夜に集う 〜ノ怪物達の夜〜

マクスウェルの仔猫

第1話 夜に集うノ怪物(ノケモノ)達

 とある高層マンションの一室。


 男が、コトリ、と料理をカウンターに置く。


梔子くちなし。これも頼む」

「はい」


 黒髪の艶やかな若い女が料理を受け取り、テーブルへと運んでいく。


 テーブルでは好々爺然とした翁が茶を啜り、料理を睨め回す制服姿の女子高生とニコニコした小学生程の女子が、この部屋の主の着席を今か今かと待ちかねていた。


 シンクを片付け、部屋の持ち主の木場が席につく。


「待たせたな。では……おい、咲。茉由まゆでさえ我慢しているのにお前というやつは……」

「久しぶりのジャンク食べ放題!チキンにコーラ!ピザもある!公務員って儲かるんですか?!」

「せめて、給料が良いかどうか尋ねろ……」


 その隣で茉由が健気にも膝に手を置き、咲を羨ましそうに見ている。


 溜め息をついた木場は、空のタンブラーを掲げた。


「乾杯。茉由、いいぞ。待たせたな」


 茉由がおかっぱを揺らしつつ木場に振り向き、笑った。


「「「乾杯(です!)」」」

「ふぁんはい!あ、はゆ!ほれはたしがついに茉由!それあたしが次に、んぐぅ!」


 嬉しそうにピザに手を伸ばした茉由に、口いっぱいに食べ物を詰め込んだ咲が文句を言う。


「咲。おぬし、何故にそんなに腹を空かせておる?学校の寮に飯付きで住まわせて貰っとるんじゃろ?」


 そんな咲に呆れた顔でツッコミを入れる日宵。


「……あの、皆さんは力ってどうやって抑え込んでるんですか?」

「力……ですか?あの、咲さんって確か……」

「うん、口裂け」


 咲は自分の口の端と端を指で広げる。

 傍から見ると、女子高生が変顔を披露しているようにしか見えない。


「お館様の法具で抑え込めていないのか?故に妖魔の特性を抑え込み、人と変わらん暮らしができている」

「うーん、また新しい法具を貰うしかないんでしょうか。エネルギーを補給しておかないとヤバいんですよ。最近気を抜くと刃物がぼろぼろと……」

「大変であったのう。ご相談奉ってはどうじゃ?」


 そう言った日宵に、咲は溜め息をついた。


「実はお館様にもう、相談したんです」

「そうか。で、お館様は?」


 木場は、一抹の不安ともに答えを促した。

 あの、茶目っ気が全身に満遍なく行き届いてしまっている、お館様。


 果たして、咲の返答は木場の感じた通りであった。


「『何と!移動式の武器庫であるな。む?そう涙目で睨むな、睨むな。この法具なら、効果も変わろう』ってこのペンダントをくれたんです。そしたら……」

「そうしたら?」

「刃物以外に、スタンガンや特殊警棒、催涙ガス缶や鈍器が出るようになって……。好きな人の目の前で怪しげなタップダンスをする羽目になりましたよ!」

「「「……」」」


 わっ!と顔を手を隠して俯く咲。

 茉由は『だいじょぶ?』と咲の頭を撫で始める。


 ふと、木場は気になった事を咲に問いかけた。


「……それを、お館様に報告しなかったのか?」

「もちろん、連絡を取りました。そしたら、『む、それは。どれ、すぐに新たな物を遣わそう……しもうた、今は出張中でな。しばし待て』って」


 咲が食事を再開しながら溜め息をついた。

 

 が、それを聞いた梔子。


(……。『西の牛肉、A5が手に入ったぞ!お前も味わいに来るが良い!』と、昨日御屋敷でご相伴に預かりましたが……)


 だが、梔子は咲の心をこれ以上掻き乱すのはよくない、と法具によって消えている後頭部の辺りをくせでそっと押さえ、ついで顔の口を押さえた。


 妖怪、二口女。


 その別名を持つ梔子は、どこまでもたおやかで心優しい女性であった。


 

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