1-16:AIの友達を作る位なら
振りぬいた拳は、女の顔面を捕らえていた。
しかし、女はその微笑みを浮かべた表情を崩すことすらなく、優しくその拳を己の手で包み込んだ。
「悲しいわね。この世界にいる限り、あなたが私を傷つけることは絶対にできない。武器を出していてこの程度では……ね。」
視線の先に転がった杖を見ながら女は言った。
「アタシのことを見透かしたようなこと言って、NPC風情が!」
殴りつける腕はむなしくも女に傷一つ付けられない。
「そのNPCにこの世界では敵わないのは自分でもわかっているんでしょう?」
「アタシが贈ったプレゼントで両親が死んだんだ!この気持ちがAIなんかにわかってたまるか!」
グリーンは掴まれた右腕ではなく左腕で今度は殴りつけようとする。
「無駄だと言ったでしょう?残酷だけど、ここじゃアナタが私に勝つことはできない。」
青葉の腕を無理やり降ろし、腕ごとその体を包み込むように抱きしめると女は言った。
「それにあなたの傷はそれだけじゃないでしょう?旅行を贈るのを決めたのはアナタだけじゃなかったのだから。」
「っ……。」
杖が消え、グリーンの体が小さく震える。
思い出してはいけない。そう心が叫んでいるのがわかる。
「彼は心が弱かったのよ。贈るのを決めたのは二人のことだったのに、自分一人で責任を感じて、あなたに相談もせずに逝ったのだから。」
「……。」
グリーンが抵抗する様子を見せなくなったことで女はその背を優しく、子供をあやすかのようにそっと撫でる。
「愛する相手を3人も失った可哀そうな子。それがアナタ。残されたのは3人の生命保険。彼の知り合いや家族にはこっぴどく言われたそうね?……そしてそのお金はあなたの心を癒すには不十分なものだった。お金なんてアナタは求めていなかった。」
「……。」
「だからこのゲームに参加したんでしょう?名前を変え、知らない土地で暮らしたい。そんな、言うなれば逃避のためにここへ来たんでしょう?」
青葉は頷くことも、否定することもできなかった。
柔らかい女の体に包まれて、まるで幼き日の母のように抱きしめる相手を、拒絶することができなかった。
久方ぶりの人肌を感じた青葉にその手を振りほどく力は残っていなかった。
「私も一緒よ。NPCだなんて、突然言われた私は狂ってしまいそうだった。自分がやってきたことが、自分がなぜクィーンなんて存在になってしまったのか……ずっと悩んでいたところにそんな答えを出されて、納得なんてできなかった。そう、友達が欲しかったのよ、私は。」
「……。」
「私の友達になってくれるかしら?青葉。」
「……嫌だ。」
彼女の体をしっかりと抱きしめ返しながら青葉は拒絶した。
「AIの友達を欲しがるほど、アタシはまだ落ちこぼれてない。」
まるで自分に言い聞かせるように、青葉は言った。
「……AIの友達を作る位なら、リカちゃん人形でも並べておままごとしていた方がましだ!”バトル”!」
抱きしめ返した腕は女の背後に回っている。
そしてその掌には再び出現した透明な杖が。
「Aスロット1・アクティベート!」
女の背を、鈍い光を放つ杖が襲う。
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