異世界犬おじさん追放される

因幡雄介

異世界犬おじさん追放される

「佐藤耕平。あなた、今日からエルフの国ジャスコから出て行ってくれるかしら? 先ほど、新しいペットを連れてきたから」


「えっ? ごっご主人さま? 突然何を言い出すワン」


 俺は突然の追放に目を丸くした。


 口からペットフードのせんべいが落ちる。


 いつものように、寝転がって、『美少女ナンバーワン』という有料放送を見て、男を磨いていたというのに。


「いや、もう、語尾に『ワン』とかいいから。気持ち悪いから。さっさと出て行ってくれる?」


 女王の冷ややかな視線。


 冗談ではなくマジだ。


「ちょっちょっと待つワンよ。新しいペットって誰ワンよ?」


「お前と同じ異世界から転移させたモノだ。永遠の命と永遠の若さを持っている。お前と違ってな」


「不死の存在ワンか? そんなモノが現代の世界にいるなんて……」


「お掃除機能がついていて、メールの送受信や、リモコン操作もやってくれる」


「それロボット的なやつワンよ! 生き物じゃないワン!」


「お前よりかはマシだ」


 俺に対する、女王の冷たい仕打ち。


 俺のぬくもりよりも、冷たいロボット犬を選ぶなんて……。



 ちっ! 世も末だ! とことん嫌われたもんだぜっ!!



 俺は胸の毛皮をかきながら立ち上がり、



「あー、わかりましたよ! じゃ、もう語尾に『ワン』とかつけなくていいんだな!? よつんばいで歩くのも今日までだ!」



 放屁した。


 最近飼い主である女王が冷たいのはわかっていた。


 幼少の頃、俺は女王によって異世界に転移させられ、『人間犬』として飼われていた。


 犬耳をつけた着ぐるみを着てだ。


 都市伝説でいうと人面犬みたいな存在だった。


 子供のときは、チョウよ、花よとかわいがられていたのに、30超えてから異常に冷たくなってきた。


 女王の部下たちも、俺に冷たくなってたしな。



「むしろ『ワン』とかつけず、そのふてぶてしい姿のほうが、しっくりくるわね。って、くさっ!! 窓開けて! 窓!!」



 女王は部下に命令し、窓を開けさす。


「マジで出て行けって言ってんの? 俺に1人になれと? 無理だぜ! 動物園で飼い慣らされたペットが、いまさら野生になんて戻れねぇよ! 性欲を磨くのに必死で、餌の取り方忘れちまってんだよ!」


「うるさい、死ね。もうペットとして生きなくていいの。自由に生きればよい」


「『自由』ってほんと都合のいい言葉だよな。ぺっ! まあいいけどよ。最近お前らが俺を見る目が、汚物を見るような面になってきてたし。正直、こっちもストレスだったんだ。せいせいするぜ! あと『死ね』とか小さい声で言うな! ばっちり聞こえたし、傷ついたぜ!」


「実際汚物じゃない。エサ食って汚物しか生み出さないじゃない」


 俺の嫌みに真顔で対応する女王。



 くそがっ! 俺に愛情のかけらすら残さず、次の人生を歩もうとしてやがる!




 離婚し終わった女みたいだ!




「出て行ってもいいけどよ。生活保護に入らせてくれ。医療費は全額免除。月50万ぐらい振り込んでくれ」


 俺もいいかげんこの女と付き合うのが嫌になってたので、慰謝料として生活保護を要求する。


 それぐらいしてくれたっていいだろう。


 なんせこちらは、親と引き離され、かってに異世界に召喚されたのだから。


「税金払ってないお前に生活保護に入る資格はない。ペットは物扱いだから法律は適用されない。悪いが貴様の申し出は断らせてもらう」


「なんだと!? 俺は日本に住んでたが、6歳の頃お前たちエルフに突然異世界に召喚されたんだぞ! そのあとは30年間、お前たちのペットとして働いたってのに、こんな懲戒解雇認められるか!」


「知るか!! お前も20歳まではかわいかったが、そこからぶくぶくぶくぶく太りおって!! もはや貴様などただの豚にすぎぬ! 兵士に殺されたくなかったら、さっさと出て行くがいい!!」



「俺はヒヨコのときはかわいいが、大人になったら殺される鶏か!!」



「鶏肉になって食われないだけマシだと思え!!」



 俺と女王の醜い痴話げんかになってきた。


 そばにいるエルフのメイドたちは、ひそひそ話し合っている。


 絶対今日の友達の会話ネタにされること必須だ。


 俺は多少不利だと思い、


「わっわかった。とりあえず、動物愛護団体を呼んでくれ。弁護士をはさんで話し合おう」


「その毛深いオークみたいな体形を見たら、動物よりもモンスターと勘違いして、弁護士じゃなく勇者呼ばれて退治されるだけだぞ? もうよい! 見飽きた! 兵士よ、この豚をお城から出し、船で運び出して捨ててこい!!」


 女王が命令し、兵士たちが、がっつり俺の両腕をつかんだ。



 めっちゃいたい! 本気!?



「俺にさわるなケダモノどもが! 離せ! 俺をどこの大陸に捨てるつもりだ!?」


 俺は最後っ屁をくらわせてやる。


「ぎゃあっ!? くさっ!! おかし食いすぎだろうがっ! おええええっ!!」


 俺をつかんだ兵士が、その場で死亡した。遠くにいたメイドのエルフはけいれん後、あの世に逝った。


 すると今度は、ガスマスクをつけた兵士に両腕をつかまれた。



 ちきしょうっ! 対策されてやがるっ!



 ガスマスクを、いつの間にか装着していた女王がほほ笑み、


「安心するがいい、大陸の名前は――『やすらぎの里』と呼ばれている」


「そんなの優しい名前をつけられた保健所だろうが!! 俺を焼却処分というネバーランドに送りつけるつもりだな!? 離せこの野郎!! おぼえていろ!! 絶対復讐してやる!!!!」


 俺はガスマスクをつけた数人の兵士に、股をおもいっきり広げられた、いやらしい格好で持ち上げられ、船へと運ばれていった。


 腹いせに放屁で町の人間を数十人ほど殺す。


 船の監獄に閉じ込められたあと、『やすらぎの里』に投げ捨てられた。




 のちに俺は『やすらぎの里』から脱出し、女王に『ざまぁ』するのだが、それは未来のお話である。





 教訓、ぶさいくな人面犬も命ある生き物である。


 ペットは最後まで責任をもって飼おう!

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