第6話スキルグラップル
「だああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
高度何百メートルだかはわからないが、とりあえず落ちたら全身粉砕骨折でお陀仏であることだけはわかるくらいの高さからの自由落下。
自分でも間抜けとしか思えない死に方――しかも二度目――に俺は絶叫を上げながらも悲観にくれる。
恐らく転生から死亡までの最短記録を俺はこれで塗り替えることだろう。
あまりにもセカンドライフから死亡までの時間が短すぎるせいか、走馬燈すら浮かんでこないとはどういうことか。
「ご主人様! ご無事で!」
そんな絶叫を上げながら絶賛落下中の俺であったが、甲高い声が響き渡る。
ふと絶叫をやめて、その声の方向を振り返ると、そこにはミユキがいた。
「無事に見えるかバカ―! 思った通り転生から五分以内で死亡だぞこのままだと!そんな展開する異世界転生物の作品なんて見たこともねーよ!」
「たぶん、これが一番早いと思います」
「そういうことを聞いてるんじゃねー!?」
「大丈夫です! 私がミユキ様に遣わされたのは! オープンフィールドで一番よくある死因! 落下死を防ぐためでもありますから!」
そういうと、ミユキは俺の頭の上へと移動し、俺の頭に掴まる。
「いやいやいやいや!? その小さな体じゃ、空飛ぼうにも気休めにもなんねーから!」
「違いますよリューキ様! 私とあなたは同期をしているので! 私のスキルはご主人様も同じく使用できるんです! 一度触れてスキルを譲渡するのが条件ですが! 浮遊のスキルを使えば! 生き残れます!」
「はぁ!? そ、そうなのか!?」
「今は説明してる時間はないので! とりあえず飛んでくださああぁい!」
ミユキの必死の言葉に、俺はどうやってスキルをつかうのかもわからないままとりあえず浮遊するイメージをしながら落下が止まることを懇願する。
「止まれえええええええええぇ!!」
瞬間、落下をする……重力に体が引き寄せられていくような感覚は消え、代わりにブレーキがかかるかのような圧力が自分にかかり、心なしか落下速度が減速していることに気が付く。
「こ、このままなら何とか無事で済みそうですよご主人様!」
「ま、マジか!?」
俺は見えた希望にさらに強くスキルに願うと、その速度はさらに減速をする。
「ご主人様! 森に侵入します! 衝撃に備えてください!」
「了解!」
ミユキの忠告に、俺は浮遊のスキルを使い続けながらも、木々に直撃をして死なない様に身構えながら落下をする。
生い茂る木々の中に縮めて突入すると、森は突然の来訪者に苛立たし気に俺の肌をかきむしる……。
鈍い痛みが走りはするが、耐えられないというほどでもなく。
衝撃は想像していたよりもはるかに少ない。
浮遊のスキルで減速をしていたおかげか、木々の枝が俺の腕を引っ掻き傷を残すことはあれど、その全てがかすり傷程度で済む。
木々によるクッションと、浮遊を絶えずかけ続けていたおかげで、大地が見えるころには、既にその速度はすっかり殺されており。
特に足を怪我することなく、俺は緑色の苔むした大地にそっと着地をする。
「た、助かったのか?」
かすり傷になった腕や足は少し痛むが、動くのに支障は全くなく。
あれだけの高さから落ちたというのにほぼ無傷という現状に、俺は驚きを隠せずにそうミユキに問い返すと。
「え、ええ……その、落下死の脅威は免れましたが。リューキ様、新たな脅威が目の前に……」
頭上のミユキは震える声でそういい、俺の後方を指さし。
「へ?」
俺は指し示されるままにその方向へ視線を移す……と。
【……ぐるるるるぅああぁ】
俺のすぐ隣には、大岩の下敷きになり息も絶え絶えな、どこからどう見てもドラゴンにしか見えない爬虫類型の生物と……。
仲間を殺され怒りが頂点に達したと言わんばかりの形相で俺をにらむ、どこからどう見てもドラゴンさんにしか見えない爬虫類型の生物がいる。
「……あーミユキさん、もしかしなくてもこの大岩って」
「リューキ様が落とした奴ですね……不運にも下敷きになってしまったようです」
ミユキも俺も顔面を真っ青に染め上げながらそう状況を確認し合い。
高度何百メートルからの自由落下がどれだけ平和なハプニングであったかを思い知らされる。
何と不運にも、この足元で死に絶えそうになっている竜は、俺と一緒に堕ちてきた大岩の下敷きになってしまったということだ。
本来であれば不慮の事故なのだろうが、運命力の低さからか、赤塗りの高血統竜種に激突してまった俺への示談の条件は、速やかな俺の抹消(デリート)であろう。
この世界に来て間もなく……魔物や人間のパワーバランスなんか知る由もないはずの俺だが、目前のDRAGONを前にして俺は完全に戦意を喪失する。
「やべえ……やべえよ」
過去の俺はゲームのキャラクターたちを、こんな化け物に勇敢にも立ち向かわせていたのかと思うと、内心謝罪の心でいっぱいになる……よくも文句の一つも言わずに毎度毎度立ち向かってくれたものだ……。
【ぐあああああああああああああああ!】
口元には炎が漏れ出し、ぶすぶすとドラゴンの口元周りにある草木が音を立てて焦げていく。
冒険者にとってのお決まりであるドラゴンの吐息。
ついこの間まで、盾で防いだり回避行動の無敵フレームを利用していともたやすく回避していたが……。
間近で見るとすごい迫力であり、俺は逃げるという選択肢も忘却の彼方へと飛ばしてしまう。
その唸り声は地鳴りが如く……その熱量は灼熱が如く。
一挙一動即に大気が震え、その口元から漏れ出した熱量のみで、ありとあらゆるものが焦げ付き、蜃気楼があたりに浮かぶ。
これな怪物に、どうして戦いなど挑めようか……。
そう、圧倒的な力に対し、なすすべもなく死を覚悟する。
と。
「――……」
言葉までは聞き取れなかったが……確かに誰かの声が聞こえ、俺は視線を移すと。
そこにいたのは、フードをかぶった一人の人。
巻き込まれたのか、あちらが先に襲われていたのか……。
そこまではわからないが、一つだけわかることは、俺がここで死ねば次は目前のあの人が死んでしまうということだ。
……それは……嫌だ。
「リューキ様!! スキルグラップルを!」
そんな、力のないものの願望に応えるように、女神の声が脳内に響き渡る。
使い方も何もかも不明で、どうすればいいのかも謎であったが……
俺は意識をすると、まるで体は全てを理解しているとでも言うかのように、俺の左腕が、
足元で息も絶え絶えに死にかけている一匹のドラゴンへと吸い寄せられる。
その尾はざらざらしており、触れただけで俺の人差し指は裂け、血を噴き出すが。
そんなことにも気が付かないほどの衝撃が全身に走り……一瞬、焼き切れそうな熱量が脳を満たす。
全ての血管が無理やり開かれるような激痛に、俺は一瞬瞳を閉じると……。
【スキルグラップル……起動】
ミユキの声のようなものが響き渡り、痛みが引くと同時に目前に先ほど見たステータス画面の様なものが一斉に表示される。
「これは」
言葉が漏れ、同時にあたりの動きが全てスローモーションになっていることに気が付く。
恐らく、戦闘中にステータス画面を開いたゲームの主人公というのはこういう体験をしているのだろうなんてくだらない考えが脳裏をよぎる余裕があるほどにはゆっくりとした時間だ。
【スキルグラップルにより、目前のレッドドラゴンからスキルをグラップしました!】
ミユキの興奮気味かつ説明不足な声が響き渡り、俺はそのスキルに眼を通す。
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【レッドドラゴン💀💀💀 種族レッサードラゴン】
NAMED 国境の支配者 状態瀕死。
筋力 25 体力 22 知識 4 敏捷 8 信仰 0 運 6
保有スキル 咆哮A+/狙撃/第六感/火竜の吐息
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理解に苦しむ突然なスキルの発動であるが、確かに声のいう通り、目前には【火竜の吐息】や【咆哮A+】【狙撃】【第六感】という名前のスキルが視覚的にも分かりやすくアイコンと文字で表示されている。
で、グラップしたはいいがこれからどうすればいいんだよ?
【これから五秒間、このスキルは全てあなたのスキルとして保有されます】
「はぁ!? おまっ五秒? 今五秒って!?」
【大丈夫です! 触れ続けていれば制限時間は関係ありません! とにかく時間がありませんから! 使用したいスキルのアイコンに触れ、スキルを発動してください! 今の状況を打破するためには、もう【火竜の吐息】を発動するしかありません!】
ミユキの声は慌てているようであり、俺はふと目前のドラゴンを見ると、既に炎を吐き出しているところであった。
【急いで!】
「あああぁ畜生! 言いたいことは色々とあるが!」
とりあえず俺は、しゃがみ、竜の尾に触れた状態のまま、目前に表示された火竜の吐息のアイコンに手を伸ばして握りつぶす……。
【承認・スキル・火竜の吐息】
瞬間、ステータス画面は鏡が割れるように消滅し、同時に俺の拳から炎が漏れ出す……。
「いっけえええええぇ!!」
轟音、続いて火柱。
手を開くと同時に、目前から迫る炎をも上回るほど巨大な火柱が上がり、目前の炎と激突した。
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