色彩銀河の夜
柊ラミト
第1話 始まり
夢を見ている。
過去の、事故にあったときの記憶だ。
居眠り運転の黒い車に轢かれる、そんな夢だ。
そして僕を助け出した誰かに
・・・キスをされる夢だ。
眩しい太陽に起こされ、目が覚めるとそこはいつもの見慣れた天井だった。
布団を整え、枕も所定の位置にする。
枕を触ると湿っている。
「あぁ、またあの夢をみたのか」
僕は過去の夢をみると自然と泣いてしまうようだ。
事故にあい、一か月間昏睡状態になり、後遺症で14年間の記憶と家族、友達、先生達の記憶を失った。
たった一人を除いて。
「かいー、朝だよー」
その人物とは僕の幼馴染一河始である。
栗毛色の髪、整った目鼻、スタイル抜群の身体、運動、勉強、料理などなんでもできる天才、天は二物を与えないというが、彼女はいくつも与えられているのだ。
彼女は僕が昏睡状態から抜け出したときに一番最初に気づいて病院の先生や親たちを呼んでくれた人物なのである。
そして何故かはわからないが、僕は彼女のことだけは覚えていた。
今の生活は始がいなかったら成り立たなかった、と思う。
始が教えてくれなかったら、家族も友達わからなかったから、知らない人たちと生活しなければならなかっただろう。
僕は少なからず彼女に感謝している。
だが、彼女以外の人間は信頼していない。
僕は人の顔を思い出せていないからだ。
「かいー?寝てるのー?」
「起きてるよ、今行く」
ドアを開け、階段を降り、一階のリビングに向かう。
そこにはいつもの光景が広がっていた。
始がキッチンに立ち、僕の親はのんきにテレビを見ている。
毎日見てるがいつ見ても理解できない。
普通逆である。
「なぁ、自分達で料理を作る気ないのか?」
ずっと疑問になっていたことを問いかける。
「作れないことはないぞ」
「ただまずいだけよ」
と、さも当たり前かのようにいう。
「幼馴染に料理を作らせて自分たちはのんきにテレビとか、どんだけク」
「まあまあ、私が好きでやってるんだからさ、ね?」
と言いかけるのを始が静止する。
全部いってたら喧嘩になっていたかもしれない。
なんて優しいんだと僕は思い涙を流す、なんと健気で優れた人物なのだろう。
それに比べてうちの親ときたら・・・
始の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものだ。
どうやら始は7歳の頃からうちで料理係をしているらしい。
つまり10年間、ほとんど毎日朝昼晩三食を作ってくれているのだ、恥ずかしい。
始の親も了承してくれているらしいが、自分家の料理のことくらい自分でやればいいのにな。
え?僕が作ればいいじゃないか?って?
確かにそうなのだが、僕が作ると大量にケガをするから始からストップがかけられているのだ。
「朝食できたよー」
と始がいう。
始の料理はそんじょそこらの店と比べても勝るレベルだ。
将来結婚するときの条件として始と同等かそれ以上の料理スキルがある人と決めているのである。
始が皿に料理を乗せ、それを僕がテーブルに運ぶ。
「今日の朝飯はチキンサンドか」
「そうだよ、君の大好物でしょ?」
「ああ、始のチキンサンドは絶品だ」
「そこまでじゃないよ、でもありがとう」
僕は親に目線をおくるがテレビに夢中で気づかない。
皿を並べるくらい手伝ってくれてもいいのに何故かなにもしない。
作ってもらっているのになんと横柄な態度なのだろう。
皿を並べ終わり、席に着く。
「いやあ、いつも悪いねえ始ちゃん」
と思ってもないことを親父はいう。それも毎日だ。
まるで餌に群がるハイエナの如く急いで席に座る。
本当にそういうなら皿並べくらいすればいいと思うのだが、僕は間違えていないだろう。まあ言っても無駄だから言わないが。
まぶしい太陽光がさす穏やかな朝なのに、僕はイラつく一方だ。
もうこれは毎日のことだから気にするほうが負けなのである。
いつもどり気持ちを切り替えないと。
さてと。
僕は手を合わせ、いう。
「いただきます」
僕はこれを毎食行う。所謂習慣だ。
「いただきます」
始もしっかりと言う派だ。
「いっただきまーす」
僕の親も一応言ってる。
だが言わない方が多い。
気にしたら負けだ。
チキンサンドを口に運ぶ。
「うーん、やっぱわかってたが美味いな」
チーズがちょうどよく溶けていて、伸びるし、マスタードがレタスと混ざってめちゃくちゃ美味い。どれくらいかというと語彙力が欠如するくらいには美味い。
一口、また一口と食べ進めているとすぐに食べ終わってしまった。
時間を確認すると、7時50分
急いで皿洗いを終わらせて、ギリギリ間に合うか、くらい。
「おい、急いで洗わないと間に合わないぞ」
「本当だ、手伝ってくれる?」
「当たり前だろ、誰かさん達が洗ってもいいんだけどな」
両親にがつんと一言。
「まぁ、出来ないことはないが」
「その、ねぇ」
僕は不満な顔をする。
これすら嫌だというのか?本当にクソだな。
正直僕はこの親が好きではない。
幼馴染に料理を作らせるわ、皿を並べないわ、洗いもしないわ、料理の手伝いもせずにテレビを見ているだけという、終わってる。
まぁ手伝って失敗させ、不味い料理を出されるくらいなら始一人で作ってもらった方が断然いい。
手早く皿を運び、水を出し、洗剤をつけ、皿を洗う。
皿は四つだから2分もかからないが、家から一番近いバス停は8時にバスが来る。
すぐさま片付け、カバンを持ち玄関に向かいドアを開け家を出る。
僕は何も言わずにでるが。
「行ってきます」
始はしっかり行ってきますという。
「別に無理して行ってきますっていう必要ないんだぞ?」
「ううん、いいの、私が好きでいってるんだし」
「そっかじゃあいいか」
やはりなんとできた人間なのだろうか
今日は4月9日、天気は晴れ、始業式だ。
新学期、クラス替え、色々と新しくなる時だ。
春ということで桜が咲き誇っている。
その桜並木を見ながら僕らは並走してバス停に向かう。
「そう言えば灰、ちゃんと課題終わらせた?」
始は走りながら僕の心配をする。
優しい。
「当たり前だろ?三日で全部クリアしてやったよ」
「ほうほうやりますな、まあ私は1日で終わらせたけどね」
始は謎な場面で対抗意識をもつのだ。
「ぜぇ、いやぁ始には、はぁ、敵わないな」
「無理して話さなくていいよ」
「ぜぇ、なんの、はぁ、これ、ぜぇ、しき」
「息上がりまくってるじゃん」
そう、僕の体力はもうとっくに限界を迎えている。
なんて話しているとバス停に着いた。
家から徒歩10分のところにあるから走れば間に合うのだ。
横を見ると始は今まで歩いてきたかのように息も上がっておらず、汗もかいていなかった。いつも通り平然と立っていた。
「ん?どうかした?」
「あ、いやなんでもない」
今日はいつもより遅く出たが、間に合ってよかった。
いつもは40分に出て、2人でバス停のベンチに座り本を読んだり、スマホをいじったり、2人で話したりしている。
後方からバスがやってきた。
バス停の前で止まると自動でドアが開き、階段に登れるようになった。
ゆっくりと上り、空いてる席に二人で座る。
学校に行くまでのルーティンとかしている。
実は僕は学校に行くまでのこの時間が好きなのである。
ゆっくりでき、落ち着くのだ。
始が僕の顔を覗き込む。
「どうした?」
「氷雨の情報なんだけどさ」
「うん?」
「転校生が来るらしいよ」
氷雨とは僕らのクラスメイトであり、学校1の情報屋であり始の大事な友達だ。
正直言うとめんどい。
僕は事故の影響で物事を覚えるのが苦手だ。
事故の前は学校で成績トップ3だったらしい、今はワースト3位だ。
完全に過去の栄光だ。
「同じクラスにはならないだろうからいっか」
「ねぇ、同じクラスだったら話しかけようよ」
あれ?俺の話聞いてなかったのかな?
いっかっていったんだけどな。
まいっか。
「始がそうしたいならそうするか」
「ありがとう!」
満面の笑みでそう答える。
周りの大人達もその笑顔に見とれてる。
その大人たちを睨み、威嚇する。
大人達はそっぽを向く。
気にしたら負けなのだが、バスが揺れるたびに始の体が当たる。
制服越しでも感じる柔らかい腕、さすがに照れる。
始は全然気にしていない様子だ。
そんなことを毎日考えている、時がたつのは早く学校に着いた。
ここまで10分程度だ。
学校が始まるのは8時15分。
いつもギリギリで着く。
校門の前では顔が怖いで有名な高橋先生が立っている。
いつも通り生徒に
「お前ら、あと5分で学校が始まるぞ、さっさと入れ」
と言っている。
「行こう、始」
「うん!」
そうして僕らは駆け足で学校の中に入った。
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