警官の独白

@himegami_athena

警官の独白

ある大学生の女の子が妊娠した。結婚の許可を得ようと、パートナーと共に実家に帰ってきた女の子は、父親にこっぴどく怒られて家を追い出されてしまった。

女の子は地元では有名な名家の生まれで、父親は自分の家に泥を塗られた気分にさせられてしまったのだから、父親からしたら当然だった。


しばらくして女の子は出産した。泣き声の大きいとても元気な男の子だったそうだ。

この子の為ならどんな所でも生きていける

そう思いながら女の子は一日中子供を撫で続けたそう。


しかし子供は父親に取り上げられてしまった。

女の子とパートナーは大学を辞めて働き始めたとはいえ、十分な収入ではなかった。

更に名家の一人娘であったことから、その跡継ぎにはその男の子しかいなかったのも影響してしまったのかもしれない。


「お前たちが十分に独り立ち出来るまで、私が面倒を見る」


交際の報告も無しに、妊娠したから結婚を許してくれなんてお願いしてくる無計画な2人に子育ては無理だと判断したんでしょう。

今思えば、まだ未熟な2人に対しての、父親なりの温情だったのかもしれません。

ただ2人にその思いは通じなかった。

別に子供扱いされたから悲しんでいた訳ではなかったそうです。


子供が遠くへ連れてかれてしまった


その事実だけが女の子達を落胆させてしまったんです。

しかし彼女はめげませんでした。

パートを増やし、毎月実家へ100ドルずつ、お金と手紙を送りました。


手紙には子供宛に

「元気に遊んでいますか?」「ごはんはちゃんと食べていますか?」など母親らしく子供に話しかけ、

最後に「子供の頭を撫でさせてください」と父親宛の1文が添えられていたものだったそうです。


しかし7年間1度も欠かさずにお金と手紙を送り続けた彼女への手紙の返事は、ずっと届かなかった。


そんな中、パートナーが他の女の人と結婚するからと彼女と別れてしまった。

パートナーはそもそも彼女が名家の出であることを知った上で、無理やり結婚しようと女の子を妊娠させたのですから、結婚も子供に会うことも許されず、毎月100ドルの仕送りを課されている生活に随分と前から嫌気がさしていたのです。


女の子は絶望してしまった。

身近に家族と呼べる人は、もう誰一人としていなくなってしまったのだから。


そこで事件が起こってしまった。


女の子は自分にとって7年間、生き甲斐にしていた子供を連れ戻そうと、銃を手に取り実家を訪れた。

女の子は父親に「子供を返さないと頭を撃つ」と脅迫したが、

「家族に銃を向けるやつに子供は守れない」と女の子に帰るよう叱ったそうです。


女の子は悔しい思いをしたと言っていたそうですよ。

どんなに努力してもこの父親には届かない。

そう思いこんだ女の子は、ついに引き金を引いてしまった。


家中に響き渡った銃声に驚いて、男の子が駆けつけてきた。

そう、7歳になった女の子の子供だった。

大きくなった息子に感激し、腕いっぱいに抱きしめた女の子は

「私がお母さんよ」と名乗り、

「一緒に暮らしましょう」と息子の手を取ったが、

子供は返事をしなかった。


少し間が空いて、女の子が今度は母親に銃を向けると、送ったお金を全て返すように言い、家中の現金と金目の物を集めさせた。


ある程度トランクケースにお金が集まったタイミングで、僕が到着した。

近隣住民が銃声が聞こえたと通報したからだった。

万が一のことを考えて、銃を構えながら家に近づくと彼女がいた。


子供の頭に銃を突きつけ、「どかないと子供を撃つぞ」と脅迫し、こちらへ近付いてきた。

僕は銃を向け、彼女に「銃を下ろせ」、「子供を離せ」と何度も何度も、繰り返し言う事しか出来なかった。

それでも彼女は少しずつ近付いてきた。

1m、また1mとゆっくりと近付き、

最終的に腕を伸ばして飛び込めば届く距離くらいにまで近付いていたと思う。


僕はついに銃を下ろした。


子供を撃たせてはいけないと思ったから。

今になって思えば、彼女は本気で子供を撃つ気は無かったんだと思う。


そのまま逃がしていれば1番良かったのかもしれない。


しかしそんな中、応援のパトカーのサイレンが鳴り響いた。


彼女は気を取られていた。


だから僕は瞬時に腰を下ろし、再び銃を手に取り彼女に向けた。


それと同時に、少年が僕の目の前に飛び出してきた。


彼女は僕に銃を向けた。


咄嗟の事だった。


僕は撃てなかった。


だが彼女は引き金を引いてしまった。


目の前で少年の顔が歪んで倒れた。






時間が止まったようだった。


伸ばした腕に血が滴ってくるのにようやく気が付くと、その上で女の子が咽び泣いていた。





そこから先は覚えてないよ。



2日間は水すら喉を通らなかった。

今でも後悔してる。

やつれていた時に、同僚が女の子からの聴取の内容を話しながら、僕を慰めようとしてくれた。

君のせいじゃないって。

さっきまで話していたことを話しながら。


後日、女の子の母親が続きを話してくれました。

実は子供には毎月送られてきた手紙を読み聞かせており、その度に返事を動画にして残していたそう。

動画を撮り終えたら、父親は子供に「いい子にしてたら、いつか必ずお母さんが迎えに来るぞ」と子供にずっと言い聞かせていたんだそうだ。

7年間ずっと会えていなかったお母さんに会った少年はどんな気持ちだったんだろうってずっと思い悩んで、気付いたよ。


あの時、男の子はお母さんを守ろうとして飛び出したんだって。


「その話を娘さんにもしましたか?」と尋ねると、娘は5日前に拘置所で自殺してしまったと言った。


何故僕は、あの時銃を拾ってしまったんだろう。

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