第26話 10層を目指して

 ダンジョンの入口に差し掛かり、ティナを降ろす。残り時間は既に50分を切っている。


「ティナ、俺はかなり急ぐけど、後からゆっくり来てくれ!」


「いえ、多分ですけど、頑張ればついていけると思います!」


「さすがにそれは無理じゃないか?」


「なんだか最近、身体能力が上がってる気がするんです! 戦闘はからっきしですけど、家事のペースが早くなってて! だから、頑張ればアスラさんにも遅れは取りませんよ!」


 そうか、ティナはパーティのメンバーになっているから、隠しクエストで手に入れた経験値の恩恵を受けることが出来るのか!


「よし、わかった! 時間に間に合う程度にペースを落としていくから、ティナも頑張ってついて来てくれ!」


「了解です!」


 俺は再び<疾風怒涛>を発動し、ダンジョンの迷宮を駆け巡る。


 ずっと苦戦していたゴブリンは、通りすがりに剣の錆となる。1層の攻略には2分もかからなかった。


「ブルルルルルゴッ!!」


 5層にたどり着くと、前方から走ってきたのはブラッディボアだ。


「悪いが、お前に構ってやる時間はないんだよ!」


 ブラッディボアの胴体を蹴り上げると、宙に浮いた巨体を剣で斬りつける。

 木の幹のような体が真っ二つになると同時に、俺はさらに奥へと走り出す。


 ペース的には悪くない。このまま走ればかなり余裕で10層まで行けるはずだ。


「こんなに急ぐ必要もなかったかもな……」


 その時、何かにつまずいて俺はその場に倒れ込んだ。


「痛いな……なんだ?」


 見ると、足に何かが絡まっている。これは蔦か?


「なんでこんなところに植物が生えてるんだ……?」


 その時だった。


「グワアアアアアアアア!!」


 真横の壁から突然現れたのは、カエルのような大口。

 これは――食虫植物のハエトリグサ!? だけど、それにしては大きすぎる! それに、標的は俺のようだ!


「くっ!」


 俺は横に転がり、思い切り勢いをつけて立ち上がる。

 しかし、また次の瞬間、今度は両手両足に蔦が絡まってきた。


「なるほど、俺を捕獲してきたのか」


 ここまでこいつの姿を見られなかったのは、壁に擬態でもしていたからだろう。そうして獲物が来るのを待っていたというわけか。


『5層からはモンスターの強さや攻略の難易度もぐんと上がる。一筋縄ではいかないだろう』


 シャロンの言葉の意味がようやくわかった。これはかなり頭脳的に仕掛けてきたな。


「グワアアアアアアアア!!」


 ハエトリグサが大きな口を開け、全身を縛られた俺を襲ってくる。

 ――だけど、こいつは重要なことを見逃している。


「こんな蔦じゃ、捕まえても意味ないぞ?」


 俺はあっさりと蔦を引きちぎると、接近してきたハエトリグサを一刀両断した。


 一瞬ヒヤッとしたが、大したことない相手でよかった。ここからは慎重に移動しなければいけないな。

 ここから先、こういったモンスターが増えてくると思うと、先が思いやられるな……。


「キギャッ!!」


 その刹那、天井から一匹のモンスターが飛び降りてくる。背丈ほどもある長い両手を広げ、俺を抑え込もうとしているようだ。


「邪魔だ!」


 一閃。敵の意表を突く登場は、一瞬にして打ち砕かれた。

 しかし、急襲が多いのも面倒だな。ビックリするだけというか……。


「強引に突破してみても、いいかもな」


 注意して走るのも煩わしくなった俺は、何も考えずに突き抜けることにした。


 まるでびっくり箱のようなモンスターたちのギミックに驚きつつも……俺は順調に攻略を進める。

 気が付けば、9層の階段を降りていた。


「残り時間は……15分!」


 邪魔なモンスターが多くて、思ったより時間を食ってしまった。だが、このペースなら充分に間に合うはず!


「ア、アスラさぁん……」


 少し遅れて階段を降りたのは、ぜえぜえと息を切らすティナ。俺を見つけるなり、安心してその場で荒く呼吸をし始めた。


「思ったより早かったな。強くなったことの証明だな」


「アスラさんが敵を全部倒してくれましたから。それにしても、私は一体もモンスターと戦ってないのに追いつけないなんて、速すぎです!」


 さて、ティナと合流できたことだし、後は余裕を持って階段を探すだけだ。


「ウォォォォォォォォォ!!」


 さっそく移動しようとすると、前方から現れたのは大きな丸い鏡のような見た目の盾を構えた二足歩行のサイだ。

 サイは俺の姿を見るなり、態勢を低くして盾で全身を守る。


「ティナ、下がっててくれ! あいつをやる!」


 ここまでと同じように肉薄をし、サイの盾に一撃を入れた。

 ここにたどり着くまでに戦ったモンスターなら、初撃で十中八九倒すことが出来る。おそらくこいつも――、


「――ッ!?」


 サイの持つ盾と俺の剣がぶつかり合い、ガキンという音が鳴り響く。想定外の事態は、そこで起こった。

 サイの盾を破ることが出来なかった。1メートル近くノックバックすることはできたが、ダメージは与えられていない。


「ティナ、すまない。少しだけ時間をくれ」


 ――ようやく来た。俺の一撃であっさり倒れないような敵が。

 自分の実力を試せるような相手が出てくるのをずっと待っていた。そして、それがこいつだ。

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