第8話 決着
正直、目前で起きたことが何もわからなかった……。
足元をがふらつき、気が付けば巨大な手が現れて目前のドラゴンを握りつぶしていた。
「ナニコレすごい」
「最上級の特殊魔法ですよーリューキ様―」
その状況を俺の頭の上にとまりながらミユキは解説をしてくれる。
「なるほどわからん」
とりあえず魔法であるということは分かったが……すごいな魔法、こんなことまでできてしまうのか……。
ドラゴンは腕の中で暴れる素振りすら見せない。
どうやら一撃で首を折られたらしく……手のひらからだらんと力なく垂れ下がった尾から、青色の血がたらたらと流れ落ちていく。
「異世界……やべぇ」
俺はそう一人目前で行われている光景に一人驚愕のため息をもらし、静寂に包まれた森の中、命が助かったことに感謝しつつその場にどっかりと腰を下ろす。
「リューキ様!?」
「いや流石に腰が抜けたよ……二百メートル以上のひもなしバンジージャンプに続けていきなりドラゴンとの対決だからな……腰どころかきっと横隔膜辺りまで抜けてそうだ」
「それでも生きてます! リューキ様の機転のおかげで、あの少女にも怪我はなかったですよ!」
「そうか、それはよかった」
俺は一人苦笑を漏らして、少女が魔法を放った場所を見つめる。
少し離れた小高い崖の上、先ほどまで高らかに杖を振るっていた勇ましいローブ姿の人間はすでにおらず、俺はすでに旅立ってしまったのだと悟る。
「せめて助けてもらったお礼ぐらいはしたかったですけど……気が付いたらもうあの場所にはいなくなっていたんです」
「まぁそうだろうな……なんとなくだが、わけありみたいだし」
「訳ありですか?」
俺はそこで口を閉じる……助けてもらった少女への恩をあだで返すのも忍びないので、俺は話題を変える。
「……それよりも、テルモピュリーはここからでも行けるのか?」
「え? あぁはい! 大丈夫ですよ! もうこの森の脅威となる魔物は消えましたからね。このドラゴンさえいなければ道のりは平たんです! 結果オーライって奴ですね」
にこにこと笑うミユキに、俺はひとつ頭を撫でてゆっくりと立ち上がる。
「うっし。なんだか死にかけたが、それじゃ当初の予定通り……」
テルモピュリーに向かおう……そう言いかけた瞬間……。
ガラリ……。
「ガラリ?」
何かが崩れる様な音がし、俺は不意に頭上を見上げる。
「あ、リューキ様……なんか嫌な予感します」
「奇遇だな……俺もだ」
上を見上げると、先ほど少女が作り上げた巨大な腕には大きなヒビが入っており、同時にパラパラと小さな小石や砂が降ってくる。
「……あ、やっば」
逃げなければという判断が脳裏を掠めるのと同時に……。
巨腕は音を立てて崩れ落ち……まるでここまで頑張って生き延びた俺たちをあざ笑うかのように、岩と泥の塊でできた雪崩は俺たちをその大口にて飲み込むのであった。
◇
「―――――――――――――――――……」
誰かが呼んでいる。
誰だろう……だけど、その声は悲しそうで……そして、どこか懐かしい。
誰の声かは思い出せない……だけどわかるのは、きっとその人は俺の大切な人。
泣くなよ……なんだか、俺まで悲しくなるじゃないか……。
そうして俺は手を伸ばす……いつもと同じように……その泣き虫の涙をいつも通りぬぐってやらなければ……。
◇
ぴとりと……冷たいものに手が触れる。
「……いきなりレディの顔に触れるなんて、ちょっとお行儀が悪いんじゃないかしら?」
目の前には、ローブをかぶった少女……そして俺はそんな少女の顔に、手を触れている。
ちらりと横を見るとそこは先ほどまで俺がドラゴンと死闘(笑)を繰り広げていた森の中であり。
同時に後頭部に感じる柔らかいものの感触。
現在の状況を冷静に分析しよう。
現在彼女が前傾姿勢で俺の顔を覗き込むようにしている。 そして俺は手を伸ばしてその頬に触れている。
ということはだ……これはつまり。
「胸で顔が隠れていない……お前、貧乳か?」
「目覚めて第一声がそれかい……」
「あだっ!?」
当然のことながら、俺は硬い大地に頭を放り投げられ目から火花をちらしたのであった。
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