異界に住む者たちのレクイエム

はる

 突然の爆発。夢にまで見た破壊が達成された。私の力の前に全ては滅び去る。さようなら、母、父、妹。私はどこへ行こうかしら。涼しげなところへ行きたいわ。風鈴。鈴。海辺。寄せては返す波。ハレーション。夢見がちな少女。フラストレーションが溜まる。いつだって誰も私の言うことを理解した者などいなかった。でもそれは私の責任でもあるわ。長い間隠していたもの。巨大な風の前に全ては滅び去る。今現にそうなっているもの。涼しげなところに行きたい。風に当たって目を閉じたい。そうして、ラムネ瓶の気泡を目で追うの。気泡は人類。空気は神。同一化を果たす。それは不可避。人類は今反抗期なの。あなたも知っているでしょう?

 いつの日からか、この世は苦しみばかりだと思うようになった。みんな簡単な話しかしない。必要なことしかしない。そんなことってある? 人類に与えられているはずの特権を享受しようとは思わないの? それは想像。どこまでも広がっていく水平線。夕日と、防波堤と、かもめと打ち捨てられたロボット。彼の悲しみは誰にも理解できない。恐ろしいことよ。そのことについて恐ろしいと思わない感性そのものが、地獄の住まいなのよ。私はエーテル体として、防波堤の上に座ったわ。感傷に浸っているの。この世は地獄。草木だけが味方。美しい感性は潰されてしまう。

 寄せては返す波。これは諸行無常の表れ。同じ波ではない。でもやっていることは同じ。変化はない。地盤は変わる。でも、同じこと。かつて滅び去っていった観光客の幻影を見る。彼らはどこかに行くことができたのかしら。同じところを回っているように見えた。内界で起こることに不自由で、同じ言葉をしゃべっていた。誰でもない。何者でもない。そのことに気づかない。悪いことではない。でも、悲しい。言葉が通じない。どうしてかしら? この世の儚さについて、どうして多くの人は直視しようとは思わないの? 目を背けることは問題の引き伸ばし。タイムリミットは設けられている。それまでに答えを出さなければ。波は相変わらず、清らかな調べ。抽象界ではf/1のゆらぎ、というのですって。その名前自体が何かを指し示してくれることはない。ただ耳の奥で鳴り続ける波の音だけが、海深くを漂う根源の響き。鼓動への接近。孤独だけれど、本当はみんな知っていること。騒々しさを離れてみれば、すぐに分かるのに。三人が浜辺でお城を造っている。父は外枠工事、母は二人を団扇で扇ぎ、妹はこつこつトンネルを開通させようとしている。私は、波打ち際で海の声を聴いている。

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