3-6:こうして日常は始まる
グリーンがログインするとウィンドウがポップアップした。
「次元戦争ねぇ……。」
フレンドコールが鳴り響く。
「……アマリリスか?」
「フフフ。もう私の声を聞かなくてもわかるようになったんだね、アオバ。」
アマリリスのこれにはあまり反応しないほうがいいと思ったグリーンは聞きたいことだけを聞くことにする。
「この次元戦争には参加したほうがいいのか?」
「あぁ、そのことなんだけど……参加を見送ってほしいんだよね。」
アマリリスは次元戦争イベントに参加してほしくないらしい。
「これって、この黒結晶の分サーバーにリソースが割かれるっていうイベントなんだよ。つまりゲーム内通貨の量だったり素材の量だったり……ジョブの数なんかが増えるわけ。」
「つまり……?」
「このイベントで勝てばサーバー……ひいてはプレイヤーが強化されるってわけ。」
「あ、なるほど。別に勝たなくてもいいんだ。」
「でもそんなんじゃ次の大規模侵攻まで暇だろう?」
アマリリスが“暇だろう?”といったら次に続く言葉は間違いなく。
「そこでこんなミッションクエストを用意しました~!」
【上位権限NPCミュラークイーン・アマリリスよりミッションクエスト“オクタディア第6位シロムクを討伐せよ”を提案されました。】
オクタディア第6位……シロムク?
「いや、何でアタシがオクタディアを討伐するんだよ?仲間だろ?」
アマリリスはそれを順番に説明していく。
「まず、オクタディア第5位のクロヌリには妻が居たんだ。それがこのオクタディア第6位シロムクその人さ。」
「えっ!?クロヌリって結婚してたのか!?」
「そ、まぁ、デスティアは子供を産まないから恋人といってもいいかもしれないけど……そして本来クロヌリにはもう一つスキルがあったって話をしていたよね?」
「あ、あぁ……そう言えばそんなことを掲示板で聞いた気がする……。」
「“比翼の黒翼”それがクロヌリの最後のAスキル。さらに言えばPスキル“エンゲージ”も実質使用不可と同様の状態だった。」
「もしかして“比翼”に“エンゲージ”……シロムクが居ないと発動しないスキルだったってことか?」
「そう、本来二人はペアでオクタディアを名乗っていたんだ。“比翼”によってお互いの位置へと瞬間移動しつつ“エンゲージ”の強力なステータス上昇を生かしながら戦い、必殺のデスティアウェポンによる追い込みで敵を倒す。これこそオクタディア第5位、そして第6位の称号を冠する強者としての姿だったってわけさ。」
アマリリスはそこまで言うと、でも、と続けた。
「でも、今の彼女はオクタディアと呼ぶにはあまりにも弱い。30レベルほどのティラーでも十分倒すことができるほどにね。」
「弱いオクタディアはいらないと……?」
「そうじゃないさ。ただ……彼女の気持ちを理解できるのは君しかいないだろう。」
恋人を失ったシロムクの気持ちを理解できる、という言い方にグリーンは心当たりがある。
「それは、アタシの過去の話か?」
「だからこそ、君に彼女と戦ってもらいたいんだ。結果的にシロムクが死んでもいい。ティラーである君は死なない。結末がどうでも、今の彼女を放置するよりはいいはずさ。」
「……。」
「怒らないでくれよ。フフフ。その泣きそうな顔、すごく愛おしいよ、アオバ。」
そんな顔をしていたのか、自分ではわからないものだと思いながらもうなずく。
アマリリスは微笑みながらグリーンを撫で、背を向けて去っていく。
「……頼んだよ。」
最後に呟いたその声が、少し震えているのを知り、グリーンはこのクエストへ挑んでみようと思ったのだった。
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