第8話 恋 心



 高校の時に中学の仲間であった増田と田畑などと一緒にいることが多くなり、その時に梶谷さん達と話すようになって、そしてグループで遊ぶようになったのだった。

 俺自身は、その時から呼び方も変わり梶谷さんから梶ちゃんと呼ぶようになり恋心も有ったけれど、其れも中学時代からの片思いだったから付き合ってほしい等と云ったことはなかったし出来なかった。


 いつも梶ちゃんや柴田さんの周りには俺の友達がいたし、特に田畑や増田とは仲が良かったので、田畑は梶ちゃんと付き会いたいと言い出すし、増田も柴田さんと付き合いたいんだと俺に相談してくるし、そんな奴らの気持ちを知っているチキンな俺は口には出せなかったのだ。

 でも俺は・・本当の俺は梶ちゃんと付き会いたかったし、好きだった事を時々思い出しては悔やんでいる女々しい男なのだ。


 梶ちゃんはいつも優しくて周りに気を遣う事が出来て、明るくて、学校行くときの梶ちゃんと柴田さんに道場のバス停で顔を合わせるのがとても楽しみだったけれど、三人とも違う学校だったがあの時は楽しかったなぁ。

 梶ちゃんは学校が終わると俺の家に来ては純姉ちゃんとも仲良くなって、お袋とも仲良くなり台所仕事を手伝ってくれてはいたというけれど、そんな彼女の気持ちに俺は答える事が出来なかった。


 そんなチキンな俺は彼女に好きだとは一度も口に出さずに東京へ出てきてしまった訳で、TVドラマ的なセンチメタルにはならず、皆と別れた最後の日も梶ちゃんから「頑張って」の一言を貰ったことだけを鮮明に思い出しては頑張ってきた、今では一人片思いの甘い思い出だけどね。


 そんな俺にも、青天の霹靂と云うか昨年の夏前から何となく付き合い始めた会社の同僚の栗原早智子さんと云う彼女?と云うか友達が出来た。

 彼女は営業の事務担当者で、俺のいた課とはあまり縁がないのだけれどたまたま課対抗合コンみたいのが有って、面子が足りないから関矢出てくれないかと云われ参加した時に初めて顔を合わせたのが出会いだった。


 その後は何もなかったが、営業の人間と打ち合わせをする時があってその時にたまたま居合わせたのが栗原さんで、その後、また再開したのがきっかけで付き合い始めた。

 俺は根がチキンだから肝心なことになると逃げてしまう癖があるみたいで、彼女と結婚したい気持ちはあったけれど口に出せないまま、田舎に帰る事になったとだけ伝えるとその後は会わないで八月に一人でIターンして田舎の支社に赴任してきてしまった。


 本社での役職からは降格し、いや降格ではなく支社では今までしてきたような仕事はないし、また新しく仕事を覚えなくてはならない為、自分から降格願いを出し支社から営業所に再移動してまだ二週間たったばかりなのだ。

 田舎に戻る事になった原因は、お袋が亡くなってから五年祭を過ぎ、やっと落ち着いたかと思っていたら最近、親父が背中が痛いだとか咳が止まらないとかが有ると言う事で、純姉ちゃんと秀樹兄ちゃんが交互に面倒を見てくれていたけれど、兄弟三人いるんだからお前も面倒見ろと言われ、其れなら支社もあるしIターンするからと話がトントンと進み二週間前に田舎に帰ってきてしまったという訳で、いわゆる都落ちと云われてもしょうがないか((笑))。


 いったい俺の仕事ってそんなに軽いもんだったんだろうか、「分かった、早く帰れ。親孝行は今しか出来ないんだ。仕事は逃げないぞ、其れにどこでも出来るはずだ、そうやってお前は頑張ってきたんだろう。だから何時もの様に、お前の遣りたい様にやればいいんだ、親父さんの所に帰ってやれ」なんて上層部からも言われてしまった。


 それにしても親父の身体はそんなに悪いんだろうか?今の所そんな症状は出ていないのだ。

 其れとも俺を茨城に戻す口実なのか?まっ、取り敢えずしばらくは親父と一緒に暮らすのも悪くないかも知れない。


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