第2話 紡がれた力
(ぴちょん…ぴちょん…)
水の落ちる音にオレは再び目を覚ます。体は…力が入らないままだ。お腹も空いた。辺りは真っ暗なままだ。…いや、遠くの方だが、薄ら光が見える。その光は、徐々にオレの方に近づいてくる。助かった。光に向かって助けを呼ぼうと口を開けた瞬間、その光は口の中に入ってきた。光るスライム!?光るスライムは、どんどん口の中に入っていく。くっ、苦しい。
(ゴクンッ)
オレは光るスライムを食べてしまった。突然の出来事に息が乱れる。オレは一度大きく息を吐き、今の状況を整理しようとした。その時だった。
『…自己再生能力:2兆cell/秒、神経毒耐性、…耐性…』
何だ??頭の中にまるでゲームのステータスのような情報が入ってくる。
『…フレアバースト…グングニル…アイスブランド………アースバインド…………』
知らない言葉の羅列が強制的に頭に入り続ける。
『頭が割れそうだ。ダメだ……意識が保てない。』
(プツン)
目の前が真っ白になった。
『今度こそ死んだのか?』
周りを見渡すと
(…ザザザッ)
『何だ?』
ボヤけているが、何かが見える。そこには、白髪の綺麗な女性が涙を流して立っていた。
「やっと…やっと見つけた……今度は…いつか…」
言葉が途切れ途切れ聞こえる。
(…ザザザッ)
目の前が切り替わる。今度は白髪の女性が目の前にいる。顔はボヤけているが、声はハッキリ聞こえてくる。白髪の女性は、優しくこちらに語りかける。
「貴方に私の力を分けてあげる。自由に使っていいわ。」
どうやらこれは、食べたスライムの記憶らしい。
「その代わりあの人が目覚めた時は、この力を今度はあの人にあげてちょうだい。よろしくね。」
そういうと白髪の女性は、自分の手を切り、血をこちらに垂らす。
血が当たる瞬間、目が覚めた。頭はまだ重い。ただ、体は動くようになった。周りの暗闇と静寂がオレを冷静にしていく。ようやく今の状況を整理できそうだ。
『まず、ここはオレがいた世界ではない。おそらく"あの男"によって別の世界に連れて来られたんだろう。"あの男"の言葉を信じるなら、妹は無事で生きてるはず。願わくば、妹には幸せに生きてもらいたい。伯父の一件はあるが、妹が罪に問われる事は無いはずだ。そういう意味ではオレがこちらの世界に来たのは良かった。守ってはあげらないが、理由はどうあれ、人を害したオレが妹の側にいては妹を不幸にしてしまう。』
そう考えると安堵と共に妹に会えない寂しさが心を覆う。………ひと息をつき、また整理を始める。
『あの光るスライムは、白髪の女性との約束でオレに食べられた。白髪の女性の力をオレに渡す為に。この世界では、血や食す事で能力を継ぐ事ができるらしい。そういえば、白髪の女性はオレを探していた?おそらくオレがこの世界に来た何らかの事情を知っているはずだ。探して話を聞かしてもらおう。まぁ、何にせよ白髪の女性が力を与えてくれたおかげでオレは、この世界で生きていく術を持ったという事だ。すぐにこの力を試してみたいが、今はしない方が良さそうだ。おそらく此処は洞窟だ。力を試したとたん爆発、生き埋めにはなりたくない。とりあえず、外に出る事を考えた方が良いだろう。』
オレは決心すると真っ暗な中、手探りで洞窟の壁を探し始めた。壁さえ見つければ、壁伝いに進む事ができるはずだ。壁を探していると何かに躓いた。
『痛っ!!』
何かで左足を切ったらしい。一瞬、足元がグラつく。切った影響か、左足の感覚が薄い。危険を感じ、這いつくばって周囲を探すと布らしき物を見つけた。オレは近くにあった石を手に取り、その布に叩きつけた。何度も何度も。どうやら暗闇に支配され続けたせいか、視界への欲求が、そうさせたようだ。僅かな火種が布に飛び散る。
(フワッ)
小さな火種が火となって布に広がっていく。炎の明かりがボンヤリと辺りを映し出す。この世界に来て、初めて見る光景は………人骨だった。頭部から伸びる白く長い髪が炎の揺らめきと共に靡いている。
『白髪の女性!?既に死んでいる??』
早くもこの世界の手がかりが潰えしまった事に落胆は隠しきれなかった。周囲を見渡して更に驚嘆した。切れた足が落ちている。咄嗟に自分の足元を見る。
『オレの足は…ある。じゃあ、あの足は??』
恐る恐る近づいた。
『……やっぱりオレの足だ。』
小指と人差し指にある小さな黒子がオレの足である事を物語っていた。切れた足は、程なくして消えっていった。消えるというより、分解されていったという方が適切な無くなり方だった。
『自己再生能力…あの一瞬で切れた足が再生したって事か。』
そう思った。そして、それと同時にオレが人間では無くなってしまったという喪失感が心を刺した。
『でも、どうやって再生したんだ。異世界とはいえ、何でもありではないはずだ。何かしらのルールがあるはず。』
答えは無いに等しいが、自分なりの答えを出さないとこの喪失感を埋められない気がした。
『以前読んだ医学書に書いてあった。人間の構成元素は確か14~16位だったはず。その中で酸素、炭素、窒素、水素が9割以上占めていたような。おそらく周囲から構成元素を集めて細胞を再構築、再生。再生で失われた元素は切られた足から還元とか。よし、これでいこう』
自分の中で無理矢理納得した。そして、改めて周囲を見渡す。
『近くに何かあったはずなんだ。オレの足を切った何かが。』
骨に布を巻き、火を灯す。先程よりも広い範囲が明るくなる。すると、火の明かりに反射して何かが光った。近づくとそこには、黒光する剣が置いてあった。
『これに足を切られたのか?』
近くに骨の松明を置き、その剣を手に取ってみた。黒く、重厚感のある見た目と違い、片手で振り回せる程、その剣は軽かった。
『この剣に躓いただけで足が切れたのか?』
半信半疑のまま、近くの岩に剣を振り下ろしてみた。
(スパッ)
目を疑った。大きな岩が豆腐を切るかの様に切れたのだ。剣技など習った事のないオレが岩を切るなんて奇跡でしかない。念の為、岩を触ってみる。確かに岩だ。その切れ味に足を切られた事を信じざる終えなかった。オレはその剣と松明を持って白髪の遺骨に近づく。松明の明かりから伸びる影に今更だが、自分の髪が肩まで伸びていることに気づく。衣服はボロボロだ。
『オレはどれだけあそこに居たんだろう?』
そんな疑問を抱きつつ、歩を進める。白髪の遺骨に近づくと先程は、気づかなかったが、傍にこの剣の鞘が置いてあった。この剣も彼女の物だったのだろう。オレは、剣を鞘に納め、遺骨の前に置いた。そして、手を合わした。
「この剣も預からさせて頂きます。安らかにお眠り下さい。」
オレはそう呟き、再び剣を取った。その瞬間、背後から聞いた事のない叫び声と共に強い風が吹き込んできた。オレは、火が消えないように咄嗟に松明を隠したが、呆気なく火は消え、布は吹き飛ばされてしまった。再び、暗闇の世界が広がる。全てが吹き飛ばされたらしく、近くに代わりになる物はない。
『仕方がない、このまま進もう。あれだけ強い風が吹き込んだのだ、出口はそれ程遠くないはずだ。』
オレは、暗闇の中、未だ続く叫び声と風の吹き込む方へ足を進めた。
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