2章:第一回次元戦争イベント編

プロローグ

波の音が響いている。

パァン、パァンと……まるでダメな子を起こす母の様に岩肌に打ち付けられる音はそれを聞くものの心を傷つける。


「どうして……!どうしてあの人が……!」


抜け落ちた羽が部屋の中を真っ白に染め上げて数日。

この部屋の主は何かを求めて泣き続けている。


「クロヌリ……どうして……!」


積み重なった羽が彼との思い出を覆い隠していく。

二人で買ったカトラリー。

二人で行った山の花。

そして、彼と眠った大きなベッド。


「“比翼の白翼”……あの人の元へ連れて行って!」


自分とあの人を繋ぐスキル。

その大きな白翼はきっと黒翼の元へと自分を連れて行ってくれる。

そう信じてもう何度発動させたかわからない。


「どうしてよぉ……。」


もう彼はいない。

それを知らせるスキルの不発。


「まだ泣いているのね。」


いつの間にかいた来客は自分たちを受け入れてくれた女王様。

でも、その女王様のせいで自分は大事な人を失った。


「なんで来たのよ……女王様!“ホワイト・ピジョン・ブレイカー”!」


彼女の白翼が巨大化し、来客へと叩きつけられる。

しかし来客はそれをするりと躱し、彼女の元へと向かう。


「肌が荒れているわ……お菓子ばかり食べているのでしょう?もう持ってこないわよ?」


「うるさい!でてってよ!」


弱弱しい抵抗をものともせず、来客は自分の体を確認する。


「オクタディアと言ってもこうなってはおしまいよ?ちゃんと食べなさい。」


「……。」


答える気力もない。

目の前の来客は何倍も自分よりも強い存在だと知っている。


「……またくるわ。」


再び波の音が嫌に響く。

何度も。

何度も。

この部屋の主はまだ目覚めない。

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