真(改)17年目のプロポーズ

白羽 操

第1話  プロローグ





 それは突然の事だった。


 今日は三年祭、我が家の台所や土間には近所のおばさん達が集まっていろいろと準備をしている。

 俺の生まれたこの地区では今でも「連」と呼ばれる助け合う風習が残っているので、今日もこの地区の三十三軒のうちの半分の十六軒のおばさん達が我が家に集まっているのだ。

 

 俺が庭にいると純姉さんが台所に来るように言ってきたのだ。


 トントントン  ザワザワザワ


 誰かぁ、其処の煮た油揚げ切っといてぇ~。


 はぁ~い、漬物どうすんのぉ?


 其れも切っちゃって良いからぁ、皿に盛っといてよぉ。

 


 親父の三回忌の為に集まった連の人達の賑やかな台所、俺が入るといきなり包丁の音や皆の話声が止まったのだ。



「ねえ、浩史!あなたどうすんの?いつまでこうしているつもりなの、はっきりさせなさいよ。皆あんた達のことを思って心配してんだから。もういいんじゃないの」


「えぇっ話ってそれのこと。其れここで聞くの?ダメだよ皆聞いてるんだから、それに俺だけ思っていても彼女がどう思っているかなんて分かんないんだから」


「あぁあ、浩史は本当に男らしくないわね、また昔みたいになってもいいの、此処にいる人達は彼女をみんな知ってるし、もう彼女はこの地区の身内同然なんだよねぇ」


 そうだよぉ浩ちゃん、私達もあんた達の先の事を応援してんだから。しっかりやんなよ!


「分かったよ、分かったから後で言うよ・・・それでいいんだろ、はっきりするからさ、本当に皆、御節介なんだから」


「浩史、違うわよ、お姉ちゃんが言っているのは今から言いなさいって事。もう待たせてあげるのは止めなさいと云う事よ、自分で今から、皆さんが見届け人をやってくれるんだから、はっきりと彼女に云ってあげなさい」



 物語になるこの町は茨城県北部に位置する常陸南田市で、田圃・畑と山林と阿武隈山系に囲まれた盆地で、雪もめったに降らないし、降ったとしても盆地の御陰で雪は日陰を除いてはあっという間に溶けてしまう。

何もない、ただ普通ののんびりとした典型的な田舎街なのです。

 日本国内にある市として一番の面積を持ち、山林・田畑が70%を占める長閑(のどか)な街で、当然ながら人口密度は低く、産業も林業、農業、家畜・養鶏業などが占めており工業も有るけれど工業団地に収まる程度、商業と云っても地元スーパー、観光業で言えば吊り橋と水戸黄門の隠居地やお墓、う~ん?他にないぞ。


 そうだ!つい最近ある雑誌で子育て世代が選ぶ住みやすい街としてナンバーワンになったそうですが、本当かなぁ?でも、この話は本当でした。

 俺はこの町でと云うか山の麓で生まれ育ち、中学まではこの町の公立小・中学校を通学し卒業、山隣にある日立市にある工業高校へと進学した。。


 色々な思い出が有るけれど、忘れられないのは中学時代に初恋をしたと言うか片思いだったけれど俺にも好きな彼女が居たが、告白などもっての外で自分から好きだなんて言った事は無かったと云うか・・・言えなかったのです。

 高校時代に彼女と再会して、通学時の朝のバスの待合時間だけという短い時間だったけど話しをするのが楽しみだった・・・好きなのに付き合ってとか好きだよ!なんて言えずに俺彼女にも友達にも気持ちを伝えないまま東京へと一人で出てきてしまった情けない男。


 あぁあ、其れなのに一五年を過ぎてまさかまたこの地に戻るなんて思いもしなかった、あの子はもう結婚して素敵な旦那さんが居て・・・きっと可愛い赤ちゃんと云うか子供達と明るい賑やかな家庭を築いているんだろうなぁ。


 なんて、この物語はそんな男と過去の女性に振り回される??と言う、バイオレンス!!有りません。


 ドロドロとした情愛・・・有りません。


 不倫・・・有りません。


 只々、普通の三十〇歳を過ぎた情けない男と、身重な訳あり女性の極!ごく普通の再会物語なのです。

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