第8話 裏切りのエレメントマスター

 頭を上げながら、魔法使いに関して考えを整理する。 

 この世界はRPGよろしく、エレメントとかいう神秘がある。それは魔物の中にあったエレメントコアと呼ばれる物質をエネルギー源としてエレメントギアを作動させて起こす神秘現象。

 ピリスの身体にもエレメントギアが装着されているようで、蛇腹剣を振るったり、巨大な火球を放ったり、そして城壁を飛び越えられるのもエレメントマスターである証拠なのだろう。

 そして、俺の左腕に巻き付いたオブザーバーもエレメントギアと言っていた。これがあればこの世界で誰とでも会話出来るようになるそうだ。

 エレメントとは俺たちの世界で言う科学技術のようなものなのだろう。 


 だが、魔法とはそもそも何だ?

 それこそ俺が考えているような呪文を唱えて火の玉が飛ぶとかそういう類か。

 そして、気になるのはピリスが魔法に対して否定的であること。

 非科学的、非効率、非常識と批判していたのに、俺を魔法協会に行くように勧めた。


「うーん、考えても答えは出ない。よっし、取り敢えずはボッカイ魔法協会を探すか」


 雑踏の中を踏み出そうとしたとき、トントンと誰かが後ろから肩を叩いてきた。

振り向くと、ライオンのような亜人がニコニコしている。

近くで見るとライオンの精巧な着ぐるみを着ているかのように思えてしまう。

なんというか、違和感がすごい。


「魔法協会に用があんだろ? 連れて行ってやるぜ」


 ライオン男の後ろに、同じようなオスが二人。

 少し酒臭い……いやな予感しかしない。



 人の気配が無くなってきた。

 明らかに怪しい路地裏に連れ込まれるとドンと突き飛ばされ、よろけた。


「えーっと、ここボッカイ魔法協会とか? ……なわけないよな」


 相手に気づかれないように、ライオン男にオブザーバーをむける。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ンドル・ボワー 年齢:33歳 ランク:D

職業:魔術使い

HP:C

MP:D

魔力:D

魔防:D

筋力:C

体力:C

速度:D

木の魔術紋:C

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 ランクはDか、ちょいヤバってところか。

 だが、この魔術使いというのはなんだ? 魔法使いと違うのか?

 ライオン男は、口元だけ笑みを浮かべてボソボソしゃべりだした。


「曲がれ直れ! 木の生長!」


 ライオン男の独り言が終わると同時に、足元に揺れを感じた。

 下を見ると、石畳の隙間から俺を囲むように木が伸びてきた。


「こ、これは、ま、まさか、魔法!」


 俺の狼狽に、男たちは「ひゃははは」と下品な笑い声をあげた。


「魔法だぁ? ひゃはは、確かによそ者のテメーからしたら、魔法だろうな」

「んじゃ、これも魔法だな」 


 ライオン男の連れの狼男がぼそぼそ何かを唱えた。


「潤し下せ! 水の滋潤!」

 

 消火ホースから放たれるように強烈な水流が腹に激突。

 数メートルほど吹き飛ばされ壁に背中を打ち付けた。 

 一瞬、呼吸がとまり地面に突っ伏しながらせき込んだ。

 その拍子に麻袋が破れ、中の金貨が路地裏に散乱している。


「あのエレメントアーミーの奴が言った通りだな、大した金をもってやがる」

「ああ、ちょろい仕事だな、ひゃは」

 

 ……エレメントアーミー? ……まさかピリス? 


 ああ、マジか。

 悪い奴には見えなかったが、命の恩人を殺すような奴だったか。

 何が次に会えたらだ……結構、好みのタイプだったのに。


「おいおい、コイツ、反抗的な目つきだな」

「立ち上がっちまうなら、面倒だ――殺るか」


 失敗した、ここは立たずに死んだフリをしとけばよかった。

 でも、もう遅い。二回目も死んだとしたら、どうなるのか。

 また別の異世界にいくのか……?


「何やってんの!!」

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