第7話 妹

007 妹


「それでは、これでよろしいですか」

毛利家と鈴木重當の条件交渉は終わった。

「駄目じゃ、認めんぞむむむむ」

一人、口を封じられていた男が何かを言っているようだが。


小早川は、伊予を奪取して、そこを領有すること。

千代が嫁になること。

元就死後は、後見として、重當が助けること。

その代わりとして、石見銀山の放出。

尼子残党の処理。


「道雪、儂は死んでしまったようじゃ」

「殿、しっかりしなされ、殿には、美しいお犬姫がおられます、未来殿もいらっしゃいます」と道雪。

「お千代~~~」

「殿様、お千代は隆景様のところにお嫁に行きますね」と千代。

「いってはならん、いってはならんぞ~」

「奥様を大事になさってくださいね」


「お千代、ううう、幸せになあああああ」男は泣き叫びながらかけ去っていった。

その速度は、馬よりも早かったに違いない。


「本当に良いのでしょうか」と困惑気味の隆景。

「小早川殿には、必ず跡継ぎを頼みますぞ」と義理父となる望月。

「それが、小早川、望月のつながりを強くする、ひいては毛利全体と鈴木のつながりを強くするのです」道雪がいう。


「ではとりあえず、伊予侵攻計画を早々に計画せねばな、本家が伊予に到達する前に決着をつけねばなるまいて」と道雪。

「そうですな」

「そうです」両兵衛は首肯する。


パワーバランスにおいて、本家が四国を席捲すればいずれ、重當家と本家が対立することは想定されていたのである。彼ら軍師(参謀部)はその先をはるか先すら見据えているのである。


というか、すでに水面下において戦いの火種はくすぶっているのだ。

圧倒的攻撃力で負け知らずの軍隊が、猛烈に進撃している、領土拡大は相当なものである。

一方は、四国すら攻略できず難渋しているのである。

勿論、男は取った領土を自分の配下に配ったりしているが極少量であり、ほとんどを孫一に渡しているのが現実である。


だが、それは九十九配下には、納得できるものではないこともまた事実なのであった。


男はしかしそのようなことに関心はなかったりする。

彼の関心はいかに儲けて、配下に配り軍備を増強するか、軍備増強のためにどれだけの金が要るのかということにしか関心がいかないのだ。


すでに戦国大名の資金源が田畑からの租税であることを忘れていた。

それだけでは、軍を維持拡大するには、足りないことだけは確実だった。

そういう意味では、土地に執着のない男だった。


婚姻の儀式は、金鵄八咫烏城で行われた。

小早川隆景と毛利隆元、吉川元春が呼ばれてやってきた。

「これはすごいな!」吉川の開口一番はこの言葉だった。

平城だが、ほぼ難攻不落に作られていた。

戦術の天才の元春にはそれが感じられたのである。

「この城の設計は、独特すぎますね」

隆景もほぼ同様の意見のようである。

基本的に銃撃に都合がよいように作られており、しかもその銃自体も世界で類をみないほどの高性能であった。


「よくぞ参られた」義父の望月が愛想よく迎える。

「来るな、隆景!帰れ!帰れ!」と男。

「誰か、殿を反省室にお連れしないか」と道雪。

「いやじゃいやじゃ」と男。


「殿には、可愛いおなごが複数仕えておりましょう」と官兵衛。

「よりどりですぞ」と半兵衛。

「馬鹿野郎!みんな子供じゃないか!」

「然り!さすが殿でござる、まさに、光源氏の如き策を使いなさる」と道雪。

「使ってないわ!この禿」

道雪は出家して道雪を名乗っている。


ある時、駄々をこねた、この男は望月に、千代には姉妹はおらんのかと聞いたのである。

「おりませんな」と望月。

「じゃあ、お前の嫁は千代殿ほど美しいのかの」と男。

「死ね!この痴れ者が!」

望月の剣が男の脳天をかち割ろうとした瞬間、無刀取りが発動する。

「無駄に、すごい技を出しおって」

その時、千代が望月に何か吹き込む。


「おお、殿、実は隠していたのですが、千代には妹がございます」

「何と誠か!」

「はい、しかし、殿のその不実な態度では、娘を見せるわけにはまいりません」

「どうすればよいだろうか義父上」と突然平伏する男。

「あれを書いてくだされ」

瞬間に皆が氷ついた!あれだと!


そう、あれである。悪魔の契約書の事である。

人々はそれを八咫烏起請文と呼んでいる。


さすがの傾奇者の前田慶次郎をしても、あれだけは近寄るべからずと言わしめた代物であった。


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