だけだ。

「ちょっと何する気?」

「向こうのPC周辺機器の制御権を奪う」

「そんなことできるの?」

「まあ、見てろって」

俺は装置についたボタンを押す。この仕組みは至極単純。

向こうに繋がってる機器や機材は友人が作ったこの装置にまとめられてる。

そして、その装置に繋がった機器の全制御を止められるようにしたというわけだ。

簡単に言えば超大型のスイッチャーだ。

これで、向こう側じゃモニターもキーボードもマウスも使えない。

ただし、〝スピーカーとPCカメラだけを除いて〟ね

おまけにPCはこの防音室にある。USBポートだって悪用はさせないさ…

くくく…整ったメインの作曲デスクのインパクトに騙されたな馬鹿どもめ。

「はいゲット」

「おおーモニター電源着いたー」

高校時代の理系友よ…ありがとう。

「さっそく始末するか」

「どうやって?」

「向こうでモスキート音を音割れするほど大音量で流す」

「ひ…」

「3、2、1、GO」

キィーーーーーーーーーーン

数秒後、悲鳴がうっすらと聞こえる。

「ここが防音室で良かったな」

「あんた、鬼ね」

「これ普段は未来たちにやってる」

「最低」

「いや、被害者俺な?」

--上記内容を説明中--

「あーうん」

「俺は悪くないだろ?」

「まあ、流石に作ってる途中のデータ消されるのはやだけど」

「だろ?」

「でもこれは手が込みすぎ。あとやりすぎ、大人げない」

「…うっす」

「そろそろいいんじゃない?皆、部屋出たでしょ?」

「えーと状況は」

「カメラまで…どんなけ恨みが深いのよあんた」

「創作家の創作物、勝手に消す輩はおしおきだ」

「消してないじゃん」

「あと俺の神聖不可侵領域を荒らした罪は重い」

「あっ、そーう?(こっわ)」

「成敗完了」

「…皆、かわいそうに」

さて、とりあえず部屋から追い出せたのはでかい。

あとはこの部屋に入れさせないようにしなければ…

「おい、出るぞ」

「え、うん」

「部屋出たらもう開けんなよ?」

「分かってるよ」

お次の仕掛けは手紋扉だ。あいつらは恐らくみずきの手紋を使ってこの部屋の扉を破り入った。

俺はクソガキとの件が多数あって以来、この部屋に様々な仕掛けをしている。

これもその一つだ。

例え家族でも容赦はしない。みずきだけは例外だが…(だってやり返されるし)

「皆大丈夫だったー?」

すぐに俺は部屋の扉を閉める。これでこの部屋への再侵入は俺とみずきしかできない。

…いや、なんでみずきだけって?

だってこいつ、勝手に登録してんだもん。何度消しても登録しやがる…

それに、いっつも不法侵入してくんだもん。

お手上げですよ。お・手・上・げ。

「おい!なんだあれ⁉」

「ん?蚊よけ」

「嘘つけぇ‼」

「いやほんとほんと」

「耳が…急にキーンって…」

「おお…year…」

「おい、DJが何かに目覚めた」

「あんたのせいでしょ何とかしなさい」

「ご愁傷さまー」

「…桜、それ煽ってる?」

「善意ー」

「この子こわーい」

「さて、お前ら反省したか?」

「「「…はい」」」

「じゃあ、お前ら俺を運んできた礼ってわけじゃないが夜飯食ってく?」

「俺はいいかな」

「俺もー今日クラブあるし」

「…食べる(不機嫌)」

「不味かったら口コミで酷評してやる」

「私、おかーさんいえでまってるー」

「…みずきは?」

「まあ、久しぶりにご馳走になろうかな?」

「あいよ」

そんなわけで部長、れん先輩、桜は帰宅だ。

そして、天川先輩、道春、みずきの三人が残ることになった。

…ねぇーまだ修羅場が続くの?呼び止めておいて言うのもなんだけどさ…

「お兄ちゃんーこの人たちはー?」

「サークルの仲間さん」

「あ、そーなん?」

「飯だけ食わせて速攻帰らせるから」

「えーつまんなーい」

「サツ兄、俺食い終わったら部屋いってる」

「あいよ」

「ってかサツキーこの子たちが前言ってたあんた弟と妹ー?」

「まあ、一応な?」

「お兄ちゃんって普段からあんな感じ?」

「そーですよー?あいつのクズさはデフォルトです」

「…未来ちゃん?」

「あ、えっと…まあそう…かな?」

あいつ…あの一件以来、俺に変に気を使いやがって

まあ〝普通に接してくれ〟って言ってもまあ無理なもんがあるとは思うが…

これは、改めて話し合う必要がありそうだな。全く、優しいやつめ。


--


「さつきーできたー?」

「おう、できたぞ」

「何作ったの?」

「油淋鶏ー」

「うおーうまそー」

「はいじゃあ、運ぶの手伝って」

「「はーい!」」

「あ、みずきちゃんと未来ちゃん…だっけ?私も手伝うよー」

「あ、客人は大人しくしててくださいって!」

「そうそうここは私たちに任せてください!」

「そ、そう?それならいいんだけど…」

「いい子たちだね」

「…あんた人の心あったんだ」

「先輩…いくら私でも怒ることぐらいありますよ?」

こうして、着々と出来上がった品々がテーブルに並べられていく。

我ながらいい仕事をしたもんだ。普通にお金取れるレベルだ。

…とるか?

「ちょっとさつきー?何ボーっとしてんの」

「いや、金とれる出来に惚れ惚れしてた」

「それ自分で言う?」

「まあ食えばわかるさ。じゃあ、いただきます!」

「「「「「いただきます!」」」」」


--


「んでどーだったよ」

「めっちゃうまかった」

「不覚だったわ…星4.5よ」

「妙に生々しいな」

「まあいつもながらだね」

「そうだね」

「久しぶりに食べたけど…あんた腕上げた?」

「そりゃ、2浪したただのクソ製造機じゃ親に頭上がらないですから」

「律儀な奴だなぁー」

「ええ、先輩みたいにがさつじゃないの」

「んだとぉおお?」

「未来ちゃん」

「…みずきさん?」

「今日は色々とありがとね」

「え…いや私は何も…」

「…ふふ、ホントにサツキにはもったいないぐらい良い妹ちゃんだぁー」

「うわぁ!ちょ、みずきさん⁉」

「いいか?乳?ここはお前の乳袋製造所じゃない!」

「人を胸が主体みたいに言うな!」

「大体、人んち来てご飯何杯お代わりしてんすか?頭いかれてんですか?もう、残ってないじゃないですか!」

「しょうがないでしょー!足りないんだもん!」

「うっさいわ!人んちだぞ?少しは遠慮を知れぇ!」

「この馬鹿ぁ‼」

「馬鹿はあんたじゃい!」

「サツ兄ー俺、上行くよー?」

「おうー」

全く、どいつもこいつも自由すぎんじゃ…

「もう少しゆっくりしていきません?どうせなら話でも聞きたいですし…(お兄ちゃんなんか飲み物入れろ)」

「…(…こいつ)」

俺は未来の言葉も交わさない指示のもとコーヒーを淹れる。

ちなみに俺はコーヒーにはうるさい。なぜならカフェイン大好き!カフェイン中毒だからだ。

「ほら、俺と未来は机な?」

「じゃあ、そこのソファーにでもかけてください!」

「ありがとー」

「感謝します」

「私はサツキの横に座る」

「え、なんで?」

「あんたが暴走したときの保険」

「うわぁー信用されてねー」

「あんたに信用なんて言葉、一生涯使う気ないわ…」

「このツンデレめ」

「死ね」

「あはは」

「ん?ってか一生涯って?」

バコン

「っ~~~」

「うわー容赦ねぇ」

「見事な腹パンだわ…」

「お兄ちゃんホントそうゆうとこだよ?」

「なんか悪いこと言ったか⁉」

「「「うん」」」

「はぁ~~~~~~…んふううう」

こいつ何でこんな顔真っ赤に……あっ。

「もしかしてみずきは僕のお嫁さんになる気でいるのかな?お?おほほほほほ」

パン

「っ~~~~ww」

「何であんた墓穴掘りに行くの?馬鹿なの?」

「もうお兄ちゃんを去勢するか」

「何てデリカシーの無さ…」

「いや、こんな分かりやすい反応されたら弄りたくなるじゃん?」

「「「最低!」」」

「俺は至って最高!」

「もうやだ…こいつ」


--


「はぁ…やっぱり」

「あーーー」

「なんだよ?」

「いやーあんたある意味天才かもしれないよ?」

「嬉しくないけど」

「お兄ちゃんはクズだ」

「それは認めるさ…でもさ?こいつらも色々とやらかしてない?」

「でもお前を筆頭にじゃねーか」

「てへぺろ☆」

ドン

「っ~~ぜーはぁぜーはぁ」

「今のいいストレートだねー」

「これは高得点ですよ」

「みずきさんナイス!」

「ねえ、君たち俺のことサンドバッグだと思ってない?」

「「「「うん」」」」

「分かったここはひとつ土下座するからもうやめてほしいかなーなんて」

「いやー足りない」

「…どうしろと?」

「何でも言うこと聞いてもらうか」

「おおーそれいいね」

「パシリにしたりとかしていいのか!」

「そういえば最近欲しいものあったんだ♪」

「…1人1回までお前らのみなら」

「「「「やったぁ!」」」」

本当にこいつらいい神経してる。俺が言えないけど。

「私、しばらくの間ここで夜ご飯食べたい!」

「親怒ったりしないんですか?それ」

「いやね?うち一人暮らしだから作るのめんどくさくて…いいよね?」

「まあ、それならいいっすよ(ホントに乳製造所になっちゃったw)」

「むち打ち」

「却下」

「何でもだからあんたに拒否権ない」

「だとしてもやらんからな?逃げ切ってやる」

「…ちっ」

全く反省してねぇこいつ。先輩も同情みたいな視線向けてくんな、誰がやるかよ。

「未来はなんか欲しいって言ってたけど」

「自分の部屋を掃除機かけるのめんどくさいからルンバ!」

「クソたけーじゃん」

「…だめ?」

「まあ、いいよ。最近、プレゼントも買ってやれんかったし」

「やったぁ!」

「みずきは?」

「…ここでは言えないかな?」

「…ぷぷ」

パチン

「もう聞いてやらん」

「ちょ⁉待って悪かったから!」

「一体、ナニをお願いする気なのかねナニを…ふふ」

「きっとエロいことですよあれは」

「はわわわわ…刺激が強すぎません?」

「いや何、妄想してんのさ」

「いやだってあんなことやこんなこと…」

「セッ〇スはしないだろうから大丈夫だよ」

「おい、雰囲気台無しだろ。せめてキスとかもっと乙女らしい事言えよ」

「フェ〇?」

「…先輩、もしかして欲求不満?」

「まさかー?」

「もう叩かないな?あ?」

「叩かないから!ホントに!」

「次叩いたら絶対聞かんからな?」

「善処します!だからぁ!」

「じゃあ、あとで部屋で聞いてやる。んで、みちはるは?」

「え、えとじゃあ本を5冊買ってもらおうかな」

「最初からそう言えよ。何がむち打ちだ」

「いやだってあんたMだから楽しそうかなって…」

「…」

SMプレイがご所望みたいですこの子。

「じゃあ、それら叶えてやるからもう俺のこと叩くなよ?」

「「「「はーい」」」」

俺なんかお人よし過ぎないかな…ねえ?

飯作ってやってこの仕打ち…ホント酷いよ。


--


「…いつになったら帰るんですか?」

「絶対、ベットの下に…」

「エロ本ならこのタブレットの中ですよ」

「ちっ、つまんねーな」

〝そろそろいい時間だから〟

そう言って道春は帰った。

今、俺の部屋にはいつものようにみずきと

出会って一週間も経ってない男の子の部屋を堂々と漁る先輩の図…

「いい加減にしてください。それともまたモスキート音、喰らいたいんですか?」

「ふふ、そうなったらスピーカーをぶっ壊してやr…」

「やめてぇ⁉これも結構するの‼」

さっさと帰らせたかったのは山々だがこの乳、頑なに帰ろうとしない。

しびれを切らして自分の部屋に入ったら扉をバンバン叩くわ…

君、借金の取り立てかな?

んで仕方なく中にいれる羽目になった。

なお、みずきはいつものように不法侵入。

また、勝手に手紋登録してやがるから消してやったのに…しぶといやつだ。

「あんた、いい機材買い込みすぎだわーよし私が少し貰ってやろう」

「結構です」

「ねーさつきー小腹すいたー」

「おめえも帰れ!この不法侵入常連者が」

「追い出そうとしないさつもだよー?」

「大体、どうして毎回毎回窓から入ってくんの?」

「そこに窓があったから?」

「その窓から帰れ」

「えー私もなんか食べたーい」

「その乳をこれ以上育てたらウエストにいk…」

「〇すぞ?」

「…はい」

デブになるって忠告してやってんだろうがこのアマ。

仕方なく俺は台所へ向かい、作り過ぎた残り物を冷蔵庫から取り出し

それを皿に盛る。〝一応の配慮〟で少なめに…何がとは言わないけど。

「じゃあこれでも食っててください」

「んー?」

「残り物のカレー」

「おお!」

「うまそー」

「おかわりはありませんからね」

「ありがとーさつきママー」

「誰があんたのママじゃ!わたしゃあんたなんか産んだ覚えない!」

「男だもんね…ブツ付いてるし」

「あの、急に素に戻るのやめてくれません?ぶち転がされたいんですか?」

「んでさつきはさっきから何してんの?」

「曲作ってんだ、見ればわかんだろ」

「冷たーい」

「今日、お前にされたことを思えばこれが普通だ」

「…う、悪かったよ」

「ふふ、このつけは体で払ってもらおうか」

「あんたにもてあそばれるのだけはごめんだわ」

「ま、しないけどね(言うだけ言うチキン君だもん)」

「それは知ってる。それがガチならもうとっくに襲われてる」

「仲いいんだねぇー二人ともーぐふふ」

「みずきーこれや〇とで送り返しといてー」

「今食べてるから無理ー」

「心外だなぁ…仮にも同じ釜の飯を食った仲じゃん」

「くっ…そうですねw(実際にすっからかんにしてましたしね)」

「…なんか、含みがある笑いだなー?」

「いや、実際に釜の飯をすっからかんにしてたなーっとw」

「ww」

「人を暴飲暴食する人みたいに言わないでよ!…おいどこ見て言ってんだ!」

「父」

「漢字って便利だなぁー?おい!」

「遅遅」

「…」

「ちちん」

「…w」

「はい、笑ったー」

「ガキか!」

「ほらさつき、その辺でストップ」

「ん、分かったまな板」

「んだとこらぁああ⁉」

「ひぃいいいいいぐはぁあ⁉(〇玉いったぞこいつ⁉)」

「これは酷い…」

先輩は死んだ魚のような目でこちらのやり取りを見ていたのであった。

俺は薄れゆく意識の中で悟った。


〝やっぱ、胸より太ももがいい〟


………




----





 翌日、今日からはみずきも参加して活動をする。

たった数日でメンバーが俺、みずき、はるかな、乳、DJ、部長、桜

………あれ?席足りなくね?

確か、ここには6席しか…今いるの7人だぞ?

「先輩、俺らこの部室のPC数じゃ一人足りなくないですか?」

「大丈夫ー私が作らないから―」

「いや作れよ」

「あーそれなー?」

「部長どうするんです?」

「しばらく俺がノーパソ持ってきて制作するから他の子にこの席譲ってあげて」

「部長、マジ一生ついていきます」

「いやんストーカ」

「え、いいんですか⁉」

「だってせっかく入ってくれたのに申し訳ないじゃん?」

「うわぁ…ありがとうございます!さつきもこうゆうとこ見習いな?」

「あーそれか」

「?」

「こいつん家(さつき宅)で活動するか!」

「「「「「賛成!」」」」」

「お前らぁああああああああああああああああ」

「いーじゃんあんなに機材あんだから……人の撃退道具にできるぐらいはさ」

「れん先輩だっていいDJ機材たくさん持ってるでしょう⁉それに‼」

「それに?」

「こいつらに使いこなせる機材じゃないですよ?あれら」

「ソンナノヤッテミナキャワカラナイダロー」

「ソーダソーダ」

「コノカワカブリー」

「部長?それ関係ないよね⁉」

「ほーう?じゃあさ」

「?」

「今日、さつきの機材使いこなせたやつはさつきん家で活動OK…これでどう?」

「えぇ…まあいいですよ?使いこなせるならね」

「よしじゃあさっそく行くか!」

「「「「「おー!」」」」」

「俺、帰ろうかな…あ、帰んのか」


--


で、強引に押しあがられたんだが…

「ここ居心地良いわ~」

「「わかるー」」

俺の部屋は高めのゲーミングチェアや第三者に試曲してもらう際に座ってもらうソファー、ベッド

メインデスク(機材やPC、モニター、スピーカー諸々)、防音室、ギターやピアノ、シンセなどの楽器 etc…

本当に、個人のプロの制作部屋って感じの部屋だ。

当然、長時間作業をしても疲れないように居心地のいい部屋にしてある。

そして、うちの部の乳と幼馴染がそのソファーを占拠し、部長はゲーミングチェアに座り、DJは…

「マジこの機材神だわ…」

「いや帰宅させんぞ?」

「まーまーそういわずに」

お前さんDJだからこんな機材要らないでしょ?

DJは俺のハード機材(クソ高い)に容赦なく触れる。

だが、こいつがいくら興味持ったところでDJするのに向いてる機材何てここには一つもない。

なぜならここは〝制作部屋〟

つまり、作る場所だ。

そして彼は〝DJ〟

様々なトラックやフェードイン、アウト、サンプラー素材、簡易EQなどを用いて

その場で盛り上げるように務めるのが仕事だ。

つまり、彼にとってその場しのぎで何とかできるような機材がここにはないってことだ。

だってここ音楽作る機材しかないもん。

それなのに…

「本当にこれいいわ」

「いや、だから使わないでしょ?」

「…使わないけど」

「けど?」

「ロマンがあるじゃん?」

「知るか、指でもくわえてろ」

「酷い!」

「じゃあ笹にしてやる」

「俺はパンダか何か?」

「流石にち〇ことは言えないだろ」

「いや、誰の?(言ってるし)」

「そりゃ、自分のだろ」

「いや無理だわ!セルフフ〇ラとか」

そこに、割り込むように言う。

「あんたら馬鹿みたいなこと言ってないでさっさと試験しよ?」

「そうだよ!れんも見てても買えないでしょ?こんな高いの」

「うぅ…ロマン」

「そうそう、本当に欲しいなら頑張って働いて買うんだな」

「強奪は…?」

「いいって言うと思った?」

「うん」

「再度、教育受け直してこい」

「うぅ」

「じゃあ始めますか一人目誰行く?」

「私ー」

「…怖いなぁ」

「さつきーもっと信用してー?」

「いや、先輩が一番真っ先に壊しそうで…」

「まあ一応?私、作曲経験者だし?」

「頼みますよ…それも10万しますからね⁉」

「ひぃ⁉…善処するわ」

そんなわけで一通りテストをし終えた。

結果は部長、天川先輩、意外なことに桜。

この三名が合格だ。

桜も一応は歌い手をやってたというし、基本操作には慣れているのだろう。

それに、部長と天川先輩はこの部の人間としてやってきたんだから

まあ、当然と言えば当然なのだが…

残りの不合格になった連中ははっきり言って、しょうがない。

だってここには初心者が2人いる。みずきと道春だ。

そりゃ、初めてでいきなり


〝ほれ、やってみ〟は無理だ。


どこぞのブラックだと労基に問いただしたくなるレベルにひどい話だ。

そんなわけでみずき、道春の二人はしばらくPCでプラグイン等を用いて練習してもらうことにした。

当然、分からないことがあれば俺が責任もって教えるつもりだ。

だから俺はこうすることにした

「流石にお前らだけ家に来るななんて事は言わない。不公平だしな?…ただし」

「「ただし?」」

「ここにある機材はまだ触っちゃダメ」

「ですよねー」

「まずはPCで作曲出来ることだな。そん時は俺も教えるから何でも聞いてくれ」

「分かった!」

「やってみます!」

んで、だ。

みんな一人、忘れてない?

そうこのDJだ。

こいつ、全く使えんかったんだが?先輩でしょ⁉

どんなけサークル出てないんだろ…この人。

あんだけ機材に目を輝かしてたくせに…

「俺は?」

「いや、DJだけやっててください…いやマジで」

「うそーん」

「そもそも、れん先輩。作曲する人じゃなくてDJする人じゃないですか」

「うん」

「なんでこのサークルに来ちゃったんですか?」

「楽しそうだから?」

「おーけ、DJはDJだけをやろう」

「いやだぁああああ」

「ちょ、アマ先輩?どうしてこんなになるまでほっといたんですか⁉」

「だってれん忙しそうにしてたし…あと、アマって言うな」

「そうそう、一応こいつギターもやってるから行けるって思ったんだけど…」

「はぁーもーおー」

「う…、ごめんよ」

「さつき悪いな」

「れん先輩」

「…?」

「僕が一から叩きなおしてあげます。まずPCにDAWをいれてきてください!」


*DAWとは…〖デジタル・オーディオ・ワークステーション〗の略。DTM(PCで作曲)をする際に必要な作曲ソフト群の総称。有名どころだとCubase,Studio one,pro tools等。


「分かったよう…」

全く、どんなけ手がかかるんだこの先輩。

めんどくせえ。

「ってか皆、ノーパソ買えば?」

「私はあるよーあと部長も」

「私も持ってるけど…性能が」

「あるよ」

そりゃ、君はDJだからな…今時、ノーパソなしでもDJってできるのかな?スマホとかタブレットとか?

「あるー」

「持ってないですね」

「じゃあみずきとはるかなは俺と一緒に買いにいくか」

「えーめんどくさいよー」

「ネットで買うんのじゃダメ何ですか?」

「だって君ら値段に騙されて、どんなゴミ性能のもの買うか分かったもんじゃなくて怖いんだもん」

「あーそれはある…あんた詳しいの?」

「PC博士名乗れるくらいには」

「いや名乗らないでくださいよ気持ち悪い」

「おーいはるかなー?心の声漏れちゃってるよー?」

「ごめんなさい腹黒君」

「原田ね?わざとやってるよね?」

「当たり前でしょ?ダサ君」

「原田さつきの〝だ〟と〝さ〟を抜いて呼んできた子、君が初めてよ?」

「あら、光栄ね」

「お前いつか刺されないように気を付けろよ?」

「私が刺し返すかも」

「…(こいつが言うとシャレになってないんだよ…先輩の件もあるし)」

「じゃあ、さっそくいこうか!」

「え、待って金は?」

「私はあるよ」

「バイト代か…お前は?」

「あります」

「…その金危ないお金じゃないよね?」

「失礼な‼私だって商業作家なんだからとうぜn…」

「商業作家⁉え、お前金貰ってんの?」

あ、うそでしょ…?

俺でもまだ音楽で食っていけてないって言うのに…畜生!先を越された!

創作なんかやめてやr…

「…はい(しまった…)」

「え、ペンネームは?」

「…道之かなた」

「え?あの有名作の〝君の音、リサウンド〟を手がける?」

「うん」

「…確かに本名の漢字一文字〝春〟から〝之〟に変えただけだもんな」

「はぁ…よりにもよって何でこいつらに…」

「てか、お前があんなドロドロ純愛ストーリー書いてたとは…」

「うるさいですよこのゴミムシ」

「ちょ、ゴミムシは言い過ぎよ⁉」

「でも、私の作品知ってるとは…ちょっと、意外過ぎてびっくりしてる」

「そりゃ、ファンですから(あれ超鬼畜バッドエンドだけどね?)」

「はあ…もう最悪」

「さつきーそれってどんな話なの?」

「え、えっと大雑把に言うとJKが音楽科の先生と出来て、でも学校側にバレて精神的に追い詰められた先生が自〇する」

「うわぁ…えっぐ」

「なおさら刺すなんて言葉使わないで欲しい」

「おい、誰がネタバレしていいって言った?」

「痛い」

「ヒステリックが書いた鬱本だろ…もう」

「超、怖え」

「なにがー?」

「さくらは気にせんでええよー」

「わかった!」

癒し以下略

「で、でも!あんなのでも大体、30万部売れてるんだから!」

「え、結構売れてない?」

「お金プリーズ」

「部長、たかんな」

「あら以外かしら?あんなのでも読みたがる人はいるのよ?」

「お前と同じヒスがな?」

「…あんたも読んでるんだから同罪よ」

「まあ、あーゆうの嫌いじゃないけどさ?ってか俺は好きだよ」

「…ありがと」

こいつ今デレたのか⁉なあ⁉

「じゃあ、秋葉原いくか」

「え、何で?」

「遠いじゃないですか」

「言うてだろ?20分もかからない」

何てったってここ東京だもんね。

「えー本当に行くの?」

「おう」

「「はぁ~」」


--


秋葉原なう!

…色々痛いから心の中だけで止めて置こう。

「んでどこ行くのさ?」

「電気屋に行く」

「そーなの?あ、あれ?」

「おお⁉よく見つけたな。そう、あそこに行く」

「それで大体、いくらぐらいかかるの?」

「予算は?」

「10万~20万」

「私もそんなもんかな」

「そんなに出せれば上出来だ」

「そうなの?」

「ああ俺に任せておけ」

自分で言うのもなんだが、俺は結構なPCマニアだ。

1年前、性能の高いパーツを取り寄せ集めて、組み合わせた自作PCは今でも使っている。

何てったって、作曲用となるとPCにかかる負荷も大きい。

作曲を始めた最初のほうは低スペックPCを使ってた話は以前したと思う。

当時、俺はPCに知識が無かったが故に

PCスペックに足を引っ張られ、制作が全く進まないことが多々あった。

しまいには、PCの電源ごと落ちてしまう始末だった。

あれは今でも苦い思い出として残ってる。

だからこそ、余裕を持った構成のものを選んでおいて損はないだろう。

「じゃあ、これなんかどう?」

「えーこれゲーミングパソコンじゃん」

「ちょっと私たちには…」

「ピンクのもあるけど?」

「おお!これにする!」

単純だなぁ…w

「うーん…私はちょっと」

「そういえばはるかな作家さんなんでしょ?PCは?」

「私、デスクトップしか持ってなくて…」

「あーそっか…どうせ使うならもっと目立たない奴のほうが良いもんな?カフェとかで書くだろ?」

「うわぁ…気取ってんだろ」

「そういうこと言わない!じゃあ、これは?」

「あぁ!これが良いです!」

俺が勧めたのはデザインが白めで性能も申し分ない、いかにも〝無難なクリエイターPC〟って感じのものだ。

「はるかなちゃん、それ大人っぽくてにあうねー」

「…そうですか?」

「じゃあ、二人ともそれぞれ買ってこい」

「うん!」「はーい」

待ってる間、暇なのでSNSでも見てる。

するとソータのつぶやき&添付画像が流れてきた。


〝焼肉なう!〟


うわー旨そー、これはもはや飯テロじゃん。

そこで俺は、携帯で時間を確認する。

現在、午後5時。飯時にはちょうどいい時間だ。

そこに…

「あれ?さつきくん?」

「おお!ソータじゃん」

まさかのご本人登場…偶然だなぁ

いやてか、この焼き肉屋、秋葉原のだったんかい。

「さつきくんこんなところで何してるの?」

「ちょっと馬鹿どもの買い物の付き添いにな」

「へぇー大変そうだね?」

「ほんとだよ…人んちで好き勝手されちゃっててさ」

「な、何があったの?」

--説明中--

「それは災難だね…」

「ホントだよ…おまけに新人教育まで俺が…今ここにきてるのもそれが理由」

「そういえばご両親は?」

「基本、帰って来ないから家事はほとんど俺がやってる(あのクソガキどもめ…)」

「へえーなんか僕も状況、気になってきちゃった…かも?」

「え、今から来る気なの?」

「お邪魔じゃないかな?」

「もうお邪魔してるのがいるから今更なんとも」

「あはは…」

とそこに…

「おまたせー」

「すいません…結構、手間取ってしまって」

「いーよ、それよりちゃんと買えたか?」

「ばっちり」

「PCとDAWしっかり買いましたよ」

「よし、OK」

「今日これですぐにでも曲作りできます?」

「それは無理だな。ここからまたDAWをPCに入れんのがめっちゃ時間かかんだわ」

「じゃあ、今日は買い出しだけって感じか~」

「まあ、物がないと始まらんしな?」

「それとさつきこの子は?」

「あ、ごめん紹介遅れたわ。こいつは同じ学部の佐山蒼汰だ」

「初めまして…そーたって呼んでください」

「よろしくー」

「よろしくお願いします」

「んで、こいつもうちに来たいらしい」

「き、来たいほどではないけど…気になるかな?」

「だから、連れてく」

「わかったー」

「了解です」

「本当に大丈夫?迷惑かけない?」

「お前が迷惑なはずあるか。むしろ歓迎するよ」

「じゃあ、よろしく?」

「うん、それでいいの」

そんなわけで俺たちは元来た道を歩いて帰る。

そーたを連れて…


--


帰宅すると、すぐにバカ騒ぎしてるのが分かるくらい声が聞こえる。

この声は…

「おい、みずき…この声って」

「うん…絡まれてるんだろうね」

未来とケンタの声が聞こえる。

あいつらでも振り切れなかったか…

俺は、半分呆れながらマイペースに階段を上がり

自分の部屋の前までいく。

「おい、お前ら近所迷惑に…」

しくじった。

入った瞬間、俺はそう思った。

俺は、見られたら取り返しのつかないものを隠し忘れていた。

それは…

「お兄ちゃん…これって」

「…」

それは、ある一冊のノート。

俺はそこに、自分の過去のトラウマや音楽への葛藤、夢、思い、これまでの人生…

全てを大まかに書いた、いわば俺自身を書いた追憶譚だ。

それをまさか、こいつらに…?

「おい…まさか」

「ごめん…ここに書かれてる事は全部見た」

「サツ兄、あんな重い出来事があったことなんて知らないよ?」

「いや、本当にすまん」

「これ、俺が見つけちゃって…ごめん!」

最悪だ。

こうなることを予期して破棄しておけばよかった。

そもそも、これを書いたのは自分自身を見失わないようにするためだ。

俺が何を好み、何で笑い、何に苦しみ、どうあがいて、どう生きて、どこが夢の終着点で…

ただ、それだけだった。

別に人に見せるつもりもなかった。

だって、現に一番俺の近くにいる一番の理解者のみずきにすら見せてない。

「ねえ、さつき…もしかしてあれって」

「お前と未来しか知らないはずだったのにな…」

「…やっぱりそうなんだ」

「何の話?」

「…さつき、これはもう広めないほうが良い…よね?」

「もう手遅れだろ…」

そう。手遅れなのだ。

俺に何かがある。

それを知られた時点でもう…

いや、待て

それなら、俺の夢の実現に協力してもらえばいいんじゃないか?

これを知られた事自体、癪ではあるが

何で俺が音楽という名の手枷に縛られてるのか知られた以上

ただで見過ごしてやるつもりはない。

俺の創作に付き合ってもらうぞ…お前ら。

「…いや、別に構わないさ」

「え?」

「…⁉」

「ただし」


〝知ったからには、お前ら全員、俺の夢に協力しろ〟



----



 これは、俺自身を書いたノートだ。

20**年6月~20**年2月。

まずは、約8か月間受けたいじめについてそれに繋がる概要、そして夢を書こうと思う。

俺は、昔から別に音楽が好きというわけじゃなかった。

ただ〝何かしらを作る〟それだけに固執した子供だった。

そして、しばらくして中学受験をして有名私立の中高一貫校に入った。

今思えば、これが俺の人生において最大の汚点だったと言っても過言じゃない。

当時、俺は入った途端に落ちこぼれた。

別に、勉強がしたくて入ったわけでもなかったからだ。

俺がこの時、努力したのは小学校の時に同じく受験する女の子、その女の子がただ好きだったからだ。

彼女は、俺の初恋で他の誰よりも一緒にいて楽しかった。

そして、中学に上がった際に、離れ離れになるのが嫌だった。

だからこそ、俺は必死になって勉強をしてその有名私立に入った。

だが、彼女が選んだのはその有名私立ではなく女子中だった。

もし彼女がその女子中に落ちていれば、恐らく同じ学校だったことだろう。

そして、俺は成す術もなくその学校に進学することになった。

だが、今では思う。


〝来ないでくれてよかった〟


と心からそう思う。

なぜか?

それは、一言でいえばこの学校がクソだからだった。

うちの学校はいわゆる自称進学校ってやつで

課題は出る、授業数は多い、先生はネガティブで要求は高度、でも面倒見がいいわけでもない

おまけに授業の進行ペースは大学受験を意識してのことか1、2年前倒しの詰込み授業

基礎を固めずいきなり応用問題ばかり、それで生徒は頭がキレる陰湿な嫌なやつばかり 等々

とにかく、精神を疲弊させるシステムになっていた。

そして、俺は入った途端に勉強をする意味を見失ったがために落ちこぼれた。

これは、さっきも書いた通りだ。

そして、ここからが創作へ足を踏み入れる大きなきっかけとなる。

まず、落ちこぼれた時に俺は無力感を感じていた。

今まで、勉強ばかりしかしていなかったが故に、その勉強に裏切られ、俺には何もなくなった。

そんな喪失感が大きかった。

何よりも同級生の女が言ったとある言葉

〝あいつ、また最下位じゃん…ホント、何もないね~w〟

この、心ない言葉が俺を突き動かすのだった。

そこで、考えたことは〝俺に何かある状態を作ろう〟

そんな考えだった。

まず最初に手を出したのが筋トレだ。

俺は当初、がりがりで背も大して大きくなかった。

だからこそ、筋肉をつけて、くだらなくても誇れるものを手に入れよう。

そんな気持ちで始めた。

当然、きつい。滅茶苦茶きつい。

最初なんか腹筋すらまともにできなかったぐらいだ。

だが、徐々にルーティンにしていくうちにそれは目に見える結果となって出た。

体つきが全体的にシュっと締り、胸や腹にごつごつとしたブロックが

そして、腕も太くなった。

だが、今まで自重でやってたからだろう。

ある日を期に全く肥大化しなくなった。

そこで、俺は全く筋トレをしなくなった。

〝いや、もっといい器具とかがあれば!〟

なんて、言い訳をして…

そして、やめて数か月が経ったとき、酷い焦燥感に襲われた。

何か、やってないとおかしくなりそう…そんな感じだ。

そこで、俺は何かを作るという欲を満たせる事がないか探した。

そう、それが作曲だった。

初めは、プログラミングを始めてみようと意気込みネットで色々調べていた。

だが、ミュージックプログラムと書かれた記事を見つける。

そこで俺は初めて〝DTM〟の存在を知った。

コンピューターで音楽を作る。

ただそれだけのことにすごく惹かれ

初めは軽いノリでフリーDAWをインストールした。

初めてPCからピアノの音が出せた時、感動した。

なんてことないただの一音だ。

そこからだ。俺が音楽…いや、創作に心酔し始めたのは…

当然、音楽を作れる環境がある以上、まずは一曲作ってみたくなる。

それに、それを評価してくれる人間も必要だ。

ならば、いっそ思い切ってSNSを用いて音楽活動を始めた。

だが、俺はここで重大なミスをした。

リア友がフォローするアカウントでその活動を始めてしまったことだ。

それにより、クラス中に一人また一人といった具合に連鎖的にそのことが知れ渡る。

するとどうなるのか?

まだ判断力も、言動や行動でもたらす責任も取れない中学生だ。

俺は、音楽家としているだけでイレギュラー因子として見られ、いじめられた。

まさに、〝出る杭は打たれる〟だ。

俺は、ここから音楽と人に翻弄され続けた。

始めは、軽いイジリからだったんだ。


「〇〇P進捗どうすかw」

「うっさい」

「ww」


こんな些細なことだった。

だから、俺は場の空気に適当に合わせるために適当に反応してあしらっていた。

そして、こんなことが続くとどんどんイジリに加わる人間も増えてくる。

その中核に、人望の厚いやつがいればなおさらだ。

悪いことに、俺の場合その〝なおさら〟に当てはまってしまったわけで

その中核君の名前をここでは

再起不出来にしたくん(仮)として再不くんと言うことにしよう。

この名前に他意はない。(悪意はある)

そして、この再不くんはたちが悪いことにそのSNS、要するにネット上でも嫌がらせをするようになった。

こうなるともう止まらない。

どんどんとイジリが誹謗中傷に変わり、他の人間もそれに便乗してどんどん悪化していった。

しまいには、俺の個人情報までネット上に晒され、SNS上に嫌がらせのための俺の偽アカウントができ、俺の心は荒んでいった。

さらにさらに、学校でも同じようなことが起きており(むしろこっちのほうがひどい)

授業中に俺の曲を歌いだすわ、黒板に歌詞を書くわ、陰でこそこそと言うことを言うわ、人格否定までするわ…

もう、おかしくなりそうだった。

どこにいても何をしていても誹謗中傷、陰湿な嫌がらせ、罵詈雑言の嵐…

はっきり言って死にたかった。

それで俺は一時活動を辞めざる負えないほどにまで追い込まれ、SNSアカウントの名義すべてを手放す覚悟をした。

そこからはもう地獄だ。

何をするにしてもあの事を思い出し、人が怖くて、吐いて、頭をかきむしって、腹を痛めて、首を絞めて、ぶん殴って…

もう、本当にこれから先、ちゃんと生きていける自信がなかった。とにかくズタボロだった。

それに、俺は居場所を奪われた。

音楽という居場所、学校という居場所、家でさえあの事ばかり考えて全く休まらない。

だが、俺は諦めなかった。

その八か月間で得たものは、音楽をする楽しさや表現をする難しさに気づき、自分がそれに惹かれたことに気づいたことだ。

それは、良い意味でも、悪い意味でもだ。

下手したら音楽そのものが俺の精神的な支えだったといっても過言じゃない。

もっと言うなら、音楽が俺の人生そのものに成り代わっていた。

だから、その事件の後のほんのすぐ1か月後に俺は別名義で音楽活動を再開した。

かといって、ネットでの書き込みがなくなったわけでもクラスでのイジリがなくなったわけでもない。

ただ、少し大人しくなっていった。それだけのことだった。

それに、俺はその事件後に重度の人間不信や精神疾患を患ったため

これ以上、悪化させないようにするためにある対抗策を考えた。

それは…


〝相手の発言や行為、行動の一切に反応しないこと〟


これこそが、事態鎮静化に大きく働いた。

そもそも、人が人を傷つけたりするのはその相手に反応を求めて

その反応から、加害者自身が優越感を得ようとしているだけに過ぎない。

だから、それに対して反応せず、同時に一切に干渉しない。

そうすることがあの場の対処として一番だったのだ。

こうして、長い地獄は時間が経つにつれ解決へと向かった。

一貫校だったこともあってか高校時代、全てをも食いつぶしたが…

要するにこれが、いじめから生まれた俺のトラウマの大雑把な全体像だ。

すまないが、これ以上細かく書くと俺がおかしくなりそうだからこれぐらいにさせてくれ。

ここからは、俺の音楽で達成したい夢について書こうと思う。

みんなは、なぜこんなことになった元凶である音楽を憎む対象にしなかったか疑問に思うかと思う。

それは、それを上回るほどに音楽を愛していたからだ。

先ほども述べたように俺はあの8か月間で〝音楽そのものが俺の人生に成り代わっていった〟からだ。

そうだ、心酔していったんだよ。

だからこそ、滅茶苦茶いい作品を作ってもうこれ以上ないものを世に残してひっそりと自殺でもしてしまおう。

そう思った。

何が、夢だ?

ミゼリアみたいになることを目指して?

そんなの人障りのいいように作った架空の理想だ。

人前で掲げる嘘の夢だ。

俺の本当の夢は、その残った作品を加害者共が聞いて一生忘れられない気持ち悪さを抱えて、生きて苦しみ藻掻いて償うこともできないままくたばってほしい。

だから、曲だってお前らを抉る詩や曲を書いてる。

お前らに壊された、俺の人生。

この長い苦しみも全部、曲にしてやる。

それを広く、深く、大きく、嫌でも万人の目に留まるくらい大きく成功へ繋げてやる。

どうせ、今のアカウントで活動してることもあいつらにバレてる。

そんなこと、陰で言ってた内容盗み聞けばわかる。

そう、いわばこれは復讐だ。

俺は、復讐のために愛する音楽を凶器にしている。

重いと思っただろう?

だがこれが俺の夢の最終的な形であり成功だ。これが俺自身だ。だって…


〝俺の人生の全てはあの時あそこで死んだ〟


前に、俺にとっての成功をこう考えた

俺のやりたい音楽で食えることだと

だが、それは違う。

俺のやりたい音楽だけで食べていけるというのは俺の言うクソみたいな〝いい作品〟ができるまで、食いつなぐための手段としての理想論に過ぎない。食えないなら適当にアルバイトでもすればいい。

どうせ、死ぬつもりだからちゃんとした職を手に付ける必要もない。

だから…どうか忘れないでほしい。

あの時の苦しみや、憎しみを

これは、俺が俺自身に送る戒めでありけじめだ。

そして、生きている限り忘れないでくれ

必ずそんな俺の人生そのものがこもり、人に評価される作品(凶器)を作り上げるってことを…





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「…協力って、あんたこれ」

「わかってる、俺の自殺に付き合えって言ってるようなもんだからな」

「そんな…」

「お前の曲がなんでこんな物ばっかりなのか…よくわかった気がする」

「さつき…ほんとにごめんよ」

「…ぐすん(泣)」

「桜…まさか、泣いてくれるなんて…ごめんな」

「…わたし…私は、今でもその夢に賛成できない」

「…」

「私はぁ! あんたに生きててほしい! あんたがいると楽しい、それに好き…だから」

「…俺は、もうあの時ですでに死んでるんだよ」

「‼」

「俺の人生はもう作品を残して死んで、残った人間に惜しがられる、あとあいつらに一生拭えない罪悪感を…そういう、復讐でしか生きられないんだ」

「そんなことない! 普通に恋愛して結婚して…そうゆう生き方だって!」

「さっきも言っただろう? 俺の人生は音楽だ。もう、それしかないんだ」

「……っ」

みずきが俺に歩み寄る。

そして…

「…ん」

俺は…キスされてるのか?

やめてくれ、みずき

こんなことしても俺にはもう…

「私、自殺なんかさせない。絶対に!」

「俺が大事だからか? それとも、普遍的な一般論か?」

「あんたが大事だからに決まってんでしょ⁉ 私にはあんたのいない世界なんか生きてても何の意味もないんだよ‼」

「…」

何も言えなかった。

俺は、人に愛されちゃ駄目だと思ってきた。

きっと、相手を不幸にしてしまうから。あの加害者どもを除いて、俺の不幸は俺だけが背負えば十分だ。

だから、浅く付き合うかわざと嫌われるように振る舞ってきた。

でも事実…俺が死ぬことで悲しんでしまう人間ができてしまった。

好きって言葉すら、心から信じてはいなかった。

人間不信の俺にはただの適当な受けごたえか何かだと

でも、違った。これは、本物だ。

嬉しいようで、切ない気分だ。

だって、俺の生き方はもうずいぶんと昔に決心したことだ。

そう簡単に変えられるか

そこに…

「さつき」

「…何ですか先輩」

「これから先、あんたに大事なことを教えてあげる」

「?」

「だから! あんたを変えるまでそれに一生付き合ってやる」

「一生って…?」

「私はあんたを死なせない。むしろここから幸せになってもらう」

「…?」

「そのいい作品とやらなんかのしがらみなんて…さっさと作って捨てて、いい人生送ってもらう」

「先輩…」

「どうせ、諦めろって言っても人生が音楽だっていうぐらいだから聞かないでしょ?」

「…」

「だったら、そんないい作品作って活動なんかさっさとやめて、第二の人生を歩んでもらう」

「…僕に、できるんですか? そんな生き方が」

今まで自分を殺して生きて来たんだ

俺にそんな生き方、今更できるわけが…

「できるできないじゃない。やるんだよ‼ 生きて恥をかき続けろ、死ぬことで逃げようとしやがって‼ 甘えてんじゃねえぞ⁉

この腰抜けがぁ‼」

「‼」

そうか、俺は逃げようとしてたのか

ただ痛いから、ただ辛いから、ただ苦しいから

この現状から逃げ出すために…

それも、自分だけ楽になって、他者に手枷を残してから…

俺は…最低だ

「それだったら俺も協力するぞ?」

「…?」

「死ぬ夢を諦めさせて別の生き方をさせる代わりに、いい作品を作る夢を叶える…それなら協力してやるって言ってんだ」

「わたしも~!」

「ちょ、ええ?」

普通、こんなクソ野郎に尽くす義理はないはずなのに…どうして?

俺は、どうしようもない半端者なのに…

「お兄ちゃん、私も!」

「サツ兄に今までの恩返しもかねて俺もやる」

「お前ら…」

「まあ、これからも長い付き合いになりそうだしね」

「不本意ですけど…まあ、私にできることなら」

「僕なんかでもできることがあれば!」

分からない…何で?

「なんで俺を拒絶しない?…そんな迷惑…」

「迷惑~? 今、私たちが誰の家に上がりこんでると思ってんの?」

「そうそう、それは俺らのセリフだし(半ば強制的に押し掛けた俺が悪いしな)」

「そうね、むしろ私たちも色々してもらってるし…」

「そうそう水臭いよ、さつき」

「あんたが思ってる以上に皆、あんたのこと嫌いじゃないんだよ。無条件に助けてやりたくなるくらいにはさ? お前、本当はずっと誰かに助けてほしかったんだろ? 過去捕らわれるよりも今を生きろ。それがあんたのやるべきことだ」

「ま、そうゆうこと」

「人に頼る道だってあるんだよ」

「さつき、今度こそちゃんとあんたを救わせて」

「そうだよお兄ちゃん!」

「サツ兄もほんと頑固だよね」

「いえーい!」

「うぅぅぁ…」

俺は、先輩のこの言葉をずっと待ってたんだ。

これを聞いた瞬間、俺は涙が止まらなくなった。

ただこれだけで俺の手枷が少し軽くなった。

まるで、生きてていいんだよって言ってもらえた気がしたから。

「まあ、そうゆうことだね(よし、これで俺の罪も免れた~!)」

なんだよ、こいつ

人がせっかく軽くなった気分で泣いてんのに台無しだ

顔に出てて分かりやすすぎんだよぉクソがぁあ‼

…はぁ、とりあえずこいつだけは〇そう。

「はぁー全く、このお人よしどもめが…それと、DJ。お前だけは許さん」

「ええ⁉」

「罰としてお前の過去も吐け」

「え…」

「あんた俺と同じだろ…多分」

こうゆう自分の中に閉じこもったような内向的な面影、これは人嫌いがよくする顔だ。

「ちっやっぱ、見抜いてたか…俺のは君ほどじゃないよ? ただ、女に騙されて人間不信…」

「やっぱヤリ〇ンじゃん」

「否、断じて否」

「心配して損した…なんか思ったより味気ないから鉄拳制裁するか」

「ひぃいいいいい」


俺は、初めて人に素直に自分をさらけ出せる気がした。

この長い苦しみに終止符を打ってくれる人たちに出会えたからだ。

こうして、さつきの夢を叶えるというなんとも不思議な形で結束を強めていくのであった。




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 数日後、あの事件で俺の事情を知る連中を引き連れて話し合うことにした。

具体的にどうすれば名前を売ることができ、最高の作品を作り上げることができるのか

それについて話し合うのだ。

恥ずかしいからやめてくれって言ったんだけどさ…

「じゃあ、まずどうやってそれを叶えるかだけど…」

「最初は小さいハードルからこなしたほうが良いんじゃない?」

「というと?」

「コンテストに応募するとか?」

「それじゃあ良いものを作る事の見方が変わる」

「?」

「それは、他者の評価でのいいものだろ?」

「うん…あ、そっか自分のやりたい音楽でだもんね」

「そう」

「コンピレーションアルバムとMVを作って、それの売れ行きとそのMV再生回数を設定して…」

「それが今まで俺がやってきた事だ」

「それで成功するの相当難易度高いぞ?」

「それは承知の上です」

「大体、個人で音楽投稿して上手くいく人って…」

「必要なのは継続する力とクオリティーだ」

「そもそも、年何曲上げれば…」

「精々、2~4曲だろうな…」

「えーでも前、凄い速さで作ってなかったー?」

「あれは良いものを作ろうとしてやるというより、とりあえず形にした…って感じかな?それに…」

「それに?」

「MVって作んのクソ大変なんだよ」

「確かに…曲だけ作れればいいってもんじゃないね…」

「ちなみに作りたいジャンルは?」

「バラードとロック」

「なるほど…さつきが今必要なものって何?」

「人材だな。作詞、ボーカル、ギター録音、ベース録音、ドラム要員、イラスト、動画」

「私、アニメーターだからイラストと動画は何とか!」

「おっけい、じゃあここは未来ね」

「うん!」

「ベースは俺しかいないでしょ」

「じゃあ、ケンタよろしく」

「任せな」

「あとは…」

「おい、さつき。ちょっといいか?」

「ん?どうしました部長?」

「俺、ドラムイケるぞ」

「「「えぇえええ⁉」」」

「あれ?れんと天川にも言って無かったっけ?」

「部長、ホントそういう所よ…」

「じゃ、じゃあ部長よろしくお願いします」

「おう!任せな」

ホントこの人謎が多いな…

「私、ボーカル~」

「確かに!お前、歌い手じゃん⁉」

「えへへー」


〝尊い…〟


「じゃあ、桜頼んだぞー?」

「任せなさいな~」」

「あとは?」

「作詞は私やるよ」

「はるかなぁ~」

「いや、キモイわ…」

「じゃあ、よろしくな?」

「任せてください」

「おい、さつき?」

「れん先輩…何です?」

「結局、今回は俺が色々原因だし…なんかやらせてくれ‼」

「…じゃあ、MIXとマスタリングを先輩の練習かねてお願いします」

「おう!任せとけ!」

不安だなぁ…

「さつき、私にも何かできることない?」

「あるぞ、みずき」

「え、なになに⁉」

「俺のメンタルケアだ」

「…へ?」

「いや、お前これ結構重要だぞ?」

「な、なにがぁ?」

「作曲家ってのはすぐメンタルぶっ壊れる生き物なの」

「は、はぁ…?」

「それで、曲が作れなくなって寝込むことなんてざらにあるのー」

「はぁー分かったよ。じゃあ、その時は私に甘えてきな?」

「そうさせてもらうわ(よし!太もも揉みつくしてやるぜ!)」

なぜかみずきと先輩、はるかなの目が怖いんだけど…俺なんかした?

「ぼ、僕は?」

「そーたは俺のインスピレーション向上のために色々付き合ってくれ」

「…というと?」

「旅k………ふ、普通に友達しててくればいいよぉ」

あっぶねぇ…いま、旅行とかに付き合って貰うって言いそうになったわ…

こいつらの前でそんなこと言ったら当然、行きたがるよな…そりゃ

「う、うん?」

「まあ、これからも色々とよろしくな?あはは…」

「うん!もちろんだよ!」

「おーいおねーさんは?」

「その乳で性〇理でも…」

「おい、最低だわ…ここにクズいるぞ」

「冗談ですよ先輩。今までみたいに話し相手にでもなってくださいよ」

「それならお安い御用だよ~」

「それに、僕に教えてくれるんでしょ?別な生き方ってやつを」

「…当たり前でしょ?あんたみたいな優秀なクリエイターを簡単に死なせてたまるか」

「うっわ、なんだろう…このいかにも死ぬまでこき使ってやる感がありそうなセリフ」

「はぁ~いちいち過大解釈するんじゃないよ…全く」

「あと、それもそうですけど」

「?」

「先輩も僕と同じく曲作らないといけませんしね???」

「ナンノコトカワカラナイナ~」

「んんん?」

「キョクヅクリノ仕方シラナイナ~」

「教えてあげましょうかぁあああ?」

俺は先輩の脇腹をつねる

「ぎゃああああああああああああ」


--


俺らはさっそくそれぞれの役割に取り掛かる事になった。

これから1か月間でMV1本とそれを含めた5曲を作る。

まずは、なんといっても曲数が必要だからだ。

普通に考えればかなりの無茶だがやるしかない。

「サツ兄!ここの18小節辺りもっかい録らせて」

「お前、何テイク出すきだよ…」

「良いもの作るんでしょ?」

「あぁ…そうだな!」

「さつきー次のパートで使うドラムフレーズ思いついたぞ!」

「じゃあ、これ終わったらすぐに‼」

「あいよー」

「お兄ちゃん!一応、数枚ラフ画を書いてみたけどこんな感じでよさそう?」

「おお!すげぇいいじゃん!」

「やった~じゃあこんな感じで行くよ?」

「おっけい、ただアニメーション着手は曲ができるまで待ってもらえるか?」

「はーい」

「皆ーお茶だよ!はい、さつきお茶」

「おぉ、わりい」

「さつきここまで歌詞できた」

「できたー」

「うーん…ここの表現もっとくどくできない?」

「注文多いねぇーまあ、この有名作家に任せなさいな」

「頼もしいよ」

「まかせろー」

「いい歌い手もいることだしな」

「えっへん!」

「れん先輩言われた通りお菓子買ってきましたよ!」

「おい、そーた。お前人が良すぎるぞ?」

「いーのいーのこれぐらい」

「このいいやつめ」

「えへへ」

「さつきー行き詰ったぁあ!」

「なんか適当にリフでも刻みいれとけばいいじゃないですか」

「りぃふー?」

え、もしかして知らない感じ…?

「繰り返すメロのことね?素人かい?」

「ふん、バーカ」

あんたじゃ、バカ

「おい、さつきー試しに適当なプロジェクトでMIXしてみたよー」

「ここ、左右の音量バランスがおかしいからやり直し」

「ひぇえええ~もう疲れたぁ~」

「このお菓子が惜しかったら…やれ?」

「それ俺の!」

「終わるまで胃袋に没収しとくよ」

「終わったら吐き出すつもりなの…?」

「頭から吐きかけてあげるよ…まあ、冗談だけど」

「サツ兄録れた」

「あい、お疲れさん!じゃあ部長!」

「ほんとこれ運ぶのに親父の荷台借りてきたんだから…感謝しな?」

「ホントにありがたいです」

「じゃあ、いくぞー」

「3、2、1」

先輩のドラム自体、今日初めて聞いたけどかなりうまい。流石は我らの部長だ。

それにしてもよくこんな狭い防音室にドラムセットなんか入ったな…

「それじゃ、俺も取り掛かりますか」


5時間後


今、俺の部屋にいるのはみずき、先輩、はるかなのみになった。

他の皆は、各々適当に理由を付けて帰っていった。

「一番できたぁ~~」

「おぉお疲れ~」

「でも、もうちょい時間頂戴?このままじゃ色々、物足りないから」

「まあ、一か月間でだからね?…むしろ、こんな早くできる方が異常だよ」

「いや普段ならもっと時間かかってるぞ?」

「どのくらい?」

「曲完成が1か月半だから…大体、1週間?」

「えぇ⁉なんかおかしくない?」

「いや、お前らのおかげだよ…ありがとな?」

「いや…私は何も」

「いるだけでもいいんだよ。それに色々雑務とかしてくれてたみたいだしさ?」

「…それなら素直に受けとっておいてやるよ」

「何それツンデレ?」

「あんたにデレるかよ」

「でも、あんな大胆なことしちゃって…あんなディープなやつをさ~?」

「それは忘れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「ぐはぁ⁉」

「仲いいねぇお二人さん」

「せ、せ、先輩ぃ⁉」

「げほ…先輩、それなんすか?」

「ケツバットするやつ」

「…え、なんで?」

「道春ちゃんが…ね?」

「またあいつですか…」

またそうゆう系かよ⁉

おもちゃ持ち込み禁止ってあとで伝えとくか。

うっわマジで関わりたくねぇー

「あの子やっぱりどこかおかしいよ」

「それは先輩も言えない」

「んぅ~!」

「んで俺も言えない」

「じゃあ言うな」

「やだ」

「あっそ」

こんなやり取りをよそにはるかなは一体何を…

「はるかな何書いてんだ?」

「…読む?」

俺は数秒間考える。

これは、下手したら特大の地雷なのではないのだろうか?

こいつの書く作品の内容が最高にロックなのはこいつを知ってるからこそ分かる。

ただここで断るのも…

「遠慮しなくていいわよ?」

うん、違うぞ?

遠慮以前にそれに触れたくないのよ…少なくとも今は長時間の作業で疲れてるのよ?

そんなメンタルおかしくなりそうな読み物なんかなおさら読みたくないでしょーが‼

「あ、あとで読ませてもらおうかなー…なんて」

「いいから読め」

「はい」

俺、今日で死ぬみたいだわ


--読み中--


「お前…これは」

「どう?」

「めちゃくちゃいい話だよこれ」

「良かったー」

「それにしてもこれは何のために?」

「いや、あんたの作品作るのに脚本?的なものがあったほうが歌詞とかにもストーリ性出しやすくなるかなーって思って」

「‼」

「…余計だったかな?」

「いいや、むしろありがとさん!」

「…まあ、うん」

この反応は一体何なんだろうか。

「じゃあ、私そろそろ帰るね?」

「おう、お疲れさん」

俺は、立ち上がり部屋の扉へ歩き去っていく後ろ姿をただ見ていた。

「…何見てんの?」

「…え?いやなんでもない」

「何でもなくないでしょ⁉ 見てたよねぇ? ねぇ?」

こいつも急にどうしたって言うの?

なんか、サークルのやつらが来るようになってから癇癪起こすこと多くなった気が済んだけど…

「今、何考えてたか吐け」

「いや何も考えてない‼ 空っぽよ? 空っぽ‼」

「あんたが女を見る目なんかエロい目以外、何があるって言うの⁉」

「何処を見るかによって結構、罪のレベルも変わらない⁉」

「そうゆう目で見たことは認めるんだな?」

「いやまさか」

「~~~~っ」

もう、先輩も見てないでとめてくんないかなぁ⁉

「おい乳助けろ!」

「そんな人は知りません」

「下見ろぉ! お前しかねえだろ、そんなもん! いってぇ⁉」

「いや~ん」

「ちっ…なんか腹立つなぁあ‼」

「私はさつきとみずきと乳繰り合ってる姿をもうちょっと見てたいからやーだ」

「みーらーいぃいいいいいい」

次の瞬間、扉が蹴り破られる

「うるっさい!びっくりしたでしょうがぁあ!」

「おい、助けろ⁉(こいつ今、絶対扉の前にいたって⁉)」

「…あーうん」

なんか、先輩のほう向いて目線だけで会話してる気がするんだけど気のせい?

「じゃあ天川さんもそっちでこれ見てましょうか!」

「おう、そうだな! よくわかってるいい妹ちゃんだぁ!」

「ちょ、みずき⁉ シャレにならんからそれぇ‼」

「良いから口開けろ」

こいつが今、手に持ってるものはコーヒーとお茶、コーラ、ス〇ゼロ、野菜ジュースを混ぜた明らかにやばいやつだ。

さっき、片づけを装って皆が飲み散らかしたもんを片っ端から混ぜてる時点でなんか嫌な予感はしてたんだよ…

そんなもん後々、俺の口に流し込む気でいる事ぐらいわかるし!

「どーう?」

「うぐ⁉」

あ、死んだかもこれ

今まで体験したことない味だ

お母さんお父さん今までありがとう

「おおー飲み切った」

「…うぇ」

「みずきさんえげつないなぁ…」

「この子、もしかしてはるかなちゃんよりやばい?」

「嫌だなぁ~軽いお遊びですよー?」

「うん、どこが?」

「いやでも確かに昔っからこんな感じでしたよ」

「えぇ⁉なんか、歪んでない⁉」

「ゔゔ⁉」

今、臨死体験をしたよ?

ってか凄い気持ち悪りぃ…

「あ、お兄ちゃん起きた」

俺は起き上がると同時にトイレに向かって爆走する。

理由は2つ。

普通に気持ち悪いのとまだみずきの手に残った劇物があったからだ。

そして、起き上がったときのみずきの顔…

あれはもう仕留めに来てた

だから、立てこもる必要がある。

「私という女がありながらああああああ?????」

「お前という女に殺されそうだよ! おい、いい加減正気に戻れ! お前らしくないぞ?」

「うああああああああああああああああ????」

突如バタンという大きな物音が聞こえる。

それと同時にみずきの泣き叫ぶ声が止んだ。

俺は、恐る恐る扉の隙間から覗き見る。

そこには…

「さつき?なんか凄い物音聞こえたけど…」

「せ、せんぱいぃー」

「おぉ、これはまた派手にぶっ倒れてるねぇ」

「誰ですかこいつに酒飲ませたの?」

「多分、れん」

「あいつ…マジで出禁にしてやりたい」

最近、わかった事だがみずきは酒を入れるととにかく情緒が不安定になる。

さらには、酒癖が本当に悪い。

これをれん先輩含め、あいつらが知らないのも無理ないが…

「ところでさ?」

「はい?」

「今から風呂入りたいんだけど…一緒に入らない?」

「…はぁあああ⁉ どうゆう風の吹き回し⁉」

「話があんだよ。いーから! ほら行った行った!」

「ちょ⁉ 正気ですか⁉」

え、ちょ、はぁ?

唐突過ぎて意味が分からないんだが???

「服脱ぎ終わったら言って~」

「いや…あの…」

「んー? 何かなぁ」

「…いや、もういいです」

この様子だと俺に選択権はないらしい。

入口も先輩がいるし…もうあきらめて入るしかないのか…

俺は先に浴室内へ入る。

そこに…

「おじゃましまーすって浴槽広ぉ⁉」

「うちの親がやたら風呂に凝ってるんですよ…改築ばっかしやがって(ボソ)」

「へぇーそうなんだー」

「ところで先輩、一つ聞いてもいいですか?」

「んー? 何かなぁ?」

「何で唐突にこんな事を?」

「だからー話があんだって…もしかして期待しちゃった?ふふ」

「んなぁ⁉ そ、そんなわけないでしょぉおお⁉」

「でもここは素直みたいだけどさ~」

「へ?」

恐る恐る自分の下腹部へと視線を見やると〝ブツ〟が気高く、そして力強く立ち上がっていた。

「う、うあああああああああああああああああああああああああ」

「あっははははははw 顔まっかぁ~」

「こぉんのクソアマがああああああああああああああああああああ」

「まあまあ安心しなよ。流石にあんたを食べたりとかはしないから」

「先輩が襲う前提なんですね…あと、悍ましいこと言わないでくれます?」

「悍ましいとは何よ?」

「そのまんまだよ」

「んー?」

「まあ、それはいいとしてちょっと自分の体洗わせてください」

「お、出番かな?」

「帰れ」

「つれないなぁーこんなおっぱいでかいおねーさんに背中流して貰えるチャンスなんてそうないぞー?」

「…じゃあ、背中だけ」

あかん。

いま、その乳袋で背中洗ってくださいとか言いそうになった…あぶねぇー

ってか、自分の武器をちゃんと自覚してる辺りあざといな…

「あんた、なんてだらしない顔してんの」

「いや先輩のせいですよ」

「んー? はっはーん? ほれほれー」

「乳押し付けんな!」

「こうして欲しいって素直になったほうが楽だぞ~」

「余計なお世話だ」

-体洗い中-

「はぁ~極楽だねぇ」

「そういえば先輩」

「ん?」

「話って?」

「あぁ、ちょっとあんたのことでね」

「…前の俺のトラウマ関連のですか?」

「そう」

先輩の目はどこか悲しい目をしていた。

いつも、天然だけど落ち着いた先輩がこんなにも…

「今から話すのは私の昔の話…あんたには知っておいて欲しいかな」

そういうと先輩は、俺に自身の大親友である子と先輩の話を聞かせてくれた。

内容は、とてつもなく重かった。

要約するとこうだ。

ほんの些細なことからいじめを受け続けていた親友が、それに耐えられなくなって飛び降りようとして

それを先輩はただ目の前で見てることしかできなかった。

先輩はもっと寄り添ってあげたかった、こうなる前に何か他にできたはずだと自責の念に駆られていたらしい。

そして、それが先輩にとっての〝手枷〟になっていたわけだ。

そこに、似たような境遇の子がまた同じ事をしようとしてる。

それが俺だったわけだ。

あの時、〝お前を助けてやる〟なんてことを無条件に言い出したのも、俺を助ける事で、親友である彼女への贖罪にしようとも思ったらしい。

そんなの、その彼女と俺を重ねてしまうのも無理はないだろう。

だが、先輩が一番強く思うことは…

「私はね? これ以上、私の人生に関わった人間を無意味に死なせたくないんだよ」

「でも、俺やその親友の子が受けた心の傷は生きてる限り、一生消えないんですよ…だから、それすら吹き飛ばす何かがないと俺は一生手枷を背負って生き地獄を味わい続けなきゃ…」

「わかってるよ それも含めて〝助けて〟やる」

「そもそも、どうするつもりなんですか?」

「…ねぇ、あんたさ、今一人?」

「それってどういう意味ですか?」

「彼女いる?」

「…へ?」

「私なりに考えたんだ…どうすればいいのか」

「えーと、え?」

「これは良いやり方とは言えないけど…」

「??」

「あんた、私に依存する気はない?」

「…依存?」

「そう、壊れた心は元には戻らない。でも、何か生きる理由になる依存できるものがあれば死なずに済むかなって」

「…先輩、いくら僕でも怒りますよ? それ、本当に好きでもない人間とリハビリのためだけに自分を捧げるって言ってるようn…」

「そんなわけないでしょ⁉」

「‼」

「私…あんたのこと好きだよ? じゃなきゃ、こんなこと言わない」

「ちょ、ちょっと待って! 正気ですか? こんな、愚図で何の取り柄もないボロボロの復讐鬼…」

「そりゃさ、まだ出会って日も浅いしまだあなたの知らない事ってあると思う。大分、壊れてるとも思うけど…」

「けど?」

「あんたは優しいし顔も悪くないし家事もできる。なにより、人のこと思いやれる。これだけでも十分だと思うよ?」

「で、でもちょっと待ってもらってもいいですか? 実はみずきにもそうゆうこと言われたことがあって…」

「あんた、それ断ったんでしょ?」

「…??? 何で分かったんですか?」

「だからー優しいからだって、他の人にまで自分の過去の不幸で巻き込むようなことできなかったんでしょ?」

「う…全く、その通りですよ」

「人と人との関係って言うのはね? 互いに傷つき傷付けられるものなの。それを許容し合える覚悟のある人をいうのを友人や家族、恋人って言うんだ。君は、あのいじめで深く、そして、沢山傷ついた。だから、その分、人の痛みもわかる。ゆえに、あえて関わりを浅くしたり、人を遠ざけることを言い、場合によっては関係をすぐに断つことさえも…。それは、君もその相手も傷つき、傷つけたくないからなんじゃないの?…でも、私にはむしろ、その不幸による痛みを伝染(うつ)して欲しい。〝君が不幸なら私も不幸にして〟私が、そこから救いだしてあげるから」

よくもまあ、簡単に言ってくれるな…

俺は、事実として4、5年前のことでまだ苦しんでるんだぞ?

そんな、先輩に依存…。ましてや、恋人ごっこだなんて…そんなんで治るならとっくにみずきにそうしてるだろう。

まあ、確かに助けるといった以上、責任はあるとは思う。

でも、これでは先輩の人生を食いつぶすことになりかねないのでは?

だって、その救済ってのは一生終わらないものになるのかもしれないし…

「…一緒に背負ってくれる覚悟はあるんですか? 僕の壊れた心の痛みや苦しみの全部を」 

「うん、いいよ」

「一生、掛かるかもしれませんよ?」

「いいよ」

「先輩の人生を…」

「いいって言った。あの時、一生、つき合ってやるって言ったでしょ?」

「はぁー変わってる人だなぁ…」

「はは、よく言われるよ」

どうせ、すぐ別れるだろう。

本当に、優しいのは先輩の方だ。

普通、人のために全てを投げだしてやるなんて言えない。

言えただけでもすごい。たとえそれが贖罪の為といっても…

でも、本気になることもまずないだろう。

言うだけならタダだがそれを示すのは相当な困難が伴う。

先輩には悪いけど、ここはあやふやに…

みずきの思いを傷つけずに済むし、何処までも最低だな…俺は…

「じゃあ、まずはお試しでお願いできますか?」

「うん、これからもよろしく!」

「何か、こんなことが救済措置ってなんだか肩透かしですよ…」

「不満?」

「いや、そんなことは…」

「浮気とかしたら監禁してあげるから安心して」

「うん、何を安心しろと?」

「まあまあ、Hなことも少しぐらいは…ね?」

「うん、やっぱり、今ここで破局しましょう」

「えー? ここは喜ぶところでしょ?」

「先輩、俺のこと性欲に駆られたサルみたいに思ってません?」

「少し?」

「これだから乳は…」

「え、違うの?」

「ああ、そーだよバーカ」

「だははははははははw」

「………っ」

俺は、もう恥ずかしすぎて湯舟に顔をうずめるしかなかった。

ほんとに、この人は…

俺は、ふてくされながら

颯爽と風呂から上がり着替えて自室に戻る。

あ、ちなみに、先輩は今日、ここに泊まるらしい。

理由は、いつもながら進捗がダメなので俺が監視するってのと俺が早まったことしないかの監視役らしい。

まあ、監視つけられても文句は言えないこと企んでたから無理はないが…

実は、ここ数日間、日替わりで各メンバーが交代で俺の家に泊まり込んでる。

まあ、その一環ってわけで今日の当番が先輩ってわけだ。

たがいに、たがいを監視し合うってのも変な話だが…

「さつきーお茶ちょーだい」

「ウイスキーロックですか? 先輩、中々ですね」

「日本語分かる? おちゃあああ‼」

「はいお茶」

「ウイスキーじゃん‼ 馬鹿なの⁉」

「至って真面目です」

「私、お酒弱いよ? あ、もしかして寝込み襲う気か~?」

「は、むしろ寝てる間に廊下に放り出してやる」

「えー起きた時、腰痛いじゃん」

「そうならないようにうつ伏せにしておきますから」

「うーん、どうゆう意味かな?」

「~♪」

「最初はグ~じゃんけん…」

「あ、負けた」

「はいイッキ」

「????」

まあ、こんな調子だから先輩も俺も全く進捗がないまま、バカ騒ぎして寝ることになった。

…え、酒? そりゃ、先輩も付き合わせたけど?

「うへへへへへ」

「いや、ほ〇酔い2缶で…よっわ」

「さつきぃ~」

「ちょっとくっつかないでください! 先輩の布団、そこにあるじゃないですか!」

「う~~~ん、冷たい~~~」

今、ホントに廊下に締め出したい気分です。

いや、あのさ…え、ここまで弱いとは思ってなかったんだけど…

ほ〇酔いってそんな度数なかったよね⁉ ねえ⁉

「さつき…」

「せ、先輩?」

「…しよ」

「…な、何を?」

「えっち」

あかん。いつの間にか、服脱いで下着姿じゃねえか!

胸が当たってるし、吐息が…

ここでしたいっていうやましさは当然あるけど…

でも、ここで超えたら先輩と後輩の関係には戻れなく…

それだけはダメだ!

そうだ、みずきに来てもらおう。

もう、これ以上は…

「なんでにげるのぉ~」

「いや、先輩落ち着いて、ね?」

「私…本気だよ?」

「え、いや、あの…あ、そこは…」

はやく来てくれぇええええええ!

その時、いつものように窓ガラスを伝ってみずきが侵入してきた。

「はーい、先輩おしまい」

「み、みずき助かった…」

本当に、一線超えるとこだったよ??

先輩は色々、脱ぎだすし、俺はパンツを下ろされそうになったし…

「ん~~~私は酔ってらい! ひっく」

「どこがですか…ってかどんなけ呑んだんですか?」

「いや、ほ〇酔い2缶だが」

「…え?」

「いっひ~~」

「いやいや、え? 冗談でしょ?」

「マジだ」

「…先輩、そんなお酒弱かったんだ」

「全くだよ」

「ちなみに、あんたは、なに飲んだの?」

「ウイスキーロック1杯とハイボール2、3杯? あんま覚えてねえや」

「…先輩がそれを口付けた可能性は?」

「ないな、ほ〇酔い1缶の時点でウイスキーボトルは隠したもん」

「いや、なぜそこで止めなかったんだ…」

「いや、一応止めたよ? でも、勝手に2杯目いきだしたから…」

「もう、ホントに馬鹿なんだから!」

「う、悪かったよ」

確かに、取り上げとくべきだったな

これは、俺も猛省しなくては。

次からは気を付けよう…

「あ、先輩も寝ちゃった…私も寝るね?」

「おう、助かったよ」

「…あんた、欲情して襲ったりしちゃダメだよ?」

「一体、お前らには、俺がどう見えてるの?」

「メンヘラセクハラ野郎」

「おう、正解だ。帰れバーカ」

「はは、じゃーね、おやすみ」

「おう、おやすみ。サンキューな」

とりあえず一件落着(?)でいいのかな?

それにしても、あの時〝私…本気だよ?〟のあの意味…あれはなんだ?

それだけじゃない。

風呂場でもなぜか、つき合う方向で話がまとまったり

先輩はもしかして俺のこと…

いや、気にしすぎか。そんなことあるはずがない。

俺は、毛布を羽織って目を閉じた。

ちなみに、起きた時の先輩は…

「…意気地なし。腰抜け。クソ童貞」

「?????????」

…どうやら記憶はあったらしい。

いっそ、そのまま忘れてくれればよかったのに…




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 今日は、大きなイベントがある。

MVを完成させ終えるという

俺らのサークルメンバー+αで作る最初の合作。

ある意味、いろんな意味で最初の一歩だ。

当然、サークル活動の一環といっても、俺のことでもあるわけだし…

これをSNSで投稿し、少しでも多くの人に聞いてもらう。

今までと違って、頼れる仲間がいて作業を分担できることはとてもありがたい。

ちょうど、一人で成せることにも限界を感じ始めていた頃だ。

でも…俺はまだ、音楽を凶器に変えること、自殺することを捨てきれていない

こんな感じでこれから、仲間と何かを作る中で俺は変わっていけるのだろうか?

先輩の言うような〝別の生き方〟ってやつを選べる人間へと…

「なーにしけた顔してんのさ童貞」

「あの~先輩? 昨日のことまだ、すげー怒ってます?」

「べっつにぃ~??? ただ、租チン童貞意気地なしクソ野郎って思ってるだけだよ~~~?」

「おい、お前何したんだよ」

「いや、部長もその言い方酷いですよ? なんで俺がやってる前提なんですか?」

「寝込み襲いたくなる気持ちもわかるがな…」

「逆だ…ってか話聞け」

「正直に吐けば楽になれるさ…」

「黙れDJ…ってかはやくMIX終わらせてくれません??? どんなけ時間かかってんですか?」

「それはさつきがOKださないからぁー う~辛辣ぅー」

「ねえ、実のところ何があったの? 普通に気になるんだけど?」

「部長が言ったことの逆が起きそうになった所をみずきに助けてもらった」

「本当、さつきも人使い荒いよねー(間違いが起きなくて良かったけど)」

「んで、あんたはなんでシなかったの?」

「いや、俺はまだ、先輩と後輩のままでいたいと…」

「ふむ、なるほど…襲うのはまだ早いと。先輩が卒業するぐらいにヤルのね?」

「おう、はるかなさん?」

「お前…誰だ?」

「いや、さつきだが」

「誰と入れ替わったんだ? こんな、まともなことあいつが言えるはずがない!」

バコ

「~~~~~ったぁい」

「い・い・か・ら・や・れ?」

れん先輩はMIX、マスタリング初心者だ。

DJで簡易的なEQは使うからだろけど、EQ処理は申し分ない。

ただ、それ以前に音全体のバランスが悪かったり、お粗末なマスタリングで音圧がしょぼかったり…

だから、俺が色々教えたのに舐めたことばっかしやがって…

お陰で大分、作業が遅れた。

その挙句…

「部長くん~この子、さつきだぁ~」

こんな調子だから軽く殺意が湧く。

「じゃあ、頭がおかしくなったのか?」

パン

「Ohっほ…」

「何、感じてんですか? 次は蹴り飛ばしますよ?」

「あんたも何、馬鹿なことやってんの?」

「いや、やるならこいつらだよ? あと首根っこ引っ掴まないで?」

「はいはいおしまい あんたも、まだやることあるでしょ?」

「ああ、そうか! みらいの方を確認してくる」

「いってらっしゃい」

俺は、隣の部屋にあるみらいの部屋の扉をノックする。

みらいはアニメーションの最終段階に入り、作業している真っ最中だ。

「おう、みらい進捗どうよ?」

「結構いい感じにできてるよ~ 原画と中割り、色塗りをやってた頃が遠い昔のようだよ(白目)…あ、そうだ」

「ん?」

「ここ歌詞あってる?」

「どれどれーうんあってるよ」

「それならこのまま動画編集して、れんさんのMIXした音源と取り換えればOK~」

「本当にすまんな…こんな重労働をお前にさせちまって」

「本当だよ! 馬鹿兄にはご飯奢ってもらうからね」

「おう、任せときな」

まあ、俺に手伝うといった以上、バズるまで作り続けなきゃいけないんだけどね…

「まあ、慌てずゆっくりやっていこうかね」

「う…ん?」

「何でもない」

とりあえず進捗具合は大丈夫そうだ。

っとなると問題はやっぱり…

「れん先輩‼ 何度言えば分かるんですか⁉ ピークゲージが赤になってるでしょ⁉」

「ピークゲージ?」

「だからぁ! 0㏈超えてるんですってば‼」

「超えるとどうなの?」

「音割れすんだよアホ‼」

「じゃあ、どうしろと⁉」

「リ・ミ・ッ・タ・ァー‼」

「えーっと…なんだけ? それ」

「はぁ~もうやだ」

「ちょっとれん、あんたそれ教わるの4回目でしょ? いい加減覚えなって」

「…もう先輩に任せてもいいですか?」

「えーこればっかりは私の手に余るよ…」

「俺の手にも余るどころかお手上げなんですが?」

「ファイト‼」

「…変わらないと、昨日の〝あれ〟関連、一生擦りますよ?」

「ぜひ、お任せくださいィ!」

「聞き分けが良くてよろしい」

「お前も天川の扱いに長けてきたな」

「多分、部長程じゃないと思いますよ…」

この人、以前天川先輩にとんでもない姿で爆睡してる写真をバラまかれたくなかったら

俺の言うこと聞け的な脅迫で、見事に手ごまにしてたもんな…

「ん? どうした? そんなにじっと見つめて」

「…いや、別に」

「?」

「ところでさつき~」

「ん?」

「未来ちゃんの調子はどうだったの?」

「ああ、もう言うことなし」

「流石だねー」

「もう死ぬほど甘やかしてやりたい気分」

「おゔぇー気持ち悪ぅ~シスコンじゃん」

「手は出さないタイプのな?」

「…シスコンであることは否定しないの?」

「え?」

「何でもないです」

「それより問題はあの人なんだよね」

「れん先輩?」

「そう、あの人DJ以外のセンスが絶望的にない」

「いっそ、さつきがやれば?」

「そうしたいのは山々だけど…これ一応、サークルだし?」

「ああ、そっか。これが活動の一環なんだもんね?」

「そ、それに俺が手助けしたら、れん先輩の成長に繋がらないしさ?」

「それもそっか」

「そういえば、はるかなと桜は?」

「コンビニ行ってる」

「お、なら酒も買って来てって送ろ」

「あんた、まだ凝りてないの?」

「え? 何の話?」

「今からでも間に合う…後ろから襲え」

「は?」

「いっそのこと、私があんた襲ってやりたい」

「お前、頭大丈夫か?」

「あんたよりはね?」

「あ?んだと?」

「さつきはもうちょい女の子について知るべきだと思うよ」

「は、ゴリラが乙女を語るとか」

ドスン

「~~ま、違ってないじゃん‼」

「次はその球蹴り飛ばしてあげようか?」

「まーまーみずきちゃん落ち着いて」

「せ、先輩! 助かります!」

「……でも。これから寝てる時、気を付けてね」

これは、マジで犯されるでは?

「えっと…まだ襲う気なんですか?」

「当たり前でしょ」

「先輩、それなら私も混ぜてください」

あれ…? なんか変な方に団結しだしてるんだけど、この子たち。

「うん、君らそろそろやめない?」

「本当にダメな男だね~デリカシー無さすぎ」

「そうそう、普通、女の子の名前だっていきなり下の名前で呼ばないでしょ?」

「アブノーマル、インモラルなクズが俺のモットーなんで」

「あえて社会不適合やってるならなおさら立ち悪いんだけど?」

すると突然、先輩が俺の耳元で囁く。

「だからそうゆう所だよ…そうやって、わざと引かれようとしてるでしょ?」

「⁉」

まさか、昨日の風呂場での人を傷つけ傷付けられの話か?

「いや、先輩もさつきに何してるんですか 耳に吐息吹きかけたりなんかして」

「んー内緒」

そこに、れん先輩が割り込んでくる。

「ってかさつき~そろそろイチャコラ終わりにしてさっさと教えろぉ~」

「あ? うっさいわ! そろそろ金とるぞ⁉」

「ひぃ⁉」

「…なんて冗談ですよ」

そっか、先輩はホント全部全部、お見通しか…


〝頭が上がらないなぁ…〟


「先輩、これよりはましだと思うんですけど?」

「それは言えてる」

「何を! 俺だって頑張ってるじゃん!」

「じゃあ、あと一時間以内に終わらせてくださいよ? 遅らせた納期を埋め合わせるぐらい完璧な出来で…ね?」

「…えっと、ごめんなさい?」

「はぁ~無理なら無理って言ってくれれば良かったんです。最後の詰めだけは僕が変わりますよ」

「う~頼むぅ~」

「まあ、でも気持ちはうれしいですよ。ありがとうございます」

「さつきぃ~」

「ホントにそれでも先輩ですか?」

「おう、れん先輩だぞ?」

「…まあ、いいです。じゃあ、もう一度、基本のおさらいしますよ?」

「おう!」

「MIXで守るべきこと、マスタリングで使う機材、その機材の特徴をそれぞれ答えて下さい」

「マスターボリュームは0㏈を死守、マスタリングの時、主に使うのは機材はEQ、コンプ、リミッター、マキシマイザー」

「特徴は?」

「順に音質弄る奴、音を潰す奴、ある値を超えたらその分だけの音を消す奴、音圧を上げる奴! どうだ‼」

「はいはい、えらいえらい(棒)」

「馬鹿にしてるでしょ⁉」

「いやだってこれ、ド基礎だし⁉」

「ちっ」

「じゃあ、次。この中で一番、ナメたMIXする先輩はだーれだ?」

「あまちゃん!」

「先輩、GO」

「任せて」

「とりあえず、れん先輩。これ、MIXやり直しです 今から、48時間労働してください。一切、余計な事はさせませんからね?」

「とんだブラックじゃぁあああああ…ってえ、あまちゃん? それは…何を?」

「お前をロープで椅子に括りつけるんだよ」

「いやあああああああああああだあああああああああああああああ」

「だって、いい加減、私もキレそうだし?」

「そうそう。やり直しくらうにしても限度がありますよ…14回目とか」

「ちょ、ぐ、具体的に! 具体的にはどこがダメ⁉」

「全部」

「ん??????」

「…まず、バスドラムとベースの帯域が被ってます。あと、ピアノだけ右からベースだけ左から聞こえてあと全部中央にあるように聞こえます。ボーカルは別にいいですよ? でもドラムは? ギターリフは? バッキングは? シンセは? おまけに、音量も俺あれほどいったのに…これ、0㏈以上ですよね? 最後に、れん先輩が僕の言ったことを、何一つ守らずに推し進めるので救いようがないです」

「切腹します」

「キャラに合わないことしないでくれません? せめて、飲み過ぎて川に突っ込むとか…」

「俺、そんなパリピじゃないよ?」

「無駄口叩けるなら、96時間にしましょうか?」

「うん、何でもないです。ごめんなさい」

「んで? 直す気はあるんですか?」

「あります!」

「じゃあ、せめて絶対ルールは守ってくれません?」

「ふ…だが、断る」

「あ?」

「いや…なんでもないよ」

「はぁ~やっぱりなんか疲れた」

そこに、みずきが俺に歩み寄る。

「ちょっと、外いかない? はるかなちゃんたち荷物多くて大変みたい」

「そうだな、まだ時間掛かりそうだし、気晴らしにでも行くか」

「じゃあー私も」

「先輩…? 昨日は…」

「あーー急に、教えたい気分だな~!」

「よし、いくか」

「…あんたって人は」

俺は、適当な服を羽織ってスマホを手に取り、外に出る。

なによりも、ここ最近はこの家に缶詰め状態だったから、外出るいい機会だ。

…大学は、そーたに出席取ってもらってる。すまねぇ…今度、なんか奢ってやろう。

「なんだか、こうしてさつきと二人きりになるの、久しぶりだね?」

「あぁ、そうだな。ここ最近、特に忙しかったし」

「確かにね」

そう言うと、みずきは微笑む。

「でもさ、お前、対して音楽が好きでもないのにこのサークル入って大丈夫だったの? 苦痛じゃない?」

「今更でしょ? それにしても、DTMサークルがインカレ系だったのは意外だったけどさ?」

「はは、違いねえ」

「…ねえ、急に話変わるけどさ?」

ん…? こいつ、急に真剣そうな…。いや、どこか物悲しそうな顔して…どうしたんだ?

「うん」

「私が前にキスしたの覚えてる?」

「ああ、うん」

「私さ? あの時、なんであんなことしたのかよくわからなかったんだ」

「…うん」

「でも、今、分かったんだ。私、あんたがいなくなるのが…あんたが他の人と仲良くして私から離れていくのが…また、一人になるのが怖かったんだ」

「‼」

実は、みづきは両親がいない。

父親はこいつが生まれてすぐに自殺、母親は職場に向かう途中、建設中の足場の崩落に巻き込まる事故で死んだ。

だから、こいつの祖父と祖母が育ててきた。

だが…まさに、俺が、いじめを受けて精神崩壊している真っ最中に

旅行先へ向かう途中の車でその祖父母が事故にあった。

幸いにも、みずきは当時、高校受験の為に家で勉強をしていたので、事故に巻き込まれることはなかった。

でも、中学生でこいつは天涯孤独になってしまったんだ。

だから、しばらくはうちの親が面倒見てた。

飯もよく、うちで一緒に食ってた。

でも、家に帰ると独りぼっちで、学費やらで金も掛かるというのに配偶者がいない。

不幸中の幸いだったのは、みずき家にはローンや借金はなく、多少なりとも祖父母には貯金があった。

まさに、お先真っ暗の独りぼっち。この歳ではまだ、心の支えになる人が必要だった。

そこで、俺たちはたがいの苦難を打ち明けあい、心の拠り所にしあえるような、より深い付き合いになっていったわけだ。

こいつを一人にしてやれなかったんだ。

昔からの付き合いって言うのもあるが何よりも支えてやりたかったんだ。

そして、俺も支えて欲しかった。

共依存と言われればそれまでだが、関係ない。

大事なのは、本音だ。その本音をぶつけられる、さらけ出せる関係だ。

そこに、嘘なんてものは要らない。

そして、しばらくしてこいつは高校の学費を稼ぎながら、奨学金で大学に行くと決心し

今現在もこいつは自身の、生活費と学費を稼ぐためにバイト続けている。

当然、俺も、バイト代の半分はこいつにこっそり振り込んでやったりとかしてた時もあったんだけど、2か月後にその金をまとめて突き返された、あの時、思いっきり引っ叩かれたのは今ではいい思い出だ。

その時に言われたことはこうだ。

〝あんたは、ただ私といるだけでいい。お金で支えて欲しいんじゃないんだよ〟

こいつは、俺とさえ一緒にいれれば誰よりも強くたくましい女なんだ。

俺は、ただ精神面で支えてやれば…

「ねえ、聞いてる?」

「ああ、悪い。ちょっと昔のこと思い出してた」

「聞いてないじゃん‼」

「いや何…お前と深い仲になったのって、やっぱりあの時だったなってさ」

「ああ…うん、あの時ね…」

「お互い災難だったよな」

「うん。それって私がさっき言ったことでしょ? 私が甘えられるのもあんたしかいないの…だから、他の人に皆にさつきが取られちゃうんじゃないかって」

「俺の家はここだ。一人暮らしもするつもりはない。俺はお前が俺を嫌わない限り俺はお前を受け入れるし、ずっとここにいるよ」

「…でも、やっぱり私だけがずっと、さつきのそばに居たい」

まさかこいつ、精神的な距離っていう意味で取られるって言ってるのか?

それって、みずきの中では相当な依存関係になってるんじゃ…?

これは少しまずいな、少々、荒治療だが…

「…この状況で打ち明けるのもどうかと思うんだけどさ? 実は昨日、天川先輩と付き合うことになった」

「え、ちょっ…え?」

「まあ、聞けよ。先輩が言うには俺に必要なのは依存相手だって事らしい。生きる希望が必要だって…」

「つまり、依存によるリハビリも兼ねてのつき合いってこと?」

「まあ、そうなるな。でも、それは偽物であって本物じゃない。本物じゃなきゃ意味をなさない」

「じゃあ、なんでつき合ったの?」

「…俺も、誰かに甘えたかったのかな? 本当の俺を知ってくれてる誰かにさ」

「なんで私じゃダメなの?」

「先輩は俺のこと色々見抜いてる。俺の意図やら本心やらをね」

「…私、さつきのこと理解できてなかったの?」

「そこまで言うつもりはないよ。ただ…あの人になら一度、身を預けてみるのも悪くないかなってね?」

「そんな…」

「でも、さっき言っただろ? これは〝偽物〟だってさ マジで捉えんなよ?」

「…でも、もし本物になったら?」

「さあな? でも、多分それはない」

「なんでそう言い切れるの⁉」

「人が嫌いだからだよ‼」

「‼」

「…俺は、あの時、誰も信じれなくなったんだ。他人はもちろん、友人も家族も自分自身でさえも」

「そんなことって…」

「だから安心しろ。俺は、一生一人でここにいる。辛くなった俺はお前を受け入れる。信用は無理かもしれんが、お前を精神的に支えてはやれる。だから、一人じゃないぞ」

「それも先輩は見抜いてるの?」

「さあな、そこまでは俺もわからん」

「…も…には…(ボソ)」

「ん? 聞こえない」

「でも私だけのものにはならないじゃん‼」

「そうなるな、でも、俺はお前の所有物じゃない。俺はあくまで深いつながりの幼馴染だ。だからせめて、対等な関係でいてくれないか?」

「あ、ああ…そうか」

これでいい。

極度な依存は身を亡ぼすだけだ。

全て俺に頼って、全て俺にしがみついてじゃこいつは幸せな生き方は出来ない。

依存が生む先は堕落だ。そうなると、一人では生きれなくなる。

だからせめて…強く生きれるように

「…なら私も、つき合う」

「…は?」

「私も、つき合う‼」

「いや、待てよ、おかしいだろ⁉」

「うるさい! つき合え!」

そこに…

「いいんじゃない? それもさ」

「はるかなと桜⁉ お前ら、いつからそこに」

「ずっと」

「そうずーと!」

「いや、声ぐらいかけろよ…」

「お二人が仲良しそうだったから割って入るのが申し訳なくてね」

「は、よく言うぜ」

「はいはい、んでどーすんの?」

「どうするのって?」

「つき合うの?」

「嫌だって俺には…」

「天川先輩がいる?」

「…お前ら、どっから聞いてた?」

「キスの話から」

「全部じゃん」

「ないしょー」

「おう、頼むぞ~期待してないけど~」

「私は言いふらすけど」

「このドS鬼畜女め…」

まあ、乳からサキュバスに正式にグレードアップした人よりはある意味マシかな?

マジで襲われたし…

「まあ、それは先輩も交えての話し合いだな。俺の一存じゃ頷けんよ」

「言ったね? 帰ったら即刻、話し合いだよ‼」

「ねーねー私もつき合う~ これから二股するなら増えても問題ないでしょー?w」

「お前、ホントいい性格してるな…しばきまわしたろか?」

「♪」

はるかなのやつ、今日に限ってノリノリじゃんか

俺、この後の展開読めた気がして、家帰るのすげえ嫌なんだけど…

「とにかくだ‼ 今日は、やらなきゃいけないことがあるでしょ? それが終わるまで大人しくしてろ!」

「やっぱり、あとはれん先輩だけ?」

「おう。あの無能フロア湯沸かし器め…また頭おかしい事したらどうしてやろうか…」

「あ、あとでチクろ」

「むしろ、言いたいまであるけどね」

「物好きね。あんたも」

「お前もな(鞭とか器具とかであんなことやこんなこと…)」

「ちょっと、それどうゆう意味?」

「言葉の通りだよーほら、片方荷物よこせ」

「はぐらかすな! どういう意味か教えろ!」

「いや、それ俺が言ったら、あとで地獄を見るじゃん」

「その未来が想起できることを考えてたってこと?」

「…ほらお前、鞭とか好きだろ?」

「真顔で言うな、引っ叩くよ?」

「乗馬用じゃないのでお願いします」

「なんで、鞭でたたく前提なんだよ、クソが」

「まあ、そうゆうこ…いってえええ」

「帰ったらもっと地獄を見せてあげるよ」

「はぁ…地味にスナップが効いてて痛いなぁー」

「…もう一発やっていい?」

「HならいつでもWELCOME」

「…もういいや」

一方、その頃みずきと桜は…

「それでねーそのお財布を交番に渡してきたのー」

「えーそっか~桜ちゃん偉いねぇ~」

「えへへー」

…やっぱり、住む世界が違い過ぎるよ。

桜さんには頭上がらないなぁー

「おい。お前、あれが見えるか?」

「うん」

「クズは天使といたら色々な念に苛まれて死にたくなるんだよな」

「不本意だけど、あんたと同意見だわ」

「うちのサークル桜以外、全員クズだしなんか唯一無二感が凄い」

「そしてメンヘラはあんただけだけどね」

ここで、みずきの名前を出すのは不謹慎だから俺は適当にごまかす。

「ああ、そうだな。今度、チ〇コでもリスカするわ」

「それただのパ〇プカットじゃん」

「俺切られても元気でいられる自身がある」

「いや知らんけどさ」

「女からして異性の股間ほど興味ないものはないだろうよ」

「…そ、それは違うけど」

「じゃあ、あるの? うわ…これ、マジ凶悪な形してるな…とか?」

「あんた本当に一回死んでほしい」

「樹海いってきマース」

「なんか、ホントに未来ちゃんの兄貴なんだね…」

「うるせーよ。ほら、そんなこと言ってる間についたぞ」

「そうね、れん先輩、作業終わってるかしら?」

「……いや、無理だろ。家から出て15分だぞ?」

「?」

天然ボケとかいいからマジで

桜なら分かるが、お前はもう手遅れだろ。

あざとくかわい子ぶるどころか、何か意図を感じて怖いわ…

「…まあ、とりあえず様子見に行こ」

「あんた今絶対、心の中で馬鹿にしたでしょ⁉」

「おいおい、見てもないのに言うな」

「…天川先輩は?」

「淫乱サキュバス」

「れん先輩は?」

「フロア沸かせ器」

「私は?」

「ドSお嬢様」

「はい、死刑」

「待って‼ 情状酌量の余地は⁉」

「ない。死ね」

「ぎゃああああああああああああああああ」

「あのさ、何やってんの?」

「みずきヘルプ‼」

「自分で作った修羅場に私を巻き込まないでよ」

「みずきの今日の下着の色は…ぐはぁ」

「なんて?」

「ちょ、いきなり膝蹴りはなし」

「何で知ってんだよ」

「俺の目を舐めないほうが良い」

「殺っちゃおうか! はるかなちゃん♪」

「そうですね!」

「さよなら」

俺は、すぐさま自室へ向かい駆けだす。

この菓子を持って数日間でも数日間でも、防音室に籠ってやる。

「あーおかえりーさつきーってかどうしたの?」

「俺はここで籠城しますから‼」

「はい⁉」

「あれ~さつきくーんどこかなぁ?」

「あ、天川先輩とれん先輩! さっきさつきが…」

おい、まさか…

「なるほどなー」

「サキュバス…ねぇ…」

「「「「殺すか」」」」

なんかすごい物騒な単語聞こえた気がしたんだけど‼

俺、死ぬぅ⁉

「さつきくーん逃げ場ないよ~」

「早く出てきさえすれば楽に逝かしてあげるからー」

「ほーらーはやくぅ」

「この鍵、隙間からカードみたいなの入れれば、外側から外せそうですよ?」

「マジ⁉ はやく開けよう」

やばいやばいやばいやばいやばい

マジで殺されるぅうううううう

「ほら、開いた」

「ぎゃあああああああああああああ」

「ハローさつき~」

「覚悟してね♡」

「だぁあああああああああああああああああああああああ」

まあ、こんなわけでここから先の記憶は無いんだけども

少なくとも俺が意識回復した時点では…

「ほら、さつき起きろ」

ぺちん

「へ⁉…ぶ、部長?」

「MIXもアニメーションも終わったぞ」

「おお…え、そうなんですか?」

「うん。誰かさんが馬鹿みたいにすやすや寝てる間にね」

「寝てたんじゃない、意識をなくしてたんだ!」

「やだなー軽く膝蹴り頭に入れただけじゃん!」

「軽くの言葉の使い方間違ってるぞ? もの書きさん?」

「あれーまだ寝足りない?」

「…何でもないです」

「お兄ちゃん曲どうするの?」

「ああ、宣伝して明日夜9時に俺の活動アカウントで投稿だな」

「宣伝用に必要なものとかある?」

「あ、じゃあ15秒ぐらいの切り抜きお願いできる? このサビの部分なんだけど」

「おっけー任して!」

「よろしくー」

「さてと、それじゃ投稿の準備でもしますか」

「とりあえずこれでひと段落だね」

「そうですね」

「でも、まだ沢山曲作らないとだね?」

「う…まあ、頑張りましょうか」

「将来はいい社畜になれるぞ~」

「俺、今すぐ〇のうかな」

「れん先輩、さつきの鬱が悪化するんで一生口開かないでくれません?」

「ひど⁉」

「とりあえず、俺がくたばったら、れん先輩だけは末代まで祟る」

「怖いこと言わない」

「そうなる前に私とセ**…て子供を…」

「先輩は、俺の貞操を奪う事を考えるのやめてくれません? この淫魔」

「あー! また言ったぁ‼」

「いや大体、どんなけ俺のこと襲いたいんですか…普通、女性からそんなぐいぐい行きます?」

「女の子にだって性欲はあるんだよ(キリ)」

「いや黙ってください」

「大体さ? 〝女の子だからこうあるべきだ~〟とか〝女の子はそんなはしたないことしない~〟だとかうるせぇよ‼って感じだよ‼ 全く生きにくいったらありゃしない(怒)」

「何か、先輩がそれ言った後だと普段から開放的に生きてる感じがするのも納得ですね…自分の性欲にも」

「ってわけだからさつき♡」

「何ですか」

「ヤらせろ(圧)」

「〆るぞ、このクソ〇ッチがぁ‼」

その様子を遠目から見ている人たちは…

「何か、こんな積極的なあまちゃん初めて見た」

「マジで今すぐサキュバスのコスプレでもさせて外に放りだしたいんですけど⁉」

「おいおい、男からしたらこんな嬉しいことないだろ~? そう邪険にしてやるなってー」

「部長もこの板挟み食らえば分かりますよ…ほら」

「へ? 何が? あっ…」

「…」

こちらを見るみずきさんの目は人を殺す目をしている。

「あ、あのーみずきさん?」

「…す」

「へ?」

「殺す」

「もう、お家帰りたい…ここ家だけど」

「心の声が漏れてんぞ…大変だな…お前も」

そこに、道春が口を開く。

「ってか昼間は話してた話はどうするの?」

「ちょ‼ お前それは…」

「「「話って?」」」

「…こうなること予期できないのお前(ボソ)」

「…ごめん」

結局、この場では適当なこと言ってごまかした。

…いや、最低なこと言って誤魔化したって言った方が正解か?

ただ〝先輩の絶倫具合と乳首の感度について〟語っただけなんだけど。

「お前マジ絞め殺してやるぅうううううう‼」

「あまちゃん落ち着いて‼ さつきも発情期なんだよ‼」

「このクズに関しては俺が後で言っておくから落ち着け? な?」

「おい、はるかなお前、後でこの埋め合わせはしてもらうからな(ボソ)」

「わ、分かってるわよ(ボソ)」

「あんたマジで何がしたいの?」

「俺は被害者であり加害者だ(みずきさん? あなたの名誉を守るために身を張ってるんですが?)」

「うああああああああああああああああああこいつを殺して私も死んでやるううううううううう」

「いや、更生させる側のあんたがそれ言っちゃダメでしょ⁉」

「さつき黙れ」

「いいから謝れ馬鹿」

「この世のありとあらゆる生命と天川大先輩様に対して、生きてて大変申し訳ございませんでした」

「よく言った‼」

「素直に謝れるじゃねえか‼」

「…これで先輩方が俺をどう見てるかわかりますよ、ホントに」

「何でもいいけど早く曲上げてよ」

「みらい⁉ お前、この状況で辛辣すぎない?」

「あんな断末魔みたいな叫び声がうちの部屋の隣から聞かされてる身にもなれよ! ほらこれデータ!」

「お、ありがと…ってか断末魔って」

「ぎああああああああああああああああああああああああああ」

「…いやほんとごめん」

いや、このヒステリック俺のせいかねぇ…?

悪い気はするけどさ

「とりあえずもう曲上げられるでしょ? 自動投稿してまた明日みんなで集まろうよ」

「そうだな、結構いい時間だし。じゃあ、そうゆうわけでお開きにします~解散!」

「おつ~」

「上がるの楽しみにしてるよー!」

「じゃーねー!」

「おう!…んであんたらは?」

「「「飯!!」」」

ここで確定しました。

淫アマ、ヒスもの書き、暴君幼馴染の三人はクソってことが

「図々しいんですが?」

「いいから作れ!」

結局この日は飯作って食わせてすぐに帰らせた。

…居座られるとめんどくさいし


--


翌日、とりあえず曲を上げた。

思ったより伸びが良くないが、公開して数時間とかだから無理もない。

でも、ひとまずこのサークルで一つ作品を仕上げた。

それで十分じゃないか。


どうせ、死ぬつもりなんだから。


終(続くかも?)

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二浪上がりの作曲馬鹿が青春なんて Vaintown @Vaintown

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