第4話 東京調査隊出動
「よし、いよいよ出発だな」
厚労省の駐車場で桝田が意気揚々と言う。
「桝田さん、どうしてそんな余裕そうなんですか、俺なんて昨日一睡もできなかったのに」
「なーに泣き言と言ってんのよ、やっぱり18の青二才はここでお留守番しといたほうがいいんじゃないかしら?」
茶化すカレンはこの上なく楽しげである。
「もーっカレンさんだって大して俺と歳変わんないじゃないですか」
一方の秀斗は不貞腐れてしまった。
少しして1台の護送車が到着した。ボディはグレーを基調としたカラーリングで全体にマット加工が施されていた。
「遅くなって済まない、全員乗ってくれ」
運転席から身を乗り出しながら海老沼が言うと同時に車の扉が開いた。調査員たちは続々と乗り込んだ。車内は座席が向かい合うように設置されて、決して広くはないが特段窮屈というわけでもない。座席以外にはモニターが設置されているくらいで他には何もなく、窓のスモークが濃いため車内は薄暗く、辛気臭さが漂っていた。
「まるで犯罪者になっちゃったみたいですね」
秀斗がのんきに呟いた。
「ホントよ、こんな待遇なら志願なんてしなければよかったわ」
カレンが吐き捨てるように言った。
「すまない、東京まで向かう際の装備、食料、おまけにこの人数を運ぶとなるとこの車しかなくてな」
海老沼が運転席から前を向いたまま言った。
「海老沼さん、あんたが東京まで運転するのかい?」
桝田が尋ねる。
「ああ、そうだ。」
「東京までは相当な距離だ、1人じゃ大変だろう。途中で俺が交代するよ」
「いや、お前たちを運ぶことも俺の任務の一環だ。俺の心配をする暇があったらタブレットに任務の詳しい概要を送ってあるから確認しておけ」
桝田の配慮に対してキツめに海老沼は返した。
「ハハ、まだ若いってのに頑張るな」
桝田は運転席に聞こえない声で言ってタブレットに目をやった。
タブレットは初日に調査員全員に配布されていた。微細な電波でもキャッチできるように改良が施されているらしく、東京のような荒廃した都市でも通信が行えるという。
少しして車は動き出した。調査隊はついに東京調査へ向けて出発したのである。
アマテラスは岐阜県と福井県をまたがるようにして、山を削り築かれた都市である。東京までは崩落した道路などを避けて行くため3日ほどかかるようだ。
1時間ほど車を走らせたが調査員一行はまだアマテラスの中心街を抜けられていなかった。アマテラス内部には、政府直轄地区で国の心臓である中央区、そしてその周囲を囲うように北区、南区、東区、西区が存在する。国民の9割近くがこの4区に住まうため都市は高度に密集し、建物は上へ上へと伸びていた。多くの国民はこの4区の外に出る必要がないために、地下鉄などは発達したものの地上の交通インフラ、とりわけ高速道路のような長距離移動向けの道路の開発はされていなかった。故に護送車はまだ東区を走っていたのである。
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