ワッショイ勝ち知らず(長谷川けろ)

 罰


 お前そんなもん咥えて地獄にでも行くつもりかよー。


 秋生は春香の咥えているタバコの香りとは違う野性的な煙のモノを抓んで取った。


「何するのよ」

「こんもん吸ってんなよ」

「アタシの勝手でしょアンタなんかに説教される覚えは無いわよ」

「説教なんかしねぇよ…ただ」

秋生は少し俯いてからフッと唇を緩めた。

「ただ…なによ」

「いや、いいわ。そうだよなお前の勝手だわ…偉そうに言って悪かったな」

まだ煙の揺らめくソレを春香に返した。

「言いなさいよ」

「俺行くわ」

秋生は緩めたネクタイを締め直して玄関をでた。


 通り雨に少し打たれただけだ。

 這い上がれない崖の下で生まれた俺達は互いに傷付け合いながらその傷を舐め合っていた。今日までお互いを鎖で繋いでいたんだ。どちらからが離れないと二人ともダメになってしまう。


 最期に春香の無邪気な笑顔が見たかったなー。


 秋生は制服を着た小学生に混ざって王子から都電に乗った。通り雨に濡れた街並みは平穏、鳩が隊列を組んで飛んでいる。


 新三河島で降りて線路沿いを歩くー。


 煙草屋の路地を曲がり三件目の会計事務所へ躊躇無く入った。パソコンから顔を上げた事務員に腰から抜いたp220を向けた。


 乾いた発砲音が二発響いたー。

 事務員は頭部に二発穴が開いて鼻血と口から血を流しながら倒れた。

 秋生は事務員の後ろの席に居たデブに向けて更に三発撃った。

 椅子から転げ落ちるデブは脂肪に護られていたのか床に転がって藻掻いている。

「しぶといな…」

秋生はデブ二重になった後頭部に更に二発撃ち込んだ。


 秋生は高速道路下のコインパーキングに停めてある白いベンツへ乗り込んだ。

 直ぐにベンツの前にワゴン車が停まり中から二人の男が微笑みながら降りてきた。


 同じ組の高木と橋本であった。

「よう、終わったぜ」

秋生は窓を開けながら声をかけた。

「そうかご苦労だったな」

高木はそう言いながら煙草を1本秋生に差し出した。

 秋生はそれを咥えて高木に火を付けてもらった。

 二口目ー。

 助手席が開いて橋本が回転式拳銃の弾を秋生に全て撃ち込んだー。

 秋生は目を見開きながら絶命した。


 走り去るワゴン車ー。


 秋生は高速道路を見上げながら笑ってる春香を微かに……。


 春香はシャワーを浴びてタオルで髪を拭きながらテーブルの上の銀紙に包まれた乾燥葉を少し見つめて右手で握り潰してマンションの窓から投げ捨てた。


 散らばりながら舞う落ち葉になったー。


「オムライス好きだったよね…秋生って」

春香は冷蔵庫の卵を三つ取り出しながら呟いたー。


終わり

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ワッショイ勝ち知らず(長谷川けろ) @kaburemono

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