8月22日
8月22日、両親は変わらず喧嘩をしていて、父さんは母さんと一言も交わさずに出勤していった。僕もあまり話さずに部活動に来たけれど、正直な事を言えば、あの空気の中に帰りたくない。
どうせ何かきっかけがあれば仲直りはすると思うけど、そのきっかけが来るのはいつかわからないから、今のところは家に帰りたくはない。
「……昼を食べたらすぐにオオバさんのところに行こう」
青空の下で縁に座り、冷たいプールの水に足をつけながら呟いていたその時だった。
「……まだあの人と会ってるの?」
そんな震えた声が後ろから聞こえ、僕が振り返ると、そこには悲しさと辛さが入り交じった表情を浮かべて目に涙を浮かべた若宮さんがいた。
部活動中だから若宮さんも学校指定の水着姿だったけれど、他の部員達みたいに僕はチラチラと見たりも興奮したりもしない。若宮さんは男子達がそわそわするように見た目はたしかに可愛い子で、僕も何かきっかけがあったら惚れていたかもしれない。
けれど、僕にはオオバさんがいるし、若宮さんは僕とオオバさんの仲を引き裂こうとした張本人だから、僕にとっては可愛らしい同級生ではなく忌々しい女という印象しかもうなかった。
そして恐らく、若宮さんが言う“あの人”というのはオオバさんの事だと感じたので、僕はイラッとしながらそれに答える。
「……だったらなに? そんな若宮さんには関係ないでしょ?」
「関係あるないじゃないよ……だってあの人は、私達と歳が二回りくらい違うのに、夏野君とその……あ、あんな事を平気で出来るんだよ……! こんな関係、絶対に良くないよ!」
「……そんなの若宮さんに言われる筋合いはないよ。これは僕とオオバさんの事で、部外者の若宮さんが口を挟む事じゃない。それに、先生にまで告げ口をして……ハッキリ言って迷惑なんだよ」
自分でもここまでの声が出るのかと思う程に冷たい声で言う。そんな声で言われるなんて想像もしていなかったのか若宮さんはビクリと体を震わせ、そんな姿を見てやはり子供だなとため息をついていると、若宮さんはどうにか逃げそうになるのを堪えた様子で静かに口を開いた。
「……だったら、私が代わりになれば良い?」
「え……?」
「あの人としてるような事を私が夏野君とすれば、夏野君はあの人と会うのを止めてくれる?」
「……自分でなに言ってるかわかってるの? そんな子供っぽい気持ちのままで僕にオオバさんから離れさせられると思ってる?」
「……やってみせるよ。だから、明日だけ時間をちょうだい。みんなが帰ったあとに居残り練習がしたいって言ってプールの鍵を預かっておくから、ここでそれを証明してみせるよ」
「……そう。まあ、期待しないで待ってるよ」
僕のつれない返事に若宮さんはそのまま立ち去る。他の部員達であれば、今の若宮さんの言葉は天にも昇るような気持ちだろうし、その翌日からは他の男子に対して自慢したくてたまらないかもしれない。
だけど、僕にとってはどうでも良く、さっさと終わらせてオオバさんのところに行こうくらいの気持ちしかなかった。
そのため、その日の午後も昼食後にオオバさんのところへ行き、いつものようにオオバさんのその魅惑的な肉体に溺れていったのだった。
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