第42話 葵先生の優しさ


 「とりあえず、ご家族や薫ちゃん本人ですら知らないのですから、確認が取れるまで婚約者云々は無しということで」


 「そ、そんな」


 「それから、今日は皆さん、バラバラで帰って下さい。それが罰です。薫ちゃん。あなたは葵に送ってもらうわ。本当は私が送りたいけど、私も当事者って教頭先生に言われちゃって。今から、お説教だから、、、。はぁー」


 「わ、分かりました」


 「それでは、かいさ〜ん」


ということで、とりあえず今日の喧嘩は決着をみた。初日からこんななんて、疲れた。


 「それじゃあ、薫ちゃん。行きましょうか」


 「はい、葵先生。ごめんなさい、巻き込んでしまって」


 「いいのよ。今日、1年生は休みでしょう。暇だったの。本当、昨日疲れたんだから、今日ぐらい教師も休みにしてよって思ってたら、とんだ幸運ね」


 「あはは、、、」


 「それにしても、薫ちゃんも災難だったわね。昨日は結愛ちゃんが災難だったけど」


 「あぁ。連絡先を聞かれたっていう」


 「そうなの。男子が周りを囲んでね。一人一人聞いてたらしくて。それに、周りを囲んでたから、帰るに帰れなかったみたいなの」


 「えぇ。あの結愛が本気で怒ってました。2度とあのクラスの男子と話さないって」


 「あら、あの男子たちも残念ね。あんな美人な娘と喋れないなんて」


 「そうですね。自慢の妹です」


 「、、、。それで、薫ちゃんは大丈夫なの?」


 「僕ですか?正直、すごい疲れました」


 「まさか、婚約者がいたなんて」


 「いえ、本当に知らなくて。一応、父は会社でも重役らしいんですけど、そんなこと聞いたことないし。せっかく、またみんなと会えて、幼馴染とも同じクラスだったのに」


 「とりあえず、ご両親に聞いてみなさい。それから、今日はゆっくり休むこと。2年生2日目から休みなんて、悲しすぎるわ」


 「ありがとうございます、先生。先生は優しいですね」


 「そんなことないわ。このくらい当然よ」


キー


 「あれっ、葵先生?どうして止まったんですか?まだ、家じゃないですよ」


 「薫ちゃん。少しだけでいいから、ハグしてくれないかしら?」


 「ええっ。何でですか?」


 「あ、あぁ。その、薫ちゃん、今悩んでるでしょ。ハグしたら、和らぐと思って」


 「あ、えっと。そうですね。少しだけいいですか?」


 「うん」


ギューーーーーー


 「大丈夫よ、薫ちゃんなら。きっと、大丈夫」ギュー


 「ううっ。折角2年生になって、みんなと会えたのに。こんなことになって、突然婚約者とか言われて」


 「よしよし。大丈夫。大丈夫よ」


 「先生。ひっぐ。うぇーん」


 「うんうん。大丈夫。薫ちゃんなら、きっと」


葵先生の優しさが身に染みた僕は思わず、泣いてしまった。



(薫ちゃんに褒められたから、ハグしたくなったっていうのは黙っておこう)

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