一本釣り太郎

イツミキトテカ

第1話

 オレの名前は「一本釣り太郎」。昔はカツオの一本釣りを生業にしていた。自分で言うのもなんだが当時、業界でオレのことを知らない人間はいなかった。つまり、レジェンドオブ一本釣りである。


 だから、オレが突然漁師を辞めると言ったときには、漁業協同組合にハンパない激震が走った。しかし、オレとしては一生分以上の金が貯まって無理に働く必要が無くなったから辞めたまで。今流行の「FIRE」ってやつだ。


 そんなわけで無職になったオレは有り余る金でとりあえず無人島を買った。

 えっ?なんのためにって?


 そんなのもちろん決まってる。長年の夢である「野良猫とう」を作るためだ。ちなみに「野良猫島」とは日本中の野良猫が安心、安全、健康に生きていける、野良猫の幸せのためだけに存在する島なのだ。


 オレがそんなだいそれた夢を持ったのには理由がある。その時オレはただのガキンチョだった。


 昔、家の近所をうろついていた野良猫がいた。鍵しっぽのぶち猫ちゃん。たまにエサなんかやったりして自分なりに可愛がっていたつもりだったし、向こうも向こうでオレを見かけると走り寄ってくるほどには懐いていたと思う。


 しかし別れは突然やってくる。


 ある日、オレが小学校から帰ってくると、鍵しっぽのぶち猫ちゃんが我が家の玄関の前で冷たくなっていた。


 今となっては死んでしまった理由は分からない。だけど、わざわざ玄関まできて死んでいたことを考えると「助けを求めてきたのかな」とか思えてしまって、ガキだったオレは一晩中涕泣ていきゅうした。


 そして、その悲しい出来事以来、自分の非力さをずっと責め続け生きてきた。


 このとき、生き物を可愛がるということは半端な気持ちではだめだと悟った。一度決めたら最期まできちんと面倒をみる。その覚悟があって初めて生き物を飼うことが許される。


 だからオレは覚悟を決めた。


 全ては日本中の野良猫を幸せにするため。猫たちの安住の地「野良猫島」を作ろう、と。


 さっきも言ったが、オレはレジェンドオブ一本釣りだ。オレに一本釣りできないものはない。全ての野良猫を救うため、今日も釣って釣って釣りまくる。カツオもマグロも、そして不幸な野良猫までも、一匹残らず釣り上げてみせようぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る