ツンデレ見習いの彼女が髪を伸ばすわけ。
夕藤さわな
第1話
「彼が言ってたんです。ミステリアスでツンデレなロングヘアの女の子が好きだって」
彼女はそう言って楚々とした仕草で目を伏せた。
「髪には自信があります」
確かに長く美しい黒髪だ。
「元々、肩よりも少し長いくらいの髪だったのですが彼のために伸ばしました。もう少し伸ばそうとも思ってます」
なんて健気。
「自分で言うのも何ですが無口でミステリアスかなって」
ふむ、まぁ……ミステリアスと言えなくもない、か?
「あとはツンデレとやらを会得すれば彼の心を射止めることも叶うのではないかと思いまして」
はにかむ彼女を見下ろして俺はなるほど、なるほどと頷いた。
「彼はあなたのことをツンデレの師と仰いでおりました」
だろうとも。あいつにツンデレマンガやツンツンデレデレアニメを布教し、足首を掴んで沼に引きずり込んだのは何を隠そう、この俺だ。
「夜分遅くにお邪魔した挙げ句、不躾なお願いではありますが私にもツンデレをご教示いただきたく。どうかお願いいたします」
三つ指をついて深く静かに頭を下げる彼女の黒髪がさらりと流れた。俺は腕組みして彼女のつむじを見下ろすと、ふむ……と頷いた。健気で品の良い女性だが、しかしツンデレ要素は微塵もない。
「まずはツンデレの何たるかを理解するところからだな。やはり最初はツンデレの原点にして頂点、俺こん――〝俺の妹がこんなにたくさん!?〟の視聴からか」
「あ、ありがとうございます!」
弟子入りを認められたのだと気付いて彼女は目を輝かせたい。キラキラとした彼女の目を俺は見返した。
「礼なんて言ってる場合じゃないぞ。ツンデレは奥深い。どれだけ時間があっても足りるということはない。明日から住み込みで勉強してもらう」
「住み込み……!」
「最低三ヶ月はあいつに会えないものと覚悟しろ!」
「三ヶ月も……!?」
俺の言葉に青ざめた彼女だったがすぐに唇を引き結んだ。
「会えない時間が愛を育てるとも言います。彼の理想の女性になるため、ツンデレを会得し、必ずやミステリアスでツンデレなロングヘアの女の子になってみせます!」
凛と背筋を伸ばして挑むように俺を見つめる彼女の義眼を見返して俺はにやりと笑った。これは鍛え甲斐がありそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます