その29 新しい友達
「どんなストーリーにしようかな~」
エイプリルが嬉しそうな声を上げながら、満面の笑みで次回作の妄想に耽っていると悪魔が話しかけてくる。
「そうそう、エイプリルちゃんはこの【トラディシヨン・オンライン】開発発表の動画は見たことあるかな?」
「はい。ネットで話題になっていたので見ましたよ。あのGMの女性がCEOの博士のお腹を殴って、舞台袖に引ずっていった後に言い争いをするやつですよね? 見ていてびっくりしたよ~。あのGMさん、ちょっと怖いよね~」
エイプリルは不思議そうな顔をする。どうやら彼女は知らないらしい。その女性が目の前の黒髪少女を溺愛する姉であることを……
「そのCEOの腹に一発叩き込んで連れて行った女性というのが、何を隠そうこのアカネちゃんのお姉さんなんだよねぇ~」
「えっ……?」
それを聞いたエイプリルは、一瞬ポカンとする。まだ、ハルルの言っていることの意味が理解できていないようだ。そこで悪魔は彼女に解るように話を続けた。
「しかも、妹を溺愛する重度のシスコンときたもんだ。この前もアカネちゃんに、言い間違えて結果下ネタを言ってしまったシコルスキー博士をぶっ飛ばした後に、死で償わせようとしたからね~」
「えぇー!?」
ようやく、言葉の内容を理解し始めたエイプリルは驚愕する。そして、次第に顔は強張り額からは汗が流れ落ち始め、彼女は恐る恐る口を開く。
「それって… つまり…… アカネちゃんをモデルにしたエロマンガを描いたことがバレたら… 私も……」
彼女の想像している事が解ったのだろう。ハルルは悪魔の様な表情をする。
「間違いなく徒では済まないでしょうなぁ。なにせ相手は上司であるCEOにすら、躊躇なく一発入れる人だからねぇ~」
「そっ そんな~!!」
ハルルの無慈悲な言葉により、エイプリルの背筋は凍りついた。彼女は恐怖で震えながら、何とかして打開策を考える。そして、導き出した答えは……
「こっ 今回の件は無かった事にしてください! もちろんアカネちゃんのスクショも消しますから!」
恐怖と焦燥に支配された表情で、エイプリルは必死で頼み込むが、当然の如く悪魔はそれを許すはずがない。
「それは無理だね」
ハルルは即答する。
「なぜですか……?」
エイプリルは、悲壮な面持ちで問い返す。その目尻にはうっすらと涙さえ浮かんでいる。
だが、ハルルは容赦しない。むしろ彼女にとっては、ここからが本番なのだ。
「エイプリルちゃん。こっちはもう約束通りアカネちゃんが、羞恥心に耐えながらスクショを撮影されているんだよ? それなのに今更無かった事になんか出来るわけ無いじゃない?」
「そっ それはそうだけど… でっ でも… 漫画にできないし…… それに、スクショは全部消すから― 」
エイプリルがそこまで言ったところでハルルが割り込んできた。
「なに寝言いうてんねん! 漫画にできへんのはそっちの都合やろ! こっちはもう契約は果たしとるんや! それにスクショを消しても、アカネちゃんが受けた心の傷は消えへんのや! せやからそっちも契約どおりにパーティーに参加せんかい!」
「はわわわわ……」
ハルルのあまりの剣幕にエイプリルはタジタジになる。
その顔には、以前イベント配布されたおしゃれ装備のサングラスがいつの間にか装備されており、口調と併せてまるで金融伝の人のようであった。
「ハルルちゃん、ずるいよ~! 最初から私を騙す気だったんでしょう~!」
追い詰められたエイプリルは、涙声で訴えるがミ○ミの鬼に容赦という言葉は無い。
「やかましいわ! ちゃんと確認しなかったオマエが悪いんじゃ! まあ、勉強代と思って諦めるんやな~」
「ひどいよぉ~」
これ以上抵抗しても、勝ち目が薄いと判断したエイプリルは、涙目で大人しく従うことにしようとした時、天使が鬼に抗議してくれる。
「ハルルちゃん、騙すのはダメだよ!」
「アカネちゃん…… 」
つい先程まで、セクハラ気味にスクショを撮って辱めた自分のために声をあげてくれたアカネに、エイプリルは嬉しさで思わず泣きそうになる。
「なに、アカネちゃん? エイプリルちゃんを庇うの?」
「だって、もし私がエイプリルちゃんの立場なら、きっと耐えられないもん! それに騙すのはイケないことだし…」
(アカネちゃんは、優しいな……)
アカネの言葉を聞いたエイプリルは、感動で胸を打たれた。そして、改めてアカネの優しさを再認識すると共に、彼女が大好きになった。
「アカネちゃん…。騙される人よりも、騙す人のほうが数十倍苦しいだよ!? というかね、アカネちゃん! これはアカネちゃんにも他人事では無い事なんだよ!?」
「えっ!? どういうこと?」
アカネは困惑した表情を浮かべた。しかし、ハルルは構わず続ける。
「いいかい、アカネちゃん。この世界にはね、他人の弱みにつけ込んで騙したり搾取しようとしたりする輩はごまんといるんだよ。例えば、そう。今のエイプリルちゃんの様にね……」
「あうぅ~…」
ハルルに痛い所を突かれたエイプリルは、顔を真っ赤にしながら項垂れた。
そのエイプリルを騙した張本人はさらに話を続ける。
「そのエイプリルちゃんと同じ様に、人が良くて警戒心の薄いアカネちゃんも、あっさり騙されて、気付いたらオーロラの下でカニ漁なんてなりたくなかったら、もっとしっかりしないと駄目だよ!」
「うっ うん。分かったよ… ハルルちゃん…」
アカネは素直に返事をした。
「という訳で、今回の件は全てエイプリルちゃんが悪いと言うことで決定だね!」
アカネが納得したところで、ハルルは強引に結論を出した。
「いやいや、これとそれとは別だよ! とにかくこんな方法で、エイプリルちゃんをパーティーに参加させるのは、私は反対だよ!! だって、このままだとハルルちゃんが悪者になってしまうもん!」
アカネは必死に抗議する。その様子は、まさに友達思いの優しい少女そのものだ。
「わかったよ、アカネちゃん。エイプリルちゃん、この話は無かったことでいいよ。でも、スクショはちゃんと消しておいてね」
幼馴染の言葉が心に響いたのか、ハルルはあっけなく引き下がった。
「ほっ 本当ですか? 良かったぁ…… ありがとうございます。アカネちゃん、ハルルちゃん」
エイプリルは心底安心したという表情で礼を述べた。
「今度からは、もう少し他人を疑いながら行動すること!」
「うん、肝に命じるよ。だから、もう今度からハルルちゃんの言うことは信じないね」
エイプリルが笑顔で言うと、「冗談だよ」といった感じでクスクスと笑い出す。
そして、彼女はアカネに近寄ると頭を下げてお願いをしてくる。
「アカネちゃん、私とフレンド登録してください。そして、私と一緒にプレイしてください」
「もちろんだよ、エイプリルちゃん! これからよろしくね!」
アカネは二つ返事で了承する。エイプリルは変態という点を除けば、穏やかで礼儀正しい良い子だからで、何より自分に似ている気がしたからだ。
そして、それはエイプリルも同じ事を感じており、優しくされたこともあって、アカネとは仲良く出来る友達になれると思ったのだ。
「あっ でも、私の前ではあまりエッチなことは言わないでね?」
「アカネちゃんが、そう言うなら頑張って言わないように気をつけるね!」
エイプリルは握りこぶしを作って、“がんばるぞ!”というポーズを取りながら答える。
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