　その日、人々は声を聞いた。しかし、その声を理解できた人間は誰もいなかった。

　その日、大勢の人間が何かの声を聞いた。

　その声を神の声だと感じた者もいた。

　その声を悪魔のささやきだと感じた者もいた。

　精霊や死者や星や風の声だと感じた者たちもいた。

　だが、その大半は気のせいだと思っていた。ただの空耳、声を聞いたような気がしただけだと、勘違いだと片づけ、ほとんどの人々は日常へと戻って行った。

　多くの人々はその声のことなどすぐに忘れてしまった。しかし、そうでない者たちもいた。

　その者たちは声に導かれるように動き出した。

　衝動が彼らを動かし始めた。

　ある者は南へと向かった。

　ある者は北へと向かった。

　ある者は海を渡り、ある者は山を登った。

　彼らは何かに突き動かされていた。

　ある者は希望に、ある者は恐怖に、ある者は救いを求め、ある者は欲望のままに各々の道を進んでいった。

　ある場所へ向かって、進んでいった。

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