いい年こいた大人が遊びたいだけ

長月瓦礫

第1回目 空


安物のサンダルをつっかける。

わずかに星があるだけで、他に何もない。

外灯に白い蛾がたかっている。


生ぬるい空気が肌をなで、通り過ぎる。

閑静な住宅街、のっぺりとした灰色の壁が並ぶ。

気だるい足は最寄りのコンビニへ向かっていた。


「あれ、悠人じゃん。ひさしぶりだねー」


頭にバンダナを巻いた萌黄が手を振っている。

周囲には彼の友達と思われる若者が数人いた。

同年代のネットゲーム仲間ということ以外、何も知らない。


「よう、なんか眠れなくてさ」


「そうだったんだ。大丈夫? これでも飲む?」


彼はペットボトルの水を手渡した。

喉がカラカラに乾いていることに気がついた。


「ありがと」


ふたを開けて、少しだけ飲んだ。

少し歩いただけなのに、汗が流れた。


「今日は暑いな」


「だね、どこにいても暑くてしょうがないよ」


「ほんとな」


教室や家はクーラーが効いているから、外との気温差が激しい。

地球環境が人間から離れてしまっている。

人間の技術力ではどうにもできないようだ。


「そういえば、テストどうだった?」


「まあまあかな。補習にならなかっただけマシって感じ」


「それ、赤点ギリギリだったってこと?」


「……そうともいうな」


俺は目線をそらした。

勉強しなければならないため、ゲームにログインできなかった。

ひさしぶりにパソコンに触ったからか、妙に目が冴えている。


「萌黄は何してんの、こんなところで」


「夜の見回りだよ。最近、変なのが増えてきたしさ」


「へえ、クソ暑いのによくやるね」


「今は何が出てもおかしくないからね。

悠人も気をつけたほうがいいよ、そこらじゅうにいるんだから」


後ろにいる友達がうなずいていた。

いつ自分が不審者に狙われてもおかしくはない。

この季節は浮かれるイベントが多いからか、奇行に走る人が多い。


「念のために、これ渡しておくね」


「おい、子どもじゃないんだから大丈夫だって」


お守りを無理やり握らされた。

これでどうにかなる問題でもないだろうに。


「何かあったらすぐに警察に連絡してね。

頼りにならないかもしれないけど、確実だから。

それから、なるべく人通りの多い道を使ってね」


「分かったって、気をつけるから! じゃあな!」


注意されるのが恥ずかしくなってきて、途中で逃げた。

確かに日付が変わる頃に外出するのはよくない。

それは自分でも分かっている。


あそこまで言わなくてもいいのに。

お守りを手の中でもてあそびながら、歩いていた。


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