二章 ブタさん一家を救え!

第7話 アメちゃんで餌付けできるのか?



 ダンケさんは倒れた。

 ごめん。あとで蘇生魔法かけてあげるから。ちょっと待ってて。またヘタに動かれると困るんだよね。


 おかげさまで、地獄の番犬のターンは終わった。

 そのあとは瞬殺だ。


「ぽよちゃん、やる? 僕がやる?」

「ピュ〜ピュイ」


 ご機嫌よさそうな声を出すときは、ぽよちゃんがやる気満々な証拠。


「じゃあ、ぽよちゃん、お願い!」

「キュイ!」


 タタタッと走るウサギ型モンスター。サイズはふつうのウサギよりだいぶ大きい。世界最大のフレミッシュジャイアントラビットくらいはある。

 ぽよちゃんがトンと跳躍し、かるく頭突きくらわすと、地獄の番犬は目をまわした。



 チャララララッチャチャ〜

 戦闘に勝利した。

 経験値5500を手に入れた。ダンケはレベルアップした。ダンケはレベルアップした。ダンケはレベルアップした。

 地獄の番犬の牙を手に入れた。

 地獄の番犬は物欲しそうにアメちゃんを見ている。アメちゃんをあげますか?



「えっ?」



 アメちゃんをあげますか?



 なんだろう?

 今まで、そんなテロップ見たことないんだけど?

 まあ、いいや。あげてみようか。


 僕はアメ玉を一個ひろうと、包み紙をひろげて、中身をポイッとなげてみた。クンクンと匂いをかいでた地獄の番犬がペロリとなめる。



 餌付けに成功した!

 地獄の番犬が仲間になった!



「えっ! 仲間なるんだ?」


 なんと、アメちゃんにはそんな効果まで?

 今までモンスターを仲間にできるのは、勇者である蘭さんだけだったのに。


「ガウガウ」

「うん。わかった。君は今日から、バスカーヴィル——ああっ、文字数超過で登録できない。じゃあ、バスカーだ」

「ガウ!」


 たのもしい仲間を得た。

 ダンケさんはNPCあつかいみたいだ。自動で蘇生してくれたし、とにかく、前に進む。


「おや? 私が倒したのか? さすが、私だな。失神しつつも敵を相討ちにするとは」

「いや、違いますよ?」

「ハッハッハッ! モンスターが出たら、私に任せなさい。ブヒッ!」

「いや、だから、違うって」


 なんで僕のまわりの人って、聞く耳持たないんだろう? 僕がそういうふんいきをかもしだしてるんだろうか? 謎だ。


 バスカーの案内で森のなかの小道に出た。進んでいくと、屋敷が見えた。あれがアコギー商会かな? 豪華なんだけど、なんとなく禍々しい。イヤな空気感がただよってる。


 屋敷のまわりには地獄の番犬が何頭もウロつきまわってる。変だなぁ。ただの人間がモンスターを使役できるわけないのにな。

 そこはかとなくイヤな予感がする。


 そろり、そろりと近づいていく。屋敷の近くには物置みたいな小屋があった。なんでこんなとこに? ふつう、裏庭とか目立たない場所にあるのが納屋だ。馬車を入れとくにしても、屋敷の玄関に近いとこに建てるもんかな。建てるとしたら、もっと立派なやつじゃないかな?


 はぁ、それにしても、ダンジョンなのに小銭ひろえないの、さみしいーっ! 歩けばひろえたころの感覚が体にしみついてる。くすん。僕の小銭ちゃん……。


 そのかわり、アメちゃんはひろえるんだけどさ。

 地獄の番犬に遭遇しそうになったら、すかさずアメちゃんをなげると、戦わずして仲間になる。楽だなぁ。僕もぽよちゃんもレベルはマックスの99だから、今さら経験値なんかいらないしね。


「この物置、怪しいなぁ。なか、何があるんだろ?」

「少年。無防備に近寄ってはいかん。私が偵察しよう」

「ああー! 勝手に行かないでぇー」

「ハッハッハッ。任せなさい」


 うーん。なんなの、この突撃兵? ダンケさんって、特攻隊だったのかな?


 ダンケさんが一人でなかへ入っていった。こんな怪しいとこにあるのに、なんで無防備に入るかなぁ?

 案の定、なかからわめき声が聞こえてきた。


「なっ! きさま、わが妻に何をしておるかぁー!」


 そのうち、叫び声が……。

 しょうがない。助けにいくか。オクさんが食肉に加工されてたらヤダもんね。

 それにしても、オーク肉なんて誰が食べるんだ? やっぱりモンスターかな? ま、まさか、人間? 豚肉がわりに食べるの?


 僕はゴクリとツバを飲んだ。この場合は「へえ、美味そう。ヨダレ出る〜」のツバではない。緊張のあまり出てきたツバだ。


 そろっと小屋のまわりを一周するけど、さっきダンケさんが入っていった入口以外、ドアはないな。せめて窓があれば、なかをうかがえたんだけど。


 僕は覚悟を決めて、戸口からなかをのぞいた。

 ああー! オクさんがロープで巻かれて天井からつるされてる! その前には屠殺とさつ用の牛刀が!

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