3-8:敗北
大型ビスデスの悍ましい見た目に圧倒されながらも普段通りのコンボを決めに行く。
「“邪なる簒奪”!」
半透明の杖で大型ビスデスの足を殴りつけてスキルを発動させる。
「コロシテ……ヤル!」
殴りつけた足の肘に付いたデスマスクが声を発する。
「キメェんだよ!」
「「「「「「「「コロシテ……コロシテ……コロシツクス!」」」」」」」」
全てのデスマスクが同じように叫ぶ。
「“邪なる怨嗟の呪詛“!」
黒く変化した左腕でデスマスクの一つを殴りつける。
「ハハッ……あとは小まめに“邪なる簒奪”を入れてMPが枯渇しない様にしてれば勝ちだ……デカいだけじゃ勝てねぇんだよ!」
普段はこの時点で勝利だった。
近距離で“邪なる簒奪”を使いMPを回収、“邪なる怨嗟の呪詛“を使い”呪い“デバフを与えることで勝利する。
これが決まった時点でほんの少しの油断がグリーンの思考を歪めてしまっていた。
「ゲゲゲゲゲゲゲ!」
これまで聞いたことのない音、否、鳴き声。
それを認識した瞬間、ノースリーブで露出した腕に冷たい感触が伝わって来た。
「な……にぃ!?」
こちらを見ているようには見えない、焦点の合わない瞳。
そこから伸びた赤い舌。
その長い舌によって自分が絡めとられていることに気づいたのはすでにグリーンの体を引き寄せようとそのカエルの口をこちらに向けたところだった。
「ぐっ……“強打”!」
杖を使って拘束を振りほどこうと殴りつけるも絡めとられた左腕と腰はグリーンの体の自由を奪っていた。
空しくも“強打”ははずれ、デスマスクの一つに当たって効力を失う。
「ゲゲゲゲゲゲゲ……。」
ねばっこい涎ごと呼吸するその音はまるでグリーンを嘲わらうかのように触れ合った素肌を通して体に響く。
「暗雲が晴れていく……まさか……!」
自身のMPがなくなっていることに気づくとグリーンは青ざめた。
「ゲゲゲゲゲゲゲ……。」
「っ……はなせよ!どけっ!」
VIT極振りのグリーンのHPはまだ減っていない。
つまりこのビスデスがグリーンの体力を削る方法を持っていないのならば、呪いでいつか倒せるかもしれない。
しかしその間、このビスデスは気持ち悪い舌でグリーンを縛り付け、あの長い尾を叩きつけ続けるのだろう。
しかしその予想も、無慈悲に間違いだと知ることになる。
ドス。
そんな音が聞こえた気がした。
掲げていた尾は、その先端を尖らせ、グリーンの太ももを器用に貫いていた。
黒い粒子が溢れ、自身のHPが減ったのを視覚的に認識すると、100%の痛みがグリーンを襲う。
『人間は、肌に感じる風の感覚やにおいによって周囲の状況の変化を感じることができる生物です。しかしこの肌感覚をこちらで現実同様に体感できてしまうと大怪我を負ったときなどに動けなくなったり、放心してしまったりなどの問題が発生する可能性があります。』
あの時のことを思い出す。
『しかし殺された場合のショックは計り知れないものになりますが、それでもよろしいのですか?』
あぁ、どうしてこんな事、思い出していたのかと思ったら。
そうか。
「死ぬのか……。」
HPが持続的に減少している。
毒のような効果もあったのだろうか。
体が熱い。
汗が噴き出す感覚がある。
もしかしたら漏らしているのかもしれない。
足が冷たい。
足だけじゃない。
体の全体が、氷のように冷えていく。
視界はぼやけているが、真っ赤な何かに包まれている。
ニチャニチャと粘液のようなものが糸を引く音が聞こえる。
咀嚼されている。
そうか、あのカエル頭に食われたのか。
しかしあの小さな体では細かく砕かねば飲み込むことができず、こいつも四苦八苦しているのか。
VITが高いせいで咀嚼できず、おしゃぶりのように口の中を転がすばかり。
毒のHP減少が止まった。
ぼやける頭が少しずつ理性を取り戻していく。
うなされるような発熱が収まり、冷たい粘液の気持ちの悪い感触だけが感じられるようになってくる。
突然、体全体を投げ出されるような衝撃が襲う。
地面の砂が粘液にこびりついてさらに気持ちの悪い感触になるが、動かねば。
「ゲゲゲゲゲゲゲ……。」
「キチキチキチキチキチ……。」
あの尾が来る。
転がされた状態で、アレを躱さないといけない。
轟音と共に、大きな砂煙が上がった。
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