逆襲の失敗作 〜警視庁・特殊犯罪班『桜』〜

青山ろっく

第1話 デザイナーベイビー

 ―”デザイナーベビー”…。今は、そんな言葉が流行っているらしい。私にとっては、目障りな言葉だ。聞きたくもない。

 しかし、ここ『特殊犯罪者用・東京女子刑務所』では、嫌でも耳にしてしまう。

 コツン…コツン…と、足音が聞こえてくる。平日の昼間。死刑囚達がいる檻の中では、こう叫ぶ野次馬が一杯いた。

『やーれ!やーれ!やーれ!!』

 そんなヤジが聞こえる最中、私が居る檻で足音が止まった。―静かに、扉が開いた…。

「時間だ。出てきなさい。」

 看守に言われ、黙って私は檻から出る。するとヤジも大きくなった。

「ついに来たぞ!”100万円の失敗作”だ!あははは!!」

 手錠と綱をつけられ、私は…私は…。


「―おい!・・・おい!!」

「!?」

「珍しいな。お前さんが居眠りするなんてな・・・。」

「ご・・・ごめんなさい。」

「しっかりしろよ。『桜』のエース!」

 そう言って、班長が去って行った…。―今、私が居るのは、”警視庁”。しかも、イノベーションされている部屋で、とても綺麗な所だった。

 警視庁・特殊班『桜』。配属されて、2ヶ月になる…。


 【数時間後】

「―え〜・・・。それでは、捜査会議を始めます。」

 今回起きたのは、『女子高生 狙撃未遂 事件』だ。

[―事件が起こったのは、1週間前。性犯罪に巻き込まれた女子高生が、最寄りの警察署から出てきたところ、狙撃されると言う事件が起きた。

 幸い、女子高生だけではなく、誰も怪我人・死者はいなかった。―しかし、使われた銃弾は、鑑識の結果、”自作”だと分かった。線状痕も、今まで押収された銃とは一致せず。事件は難航していた…。]

「・・・以上で、話は終わるが・・・。―おい!『桜』!!」

『はい!!』

 私達『桜』班は、一斉に立ち上がった。

「・・・今回の事件。ミスっちまったら、分かっているんだろうな?」

「―安心して下さい。私達は必ずや、やってみせます。」

「口だけじゃねぇって事を証明しろよ・・・。」

 管理官が、釘をさした。


「―て、な訳で。成美!」

「はい!」

「・・・”武器”の準備は出来ているんだろうな?」

「大丈夫です!・・・”兵器”も万全です!」

「よ〜し・・・。―いいか、みんな!絶対に、ガイシャを出すんじゃねぇぞ!!」

『はい!!』

 そう言って、私達は2人組になって解散した。


 【東京・23区内】

「いや〜・・・。それにしても、怖いですね・・・。」

「?何がですか?」

 相棒の『佐々木』が、車を運転しながら、ぼやいた。

「だって、自作の銃弾ですよ?―今回、1ヶ月で”5回目”の犯行じゃないっすか。」

「そうですけど・・・。」

「それに成美さんだって、今回ばかりは、重装備できているわけじゃないですか。本気度MAXですよね!?」

「ちょっと、おちょくらないで下さい!」

 桜班のムードメーカーの佐々木は、よく喋る。しかし、決してどんな困難でも、屈したりはしない男だ。

 …そんな会話をしていると、現場の警察署、ゲンバへ到着した。

「・・・此処ですね。」

「カバーします!」

 私は、腰からハンドガンを抜いた!クリアリングしつつ、銃弾が埋まってたとされた穴を見つけた。

「―ここっすね。・・・凶器は、かなり精巧に作られている事でしょうね。」

「じゃないと、そんな弾痕は出来ませんよ。」

 弾痕は、くっきりと穴が綺麗に出来ていた。もし女子高生に当たっていたら…。

「お待ちしておりました。桜班の方々。」

「・・・え〜っと確か、今回の事件を担当になっていた―」

「―はい。『川田』と申します。・・・話は、署で。」

 そう言って、中へ案内された。


 【警察署内・空き室】

「―え!?目星がついていない!?」

「ちょっと、声が大きいですよ!!・・・確かに、今回の事件で、ホンボシに関係ありそうな人物をあたってみたんですが・・・。何一つ証拠は出てきませんでした。」

「・・・仕方ないですよ。俺だって、簡単に分かったら、苦労はしませんよ。」

「そうなんですが・・・。今回ばかり、性犯罪被害者が何度も狙われると・・・、警察の面子がたたないんですよ。」

 川田さんは、ハンカチで脂汗を拭いた…。

「・・・因みに、今分かっている事ってありますか?」

「そうです!たった今、入った情報なんですけど・・・。」

 川田さんが、ジップに入った髪の毛を見せてきた!

「?これって、犯人の?」

「・・・はい。しかも、分かった事は、それだけじゃあないんです。

 ―ホンボシは・・・”デザイナーベイビー”の可能性が出来たんです。」

『!!』

 川田さんが、話を続ける。

「何で、”デザイナーベイビー”と分かったのかと言うと。・・・このDNAを調べた所、最近出所した『笹島 れい』と言う、元強制わいせつ犯の人間が分かったんです。」

 しかし、佐々木は質問した。

「その笹島って男の年齢は?」

「・・・逮捕時は、丁度20歳。今は、45歳です。」

「?笹島には、子供は?」

「いや、捕まるまでには、恋人には妊娠していると言う事はなかったです。勿論、被害者女性にも。」

「・・・もしかして!」

「ええ。・・・収監されて居る時に、精子を誰かに渡した可能性があります!」

「な・・・なんて事だ。」

 驚く佐々木に、私は動じなかった。…不審に思った川田さんが聞いた。

「?どうかしたんですか?」

「いえ・・・別に。―そんな事より、精子の受け渡しの証拠は?」

「・・・すいません。面会記録を調べましたが、女性だったり、怪しい人物はいませんでした。」

「そんな単純な事じゃなくて!もっと、裏をかいて渡せる機会は!?」

「え〜っと・・・。そ、そう言われましても・・・。」

 川田さんが焦る中、佐々木が思いついた!

「あーーー!!・・・もしかしたら、刑務官じゃないっすか!?」

「そ、そんな事が―」

「じゃなきゃ、話は通らない筈ですよ!今すぐに、収監された刑務所を教えて下さい!!」

「わ・・・分かりました。」

 そう言って、川田は部屋を出た…。

「大変な事になりましたね。」

「こっちの方が、びっくりっすよ!思いついた自分が怖いっす・・・。」

「とにかく、こっからは、厳重に捜査を勧めた方がいいですね。」

「そうですね。じゃないと、笹島は―」


「・・・もう来てますけどね。笹島は。」

「へ?」

 窓に指を指して教えると、…そこには、大人数のガラの悪い奴らが、車を荒く駐車して、警察署へ入ってきた!

「・・・行きますよ。佐々木さん。」

「わ・・・分かっていますって!!」

 佐々木もハンドガンを抜いた!


 ―”デザイナーベイビー”…。決して、簡単な社会問題にしてはいけない…!

 今は、こんな事が起きるのだから!


続く…!

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