8月26日

 8月26日、今日もオオバさんのところへ向かっていたけれど、部活動中に聞いた不思議な噂が少し気になっていた。


「……若宮さんが、か……」


 その噂というのが、若宮さんがスーツ姿の男性と歩いていたらしいという物で、目撃した女子によれば男性の腰辺りに掴まる若宮さんの顔が少し大人びていた事や仲良さそうな雰囲気だったから話しかけられなかったのだという。

今日も若宮さんは部活には来ていないが、その理由は変わらず体調不良らしく、お見舞いに行った女子はそれは嘘じゃなさそうだというので噂になっているのは若宮さんではないのだろうというのが部員達の見解だった。


「……まあでも、僕には関係ない。そうだよ、若宮さんだろうがそうじゃなかろうが僕には関係ないんだ。若宮さんが男の人と遊んでようが何してようが僕には……」


 自分に言い聞かせるように呟く。若宮さんがどう夏休みを過ごそうと僕の知るところではないし、好き勝手にしたいならすれば良いと思う。だけど、やはりあの日の事は僕の中にずっと残り続けていて、思っていたよりも自分が責任を感じていた事に正直驚いていた。


「……なんでだよ、なんでこんなにも残り続けるんだよ。忘れろ……忘れろ忘れろ……!」


 無理やり忘れようと自分に対して必死になって言い、ようやく若宮さんの事を忘れられた頃、僕はオオバさんが住む廃墟に来ていて、縁側には入ってみると、そこには初めて会った時と同じ胸元が緩い白い服を着たオオバさんが縁側に座っていた。


「オオバさん……」

「あら、いらっしゃ……何か辛い事でもあった?」

「……なんでもないです」

「なんでもないにしてはすごく悲しい顔をしてるわよ。話せないなら仕方ないけど、悲しい時はちゃんと泣いて良いのよ。私だって悲しい時はあるもの」

「……オオバさんにも?」

「ええ。酷い事をしたなと思ったり自分の汚さが嫌になったりした時は泣いてる。私、青志君が思ってるよりも綺麗な女じゃないから」


 そう言うオオバさんはいつもと同じで綺麗だったけれど、どこか儚さがある感じで僕は思わずオオバさんの事を抱き締めていた。


「青志君……」

「オオバさんは身も心も綺麗な人です。僕の方が色々汚いですよ」

「……それじゃあ汚い者同士、もっと汚くなる?」

「え……」

「汚いというよりはベタベタする、かしらね?」

「……はい」

「ふふ、それじゃあ今日も上がっていって」


 その言葉に頷いた後、僕は縁側に上がり、そのまま和室へと入って破れ障子をゆっくり閉めた。

 その日も夢見心地だったけれど、オオバさんも僕も相手に対して優しくする事を心がけていたようで、その日は激しさのないゆったりとした一時だった。

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