青空と転校生

@yuuki9674

第1話

彼は転校生だった。骨折してギプスをはめた右足を引きずるようにしていた。

見ちゃいけないような気もしたが、痛々しいギプスはどうしても目をひく。

好奇の目を集めることを自覚していたのか。

形の良い臀部と肉付きのいい肩をすぼめるようにして歩いた。

自分の体の一部が邪魔で仕方ないような陰鬱な影があった。

南国を連想するような分厚い唇と、知的な光を帯びた目が黒曜石のように艶っぽい。

「和泉市の学校からの転校生です。岩城君よ。みんなよろしくね。」

担任は淡々と紹介した。

彼はぎこちなく挨拶をした。

「山口さん、知っているんじゃない?貴方のお母さんが勤務している学校よ」

「え?ほんと?」

私は、驚いて甲高い声を出した。

高い声を出してしまったことが、少し恥ずかしかったが、母のことが誇らしかった。

帰り道、みんなが友達を声を掛け合って帰る中、私は一人で学校を出た。

つつじが綺麗に咲いていて、赤と白の彩が目を引いた。

登校時は決められたメンバーで学校に行く。

特に話すこともなく、仲良くもなかった。

入学時は仲良くしようと遊びに誘ったが、数回遊んだ後は、かかわりは無かった。

放課後は自分の自由時間だ。帰り道はあえて、遠回りをして旭丘町を通った。

昔ながらの大型スーパーと現代的な洒落た建設会社を横切る道のりだった。

登校時とは違うルートで下校するのはどきどきした。

大きな坂道を下るときは、普段見ないような大きな青空と3車線の道路を眼下に望み、ぼんやり歩いた。

大型トラックがビュンビュン走った。

白い雲を眺めていることもあれば、掛け算や暗算を練習することもあった。

帰り道、薄暗い道を一人で歩くと、前を岩城が歩いていた。

「岩城、この辺なの?」

思いがけず、彼に会えた私は、声を掛けた。

「オレ、帰り道、こっちだから」

「そうなんだ」

いつもの友人たちとは、大通りの交差点で分かれるらしかった。

その後、大きな病院を通り過ぎて、薄暗く、人気のない道を選んで帰る。

私も彼と同じ道で家にたどり着いた。

彼とは時々帰り道で遭遇した。

時々と言うのは嘘かもしれない。

彼と同じタイミングで分岐点で鉢合わせるように、ちょっと遅く歩いたり、早く歩いたりした。

話すでもなく、ときどき「よう」と声をかけて同じ道を歩く程度の仲だった。

友人といる時は騒いでるけど、二人で会う時は思いがけず、彼は静かだった。

私は、太っていて、陰気で、学校でいじめられていたので、あまり彼と話すことはしなかった。

彼も、別に話しかけてはこなかった。

帰り道にあえば、距離を置きつつ、二人で歩いた。その程度の仲が数年続いた。

神経がささくれ立つ毎日だったが、無言で歩く彼を見ると、すこしほっとした。

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