記憶の中の君と僕

青斗 輝竜

第1話

「絶対思い出してよ」

 

 それは今でも忘れはしない、大切な人の言葉だった……んだと思う。

 あの一週間以外、もう俺は何も覚えていない。

 その時の表情も情景も浮かぶ事はなかった。

 彼女が言ったのは何ことだったんだろうか。

 何を表しているんだろうか。

 

「……って、そんな事考えても今更だよな」

 

 気づけばそんな事を呟いていた。近所の人たちが寝静まった頃、俺はこぢんまりとした公園のベンチに一人腰をかけている。あれはいつの話だったっけな。

 つい昨日の事のようにも思えるが断片的な記憶しか残ってない。

 

 純粋無垢だった高校生の頃のとても長くて短い出来事。

 俺の高校生時代はごく普通だったんだろう。

 友達と遊んだり、テスト前は必死に勉強して……。

 それなのに――俺は何も覚えていない。

 

 だから俺はパソコンに覚えてる限りの出来事を書いている。

 どうしても記憶にない自分の記憶が知りたいがために衝動で書いた小説のようなもの。


 ずっと文字を見ていたせいかなんだか急に睡魔が襲ってきた。最近はずっと執筆してたし疲労が溜まっているのかもしれない。

(帰って寝よう)

 俺は眠気覚しに頬を思い切り叩いてから立ち上がった。この公園から家まではさほど遠くない。最近は運動もしてなかったし、少し体を動かすのもいいかもしれない。パソコンを抱えた大の男がこんな夜中に全力疾走してる所を見られたらどうしようなどと思いながらも体は既に思考を遮るように脚を動かしていた。


 すごい疲れた……。

 家に帰ってすぐにシャワーを浴びて自室のベッドに飛び込んだ。久しぶりに走ったせいか、距離感が掴めず走り出してから止まることはなかった。そのおかげなのかそのせいと言うべきか……。

 いつもよりベッドがフカフカな気がする。などと考えてるとまた睡魔が襲ってきた。睡魔に負ける直前に体を起こし、椅子に腰を降ろしてパソコンを起動させる。

 脳に負担がかかれば何かを思い出せるのではないかと、期待に胸を膨らませてまた文字を打ち込んでいく。


 今日こそは彼女の事を思い出せるようにと――

 

 

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