その23 ボス戦終了
アカネ達が遊んでいる間に、月音はトゲトゲオークに攻撃を続け最後に奥義を放って撃破する。
「天河天狗流… 奥義! 天舞連斬!!」
跳躍した月音は、霞の構えから大刀を目にも留まらぬ速さで、オークに斬撃を連続で繰り出す。斬撃には衝撃波も伴い、オークは大刀と衝撃波の両方からダメージを受け続ける。
そして、オークチャンピオンは体力ゲージが全て消失すると、光の粒子となって消えていく。
「凄いね……。あんな無茶苦茶な剣術… 流石はゲームって感じだよね」
剣術を学ぶアカネからすれば、月音の最後の技は無茶苦茶であり、このような感想を述べる。
「まず霞の構えである必要がないし、空中で連続斬撃も意味不明だし、何より衝撃波が出るのがありえないよね」
連続斬撃が袈裟斬りから始まっているので、上段か八相の構えのほうがより早く打てるし、空中だと踏み込めないので強力な斬撃は放てないし、何よりあれほど長く滞空できない。
斬撃で衝撃波が出るのは、人間ではほぼ不可能である。
「でも、かっこいいね。私もいつかは使えるようになるかな?」
アカネは月音の技に興奮して目を輝かせている。剣術を修めているからこそ、出来ないことが出来るゲーム内剣術に魅力を感じたのだ。
「斬撃を飛ばす技は、MP消費技で確か実装されていたと思うよ? 他にも特殊モーションで放つ強力な斬撃技があったと思う。まあ、流石にあの”天舞連斬“は実装されてないけどね」
ハルルがアカネの疑問に答えると、それを聞いたアカネは瞳をさらにキラキラさせる。
すると、戦闘終了後のイベントが始まり、月音は刀を鞘に収めるとオークチャンピオンが立っていた後方へ歩き出す。
そして、祭壇のような場所に安置されていた紫色の水晶のようなモノを手に取って、アカネ達プレイヤーに話しかけてくる。
「約束通り、これは私がもらっていくわね」
「あっ はい… どうぞ」
アカネは咄嗟に受け答えしてしまうが、これはイベントなために、月音はその返事を無視して会話を続ける。
「またいつか会うかもしれないわね。その時も味方でありたいわね」
月音は笑みを浮かべながら、アカネ達プレイヤーに手を振るとそのままボス部屋の外に向かって歩き出す。
そして、部屋の外に出るとイベント終了となり、そこで消えてしまう。
「ねえ、ハルルちゃん。もし、私達プレイヤーが先に倒したらどうなるの?」
今回は自分のやらかしで月音がとどめ刺す結果となったが、そうでない場合はどうなるのかと疑問に思いハルルに聞いてみる。
「ネットの情報によると、月音がチートムーブして必ずボスの止めを刺すようになっているらしいよ。まあ、イベントバトルだからね」
つまり自分がミスをしていなくても、結果が同じだったということを知ったアカネは、そっと胸を撫で下ろす。
「だからといって、アカネちゃんの馬鹿ダメ行動が帳消しになったわけじゃないからね」
―が、その幼馴染の考えを察したハルルに釘を差されてしまう。
「ひゃうっ!? ごめんなさい…」
アカネは、まるで自分の考えを読まれたかのような発言を受けて、ビクッと肩を震わせると思わず幼馴染に謝ってしまう。
「失敗は誰にでもあります、そんなに気にしないでください。それにこれはゲームなんですから、楽しくプレイしましょう」
ハルルに窘められて、しゅんとしているアカネにバイオレットが、穏やかな口調で優しい言葉を掛けてくれ、その後ろでアテナがコクコクと頷いて肯定している。
「バイオレットさん、ありがとうございます。アテナちゃんも迷惑かけてごめんね」
二人の優しい対応に、アカネが感謝の言葉を述べるとバイオレットは優しく微笑み、アテナはふるふると首を横に振って「気にしないで」と応えてくれる。
「じゃあ、町に帰ろうか」
「お姉ちゃんたちはどうするの? このままあそこに置いていくの?」
アカネはふと思ったことを口にすると、それに対してハルルが答えてくれた。
「そうなるね。でも、大丈夫。あそこはさっきも言ったけど襲われないから、再ログインしたら各自ファストトラベルで帰還できるからね」
このゲームでは、マップから一度訪れた町にファストトラベル(瞬間移動)でき、移動時間を短縮することが出来る。
ただし、条件がいくつかあり、敵と戦闘状態ではないこと、特定の場所にいないことの2つである。
4人はマップから、最初の町を選んでファストトラベルを行うと、一瞬で町に戻って来ることが出来た。
「お疲れまでした~」
「お疲れさまです」
「お疲れさまでした~」
「おつかれ… さまです… 」
ハルルのMMOあるあるパーティー解散前の挨拶を行うと、彼女の言葉に続いてバイオレット、アカネ、最後にアテナが小声で挨拶を口にする。
「さて、リアル時間が23時なので、今日はここまでにしましょうか」
「そうですね。私も少し眠くなってきました」
アカネも欠伸をしながら答えると、それを見たハルルが(お子様~)というような悪戯っぽい顔で笑っている。
「では、解散ですね」
バイオレットがそう口にした時、アカネの服の裾をアテナが引っ張る。
「アテナちゃん、どうしたの?」
アカネがそんなアテナを見ると、彼女は何か言いたそうな表情でこちらを見上げており、こんな時だけは勘のいいアカネは、アテナの言いたいことを理解して口を開く。
「そうだ! 解散する前に、アテナちゃんとバイオレットさん! 良ければ私とフレンド登録してくれませんか?」
すると、アカネの勘は当たっていたようで、アテナは嬉しそうに頭をコウコクと縦に振って、その申し出に承諾してくる。
「はい、もちろん喜んで」
「二人共、ありがとうございます」
アカネは、笑顔で返事をすると早速二人とフレンド登録を行う。
「アテナちゃん、私ともフレンド登録してくれるかな?」
ハルルは怯える小動物に接するように、できるだけ優しい声とオーラを出しながら近づくが……
「あうぅ……」
アテナはアカネの後ろに隠れてしまう。
(あららぁ…… まだ私には心を開いてくれてないなのか?)
アテナに拒否られてしまったことに、ちょっとショックを感じながらも平静を装いながら、アテナと視線を合わせるためしゃがみ込む。
「えっと…… ダメ?」
「……」
するとアテナは、アカネの背後に完全に隠れたままフルフルと首を左右に振る。
どうやら駄目というわけではないらしい。
ただ単に恥ずかしいだけで、フレンドになること自体はOKみたいである。
「じゃあ、フレンド申請するね」
ハルルが尋ねるとアテナはコクッと頷く。
そして、アテナはステータスオープンすると、送られてきたフレンド申請を承認する。
するとアテナは何かを訴えるように、今度はバイオレットの方を見つめてきて、それに気付いた彼女はいつもどおりの優しい笑顔で少女に語りかける。
「アテナちゃん、私ともフレンド登録してくれるの?」
バイオレットの問いかけに対して、先ほどと同様に首をコクンと縦に振り、了承の意を示すアテナ。
こうして、4人はフレンド登録し終わった後、別れの挨拶を交してそれぞれの現実へと戻って行く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます