第3話 「く」
今回のターゲットは、瑞希さん。
スッと伸びた背筋、隙の無い佇まい。
ロングストレートの黒髪をきっちりと後ろで束ね、真っ黒なカシュクールのタイトワンピースを難なく着こなしている。
キラリと光るシルバーの眼鏡と、その奥のどこか冷めたような瞳が印象的だ。
「つまらない?」
「え?」
口数も少なく笑顔も見せない彼女の隣の椅子に座った俺に、警戒感も露わな目が向けられる。
「俺が嫌なら移動するけど」
「別に」
「良かった」
彼女が飲んでいたのは、ジン・トニック。
彼女らしいチョイス。
ただ、あまり進んではいない。
「なぁ、ラムを飲んでみないか?」
「ラム?」
「ジンもラムもスピリッツだ。だったらラムの方が飲みやすい」
「スピリッツ?」
「あぁ。ざっくり言えば、アルコールの種類。どう?」
「じゃあ、いただいてみようかしら」
やがて運ばれて来たラム・ソーダを一口飲んだ彼女が、微かに笑みを浮かべる。
「飲みやすい」
「だろ?ラムの方が口当たりいいからな、甘みがあって」
「知らなかった。すごいわ、さすがね。お酒に詳しいのかしら?」
「それほどでも。ラムは映画で海賊がラッパ飲みしているのに憧れて、飲んでみただけだ。意外に旨くて驚いた」
「そうだったの」
「ちなみに。その海賊がヒロインに勧めてた酒も、ラム」
「面白い人。でも、本当においしい。センスいいわね。海賊も、あなたも」
ただそれ、アルコール度数は高めだから。
飲みやすい分、危険なんだぜ?
それほどアルコールに強くなさそうな彼女は、既にほろ酔い状態に見える。
そして恐らくはもう、俺への警戒は解けているだろう。
さて。
ここでもうひと押し。
「クール・ビィーティー」
「えっ?」
聞こえるか聞こえないかくらいの俺の呟きは、無事彼女の耳に届いたようだ。
「俺の憧れ。クール・ビューティーだな、瑞希さん」
呆れたような顔を浮かべてはいるものの、彼女の瞳に嫌悪の色は見られない。
それどころか。
テーブルの下で組んでいるパンプスの脱げた彼女の足の爪先は、先程から俺の膝下に触れながら、ゆっくりと上下を繰り返している。
揶揄うように。焦らすように。誘うように。
「そろそろ、出るか?」
「・・・・そうね」
さて。
海賊よろしく、瑞希さんを攫い出すか。
この退屈な合コンから。
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