8月2日

 夏休みの2日目、午前中に部活を終えて予定がなかった僕は今日も一人で歩いており、その足は昨日も訪れた廃墟へと向いていた。

そうして歩きながら昨日の事を思い出した瞬間、僕の顔は燃えたかのように熱くなる。オオバという名前しか知らない女性に誘われて一人の少年から男になった昼下がり。

その出来事があったのが一日前だというのに、オオバさんの体の柔らかさやスベスベとした肌の感触、僕を更に熱く燃え上がらせた官能的な響きの嬌声や交わった際の電撃が走ったかのような全身への衝撃は未だに覚えていて、その時の征服感や快感に僕は身を震わせる。

以前、クラスメートの男子生徒の中に同級生と交わった事がある奴がいると聞いて、その時は羨ましいなと素直に感じた。けれど、そのクラスメートは知らないのだ。同級生の若い体では味わえない物が世の中にはある事を。

たしかに同級生に比べたら、オオバさんは若々しくなくて肌の張りも体力も劣るのかもしれない。けれど、オオバさんとの甘くて熱い一時はその羨ましさすら霧散むさんさせた。

体力が少々足りないからこそのゆったりとした蠱惑的な動きは、持続的な弱い刺激で全身をぞわぞわとさせ、仄かに漂ってくるむせ返るような甘い匂いや耳元で囁かれる賛美、動作の度に視界に入る扇情的な体つきは僕を燃え上がらせる火種となる。

たった一日、それも昼下がりの数時間程度の経験しかない若造が何を語っているのだろうとそのクラスメートからは言われるかもしれない。

だが、あのサウナのように蒸し暑い部屋の中でお互いの上がりきった体温を感じながらまるで一つに混じりあったかのような快感は、若くてまだまだ青い同級生では決して味わえないと断言出来る。

その証拠に今日も僕はオオバさんがいるであろう廃墟へと向かっている。名前しか知らないおよそふた回りも年が離れた女性との交わりが良くないのはわかっているし、このまま家へと戻ってしまえばきっと俺はオオバさんとの一時は夏に見た一度きりの夢だったと諦められる。

だけど、僕はもう廃墟の目の前に来ていて、昨日のように縁側には夏の熱さで汗を滲ませるオオバさんが立っているのだ。


「あら、青志君。こんにちは」

「こ、こんにちは……」

「ふふ、まだ緊張してるのね。まあそういうところも可愛らしいし、良いと思うわ。青志君、今日も涼んでいく?」

「……はい」


 オオバさんの肌に浮かぶ珠のような汗は太陽の日差しを反射して輝き、引力で体を伝っていく滴はオオバさんの白い服に次々と滲み、小さな水玉模様を形成して、その新たなオオバさんの魅力に僕はごくりと喉をならす。


「さあ、上がって。そこにいてもただ暑いだけだから」

「……おじゃまします」


 オオバさんに促され、僕は靴を脱いで縁側に上がり、隣に立つオオバさんの腰に軽く手を回しながら和室の中へと入り、再び穴が空いた障子が閉められる。

そしてまた僕はなってしまうのだ。この暑さの中で一人の少年から男に、ただ目の前の熟れた果実を貪るだけの小さな体の性の獣に。

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