株式会社サイトウ商事

たちばなとすずき

第1話 お電話ありがとうございます。株式会社サイトウ商事です!

「はいお電話ありがとうございます、サイトウ商事でございます。さいとう…ですか、はい、男性のさいとうでしょうか女性のさいとうでしょうか、それともLGBTQのさいとうでしょうか、あ、はい、女性のさいとうですね、男性のさいとうはいかがでしょうか? え、あ、はい、よろしいですか。かしこまりました。それでは、ええとですね、法人営業部法人営業1課のさいとう、同じく営業2課のさいとう、リテール営業本部のさいとう、カスタマーサポート1課のさいと…はい、法人営業2課のさいとうですね。かしこまりました。少々お待ちください。」


「お待たせいたしまして大変恐れ入ります。さいとう、営業2課には複数名在籍しておりまして、旧姓もさいとうのさいとうですか、1度目の結婚でさいとうになったさいとうですか、それとも3度目の結婚でさいとうになったさいとうですか、旧姓が佐藤のサイトウですか、それとも日系ペルー人4世との国際結婚後離婚して戻ってきたサイトウですか、あ、はい、ペルー人と関係を持ったサイトウの方ですね。承知いたしました。はい、え、その呼び方はどうにかならないか? あ、大変申し訳ございません。本人に伝えておきますので、え、それはやめろ、はあ、承知いたしました。はい、サイトウを呼び出しますのでもうしばらくお待ち下さい。」


「これはこれはナカムラさん、ご無沙汰しております。今日はいかがなさいました? 」

「昨日WEB会議しましたよね? それはそうと、聞いてはおりましたが御社さいとうさん多いですね。」

「…そうですね、従業員1500人のうち1478人がさいとうですから。」

「多いね! そして1500人って丸めた数字じゃないんですか? 1478人がさいとうってなかなか覚えきれないですよ!」

「そうなんですよ。弊社は斎藤…下が示すのやつですね、が多いんですけど、斎籐も数名おりまして」

「え、同じじゃないんですか。」

「フジの字がクサカンムリとタケカンムリなんですよ。」

「えっ、あっ、ほんとだ! わからないですね…」

「わからないですね… 私も1日に24回は間違いますね。」

「それはだめじゃないんですか? それはそうと、下が月の斉藤さん、示すの斎藤さん、上がくしゃくしゃっとしてる齋藤さんと齊藤さんもいらっしますよね? 下が貝の齎藤さんもいらっしゃるの? それ業務に支障ないですか?」

「ああ…みんなハンドルネーム使ってますから。」

「え、えっ、え!?」

「私はフランス帰りです。」

「サイトウさんフランス帰りなんですか? ペルー人と離婚して帰国されたと聞いてますけど。」

「いえ、フランスなんて行ったことないですよ。」

「え、だって今自分でフランス帰りって。」

「いや、ハンドルが『フランス帰り』なんですよ。」

「ややこしいな!」

「そうですか? 私は割と気に入ってるんですけど。」

「そういう問題じゃな! あ、え、…あ、失礼。それはそうと、それでは他の22人の方、肩身狭くないですか?」

「いえ、みんな中国人とベトナム人、日系ブラジル人の3世と、あとは日系ペルー人ですからのびのびやってますよ。あ、日系人はサイトウです。カタカナ表記ですから楽でいいですよ。」

「え、ハンドルじゃないんですか」

「ハンドルを齊藤にしてるサイトウとかいるんですよ。私ももう細かい説明が面倒になってきてしまってすみません。」

「いえ、お察しします。それで、御社社内それで問題なく回ってるんですか?」

「それはもう。アメリカ人が来たときなんて大変な士気の高さですよ。目の敵にしてますので。」

「ベトナム戦争?」

「ええ、冬のことでした。1月末でしたね。テト攻勢だ! って息巻いてましたよ。」

「いえ、そういうことではなく。」

「ベトナム人のサイトウの逸話はよろしいんですか?」

「はい、今のところは。」

「あ、申し訳ございません。こちらばかり話しすぎてしまいまして。」

「あ、恐れ入ります。ご挨拶の方遅れまして。わたくしセントラルヴィレッジのナカムラと申します。ナカムラのナカはニンベンがつく方でして、ムラはくち3つに巴の、ええ、仲邑でございます。」


~おわり~

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株式会社サイトウ商事 たちばなとすずき @S_TACHIBANA

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