【朗読あり】あなたの心を離さない“健気な”あの子

武藤勇城

第1話「出発前夜」

-8月31日 夜-


「今日は有難う。すっごく、すーっごく、充実した一日だったぁ!」

「おう、オレもだ」

「今年の夏休みは、本当に楽しかったなぁ~」

「いろいろ遊びに行ったよな」

「もうさぁ、一生分遊んだんじゃないかなぁ?」

「USJ、天神祭り、琵琶湖花火大会も行ったし、あとは盆踊りと・・・」

「海も行ったしぃ、旅行もしたしぃ・・・ケホケホ」

「その分、アルバイトもしたがな!」

「私もぉ~」

「暫く会えなくなるからな」

「本当に・・・行くのぉ?」

「もちろんだ。オレの夢、知ってんだろ?」

「パティシエになりたいんだよね」

「そうだ。一流のパティシエになって、美味いケーキ作ってやんよ」

「うん・・・」

「帰国したらさ、ほら、その・・・式・・・あんだろ?」

「結婚式?」

「ああ! その時にさ、どデカいウェディングケーキを! オレが心を込めて作ってやる!」

「ホントぉ?」

「ああ、だから元気出せ! たった一年じゃないか。あっという間だぜ」

「そう・・・だよね・・・ケホケホ」

「さっきから咳き込んでんな。大丈夫か? 遊び疲れたんじゃねえのか?」

「うん・・・そうかも」

「もう、家に入れ。オレも出発の準備しないといけねえから、そろそろ帰るぜ」

「ねぇ・・・」

「なんだ?」

「誓いのキス・・・」

「ここでか?」

「うん」

「家の前だぞ?」

「・・・うん」

「家族に見られたらどうすんだよ」

「親も公認だから・・・ねっ?」

「分かったよ。ほら目ぇ瞑れ」

「ん・・・っ」

「・・・。これでいいか? じゃ! また近いうちに連絡するからな」

「ケホケホ。うん。行ってらっしゃい」




-9月3日 夜-


「もしもし?」

「おう、オレだ」

「あのね、ケホケホ。今、平気ぃ?」

「なんだ、どうした?」

「うん、あのさ、ケホケホ。この間から咳が止まらなくってぇ・・・」

「ああ~、そう言えば、この間も少し咳してたな」

「それでね、ケホケホ。もう一週間くらいずっとだからぁ、ちょっと検査入院する事になったの」

「そうか。変な病気じゃねえだろうな?」

「・・・明日、だよねぇ、ケホッ。出発するの」

「そうだ」

「寂しいよぉ」

「海外留学のチャンスなんだ。やっと掴んだ」

「知ってるよぉ」

「ずっと専門学校で申請しててさ」

「うん」

「先生も昔、留学していた店なんだってさ」

「うん、前に聞いたよぉ」

「そのツテでさ、毎年二人・・・たった二人しか行けないんだぜ?」

「ケホ。うん」

「だから、このチャンスは逃せない」

「分かってるよぉ・・・」

「やっぱり、一年延期しようか? 先生に言ってさ、誰かに代わって貰ってさ」

「出発は明日でしょぉ? そんなの無理だよぉ、ケホケホ」

「じゃあ、留学は取りやめにする」

「ダメ! ケホケホ。そんなのダメだよぉ」

「けどさ。お前の方が大事だろ」

「気持ちは嬉しいよぉ、ケホッ。でも絶対ダメ」

「けどよ」

「ウェディングケーキ! 作ってくれるんでしょ?」

「ああ、そのつもりだ」

「私、ママとパパにも言っちゃったぁ。ケホッ。彼がね、大きいウェディングケーキをぉ、ケホケホ。作ってくれるって!」

「・・・ああ」

「だから! ね、ケホッ。頑張ってきて。私も頑張る」

「大丈夫、なんだよな?」

「ケホケホ。うん、ちょっと検査するだけだからぁ、ケホッ。心配しないで」

「そうか。なら、オレも頑張るぜ!」

「ん・・・体に気を付けてね」

「ああ! 行ってくる!」

「あっ、そうだ。ねぇ」

「ん? なんだ」

「フランスに行ったらさぁ、ケホケホ。電話料金が高くなるよねぇ?」

「そうだな。国際電話になると・・・どのぐらいかかるんだ?」

「ちょっと調べたんだけどぉ、1分で200円ちょっとかかるみたいなんだぁ」

「そんなにすんのか!?」

「ね! だからぁ・・・私ツイッターやってるんだけど、ケホッ。ツイッター始めてよぉ」

「ツイッターか・・・」

「そう! ケホケホ。それなら無料で手軽に連絡取れるからさぁ、ケホッ」

「苦手なんだよな、こういうの。まあ、うん、分かった」

「アプリは入ってるんだよねぇ?」

「ああ。アカウントもあるぜ。作っただけで一回も使ってねえけどな!」

「じゃあ私のアカウントぉ、後で教えるね」

「りょーかい」

「ね! ケホケホ。時差もあるしさぁ、ルールを決めない?」

「ルール?」

「そ! ケホッ。時差もあるからぁ、お互い、ケホケホ。一日一度だけ、送るのぉ」

「一度だけ?」

「そっ! ケホケホ。一度だけならさぁ、時差もそんなに気にしなくて平気だしぃ、ケホッ。少し時間があれば送れるでしょ」

「ああ・・・」

「めんどくさいって思ったでしょ?」

「・・・バレてる」

「そりゃね! ケホッ。もう何年の付き合いだと思ってるのぉ?」

「小学校からだから・・・何年だ?」

「14年? 15年かなぁ? ケホケホ」

「まあ、分かった。じゃあ明日、出発した後で、記念すべき初ツイッターを送るよ」

「ツイッターじゃなくってぇ、ツイート、ケホッ。って言うんだよぉ」

「おう、そうか。じゃあ初ツイートだ」

「あのね・・・ううん、何でもない。楽しみにしてるからね!」

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