第27話 パワーアップ
「ア、アスラさん! 本来の目的は忘れちゃダメですよ! 楽しみすぎないでくださいね!?」
「わかってる! 少しだけやらせてくれ!」
俺はもう一度、サイの盾に一閃を叩きこむ。
金属同士がぶつかり合う音とともに、激しい衝撃がダンジョンの壁に響く。
今のは申し分ない一撃だ。だが、サイは押されはするもののダメージを受けている様子がない。
「だったら……これはどうだ!」
俺は連撃をサイの盾に叩きこむ。剣がぶつかるたびに衝撃が手に伝わってくる。
しかし、決定打にはならない。押してはいるけれど――どうにも押し切れない!
「そんな、アスラさんの攻撃を防ぎきるなんて!」
冗談じゃない、こっちはここまでのモンスターを全て一撃で倒してきたんだぞ?
おそらく奴は防御特化のモンスター。この鋼鉄のような硬さと、反撃してこないことが何よりの証左だ。
だが、むしろ好都合だ。
俺は息を大きく吸う。体中、指先からつま先まで空気が巡る感覚。少しずつ力が満ちていくようだ。
そして――息を吸い切ったところで、息を止めて神経を研ぎ澄ます!
「なんですか……それ!?」
ティナの声が背後で聞こえる。それもそうだろう。
これからやる技は、彼女に見せるのは初めてなんだから。いや、それ以上に――、
――俺の体に電流が走っていることに驚いているのだろう。
「これは<疾風怒涛>だ。だけど、今までとは少し違う」
「違うのは見ればわかりますけど……具体的に何が違うんですか?」
「今までの<疾風怒涛>は持続する代わりに加速が弱かった。今回のは持続しない代わりに、桁違いの速度と威力が出るように調整した。名付けて――」
「<
刹那、地面を蹴った俺はサイの背後に立っていた。
同時に、サイの盾が真っ二つに割れる。サイはまるで半月のようになった盾を下敷きに、うつ伏せになって倒れた。
「えっ……何ですか今の!? 移動したのがまるで見えなかった!」
「動いたんだ。超スピードで。でも、さすがに疲れるな……あれだけのスピードで動けるのは30秒が限界って感じだな」
さっきの戦闘で<疾風怒涛翔>を発動したのは約2秒。疲労の量は体感的に<疾風怒涛>を10分発動していたくらいだ。
「アスラさん、私が知らない間にどんどん強くなりますね……ってそんなことより急がないと!」
そうだ。10層まで走らなければいけない。残り時間は13分。
俺たちは顔を見合わせて頷くと、堰を切ったように走り出した。
「……あった!」
階段を見つけたのはさらに8分後。あのサイ以外はやはり一撃で倒せたので、危惧していたほどには時間がかからなかった。
階段を降りた先で、俺たちは辺りを見渡す。
「件の少女はどこだ? 降りたらすぐいるわけじゃないのか?」
「もう少し探してみましょう! 襲われているとしたら、層の真ん中が怪しいですよ!」
ティナに言われた通り、ダンジョンの長い廊下を手当たり次第走り回ってみる。
「~~~~だって言ってんだろ!!」
ビンゴだ。今のは、人の叫び声!
俺たちは声がした方へ走り、ひっそりと廊下の壁から顔を出す。
「お前は~~~~だろ? だから、俺たちに金を出すのは当然だ」
そこにいたのは、3人の男と1人の少女。
「あいつら……Cランクの冒険者だ」
ギルドで見たことがある。特に覚えているのは隻眼の男だ。この三人組の中ではおそらくリーダー格。
そして、男たちに詰められているのは一人の少女。ピンク色の髪の少女は、真っ赤な瞳で真っすぐに男たちを睨んでいる。囲まれているのに嫌に冷静だ。
「何言ってるか聞き取れないですね……」
「でも、これ以上は近づけないぞ」
長い廊下の先にいるから、会話の内容がところどころ聞こえない。そんなことはお構いなしに、4人の口論は進んでいってしまう。
「~~~だろうが!! お前が~~~たくねえのか!?」
「アスラさん、そろそろ出てもいいんじゃないですか?」
「まだだ。クエストの達成条件は助けることだから、襲われる前に出ても話がこじれるだけだ」
それにしても、4人は口論している割にはなかなか喧嘩には発展してないような……そもそも、あいつらは仲間か何かなのか?
「ふざけんじゃねえ! ~~が飲めるか!」
その時、隻眼の男が少女を突き飛ばした。
これが襲われていると判定していいのか微妙だが――大事になる前に出なければ。
「おい、お前たちちょっと待て――」
その時だった。
ダンジョンの壁が揺れた。かと思うと、隻眼の男の後ろに立っていた2人の男が壁に飲まれた。
いや――違う。壁の手前に何かがいる。あれは、モンスターだ!
「ギュイイイイイイイイイイン!」
さっきまで壁しか存在しなかったそこには、一つ目の泥のようなモンスターが佇んでいた。
そうか、さっきのハエトリグサのモンスターのように壁に擬態していたのか!
まるで床が軋むような鳴き声のモンスターは、今度は隻眼の男に飛び掛かる。
「う、うわああああああああああああああ! やめ――」
たった一瞬にして、男の悲鳴はモンスターによって飲み込まれてしまった。
なんだあのモンスターは。Cランクの冒険者をあんなにあっさりと!?
「アスラさん、助けないと!」
「わかってる!」
勘違いしていた。あの少女が襲われるのは、冒険者ではなくモンスターにだ!
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